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「カナダ“乗り鉄”の旅」第17回 地下鉄の赤い扉で、「福岡生活」に戻ったような錯覚に カナダ最大都市・トロント編

トロント交通局(TTC)地下鉄2号線の駅に停車中のT―1(2024年2月20日、トロントで大塚圭一郎撮影)
トロント交通局(TTC)地下鉄2号線の駅に停車中のT―1(2024年2月20日、トロントで大塚圭一郎撮影)

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 今年3月に開業70年を迎えたカナダのトロント交通局(TTC)地下鉄で、「T―1」と呼ばれる旧型電車が唯一走っているのが東西に結ぶ2号線(ブロア―ダンフォース線)だ。3路線あるTTC地下鉄の路線図に描かれる2号線のラインカラー(路線色)は「緑」だが、T―1に乗り込むと客室側の扉は真っ赤に塗られていた。帰宅ラッシュで車内が混雑していたため真っ赤な扉の隣に立っていると、赴任していた九州の最大都市の福岡県での生活に戻ったような錯覚に陥った―。

T―1の車内に貼られたTTC地下鉄2号線の路線図(2024年2月20日、トロントで大塚圭一郎撮影)
T―1の車内に貼られたTTC地下鉄2号線の路線図(2024年2月20日、トロントで大塚圭一郎撮影)

【T―1】カナダで最大都市のオンタリオ州トロントの都市圏を走るトロント交通局(TTC)地下鉄で1995年に導入が始まった電車。カナダの輸送機器メーカー、ボンバルディアの傘下だった旧ボンバルディア・トランスポーテーション(現在のフランスのアルストム)が製造した。車体はアルミ合金製で、全長約23メートルの車両の側面に4カ所の両開き扉を備えている。

 線路に沿った第三軌条から直流の電圧600ボルトの電気を取り込んで走っているのは東京メトロ丸ノ内線(本連載第16回参照)や銀座線と同じ。ただし、TTC地下鉄の左右レール間の幅である線路幅は1495ミリと広軌で、標準軌(1435ミリ)の丸ノ内線や銀座線より60ミリ広い。

航空機の窓から眺めたトロント市街地(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
航空機の窓から眺めたトロント市街地(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

ひと目で「浦島太郎」気分

 TTC地下鉄の1号線と4号線に乗り込んだ車両は、いずれも「トロントロケット」(本連載第14回参照)と呼ばれる2011年登場のステンレス製車両だった。

 トロント中心部の1号線のプラットホームに滑り込んだスマートな外観のトロントロケットをひと目見ると、まるで玉手箱を開けた浦島太郎になったような気分に襲われた。そして「これは私の記憶にあるTTC地下鉄の車両ではない!」という強烈な違和感を覚えた。

 というのも、私がTTC地下鉄に前回乗ったのは2014年のことで、当時はT―1が3路線全てで現役だったのだ。

 今回は1号線を北上してシェパードヤング駅へ向かい、乗り換えた4号線のホームで待ち受けていたのもトロントロケットだった。「またか…」と肩を落としたことを認めなければならない。

 ただし、4号線は乗ったことがなかった。このため〝完全乗車〟したいと考え、4駅先の終点ドンミルズへ向かった。

 「1号線と4号線にT―1が走っていないのならば、2号線が最後の牙城になっているのではないか」とにらんだのだ。

 そこで2号線の駅に向かおうとしたところ、誤算が生じた―。

次第に住宅もまばらに…

 ドンミルズで4号線を下車後、地上のバスターミナルの路線図を頼りにTTC地下鉄2号線の駅に向かう路線バスを探した。

 2号線の駅と結ぶ目当ての路線番号を表示したバスが来たため、一目散に乗り込んだ。しかし、やがて異変に気づいた。

 乗客が途中の停留所で次々と降りていき、乗り込む利用者は見当たらない。次第に住宅もまばらになっていき、暗闇に包まれた停留所に止まると運転手にこう通告された。

 「ここが終点だよ」

 何と路線番号だけを確認して乗り込んだため、反対方向のバスに乗り込んでしまったのだ。仕方なく「ドンミルズ駅に戻るバスはありますか?」と質問すると、運転手は先の停留所を指さして「しばらくすればあそこから出発するから」と教えてくれた。

 やって来た別のバスの運転手に「ドンミルズ駅を通りますか?」と確認し、うなずいたのでIC乗車券「プレスト」を読み取り端末にかざして乗車した。このバスの行き先は2号線の駅ではなかったため、ドンミルズ駅に照準を合わせたのだ。

 今度は途中の停留所で降りる利用者はおらず、代わりに次々と乗り込んできた。

 ドンミルズでバスを降りると、シェパードヤング行きの4号線の電車を目指した。シェパードヤングから今度は1号線を南下し、2号線と接続するトロント中心部のブロア―ヤング駅へ向かおうと考えたのだ。

念願のT―1に

 複線の線路を挟んでホームが向かい合った対面式ホームのブロア―ヤングで1号線を降り、階段で1階下がると2号線のホームがあった。2号線は両方向の線路に挟まれた真ん中にホームがある島式ホームとなっている。

 できれば2号線も〝完全乗車〟をしたかった。しかしながら、ドンミルズ駅で反対方向のバスに乗ってしまう失敗でタイムロスが生じたため、その日じゅうには無理だ。そこで、東方面のケネディ行き電車に乗ることにした。

2014年7月の訪問時に撮影したTTC地下鉄2号線のT―1(トロントで大塚圭一郎撮影)
2014年7月の訪問時に撮影したTTC地下鉄2号線のT―1(トロントで大塚圭一郎撮影)

 ホームに入る前から重厚なモーター音が響き渡り、「トロントロケットとは別物だ」と確信した次の瞬間に念願のT―1が滑り込んできた。

 帰宅客らで車内は混雑していたため、入り口の脇に立っていると両開き扉が閉まった。扉の外観は車体と同じシルバー色だったが、内側は真っ赤に塗られているではないか。その扉が視界に入るやいなや、2018~20年に住んだ福岡県で乗った電車を思い出した。

1年先輩の電車

 赤い両開き扉を採用しているのが、JR九州が福岡都市圏の鹿児島線などで走らせているステンレス製の電車「813系」と同じだったのだ。813系は1994年に登場しており、TTC地下鉄のT―1より1年先輩だ。

扉が赤いJR九州の鹿児島線で使われている813系(2019年5月30日、佐賀県鳥栖市で大塚圭一郎撮影)
扉が赤いJR九州の鹿児島線で使われている813系(2019年5月30日、佐賀県鳥栖市で大塚圭一郎撮影)

 JR九州は赤をコーポレートカラーとして採用していることから、鹿児島線などで使っている813系は扉の内側と外側の両方とも赤色に塗っている。

客室側が赤く塗られたT―1の扉(2024年2月20日、トロントで大塚圭一郎撮影)
客室側が赤く塗られたT―1の扉(2024年2月20日、トロントで大塚圭一郎撮影)

 これに対してT―1の扉の外側は車体色と同じシルバー色で、客室側だけが813系と同じような赤色だ。それでも私の中ではT―1と813系の姿が重なり合い、まるで813系に乗り込んだかのような懐かしさにとらわれた。

 「博多駅(福岡市)から小倉(北九州市)へ向かうのに山陽新幹線を使えば約15分で着くのに、電車代をけちって1時間超もかかる鹿児島線の813系で運転する快速電車に乗ったな」と思い返した。

 T―1がドン川に架かった橋を通った時には「まるで813系で遠賀川(おんががわ)の橋を渡っているようだ」と懐かしんだ。

どうなる?次世代車両

 このように郷愁をかき立ててくれたのが、T―1の乗車体験だった。今から10年前に初めてTTC地下鉄に乗り込んだ日にタイムスリップさせてくれるだけではなく、赤い扉という共通点で地球の反対側にある福岡県を走る電車まで思い起こさせてくれた。

 かつてはTTC地下鉄の主力として活躍していたT―1にこれからも走り続けてほしいが、黄信号がともっている。1号線と4号線の全車両がトロントロケットに一本化されたのに続き、2号線のT―1を置き換えるための次世代車両導入が検討されているのだ。

 次世代車両55両を新造するには約23億カナダドル(1カナダドル=105円で約2415億円)がかかると見込まれており、費用の一部を拠出するトロント市とオンタリオ州はカナダ連邦政府も負担するように働きかけている。

 TTCの理事会メンバーでもあるトロント市議会議員のジョシュ・マトロウ氏はカナダ放送協会(CBC)に対し、T―1を使い続ければ「完全な運行停止に追い込まれる恐れがある」と警告。新造車両を導入する必要性を「連邦政府が理解していると確信している」とした上で、「連邦政府に対して彼らの協力なくして実現できないことをはっきりと伝えており、うまくいくと非常に楽観している」と訴えた。

 2号線は東端のケネディ駅から北東へ7・8キロ延伸する工事が2023年1月に始まっており、完成後は終点となるシェパード駅まで計3駅を新設する。TTCは2041年までに2号線の平日1日当たりの利用者数が66万1千人となり、現在より約18%増えると予想している。

 路線の重要性が一段と高まる中で信頼性のある次世代車両を導入し、登場から30年弱が経過したT―1は置き換えた方が良いという主張には一定の理解ができる。

 その一方で、TTC地下鉄を次回利用する時にも思い出深いT―1が出迎えてほしいという願望を抱いているのも確かだ。これは鉄道好きの旅行者のエゴに過ぎないのだろうか?

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第16回 トロント地下鉄、東京メトロ丸ノ内線のように直通運転できない理由は カナダ最大都市・トロント編

トロント交通局(TTC)地下鉄4号線のドンミルズ駅に進入する電車「トロントロケット」(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
トロント交通局(TTC)地下鉄4号線のドンミルズ駅に進入する電車「トロントロケット」(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダ最大の都市、オンタリオ州トロントの都市圏を走るトロント交通局(TTC)の地下鉄1号線の「U字」状になった路線図を左に傾けると、今年10月に株式上場を計画している東京メトロの主要路線「丸ノ内線」に似ていることに気づいた。途中駅を起点とする路線が延びているのも同じだ。ところが、東京メトロ丸ノ内線は中野坂上駅(東京都中野区)で分岐する通称「方南町支線」に直通運転しているのに対し、TTC地下鉄1号線のシェパードヤング駅から分かれている路線を利用するには階段などを使った乗り換えを迫られる。1号線と直通できない理由とは―。

【東京メトロ丸ノ内線】東京メトロの東京都内を走る路線で、池袋駅(豊島区)と荻窪駅(杉並区)を結ぶ本線と、途中の中野坂上駅と方南町駅(杉並区)を結ぶ通称「方南町支線」で構成される。営業キロは27・4キロで、合わせて28駅がある。線路幅は新幹線と同じ標準軌の1435ミリで全線複線になっており、全ての営業電車が各駅停車。
 東京メトロの前身の帝都高速度交通営団が1954年に池袋―御茶ノ水(文京区)間で開業したのを手始めに順次延伸し、62年に全線開通した。現在は2019年に営業運転を始めた6両編成の電車「2000系」を運行している。現在は線路に沿った第三軌条から直流の電圧600ボルトの電気を取り込んで走っており、将来は電圧を750ボルトへ引き上げる。2000系は750ボルト化に対応している。

東京メトロ丸ノ内線の電車2000系(2024年8月21日、東京都新宿区で大塚圭一郎撮影)
東京メトロ丸ノ内線の電車2000系(2024年8月21日、東京都新宿区で大塚圭一郎撮影)

名称は同じ4号線

TTC地下鉄1号線の路線図。4号線は簡単に記されている(2024年2月21日、トロント中心部で大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄1号線の路線図。4号線は簡単に記されている(2024年2月21日、トロント中心部で大塚圭一郎撮影)

 1号線の北東側の終着駅となっているフィンチ駅の二つ手前にあるシェパードヤング駅では、南北に結ぶ1号線と交差するように別の路線が東へ延びている。

 これがTTC地下鉄として最新の2002年に開業した4号線だ。営業距離はわずか5・5キロで計5駅しかなく、TTC最短の地下鉄路線でもある。

 1号線と4号線を組み合わせた路線の形が東京メトロ丸ノ内線に似ていると思っていた私は、分岐している路線の名称なのが「4号線」なのを奇遇に感じた。丸ノ内線の別名は「4号線」なのだ。しかも、線路に沿った第三軌条から直流の電圧600ボルトの電気を取り込んで走っているのも共通している。

 ただし、丸ノ内線の場合は本線と方南町支線の両方とも「4号線」に含まれている。これに対し、TTC地下鉄の1号線と4号線が異なる路線として扱われている。

直通運転できない構造

TTC地下鉄の路線図(太線)。赤い細線は路面電車(TTCのホームページから)
TTC地下鉄の路線図(太線)。赤い細線は路面電車(TTCのホームページから)

 TTC地下鉄の1号線と4号線は路線が異なるだけに、両路線を乗り継ぐ際の利便性も東京メトロ丸ノ内線の本線、方南町支線に比べて劣っている。

 丸ノ内線方南町支線内を発着する電車は、中野坂上駅の同じホームで本線と乗り換えられる構造になっている。しかも一部の電車は、本線の池袋駅と方南町支線の方南町駅を直通運転している。

 一方、TTC地下鉄1号線のシェパードヤングのプラットホームは地下3階にあり、4号線に乗り換えるためにはエスカレーターや階段、エレベーターで上がって地下2階のホームへ行く必要がある。

 4号線と接続している鉄道は1号線が唯一であるため、4号線沿線の通勤客らはシェパードヤングから1号線を使うのが〝王道〟だ。よって、丸ノ内線のように一部の電車が1号線と4号線を直通運転すれば利便性が大きく向上しそうだ。

 だが、1号線と4号線は異なるフロアにホームを設けている構造のため、営業電車を直通運転することは不可能だ。このため4号線沿線に住んでトロント中心部へ向かう通勤客は平日の毎朝と毎夕、シェパードヤングで違うフロアを行き来する羽目になる。

方南町支線の沿線に住んでいた理由

 東京メトロ丸ノ内線方南町支線は一部電車が本線に乗り入れる上、中野坂上で乗り換える場合でも容易なため私は2006~13年に終着駅の一つ手前の中野富士見町駅の近くにある賃貸マンションに住んでいた。中野富士見町の近くを選んだのは、二つの理由で良いと判断したためだ。

 一つ目は、丸ノ内線沿線の賃貸料は比較的高額な場合が多いものの、方南町支線は「本線より利便性が劣るため、本線の近隣地域に比べて月額で1万円程度安い」と聞いたためだ。

 もう一つは、当時は本線と方南町支線を直通運転する電車は中野富士見町駅を発着していたためだ。当時の方南町駅はホームの長さが短く、6両編成の直通運転用の電車が停車するには足りなかった。そこで、直通運転の電車は1駅手前の中野富士見町駅を発着しており、朝のラッシュ時でも始発のため座席を確保しやすいという「うまみ」があったのだ。

 しかしながら、方南町駅のホームが延伸されて2019年7月に池袋駅と方南町駅の直通運転が始まった。この計画を知っていた私は、16年に勤務先のニューヨーク支局から本社経済部へ異動した際に「中野富士見町駅周辺に住む利点が減った」と判断して違う地域でマンションを探した。

勝手に親近感

 もっとも、「TTC地下鉄4号線はまるで東京丸ノ内線方南町支線のようだ」と思い描いている私は勝手に親近感を抱いていた。よって、トロント中心部で乗り込んだTTC1号線をシェパードヤングで下車し、4号線に乗り込んだ。

TTC地下鉄4号線の電車内(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄4号線の電車内(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

 4号線で使っている車両は、1号線と同じく「トロントロケット」(本連載第14回参照)と呼ばれる2011年登場のステンレス製車両だ。ずっと地下を通り、4駅先のドンミルズ駅にわずか8分間で着いた。

 路線が短いことが災いし、TTCによると4号線は2022年秋の平日の1日当たり平均利用者数は3万9482人と低迷している。

 行ける場所も利用者数も限られている4号線は地下鉄を意味する「サブウェイ(SUBWAY)」ならぬ「スタブウェイ(STUB WAY、行き止まり線)」と揶揄されており、沿線住民らの行き場のない気持ちを映し出している。

東へ延伸ならば2路線と接続

 そこでトロント都市圏の公共交通機関を管轄する公社「メトロリンクス」は、4号線を延ばして他の路線と接続させる脱・行き止まり線を目指している。メトロリンクスは四つの延伸案を提示しており、「計画は初期段階」と前置きしているものの4号線を延ばして利用者を上積みしたい考えだ。

 一つ目の案は、ドンミルズ駅から東へ延ばしてシェパード・マコーワン駅(仮称)まで延ばす。計6駅を新設し、二つの鉄道路線と接続する計画だ。

 ドンミルズから4駅目のケネディ駅(仮称)では、メトロリンクスが運行する近郊列車「GOトランジット」と乗り継げるようにする。シェパード・マコーワンでは、延伸工事中のTTC地下鉄2号線のシェパード駅(仮称)と接続させる。

TTC地下鉄2号線のケネディ行き電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄2号線のケネディ行き電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

 2号線の現在の東端となっている駅の名称も「ケネディ」だが、ややこしいことに4号線のケネディとは南北に離れている。同名にした場合は利用者の混乱を招きかねないだけに、4号線の駅と接続するGOトランジットの駅名と同じ「アジンコート」と名付けた方が良さそうだ。

 一方、2号線はケネディからシェパードまで北東へ7・8キロ延ばして計3駅を新設することが決まっている。2023年1月にトンネル掘削工事が始まった。

東京メトロ副都心線のように〝直行〟

 二つ目はドンミルズからシェパード・マコーワンまで東へ延ばすとともに、シェパードヤングから西へ延伸する案だ。

 この案がユニークなのは西側の終着駅がシェパードウエスト駅となり、4号線がシェパードヤング、シェパードウエストの両駅で1号線と接続することだ。いわばU字状になった1号線の横串の役割を4号線が果たす。

シェパードヤング駅に滑り込むTTC地下鉄1号線の電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
シェパードヤング駅に滑り込むTTC地下鉄1号線の電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

 U字状になった1号線は、シェパードヤングとシェパードウエストの両駅を移動するのに1時間弱を要する。ところが、4号線が両駅を東西に結んだ場合にはわずか数分間で到達できるようになる。

 東京の副都心同士である池袋駅と新宿三丁目駅を移動する場合、U字状になった東京メトロ丸ノ内線ならば約35分間もかかるのに対し、南北に〝直行〟する東京メトロ副都心線ならば約10分間で着くのと同じ構図だ。

 4号線のシェパードヤング、シェパードウエスト両駅の間にはバサースト駅(仮称)を設ける計画だ。

大型商業施設の周辺を終着駅とする案も

 三つめの案はシェパードヤングからシェパードウエストへ延ばすのは二つ目の案と同じだが、ドンミルズから東へ延伸する終着駅をシェパード・マコーワンの代わりに大型商業施設「スカーボロ・タウン・センター」の周辺に設ける点が異なる。

 既に工事が進んでいる2号線の延伸では、シェパード・マコーワンの一つ南にスカボローセンター駅(仮称)を設置することが決まっている。4号線も同じスカボローセンター駅に乗り入れさせるという案だ。

 残る一つの案はドンミルズから東へ延ばすだけの計画とする代わりに、終点をシェパード・マコーワンよりも東にあるシェパード・モーニングサイド駅(仮称)とする。延伸区間に新設するのは9駅とシェパード・マコーワン止まりに比べて三つ増えるものの、シェパード・マコーワンの先で他の鉄道路線とは接続しない。

反面教師にしてほしい体験

 四つの案のいずれかが成就するのか、それとも別のプランが今後浮上するのかは定かではない。だが、いずれの案にも含まれているドンミルズから東への延伸を望んでいる通勤客らが多いのは間違いない。

 私は平日の夜間にドンミルズで4号線を下車した後、地上のバスターミナルへ向かうと大勢の帰宅客らがバスの到着を待っていた。利用者は目当てのバスが到着すると、バスターミナルに設けられた扉から慌てて外に出ていく。

 私も乗ることにしたTTC地下鉄2号線の駅に向かう路線番号のバスが来たため、その番号が書かれたバスに乗り込んだ。しかし、バスは明らかに駅があるようには見えない暗闇の停留所に止まり、運転手に「終点だよ」と降ろされた。

 何と路線番号だけを確認して乗り込んだため、反対方向のバスに乗り込んでしまったのだ。TTC地下鉄4号線の延伸計画を決めるのに当たっては事前調査不足の私を反面教師とし、需要予測などを万全にして誤った方向へ行ってしまわないことを祈りたい…。

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社デジタルコンテンツ部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年5月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第15回 王、女王と〝列席〟する駅名は、改名控えたトラブルメーカー由来の駅 カナダ最大都市・トロント編

カナダ・オンタリオ州トロントの中心部を走るトロント交通局(TTC)地下鉄1号線の電車「トロントロケット」(2024年2月21日、大塚圭一郎撮影)
カナダ・オンタリオ州トロントの中心部を走るトロント交通局(TTC)地下鉄1号線の電車「トロントロケット」(2024年2月21日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダの地下鉄として最初に開業したのが、最大都市のオンタリオ州トロントの都市圏を走るトロント交通局(TTC)地下鉄1号線だ。VIA鉄道カナダなどが乗り入れる玄関口のユニオン駅を挟んで「U字」状の路線となっており、面白いのはユニオン駅の北東にある隣駅がキング駅、その次はクイーン駅と続くことだ。王、女王の後は東京のJR京浜東北線の駅名にもなっている「王子」なのかと思いきや、そうは問屋が卸さない。隣国アメリカで起きた事件を契機に駅名に由来する人物がトラブルメーカーだったと指弾され、名称変更が時間の問題となっている―。

【トロント地下鉄1号線】アメリカのニューヨークとともに北米の代表的な金融都市となっているカナダ・トロントの都市圏の公共交通機関を運行しているトロント交通局(TTC)の地下鉄の主力路線。カナダで最初の地下鉄として1954年にトロント市内のユニオン―エグリントン間で先行開業し、現在はボーハン・メトロポリタン・センター駅とフィンチ駅の間の38・4キロを結んでいる。
 通勤や通学などに多く使われており、TTCによると1号線の駅の平日利用者数は67万106人(2022年秋の平均)と路線別で最多だった。
 将来は1号線をフィンチ駅からは北のリッチモンドヒル市まで約8キロ延伸し、計5駅を設ける計画。開通後は、沿線地域からの所要時間が最大22分短縮する見通し。
 1号線で現在使っている車両は、「トロントロケット」(本連載第14回NY、ワシントン地下鉄の新潮流の〝先駆車〟はトロントにあり!カナダ最大都市・トロント編 参照)と呼ばれる2011年登場のステンレス製車両。カナダの輸送機器メーカー、ボンバルディアの傘下だった旧ボンバルディア・トランスポーテーション(現在のフランスのアルストム)が製造した。

トロントの金融街に鎮座する「王」と「女王」

TTC地下鉄1号線のキング駅の壁面に大書された駅名(2024年2月21日、大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄1号線のキング駅の壁面に大書された駅名(2024年2月21日、大塚圭一郎撮影)

 ユニオン駅の北東側の隣となるキング駅と、続くクイーン駅はともにトロントの金融街にある。地下鉄1号線はこの区間でヤング通りの地下を走っており、駅名は交差して東西に結ぶ道路がそれぞれキング通り、クイーン通りと名付けられているのに由来する。

TTC地下鉄1号線のクイーン駅の壁面に記された駅名(2024年2月21日、アメリカ東部ニュージャージー州で大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄1号線のクイーン駅の壁面に記された駅名(2024年2月21日、アメリカ東部ニュージャージー州で大塚圭一郎撮影)

 「トロントロケット」と呼ばれる電車に揺られて壁面に「KING」と「QUEEN」の駅名が大書されているのを眺め、否が応でもクイーンの北隣の駅名は「王、女王と並ぶのにふさわしいのはPRINCE(王子)か、PRINCESS(王妃)か」と想像した。

TTC地下鉄1号線の路線図(2024年2月21日、トロント中心部で大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄1号線の路線図(2024年2月21日、トロント中心部で大塚圭一郎撮影)

 そうでなくても、路線図で王と女王とともに〝列席〟するのにふさわしい威厳のある駅名が待ち受けていることを予期してしまう。

駅名の改名要請を可決

 ところが、事実は小説よりも奇なり。クイーン駅の北隣のダンダス駅が由来するイギリスの大物政治家、ヘンリー・ダンダス(1742~1811年)は存命中に誤った判断をしたトラブルメーカーだったと問題視され、トロント市議会の委員会が2023年12月に駅名を変えるように要請することを賛成多数で可決したのだ。賛成が17票、反対が4票の大差となり、改名要請の対象には地下鉄2号線のダンダスウエスト駅も含まれている。

 背景にあるのは、アメリカ中西部ミネソタ州で2020年5月に黒人のジョージ・フロイドさんが白人警察官に首を圧迫されて死亡した事件を契機にした人種差別抗議運動「ブラック・ライブズ・マター」だ。

 黒人を巡る歴史を再検証する動きが高まり、イギリスでの奴隷制度廃止が遅れた原因はダンダスにあると批判して改名を求める嘆願の署名が集まった。このためトロント市が動き、ダンダスに由来する駅前や広場などの関連施設の改名を進めようとしている。

奴隷貿易の即時廃止に異議

 イギリス議会下院で1792年、大西洋を越えた奴隷貿易を即時廃止する法案が提出された。これに異議を唱え、「段階的に」廃止すべきだと迫ったのが当時下院議員だったダンダスだ。

 トロント市がまとめた資料によると、ダンダスは奴隷貿易を「最終的には廃止しなければならない」としながらも、「個人の財産を侵害したり、西インド諸島のわが国の領地を急激に揺るがしたりすることがないように穏やかな手段で廃止しなければならない」と主張した。

 下院はダンダスの要求に沿って奴隷貿易の段階的な廃止を進め、1796年に取りやめることを提案した修正案を採択した。

 ところが、修正案は上院を通過せず、この修正案は廃案となった。

〝黒歴史〟が15年も長引く

 結果として、奴隷貿易を廃止する法律が施行されたのは1807年までずれ込んだ。奴隷貿易という人権を蹂躙(じゅうりん)する〝黒歴史〟は、当初の法案が提出された1792年より15年も長引いた。

 もっとも、下院に当初提出された法案にダンダスが反対することなく通過したとしても、上院も通過したのかどうかは不透明な面が残る。

 だが、法案が提出された1792年から、奴隷貿易を廃止する法律が制定された1807年までの間に50万人を超えるアフリカの黒人が奴隷にされて大西洋を越えて人身売買され、多くのイギリス植民地に送られた。結果として、ダンダスの誤った判断が奴隷貿易の廃止を遅らせる引き金を引いたのは論をまたない。

 トロント市のオリビア・チョウ市長は、市内に付けられたダンダスの名前を変えることに関して「トロント市は黒人差別に立ち向かい、真実、和解、正義を推進してより包括的で公平な都市を築くことに引き続き尽力していく」とコメントした。

トロントの訪問歴なく

 一方、有力者の名前を駅や空港、広場などの公共性の高い施設に付けた事例は枚挙にいとまがなく、決して珍しいことではない。

オンタリオ州のトロント・ピアソン国際空港の旅客ターミナル(2023年9月25日、大塚圭一郎撮影)
オンタリオ州のトロント・ピアソン国際空港の旅客ターミナル(2023年9月25日、大塚圭一郎撮影)

 カナダ最大の利用客数を誇るトロント・ピアソン国際空港は、カナダの第14代首相の故レスター・ピアソン氏から名付けられた。モントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港は第20代と第22代の首相で、ジャスティン・トルドー首相の父親である故ピエール・トルドー氏に由来する。

カナダ東部ケベック州のモントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港(2023年10月4日、大塚圭一郎撮影)
カナダ東部ケベック州のモントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港(2023年10月4日、大塚圭一郎撮影)

 ダンダスの名前がトロントの駅や広場などに付けられたのは、命名時点では功績が評価されてのことだった。カナダは現在もイギリス連邦加盟国の一つであり、イギリスの貴族「メルビル子爵」に初めて叙位された大物政治家の名前をビッグネームだと捉える向きがあった。

 しかし、奴隷貿易の長期化に力を貸した過ちにとどまらず、ダンダスの名前を冠したのがふさわしかったかどうかは疑わしい。シティーニュース・トロントは「ダンダスはトロントに1回も足を踏み入れたことはない」と報じており、そもそも訪問歴がない縁遠い人物に「もともと親しみがわいていなかった」と打ち明ける市民もいる。

 皮肉なのは、政界で大きな影響力を持ったダンダスが「無冠の王」と呼ばれていたことだ。奴隷貿易の廃止を遅らせたトラブルメーカーという面を考慮に入れない場合、「無冠の王」の称号が連なっている地下鉄1号線の駅名のキング(王)、クイーン(女王)と意外と親和性が高いのは偶然の産物だった。

新たな駅名は大学名に

 ダンダスに代わる新たな駅名は、近くにあるオンタリオ州立のトロントメトロポリタン大学(TMU)に由来する「TMU」となる見通しだ。ダンダス駅の名称変更には150万カナダドル(1カナダドル=111円で1億6650万円)がかかると見込まれており、TMUは大学名を付けてもらえればこの費用を負担すると申し出た。

 TMUが多額の費用を負担してまでも駅名に付けてもらいたがっているのは、2021年に改称したばかりの大学名の知名度を向上させたいためだ。大学名を変更したのはダンダス駅を改称する理由と同じく、元の名前が不適切だと判断されたためだ。

 TMUはライアソン工科専門学校として1948年に創立され、その後は規模を広げてライアソン大学に改名した。

 しかし、2021年に「ライアソン」の名前と決別することを決めた。なぜならば名前を取ったエガートン・ライアソンは、カナダ連邦の同化政策の一環として先住民の子どもを親元から引き離し、キリスト教が運営する寄宿学校で生活することを迫った制度の創始者の1人だったからだ。

 19世紀から20世紀にかけて100を超える寄宿学校に計15万人を超える先住民の子どもが収容され、カナダ放送協会(CBC)によると数千人もの子どもが命を落としたとされる。

 2021年に西部ブリティッシュ・コロンビア州の寄宿学校跡地から215人の子どもの遺骨が見つかったことは改めて社会を震撼させ、ライアソン大学は現在の名称に変えることを決めた。

 ダンダスおよびライアソンという大勢の罪のない人たちの尊厳を奪ったり、命を落としたりするきっかけをもたらした〝黒歴史〟に由来する名前を残し、顕彰することはあってはならないという考えに私も同意する。

 TTC地下鉄1号線のダンダス駅と、2号線のダンダスウエスト駅の名称が刷新され、カナダ最大都市の中心部にふさわしい名前が刻まれることで過去の過ちと決別し、明るい未来が切り拓かれることを強く望んでいる。

トロント中心部のキング通りを走る低床式路面電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
トロント中心部のキング通りを走る低床式路面電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社デジタルコンテンツ部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年5月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第14回 NY、ワシントン地下鉄の新潮流の〝先駆車〟はトロントにあり!カナダ最大都市・トロント編

カナダ・トロント交通局の地下鉄1号線を走る通称「トロントロケット」(2024年2月、トロントで大塚圭一郎撮影)
カナダ・トロント交通局の地下鉄1号線を走る通称「トロントロケット」(2024年2月、トロントで大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 アメリカの最大都市ニューヨークの地下鉄で今年2月に営業運転が始まった川崎重工業グループ製の新型車両が、車両同士の連結部分に利用者がそのまま通り抜けられる開放された通路「オープンギャングウェイ」(OPEN GANGWAY)を採用した。ワシントン首都圏の地下鉄も2025~26年の冬に受領開始予定の日立製作所グループ製車両で初めて導入する。アメリカの大都市の地下鉄で新潮流となっている構造の〝先駆車〟になったのは、カナダの最大都市であるオンタリオ州トロント都市圏を走るトロント交通局(TTC)の地下鉄だ。

トロントロケットの壁面に貼られたトロント交通局のロゴ(2024年2月、トロントで大塚圭一郎撮影)
トロントロケットの壁面に貼られたトロント交通局のロゴ(2024年2月、トロントで大塚圭一郎撮影)

【トロント交通局】カナダで最大の都市、トロントの都市圏で地下鉄や路面電車、路線バスを運行している交通当局。英語名の「TORONTO TRANSIT COMMISSION」を略して「TTC」と呼ばれる。2023年の平日1日当たりの平均利用者数は約248万3800人に達する。
 IC乗車券「PRESTO(プレスト)」を使えば、片道2時間以内のTTCの公共交通機関を大人3・25カナダドル(1カナダドル=117円で約380円)で利用できる。現金の場合は大人3・30カナダドルとなる。
 地下鉄は3路線があり、VIA鉄道カナダなどと接続する中央駅のユニオン駅を経由してU字型に走って南北を結ぶ1号線(路線図のラインカラーは黄色)、東西を走る2号線(緑色)、1号線のシェパード・ヤング駅で分岐して東西に走る4号線(紫色)がある。
 2号線の終点のケネディ駅では、主に高架を走る電車が行き来する路線の3号線が接続していた。老朽化を受けて2023年11月に路線バスで置き換えることが決定後、5人がけがを負う脱線事故が起きたため運行終了が23年7月に前倒しされた。

NY地下鉄では2月から

 ニューヨークの都市圏交通公社(MTA)の地下鉄で、川崎重工が最大1612両を納入する契約を結んだ新型車両「R211」の導入が進んでいる。うち車両同士の連結部分にオープンギャングウェイを採用した新たなタイプ「R211T」の営業運転が今年2月1日に始まった。

アメリカ・ニューヨーク地下鉄の「R211」(2024年5月、ニューヨークで大塚圭一郎撮影)
アメリカ・ニューヨーク地下鉄の「R211」(2024年5月、ニューヨークで大塚圭一郎撮影)

 オープンギャングウェイは幌で覆われた通路に仕切り用の扉がなく、乗客がそのまま行き来できる仕組みだ。R211Tは全長18・4メートルの車両を5両連結しており、2編成をつないだ10両で運用している。

 ニューヨークを含めたアメリカの地下鉄車両の多くは、火災などの非常時の避難だけに利用できる脱出用扉を連結部に設置している。ニューヨーク地下鉄では「車両間の乗車や移動を禁止する」と記したシールを貼っており、平常時は通り抜けることを禁じている。

 だが、勝手に開けて隣の車両に移る乗客が後を絶たないのにとどまらず、若者らの常軌を逸した〝超非常識行動〟に悪用されているのが頭痛の種になってきた。

昨年は少なくとも5人死亡

 その〝超非常識行動〟とは脱出用扉を通り、主に地上区間を走る際に連結部分から屋根によじ登ってサーフィンのような姿勢を取る「地下鉄サーフィン」だ。地下鉄は線路の脇にある第三軌条から電気を取り込んでいるため架線はないものの、地下鉄サーフィンをしている最中にトンネルや橋にぶつかるなどして転落し、死傷する若者が相次いでいる。

 MTAによると、地下鉄サーフィンによって2023年に少なくとも5人が死亡し、今年1月にも14歳の少年が命を落とした。

 防止のためにMTAは2023年9月、車内や駅構内での放送や案内表示で地下鉄サーフィンの危険性を警告するキャンペーンを開始。次なる一手として導入したのが、連結部分を幌で覆っているため屋根に上がりにくいのが特色のR211Tだ。

 ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は「広がっている地下鉄サーフィンのために若者が犠牲になるのを防ぐことができる」と安全性向上に期待を込めた。MTAのジャノ・リーバー最高経営責任者(CEO)も「購入する車両は最も革新的な設計でなければならない」とオープンギャングウェイを採用した意義を強調した。

ワシントン地下鉄はCEOの鶴の一声で

ワシントン首都圏交通局の次期車両「8000系」の実物大模型(2024年3月、ワシントンで筆者撮影)
ワシントン首都圏交通局の次期車両「8000系」の実物大模型(2024年3月、ワシントンで筆者撮影)

 ニューヨーク地下鉄のR211Tに触発され、日立グループが製造する次期車両「8000系」でオープンギャングウェイを初めて採用することを決めたのがワシントン首都圏交通局の地下鉄だ。

 ワシントン地下鉄では「今のところ地下鉄サーフィンは問題化していない」(職員)という。だが、ランディ・クラークCEOが8000系の設計に当たって「ニューヨーク地下鉄のオープンギャングウェイを参考にすべきだ」と鶴の一声を発したのを受け、従来の車両のように連結部分に脱出用扉を設ける計画を見直した。

 クラーク氏は「オープンギャングウェイの採用とより広い車内空間、リアルタイムの情報を提供できる改善されたデジタル案内板、安全性を高めるための強化された監視カメラシステム、持続可能性を高めたアルミ合金製車体、そして目を引くデザインと世界中の最善の要素を採り入れてこの電車(8000系)に詰め込んだ」と胸を張る。

ワシントン首都圏交通局の8000系の実物大模型に設けられたオープンギャングウェイ(2024年3月、ワシントンで筆者撮影)
ワシントン首都圏交通局の8000系の実物大模型に設けられたオープンギャングウェイ(2024年3月、ワシントンで筆者撮影)

 日立グループは、ワシントン近郊に新設した工場で8000系を量産。ワシントン首都圏交通局幹部は「最初の編成を受け取った後に試運転を1年間実施し、2027年に営業運転を始める予定だ」と説明する。

 かつてはヨーロッパ系メーカーの独壇場だったワシントン地下鉄は、今や川崎重工製の7000系が748両と営業用車両の6割超を占める主力車両となっている。さらに8000系の運転が始まれば、日本の同盟国であるアメリカの首都圏で日系メーカーがほとんどを占めるようになる。

トロントロケットが広く採用

 ワシントン地下鉄が手本としたニューヨーク地下鉄よりも早く、オープンギャングウェイを広く採用したのがTTCの地下鉄だ。2011年に登場した通称「トロントロケット」の電車が、全ての連結部分にオープンギャングウェイを用いている。先頭部の中央に貫通扉を備えたステンレス製の車両で、カナダの輸送機器メーカー、ボンバルディアの傘下だった旧ボンバルディア・トランスポーテーション(現在のフランスのアルストム)が製造した。

 トロントロケットは、1954年にカナダで最初の地下鉄として部分開業した1号線と、2002年開業とTTCの地下鉄路線で最新の4号線で運用されている。

 今年2月、トロント中心部にあるオスグッド駅から1号線に乗り込んだ。地上の入り口から階段を降りて自動改札機でIC乗車券のプレストをかざし、階下のプラットホームに着くとフィンチ行きのトロントロケットが入線した。

 1号線は1編成に6両を連結しているが、同じく6両編成で運転している東京メトロの銀座線、丸ノ内線よりもはるかに長い。というのもトロントロケットは1両当たりの全長が23メートル程度で、銀座線の16メートル、丸ノ内線の18メートルより長いからだ。

 トロントロケットは両端の運転席を備えた先頭車の全長の方が、中間車より長い。このような違いがあるのは東北・北海道新幹線で運用されている「長い鼻」のような先頭形状が特徴的なJR東日本のE5系、JR北海道のH5系も同じだ。

東北・北海道新幹線で運行されているJR東日本の「E5系」(2024年6月16日、東京都台東区で筆者撮影)
東北・北海道新幹線で運行されているJR東日本の「E5系」(2024年6月16日、東京都台東区で筆者撮影)

ユニオン駅を挟んだヘアピンカーブ

 トロントロケットに乗り込むと、車両同士をつないだ5カ所全てがオープンギャングウェイのため先まで見通すことができた。よって開放感があり、1編成が実際よりも長いように感じさせる視覚的な効果を生んでいる。

トロントロケットの車内のオープンギャングウェイ(2024年2月、トロントで大塚圭一郎撮影)
トロントロケットの車内のオープンギャングウェイ(2024年2月、トロントで大塚圭一郎撮影)

 この区間はトロント大学からユニオン駅付近まで南北につなぐユニバーシティー(大学)通りの地下を走っている。電車は次のセントアンドリュー駅を出発後、「キキキキ」という車輪と線路の摩擦音を奏でながら急カーブを曲がった。

 東西に延びているフロント通りの地下へと進路を変えるためで、電車はユニオン駅のプラットホームに滑り込んだ。ユニオン駅を出ると南北につなぐヤング通りの地下を通るため、再び急な曲線を通る。

 すなわちユニオンを挟んで「U字」状のヘアピンカーブになっており、1号線に乗る際のちょっとした見せ場だ。

 ユニオンから北へ向かって11駅先にあるエグリントン駅までの区間は、1954年に1号線が最初に開通した。カナダの地下鉄の〝元祖〟となっており、主にヤング通りの下を通る。

 トロントロケットの車内に掲げられた路線図の駅名をまじまじと眺めていると、「これは面白い!」と思った。それはまた別のお話―。

トロントのユニオン駅舎(2024年2月、大塚圭一郎撮影)
トロントのユニオン駅舎(2024年2月、大塚圭一郎撮影)

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社デジタルコンテンツ部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年5月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 勤務先以外では本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」のほかに、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も執筆中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第13回 「二つの顔」を持つ空港アクセス鉄道の先駆け、支えているのは日本企業~世界で5番目に住みやすい都市・バンクーバー編

カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア(BC)州のYVR・エアポート駅へ向かうトランスリンクのスカイトレインの路線「カナダライン」(2023年12月23日、大塚圭一郎撮影)
カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア(BC)州のYVR・エアポート駅へ向かうトランスリンクのスカイトレインの路線「カナダライン」(2023年12月23日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダで都市部と空港と直結するアクセス鉄道の先駆けとなったのが、西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーだ。公共交通機関「トランスリンク」の無人運転電車「スカイトレイン」の路線「カナダライン」で、今年8月に開業15年を迎える。外国からの旅客機でバンクーバー国際空港に降り立った旅行者の多くが最初に乗り込む二次交通となるだけに、カナダの電車の代表格と受け止める向きがある。一方、スカイトレインとしては他の2路線とは質を異にする“異端児”で、映画のタイトルさながらの「二つの顔を持つ男」となっている。持ち味である優れた走行性能は、実は日本企業が支えている。

【現代ロテム】鉄道車両や防衛機器などを製造する韓国のメーカー。自動車大手の現代自動車・起亜のグループ会社となっている。1999年に当時の現代精工、大宇重工業、韓進重工業の鉄道車両製造部門が統合して設立された。2001年に現代自動車・起亜自動車(現起亜)のグループに入り、07年に現社名の「現代ロテム」となった。
 韓国の高速鉄道「KTX」用の電車を含め、韓国で使われている幅広い鉄道車両を製造。外国案件の獲得にも力を入れており、これまでにアメリカ東部フィラデルフィアと西部デンバーの都市圏で走る通勤用電車、西部ロサンゼルス都市圏の通勤用客車などにも納入した。

バンクーバー五輪の足として大車輪の活躍

高架になったYVR・エアポート駅の駅舎(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)
高架になったYVR・エアポート駅の駅舎(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)

 バンクーバー中心部のウオーターフロント駅を起点として近郊と結ぶカナダラインは、高架になった途中のブリッジポート駅(リッチモンド市)で二股に分岐する。片方がバンクーバー国際空港(YVR)に隣接したYVR・エアポート駅、もう一方はリッチモンド・ブリッグハウス駅と結ぶ。

 バンクーバー国際空港は2023年の旅客数が2493万8184人と、カナダの空港ではトロント・ピアソン国際空港に次いで2番目に多い主要空港だ。カナダラインはバンクーバー五輪を翌年に控えた2009年8月にカナダ最初の空港アクセス鉄道として開業し、五輪の来場者や選手、大会関係者らの足として大車輪の活躍を見せた。

バンクーバー国際空港の旅客ターミナルの外観(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)
バンクーバー国際空港の旅客ターミナルの外観(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)

 カナダの代表的な“空の玄関口”と市街地を結ぶ二次交通としての重責は、五輪終了後も決して衰えていない。バンクーバー国際空港の利用者の多くが、バンクーバー中心部との移動のためにカナダラインに乗り込むからだ。

 バンクーバー発着では全日本空輸(ANA)が羽田空港と結び、日本航空(JAL)と日航子会社の格安航空会社(LCC)のジップ・エア、エア・カナダはそれぞれ成田空港とつないでいる。夏季にはエア・カナダが関西空港と結ぶ路線も運航している。

全日本空輸のスターウォーズ装飾を施したボーイング787の機体(2024年5月16日、アメリカ東部バージニア州で大塚圭一郎撮影)
全日本空輸のスターウォーズ装飾を施したボーイング787の機体(2024年5月16日、アメリカ東部バージニア州で大塚圭一郎撮影)
日本航空のボーイング787(2024年5月17日、東京・羽田空港で大塚圭一郎撮影)
日本航空のボーイング787(2024年5月17日、東京・羽田空港で大塚圭一郎撮影)
エア・カナダのボーイング787(2024年4月28日、アメリカ東部ニュージャージー州で大塚圭一郎撮影)
エア・カナダのボーイング787(2024年4月28日、アメリカ東部ニュージャージー州で大塚圭一郎撮影)

電車の代表格ながら“異端児”

 このため日本を含めた外国からの旅行者の大勢にとって、カナダラインは入国後の“ファーストコンタクト”となる。無人運転電車がきびきびと走り、カナダを背負っているような仰々しい路線名のため、外国人旅行者からは「カナダラインはカナダの電車の代表格だと思った」との声も聞かれる。

 しかしながら、カナダラインはスカイトレインの中では“異端児”と呼ぶべき存在だ。理由は二つあり、残る2路線のエキスポライン、ミレニアムラインと大きく異なっている。

リニアモーター駆動にあらず

 一つはエキスポラインとミレニアムラインがリニアモーター駆動を採用(本連載第11回ご参照)しているのに対し、カナダラインは線路脇に延びている集電用のレール「第三軌条」(サードレール)から電気を取り込んでいるだけだからだ。

 磁石の引き寄せ合う力と反発し合う力を利用したリニアモーター駆動の車両は加速力が優れ、走行時に車輪の空転が起きるのを防げるのが特色だ。このため勾配区間が多いミレニアムラインとエキスポラインでは威力を発揮する。

 一方、カナダラインはウオーターフロント駅を出発後に地下を進んだ後、ブリッジポート駅の1つ手前のマリンドライブ駅(バンクーバー市)は高架のため坂を上がる。ただ、起伏が激しい線形というわけではないため、建設コストを押し上げるリニアモーター駆動の採用は見送ったようだ。

唯一の韓国メーカー製車両

カナダラインに使っている電車の車内の壁にある現代ロテム製なのを示す銘板(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)
カナダラインに使っている電車の車内の壁にある現代ロテム製なのを示す銘板(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)

 もう一つは、カナダラインではスカイトレインで唯一となる韓国メーカー製車両を用いているためだ。韓国の鉄道車両メーカー、現代ロテムが造った2両編成のステンレス製電車が駆けている。

 エキスポライン、ミレニアムライン向けに導入されてきた歴代車両のマーク1、マーク2、マーク3はいずれもカナダの輸送機器メーカー、ボンバルディアの鉄道車両部門だった旧ボンバルディア・トランスポーテーションが製造した。次世代車両のマーク5も旧ボンバルディア・トランスポーテーションを2021年に買収したフランスの大手鉄道車両メーカー、アルストムが受注した。

 旧ボンバルディア・トランスポーテーション製車両はいずれもリニアモーター駆動を採用していることもあり、似通った設計だ。だが、駆動方式が異なるカナダラインの電車はエキスポライン、ミレニアムラインには乗り入れることはできない。

縁の下の力持ちは日本企業

 一見矛盾のように受け止められる「二つの顔を持つ男」のカナダラインの実像を探るべく、ウオーターフロント駅の地下にあるプラットホームからYVR・エアポート行きに乗り込んだ。YVR・エアポート駅へ向かう電車は始発が午前4時48分、終電が翌日の午前1時5分まで走っており、空港利用者にとって至極便利だ。

カナダラインの電車の車内(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)
カナダラインの電車の車内(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)

 車内に並んだクロスシートの一つに腰かけた次の瞬間、リニアモーター駆動の車両に引けを取らないほどスムーズに発進した。

 優れた足回りを実現している縁の下の力持ちは、日本企業だ。電車のモーター(主電動機)に流す電力を適切に調整する制御装置「インバーター」と、モーターはともに三菱電機が製造した。

俗称は「竜巻」

 搭載している三菱電機のIGBT-VVVFインバーターは、「竜巻インバーター」という一風変わった俗称を持つ。走り出す時に竜巻を想起させる「ヒューン」という音を発するためだ。

 日本の通勤電車に乗った時に聞いたことがある音色をカナダの電車で耳にするのは斬新に感じられるとともに、自然と親しみがわく。空港へ向かう時には遅れないかと気をもむ場合もあるが、日本メーカーが手がけた駆動装置が足元を支えている電車に対しては日本人として安心感を覚える。

実は“正統派”?

YVR・エアポート駅に停車中のカナダラインの電車(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)
YVR・エアポート駅に停車中のカナダラインの電車(2023年12月23日、BC州で大塚圭一郎撮影)

 大部分の区間はそれぞれの方向の電車が走る線路が並行して敷かれている複線だが、YVR・エアポート駅の手前では両方向の電車が共用で使う単線になる。滑り込んだYVR・エアポート駅も、単線に面した1本のプラットホームがあるだけだ。

 ウオーターフロント駅からの所要時間は26分と、定刻運行だった。早朝から深夜まで走り、平日の朝と夕方のピーク時間帯ならば6分おきに発車するなど運行頻度も高く、道路渋滞を心配する必要もない。

 そうした利便性の高さはスカイトレインの他の2路線と共通しており、スカイトレインらしい“正統派”の顔をのぞかせる。にもかかわらず、“異端児”と受け止められる性格も持ち合わせているのは「二つの顔を持つ男」の面目躍如と言えよう。

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社デジタルコンテンツ部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年5月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 勤務先以外では本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」のほかに、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も執筆中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第12回 スカイトレインの次世代型車両マーク5、「4」を飛ばす意外な理由~世界で5番目に住みやすい都市・バンクーバー編

カナダ東部オンタリオ州で試験走行をするスカイトレインの次世代型車両マーク5(2023年7月、トランスリンク提供)
カナダ東部オンタリオ州で試験走行をするスカイトレインの次世代型車両マーク5(2023年7月、トランスリンク提供)

大塚圭一郎

 カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州(BC州)バンクーバーの都市圏の公共交通機関「トランスリンク」は無人運転電車「スカイトレイン」のエキスポライン、ミレニアムラインの両路線向けに次世代型車両「マーク5」をフランスの大手鉄道車両メーカー、アルストムに発注した。導入に伴い、1985年に登場した初代型車両「マーク1」は2027年末までに全て引退させる予定だ。両路線で現存するのはマーク1からマーク3までの3つの型式で、新型車両はマーク5と命名されて「4」を飛ばした。そこには日本などで「死」と同じ発音の4を不吉な数字と受け止めて避けるのとは異なる意外な理由があった―。

スカイトレインの初代型車両マーク1(2018年5月、カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー近郊で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインの初代型車両マーク1(2018年5月、カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー近郊で大塚圭一郎撮影)

【アルストム】フランスの大手鉄道車両メーカー。フランスの高速列車「TGV」の車両、全米鉄道旅客公社(アメリカ、アムトラック)の高速列車「アセラ」の次世代型車両、通勤型電車、地下鉄用車両などの幅広い製品を作っている。カナダの輸送機器メーカー、ボンバルディアの鉄道車両部門だった旧ボンバルディア・トランスポーテーションを2021年に44億ユーロ(現在の為替レートで約7200億円)を買収して規模を拡大した。23年3月期決算の最終的なもうけを示す純損益は1億3200万ユーロの赤字と2年連続の純損失に陥り、23年11月には従業員1500人程度の削減を発表した。23年3月期の売上高は前期から約7%増の165億700万ユーロだった。

「V字型」の線形

スカイトレインなどの路線図(トランスリンク提供)
スカイトレインなどの路線図(トランスリンク提供)

 スカイトレインの先駆けとなったのが、1985年に開業したエキスポラインだ。「エキスポ」という路線名が物語る通り、建設された大きな理由の1つが翌86年に開かれたバンクーバー国際交通博覧会の移動手段として活用するためだった。当初はカナダのパビリオン(現在のカナダプレース)に近い起点のウオーターフロント駅と、主要会場に設けたスタジアム駅(現在のスタジアム・チャイナタウン駅)を結んだ。

 その後は順次延伸し、現在は途中のコロンビア駅(ニューウエストミンスター市)の先で二股に分岐してキングジョージ駅(サレー市)、プロダクションウエイ・ユニバーシティー駅(バーナビー市)がそれぞれの終点になっている。

 ユニークなのは、ウオーターフロント駅の5つ先のコマーシャル・ブロードウエイ駅からプロダクションウエイ・ユニバーシティー駅までのエキスポラインの線形が「V字型」になっており、両駅を通る短絡線となっているミレニアムライン(本連載第11回参照)を含めて三角形を形成していることだ。

 コマーシャル・ブロードウエイ駅からプロダクションウエイ・ユニバーシティー駅までは三角形の一辺を通るような線形のミレニアムラインだと8駅なのに対し、二辺を通るエキスポラインは14駅もある。エキスポラインを使った所要時間は36分と、ミレニアムラインの16分の2倍余りもかかる。

 ただし、ミレニアムラインはバンクーバー中心部には乗り入れていない。このため、ミレニアムラインの沿線住民にとってもエキスポラインは中心部に向かう足として重宝する存在だ。

「元祖」車両の窓外に見えたのは…

 そんな路線や時代の移り変わりを見守りながら現在も活躍しているのが、登場から40年近くとなるスカイトレインの「元祖」となる初代型車両のマーク1だ。「シンプル・イズ・ベスト」と言わんばかりに簡素な先頭形状で箱形の車両は、大規模空港の旅客ターミナル間を結ぶピープルムーバーのように簡素だ。

 シンプルな外観が物語る合理性の極めつけが、スカイトレインの長所として歴代車両に引き継がれた無人運転だ。新型コロナウイルス禍後の人手不足もどこ吹く風と言わんばかりに、ウオーターフロント―キングジョージ間ならば最短2分おきの高頻度運転を実現している。

バンクーバー中心部のウオーターフロント駅の駅舎(2023年12月、大塚圭一郎撮影)
バンクーバー中心部のウオーターフロント駅の駅舎(2023年12月、大塚圭一郎撮影)

 私は2023年12月にバンクーバーを訪れた際、ウオーターフロント駅からエキスポラインを利用した際にマーク1に乗り込んだ。隣のバラード駅に向かって地下区間に入ると、驚いたのが暗闇を突き破るように窓に映し出された色とりどりの動画広告だ。

 トランスリンクによると、ウオーターフロント駅からバラード駅に向かう途中のトンネルの壁に360個の垂直発光ダイオード(LED)照明を並べており、センサーが電車の進入を検知すると約10秒間にわたって映像を流して乗客にアピールする。

スカイトレインのエキスポラインのウオーターフロント駅からバラード駅に向かう途中で見られる動画広告(2023年12月、バンクーバーで大塚圭一郎撮影)
スカイトレインのエキスポラインのウオーターフロント駅からバラード駅に向かう途中で見られる動画広告(2023年12月、バンクーバーで大塚圭一郎撮影)

 2022年4月に北米で初めてこの区間に実用化された「バンクーバー自慢」は、地元住民または「よそ者」なのを判別するリトマス試験紙の役割も果たす。見慣れた様子の地元住民はちらっと眺めるだけなのに対し、高校生の息子と私は「オー」と声を上げながら感心して「アウェー感」を丸出しにしていた。

次世代型車両を205両導入へ

 トランスリンクが「私たちのシステムで立派に運行してきた」と評価するのが最古参のマーク1だ。しかし、トランスリンクはエキスポラインとミレニアムラインに次世代型車両マーク5(5両編成)を41編成、計205両を順次導入し、老朽化しているマーク1を2027年末までに引退させる計画だ。

スカイトレインの初代型車両マーク1(2018年5月、カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー近郊で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインの初代型車両マーク1(2018年5月、カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー近郊で大塚圭一郎撮影)

 マーク5の設計は、この型式と同じくアルストムが製造し、営業運転中の車両では最も新しい2016年登場の「マーク3」をベースにしている。ただ、マーク5は先頭部に発光ダイオード(LED)を使った縦長の前照灯を設け、車内の自転車を置くスペースを広げ、扉の上に設ける運行案内の表示画面を大型化するなどの改良を施している。

なぜ「マーク4」を飛ばした?

 最も新しい型式のマーク3の次の型式がマーク5となり、「マーク4」を飛ばしたことに首をかしげる向きもあるかもしれない。

 この理由についてトランスリンクは「マーク3を将来的にアップグレード(大規模改修)した場合に『マーク4』の名称を使う可能性があるからだ」と説明している。

 トランスリンクはこれまでに老朽化対策としてマーク1を改修した実績があり、マーク3も将来改修することを想定している。マーク1は改修後も型式名を変えなかったが、マーク3については改修後の車両を「マーク4」に変える可能性を想定しているという。

 そこでマーク3の次となる次世代型車両を命名する際、あえて「4」の数字をスキップして「マーク5と名付けた」と説明している。

 ただ、トランスリンクはマーク3を大規模改修後に型式名を「マーク4」に変えるかどうかは「現時点では未定だ」と強調する。「『マーク4』の型式名が使用されないこともあり得る」とコメントしており、幻の型式名に終わる可能性も否定できない。

改番すれば“原点回帰”

 もっとも、マーク3を将来的に「マーク4」へ改番した場合には、エキスポラインとミレニアムラインの車両番号の命名規則が“原点回帰”する。

 エキスポラインとミレニアムラインには3桁の車両番号を付けており、マーク1は1桁目が「0」または「1」を割り振った。続いて2002年に営業を始めた「マーク2」の1桁目は「2」となり、ここまでは車両番号の付け方は規則通りだった。

 しかし、マーク2を2009年に追加発注した際に軌道を外れ、1桁目に「3」を用いたのだ。その結果、マーク3の1桁目に付けるのに似つかわしい「3」は使用済みだったため、「4」を冠した。

 もしもマーク3を改修後に「マーク4」へ改番すれば車両番号の1桁目の「4」と符合し、再び命名規則通りになるのだ。

命名規則をそれる次世代型車両

 車両番号の命名規則に従えば、次世代型車両のマーク5は1桁目に「5」を冠した3桁の車両番号をあてがわれることになる。1桁目に「5」を付けている車両はないため、一見すると可能に思われる。

 しかしながら、スカイトレインの事情通は「マーク5の車両番号は4桁に変わる」と打ち明ける。背景としてトランスリンクはマーク5の205両の製造を既にアルストムに注文しており、最大で400両の追加発注の権利を持っている事情がある。

 もしも命名規則に沿って3桁の車両番号を付けた場合、1桁目が「5」の番号では足りなくなる。最大となる計605両をアルストムに発注することになれば3桁の番号からもあふれ、4桁の番号を付与することになる。

 そこで「マーク5は最初から4桁の車両番号をあてがうことになった」(事情通)という。

1桁目は「5」にあらず!

 致し方ない理由によって車両番号が4桁に変わるものの、マーク5なので1桁目に「5」を付けるルールは命名規則に従うのが自然に思える。

 ところが、カナダ東部オンタリオ州キングストンにあるアルストムの施設で2023年に始まった最初の編成(5両編成)が試験走行する動画を眺めてあぜんとした。4桁の車両番号の1桁目に冠しているのは「6」で、予期していた「5」ではないのだ。

 最初の編成の車両番号は6011~6015が付けられていた。推察すると、マーク5は1桁目に「6」を冠し、2桁目と3桁目が編成番号、4桁目がその車両の番号という命名法則らしい。最初の編成は2桁目と3桁目が「01」なので、2番目に造られる編成には6021~6025の車両番号を付与する公算が大きい。

スカイトレインの次世代型車両マーク5(2023年7月オンタリオ州、トランスリンク提供)
スカイトレインの次世代型車両マーク5(2023年7月オンタリオ州、トランスリンク提供)

 マーク5にはこれまでと全く異なる命名規則が適用されるようになり、頭を整理するために「TAKE FIVE」(5分休憩しよう)と言いたくなる事態だ。「元祖」スカイトレインのマーク1から世代交代して車両番号の付け方も車両のデザインも大きく変わるマーク5には、近未来的な外観と優れた走行性能、快適な居住性で乗客が「HIGH FIVE」(ハイタッチ)をしたくなるような高い完成度を期待したい。

バンクーバー中心部のカナダプレイス(2023年12月、大塚圭一郎撮影)
バンクーバー中心部のカナダプレイス(2023年12月、大塚圭一郎撮影)

共同通信社ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社ワシントン支局次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸・旅行・観光や国際経済の分野を長く取材、執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を13年度から務めている。共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)などがあり、CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」に出演も。他にニュースサイト「Yahoo!ニュース」や「47NEWS」などに掲載されているコラム「鉄道なにコレ!?」、旅行サイト「Risvel」(https://www.risvel.com/)のコラム「“鉄分”サプリの旅」も連載中。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第11回 優れた加速のスカイトレイン車両、NYにも「そっくりさん」~世界で5番目に住みやすい都市・バンクーバー編

スカイトレインのミレニアムラインの車両「マーク2」(2018年5月26日、カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインのミレニアムラインの車両「マーク2」(2018年5月26日、カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州(BC州)バンクーバーの都市圏の公共交通機関「トランスリンク」の無人運転電車「スカイトレイン」の持ち味は、走り出した時の加速感だ。路線「ミレニアムライン」は起伏があり、駅間距離が長い区間も多いだけに先頭部の座席に陣取ればジェットコースターのような迫力を味わえる。使われている主力車両は、アメリカ(米国)の最大都市ニューヨークの“空の玄関口”で活躍している鉄道と「そっくりさん」だ。その理由とは―。

【ボンバルディア】カナダのビジネスジェット機メーカー。本社を東部ケベック州に置いている。2023年の1年間の業績である23年12月期決算の売上高は前期比16%増の80億4600万米ドル(約1兆2100億円)、最終的なもうけを示す純損益は4億4500万米ドルの黒字(前年同期は1億4800万米ドルの赤字)だった。

エア・カナダのエアバスA220の復刻塗装機(23年9月28日、カナダ東部オンタリオ州で大塚圭一郎撮影)
エア・カナダのエアバスA220の復刻塗装機(23年9月28日、カナダ東部オンタリオ州で大塚圭一郎撮影)

 かつては旅客機や鉄道車両などを幅広く製造する世界大手の輸送機器メーカーだったが、小型ジェット旅客機の旧Cシリーズ(現在のエアバスA220)の開発費がかさんで経営危機に陥った。生き残りのために事業売却を進め、プロペラ機「Qシリーズ」の事業を航空産業に投資するカナダ企業に、小型ジェット旅客機「CRJ」の事業を三菱重工業に、鉄道車両事業をフランスのアルストムにそれぞれ売却した。現在は事業領域をビジネスジェット機の製造と販売、アフターサービスに絞り込んでいる。

エア・カナダの旧ボンバルディアCRJ。離陸中なのはポーター航空の旧ボンバルディアQシリーズのプロペラ機(23年10月3日、オンタリオ州で大塚圭一郎撮影)
エア・カナダの旧ボンバルディアCRJ。離陸中なのはポーター航空の旧ボンバルディアQシリーズのプロペラ機(23年10月3日、オンタリオ州で大塚圭一郎撮影)

反対方向の電車に乗り込んだ理由

 2023年12月、バンクーバー近郊のコキットラム市にあるスカイトレインのコキットラム・セントラル駅からミレニアムラインを利用した。私はバンクーバー中心部の宿泊先に戻る途中だったが、乗り込んだのは反対方向のラファージュ・レイク・ダグラス行きの電車だった。乗り間違えでは決してなく、明確な理由があった。

小田急電鉄のロマンスカーGSE70000形(19年5月25日、神奈川県海老名市で大塚圭一郎撮影)
小田急電鉄のロマンスカーGSE70000形(19年5月25日、神奈川県海老名市で大塚圭一郎撮影)

 首都圏の大手私鉄、小田急電鉄の運転席を2階に設けた特急用車両「ロマンスカーGSE」70000形のように、先頭部のフロントガラスに面した最前列の座席からの景色を楽しもうと思ったのだ。ただ、カナダのボンバルディアの鉄道車両事業だった旧ボンバルディア・トランスポーテーション(現在のフランスのアルストム)が製造したミレニアムラインの主力車両「マーク2」で進行方向の最前列の座席は「先着お1人様限り」で、この“特等席”は早々と埋まることが多い。

スカイトレインの車両マーク2の先頭部には1つの座席が設けられている(23年12月22日、ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインの車両マーク2の先頭部には1つの座席が設けられている(23年12月22日、ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)

 そこでコキットラム・セントラル駅から2駅離れた終点のラファージュ・レイク・ダグラス駅へ向かった後、折り返すVCC―クラーク行きの電車に乗れば最前列の座席を確保できると考えたのだ。この時は通勤客が多い平日の夕方だったため4分おきに電車が走っており、あっさりと“特等席”をゲットできた。

優れた加速力の秘訣

 発車したマーク2はたじろぐほどの急ピッチで加速した。加速力が優れ、空転が起こらないことの秘訣は、磁石の引き寄せ合う力と反発し合う力を利用したリニアモーター駆動にある。スカイトレインでは3路線のうちミレニアムラインとエキスポラインで採用している。

 使われている車両はリニアモーターカーの一種だが、東京・品川―名古屋間で建設が進められているJR東海のリニア中央新幹線のような磁気浮上式ではない。一般的な電車と同じように2本のレール上を車輪で走る鉄輪式ではあるものの、推進力としてリニアモーターを使っているのだ。

スカイトレインのミレニアムラインの線路。2本のレールに挟まれて延びているのがリアクションプレート(23年12月22日、ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインのミレニアムラインの線路。2本のレールに挟まれて延びているのがリアクションプレート(23年12月22日、ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)

 リニアモーター駆動の車両は床下に磁石のコイルを配置しており、2本のレールの間に敷いた「リアクションプレート」と呼ばれる板との間で発生する電磁力を使って進む。加速の良さだけではなく、パワフルなため急勾配にも強いのも利点で、アップダウンが多いミレニアムラインとエキスポラインの線形にはうってつけだ。

NYの「アレ」と似た乗り心地

 マーク2の乗り心地は、勤務先のニューヨーク支局特派員だった2013~16年に「空の玄関口」の一つのジョン・F・ケネディ国際空港(JFK空港)を利用した際にたびたび乗り込んだ「アレ」とよく似ていた。JFK空港の旅客ターミナルを巡り、近辺にあるニューヨーク地下鉄、ロングアイランド鉄道の駅を結ぶ鉄道「エアトレインJFK」の車両だ。

米国ニューヨークのエアトレインJFK(21年5月18日、Aaron J. Heiner氏提供)
米国ニューヨークのエアトレインJFK(21年5月18日、Aaron J. Heiner氏提供)

 エアトレインJFKに使っている車両を製造したのも旧ボンバルディア・トランスポーテーションで、スカイトレインのマーク2と類似した設計なのだ。エアトレインJFKが開業したのは2003年と、スカイトレインのミレニアムラインの先行区間が営業運転を始めた02年の翌年のため造られた時期も近い。

スカイトレインの車両マーク2の車内(23年12月22日、ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインの車両マーク2の車内(23年12月22日、ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)

 もっとも、エアトレインJFKには先頭部のフロントガラスを向いて座ることができる“特等席”はない。座席が壁沿いに続いているロングシートで、スカイトレインのマーク2は進行方向または後方を向いたクロスシートが並んでいるのとは異なる。側面にある両開き扉もエアトレインJFKは片側2カ所と、マーク2より1カ所少ない。

まるで近未来都市

スカイトレインの車両マーク2の外観(23年12月22日、ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインの車両マーク2の外観(23年12月22日、ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)

 先頭部の前照灯もエアトレインJFKは円形なのに対し、四角形のマーク2は近未来的な印象を与える。四角いヘッドライトが照らす前方を眺めると窓明かりがきらびやかに輝く超高層マンションが林立しており、まるで近未来都市のような風景が広がっている。

 米国の有力旅行雑誌「コンデナスト・トラベラー」の「世界で最も住みやすい都市」の調査で2023年に5位となったバンクーバーは、大都市ながらもカナディアンロッキーといった大自然に近い魅力もあって世界から憧れを持たれている。25年に年間50万人の移民受け入れを目指すカナダの移民政策も背景に、カナダ統計局の21年調査で約264万3千人だったバンクーバー都市圏の人口は増加傾向をたどっている。

スカイトレインのミレニアムラインから見た超高層マンション群(23年12月22日、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインのミレニアムラインから見た超高層マンション群(23年12月22日、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州で大塚圭一郎撮影)

 そんな中で「特に好立地にありながら海を見渡せる超高層マンションは中国人や中国系カナダ人らが『爆買い』し、住宅価格も跳ね上がった」(地元の女性会社員)とされる。グレーターバンクーバー不動産協会によるとバンクーバー都市圏の今年2月の住宅基準価格は118万3300カナダドル(約1億3千万円)と、前年同月より4・5%も上昇した。

「最高の場所」の標語

 住宅の引き合いが旺盛な中で超高層マンションは増加の一途をたどっており、ミレニアムラインからもタワークレーンを載せた建設中の物件がいくつも視界に入った。だが、新たな物件が次々と分譲されても「高くてとても手が届かない価格ばかりだ」と嘆く声を複数の地元住民から聞いた。

 ふと前方を眺めると、反対へ向かうラファージュ・レイク・ダグラス行きのマーク2の電車とすれ違うところだ。白い車体の側面にはBC州のロゴの下に「地球上で最高の場所」という標語が記されていた。

 BC州が自賛しても不思議ではない「地球上で屈指の魅力的な場所」であることに同意する一方で、このようにも考えた。BC州を代表する都市のバンクーバーでも一人一人の住民が「最高の場所」と胸を張れるようにするには、より手頃な価格で住宅が手に入るようにする環境整備が不可欠ではないだろうか。

 バンクーバーが世界有数の住みやすい都市という“金看板”を維持するためにも、BC州などの当局には重い課題が突きつけられている。

共同通信社ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社ワシントン支局次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸・旅行・観光や国際経済の分野を長く取材、執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を13年度から務めている。共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)などがあり、CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」に出演も。他にニュースサイト「Yahoo!ニュース」や「47NEWS」などに掲載されているコラム「鉄道なにコレ!?」、旅行サイト「Risvel」(https://www.risvel.com/)のコラム「“鉄分”サプリの旅」も連載中。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第10回 無人運転のスカイトレイン「どのようにストをするの?」~世界で5番目に住みやすい都市・バンクーバー編

トランスリンクのスカイトレインの路線「ミレニアムライン」の電車。無人運転のため先頭部は展望席になっており、筆者も乗車した(2023年12月22日、バンクーバー近郊コキットラム市)
トランスリンクのスカイトレインの路線「ミレニアムライン」の電車。無人運転のため先頭部は展望席になっており、筆者も乗車した(2023年12月22日、バンクーバー近郊コキットラム市)

大塚圭一郎

 「地下鉄の電車をどこから入れたのでしょうねえ?それを考えると一晩中寝られなくなるの」とは1970年代に大ヒットした春日三球・照代の「地下鉄漫才」だ。今年1月にカナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州(BC州)バンクーバーの都市圏を走る「スカイトレイン」のストライキを労働組合が検討しているというニュースを見ながら、こうつぶやく向きもあったかもしれない。「無人運転の電車をどのようにストをするのでしょうねえ?それを考えると一晩中寝られなくなるの」

【スカイトレイン】バンクーバー都市圏を走る無人運転の鉄道。3路線があり、営業距離は計約80キロ。1986年のバンクーバー国際交通博覧会を控え、1985年に開業した「エキスポライン」が最初の路線。「ミレニアムライン」は2002年に開通し、10年のバンクーバー冬季オリンピック(五輪)・パラリンピックに向けて中心部とバンクーバー国際空港のアクセスのために建設された「カナダライン」は09年に営業運転を始めた。スカイトレインを含めたバンクーバー都市圏の公共交通機関「トランスリンク」によると、22年秋のエキスポライン・ミレニアムラインの平日利用者数は約28万8千人、カナダラインは約11万2千人。3路線いずれも鉄軌道の上を車輪で走るが、エキスポラインとミレニアムラインの車両は磁石の力で進むリニアモーター駆動なのに対し、カナダラインは線路脇にある第三軌条から電気を取り込んで走る。

トランスリンクのスカイトレインとシーバス、快速バスの路線図(トランスリンクのホームページから)
トランスリンクのスカイトレインとシーバス、快速バスの路線図(トランスリンクのホームページから)

3日間のストを警告

バンクーバー中心部を走るトランスリンクのトロリーバス(2023年12月22日、大塚圭一郎撮影)
バンクーバー中心部を走るトランスリンクのトロリーバス(2023年12月22日、大塚圭一郎撮影)

 バンクーバー都市圏を走る公共交通機関「トランスリンク」の運行会社コースト・マウンテン・バス・カンパニー(CMBC)のスーパーバイザーら180人超でつくる労組CUPE4500が2024年1月22、23両日の2日間のストを実施。トランスリンクの路線バスの大部分と、バンクーバー中心部のウオーターフロントと近郊のノースバンクーバー市を結ぶ水上バス「シーバス」が運休し、CMBCによると両日とも約30万人の利用者に影響が出た。

 ストは労組側が求めた待遇改善を会社側が拒否する労使対立によって勃発した。CUPE4500が3年間で20~25%の賃上げを要求したのに対し、CMBCの提示は他労組と同水準の3年間で13・5%上昇だったため決裂した。CMBCのマイケル・マクダニエル社長は「スーパーバイザーが、他の労組が受け入れた上昇幅の2倍弱(の25%)を要求しているのは非現実的だ」と批判した。

 CUPE4500は1月のスト終了後、2月3日未明までに暫定合意ができなければ3日間のストを実施するとけん制。その際は路線バスとシーバスにとどまらず、スカイトレインもストに追い込むことも視野に入れると表明していた。

航行中のトランスリンクのシーバス(手前、2023年12月21日、大塚圭一郎撮影)
航行中のトランスリンクのシーバス(手前、2023年12月21日、大塚圭一郎撮影)

無人運転なのにスト?

 だが、CUPE4500のコメントを聞いて疑問がわいたかもしれない。一つはコンピューター制御で運行しており、電車を無人運転しているスカイトレインをどのようにストに追い込むのかという点だ。

 路線バスの運行には運転手、水上バスの操縦には船長らが携わっており、1月にストを実施したスーパーバイザーはそれらを動かすための管理業務を担っている。

スカイトレインの券売機(2023年12月21日、ウオーターフロント駅で大塚圭一郎撮影)
スカイトレインの券売機(2023年12月21日、ウオーターフロント駅で大塚圭一郎撮影)

 これに対してスカイトレインの電車は無人で走り、駅に着くと扉が自動的に開く。発車時刻になると合図音が鳴って扉が閉まる。また、利用者が駅で出入りするのも無人の自動改札機で、集積回路(IC)乗車券「コンパス」を接触するなどすれば通過できる。コンパスへの入金なども駅構内にある券売機で対応できる。

 無賃乗車などを取り締まる警察官らは駅にいるものの、まるで人手不足やストのリスクを予見していたような省人化を図れている。

門外漢の労組がなぜスカイトレインに介入?

 しかし、スカイトレインも全てが機械任せというわけではもちろんない。“頭脳部”に当たる制御室「コントロールセンター」には従業員が詰めており、電車の運行状況などを確認しているのだ。

 大きな画面には電車が走っている位置と車両数、遅れの有無をタイムリーに表示する。また、各駅に設置している監視カメラが撮影した映像もモニターに映し出されており、安全運行を支える縁の下の力持ちになっている。

 もしもコントロールセンターの従業員がストをした場合、スカイトレインは運行停止に追い込まれる。しかし、1月にストをしたCUPE4500が所管しているのはCMBCが運行を担っている路線バスとシーバスであり、スカイトレインは含まれていない。

ノースバンクーバー市を走るトランスリンクの路線バス(2023年12月22日、大塚圭一郎撮影)
ノースバンクーバー市を走るトランスリンクの路線バス(2023年12月22日、大塚圭一郎撮影)

 そこで次なる疑問となるのは、門外漢の労組がなぜスカイトレインのストをぶち上げることができるのかという点だ。調べたところ、日本では考えにくい特殊な事情があることが分かった。

 カナダ放送協会(CBC)によると、CUPE4500は今回の労使対立を受けた対抗手段として、管轄外の公共交通機関のストを実施する法的権利を認めるようにBC州の労働関連委員会に要請した。これが認められた場合、CUPE4500は所管外のスカイトレインのストに踏み切ることができるというのだ。

どのようにストをする?

スカイトレインのエキスポラインのメイン通り・サイエンスワールド駅(2023年12月21日、バンクーバーで大塚圭一郎撮影)
スカイトレインのエキスポラインのメイン通り・サイエンスワールド駅(2023年12月21日、バンクーバーで大塚圭一郎撮影)

 ただし、スカイトレインの安全運行のためにコントロールセンターに入れるのは原則として担当する従業員だけだ。部外者であるCUPE4500の組合員に立ち入りが許されるはずがない。

 それではBC州の労働関連委員会がもしもストを認めた場合、CUPE4500はどのようにストを実践するのかという疑問も出てくる。CUPE4500は1月のスト後に「スカイトレインを止めるために駅で監視することを検討する」と明らかにしていた。

 これは推察になるが、ストになった場合はCUPE4500の組合員がスカイトレインの駅に張り込んで従業員が早朝の営業開始時に駅のシャッターを開けられないようにしたり、駅にバリケードを敷いて利用者が立ち入れないようにしたりすることを検討していたのではないか。BC州の労働関連委員会がストを認めた場合、ストの“お墨付き”を得た形となる。このためCUPE4500との無用な衝突を避け、スカイトレインの従業員が出勤せずに運行が止まる展開も考えられよう。

スト回避にたゆまぬ努力を

 事態を重く見たBC州は労使間の特別調停人のビンス・レディ氏を指名。レディ氏の勧告をCMBC、CUPE4500の双方が2月1日に受け入れたため、スカイトレインまで巻き込む恐れのあった3日間のストは食い止められた。

 カナダ最高裁判所は2015年1月、労組のスト権は団体交渉の「不可欠な要素」であり、1982年に制定された「カナダ権利および自由憲章」(カナダ憲章)で保護されるとの判断を下している。私も2005~06年に勤務先の共同通信労働組合の関西支部副委員長、新聞・通信社の労組でつくる新聞労連(日本新聞労働組合連合)近畿地連の副執行委員長を歴任しており、労組の存在意義と活動の重要性をよく理解している。労組がスト権を「伝家の宝刀」として確保しておく必要性も分かっている。

 だが、トランスリンクはバンクーバー都市圏の通勤や通学などに欠かせない足になっているだけにストは大きな打撃を与える。長引けば利用者の生活や経済に悪影響を与え、ひいては信頼感が低下して利用者離れも引き起こしかねない。

 このように労組の「伝家の宝刀」も乱用しては威力を失い、果ては自刃行為になりかねないのではないか。労組は労使交渉でできるだけ解決の糸口を探り、大切なお客様である利用者に大きな迷惑が及ぶストは極力回避できるようにたゆまぬ努力を求めたい。

【読者からのおたより】

 大塚圭一郎さんの連載「カナダ”乗り鉄”の旅」をいつもたのしみにしています。カナダ横断鉄道が敷かれたことで国が発展した(先住民の方々や鉄道建設に関わった労働者の方々の犠牲の上で)にもかかわらず、すっかり車依存社会になってしまいましたが、環境問題解決や人口増に対応するインフラとして、やはり鉄道だ!というのが私見です。
 バンクーバー都市圏では、日本や他国の駅に比べるとスカイトレインもセントラルステーションも殺風景ですが、旅客鉄道のニーズとファンの押しで、サービス拡大を願ってやみません。
 これからも面白い記事を発信して下さい。

高橋美枝
New Westminster 在住

(ご本人の許可を得て文面をそのままご紹介しました)

【筆者・大塚圭一郎からのご返信】

 高橋様、ご丁寧なおたよりを頂きましてありがとうございました。「環境問題解決や人口増に対応するインフラとして、やはり鉄道だ!」というご意見に私も100%賛同します。

 私は昨年12月にVIA鉄道カナダの大陸横断列車「カナディアン」にトロントからバンクーバーまで乗りました。途中で通過した大陸横断鉄道の建設過程では、ご指摘の通り多くの先住民や労働者が命を落としました。VIA鉄道カナダのスタッフからは「亡くなった労働者には中国系の方々が多かった」と教えられました。

 そのような過去を厳粛に受け止めながらも、カナディアンの素晴らしい乗車体験については共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」での連載「鉄道なにコレ!?」の第57回から始まった新シリーズ「カナディアン乗車記」でご紹介していきます。シリーズの第1回「終点まで丸4日をかけて北米大陸を横断」のリンク先は、https://www.47news.jp/10587334.html。そちらの連載もご高覧いただければ幸いです。

 今回で第10回を迎えた本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」を引き続きご愛読賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

共同通信社ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社ワシントン支局次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸・旅行・観光や国際経済の分野を長く取材、執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を13年度から務めている。共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)などがあり、CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」に出演も。他にニュースサイト「Yahoo!ニュース」や「47NEWS」などに掲載されているコラム「鉄道なにコレ!?」、旅行サイト「Risvel」(https://www.risvel.com/)のコラム「“鉄分”サプリの旅」も連載中。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第9回 ご乗車は「日曜はダメよ」の“ゆとり運行”路線~世界で5番目に住みやすい都市・バンクーバー編

カナダ・バンクーバーで運行している「ウエスト・コースト・エクスプレス」(WCE)の2階建て客車(2023年12月22日、大塚圭一郎撮影)
カナダ・バンクーバーで運行している「ウエスト・コースト・エクスプレス」(WCE)の2階建て客車(2023年12月22日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 全線無人運転の鉄道「スカイトレイン」や路線バス、水上バス「シーバス」を早朝から深夜まで高頻度で走らせているカナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー都市圏の運輸当局トランスリンクは、「カナダ最強の公共交通機関」と呼んでも過言ではない。ところが、そんな“働き者”のトランスリンクに似つかわしくなく平日に5往復しか運行せず、1960年の映画「日曜はダメよ」(Never on Sunday)と言わんばかりに土日と祝日は原則として運休する“ゆとり運行”の鉄道路線もある。

【トランスリンク】カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州(BC州)バンクーバー都市圏の公共交通機関を所管する運輸当局の通称。正式名称は「南岸ブリティッシュ・コロンビア交通公社」で、本部はBC州ニューウエストミンスター市にある。かつてはBC州の運輸当局「BCトランジット」が州内の公共交通機関を一元的に担っていたが、バンクーバー都市圏だけを管轄する当局としてトランスリンクが1998年に設立された。2023年(1~12月)の予算案によると、利用者が支払う運賃などの運輸収入は約7億カナダドル(約760億円)と、歳入全体(約21億9千万カナダドル)の約29%にとどまる。このため連邦政府や地元政府の補助金、燃料税や駐車場利用料金などの財源で賄っている。

最終列車は午前7時25分発

ウエスト・コースト・エクスプレス(WCE)の路線図(トランスリンク提供)
ウエスト・コースト・エクスプレス(WCE)の路線図(トランスリンク提供)

 鉄道路線「ウエスト・コースト・エクスプレス」(WCE)はバンクーバー市郊外の住宅地にあるミッションシティー駅と中心部のウオーターフロント駅の東西約69キロを片道1時間15分で走る。バンクーバー中心部の在住者または滞在者にとって同じ日に全線を“制覇”するのは難しい。

 というのも、運行する平日の朝に近郊の住宅地からバンクーバーの勤務先へ向かい、夕方に帰宅する通勤客向けのダイヤだからだ。ウオーターフロント発ミッションシティー行きは最初の出発が午後3時50分、最終は午後6時20分だ。

 一方、ミッションシティー発ウオーターフロント行きの始発は午前5時25分で、最後に出発するのは午前7時25分。このため、ウオーターフロント発着で同じ日にWCEで往復するのは不可能だ。

 それでは公共交通機関でウオーターフロント駅からWCEに全線乗車し、同じ日に戻れるのか。その調査結果は最後にお伝えしたい。

開業110年の元“玄関口”

バンクーバーのウオーターフロント駅舎(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)
バンクーバーのウオーターフロント駅舎(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)

 WCEの起点のウオーターフロント駅は今年で開業から110年。開業から約65年間はカナディアン・パシフィック鉄道<現在のカナディアン・パシフィック・カンザスシティー(CPKC)>の東部ケベック州モントリオールなどと結ぶ大陸横断列車が発着するバンクーバーの“玄関口”で、カナディアン・ナショナル鉄道(CN)の大陸横断列車と火花を散らしていた。

 しかし、両社の旅客鉄道部門が1978年にVIA鉄道カナダへ移管され、翌79年には大陸横断列車の発着がCNの使っていた現パシフィック・セントラル駅に一本化された。

 近郊と結ぶ路線が発着するのにはオーバースペックのように映る駅舎は、かつてカナディアン・パシフィック鉄道が経営するホテルの建物だった。大陸横断列車が発着していたプラットホームの跡では、現在はCPKCが所有している貨物線を活用して1995年に運行が始まったWCEが発着している。

発車までの残り時間を表示

 ウオーターフロント駅の自動改札機で集積回路(IC)乗車券「コンパス」をかざして通路を進むと、正面にはノースバンクーバー市と結ぶシーバスの搭乗口への通路、左手にはスカイトレインの路線「エキスポライン」のプラットホームに向かう下り階段があった。

ウオーターフロント駅のWCE乗り場(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)
ウオーターフロント駅のWCE乗り場(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)

 WCEの乗り場を探していると、斜め左に向かう通路があるのを見つけた。頭上の電光掲示板は「列車の発車まで17:38(17分38秒)」と記しており、次の列車の発車時刻までの残り時間と一致する。この通路を進むと男性係員がおり、水色の端末を指さして「ここでカードをタッチしてください」と話した。

 改札機でコンパスをかざしたばかりだが、指示通りにコンパスをかざすと「よくできました」とばかりに小さなキャンディーをくれた。クリスマスを目前に控えた時期だったためで、なんと係員はサンタクロース風の帽子をかぶっていた。

ウオーターフロント駅の隣に並んだWCEの機関車。手前がEMD製(23年12月21日、大塚圭一郎撮影)
ウオーターフロント駅の隣に並んだWCEの機関車。手前がEMD製(23年12月21日、大塚圭一郎撮影)
WCEの2階建て客車内に取り付けられた「ボンバルディア・トランスポーテーション」の銘板(23年12月22日、バンクーバーで大塚圭一郎撮影)
WCEの2階建て客車内に取り付けられた「ボンバルディア・トランスポーテーション」の銘板(23年12月22日、バンクーバーで大塚圭一郎撮影)

 階下のホームには、アメリカ(米国)のEMDが製造した機関車が、カナダの輸送機器メーカーのボンバルディアの鉄道車両部門だったボンバルディア・トランスポーテーション(現在はフランスのアルストム)が製造した2階建て客車を連結した列車が既に停車していた。トランスリンクは「利用者数に応じて客車は3~10両連結している」と説明する。

車窓に見覚えがあるコンテナ

WCEの客車の2階にある座席(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)
WCEの客車の2階にある座席(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)

 客車に乗り込んで2階に上がり、向かい合った4つの座席の間にテーブルを備えた一角に乗り込んだ。机上には電源コンセントも備えている。北側に当たる左手の車窓にはバンクーバー港の手前に貨物ヤードが広がっており、見覚えがある白文字で「ONE」と記された白色のコンテナが積まれていた。

 日本の海運大手の日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ定期船事業部門を統合して2017年に発足した「オーシャン ネットワーク エクスプレス ジャパン」(ONE)のコンテナだ。

ウオーターフロント駅に隣接した貨物ヤードに積み上げられた「ONE」のコンテナ(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)
ウオーターフロント駅に隣接した貨物ヤードに積み上げられた「ONE」のコンテナ(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)

 私が駐在している米国首都ワシントンの近郊で見る貨物列車は、ONEのコンテナを運んでいることは皆無に等しい。太平洋を挟んだカナダ西海岸が日本との貿易の最前線であることを再認識した。

延々と続く「ウオーターフロント」

WCEの車窓からのばら積み貨物船(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)
WCEの車窓からのばら積み貨物船(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)

 列車は定刻の午後4時20分にウオーターフロント駅を出発。左手の車窓は貨物ヤードがしばらく続いた後、カナダ砂糖大手ロジャース・シュガーの子会社、ランティックのバンクーバー製糖工場の大きな建屋が出現した。

 ウオーターフロント駅を出発したにもかかわらず、その後はバラード海峡に沿った「ウオーターフロント」の景色が延々と続いた。

 同乗していた息子が「長崎県佐世保市の風景に似ている」とつぶやいた。確かにWCEの水辺を縫うように線路が続く様子は、長崎県の早岐(はいき)駅(佐世保市)と諫早駅(諫早市)の大村湾沿いを駆けるJR九州大村線をほうふつとさせる。

長崎県を走るJR九州大村線から見た大村湾(20年2月22日、大塚圭一郎撮影)
長崎県を走るJR九州大村線から見た大村湾(20年2月22日、大塚圭一郎撮影)

 ただ、カナダ統計局の2021年調査で人口が約264万3千人に達するバンクーバー都市圏は、20年時点で約259万6千人とほぼ同規模の福岡都市圏(福岡市や糸島市など10市7町)により似ているとの印象を抱いた。海に近いエキゾチックな雰囲気も、幅広いジャンルのレベルが高い飲食店がひしめいている街の性格もそっくりだ。

 WCEから眺める水辺は夕日で染められるようになり、停泊中のばら積み貨物船や、年季が入った鉄橋のアイアンワーカーズ記念橋と見事に調和している。世界的に知名度が高い国際都市ながらも、中心部の近くで絶景を味わえるバンクーバーに改めて魅了された。

WCEの車窓からのアイアンワーカーズ記念橋(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)
WCEの車窓からのアイアンワーカーズ記念橋(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)

次の駅の到着は24分後

 それにしても、次のムーディーセンター駅に近づく気配が全くない。着いたのはウオーターフロント駅を出発して実に24分後だった。

バンクーバーにあるWCEのコキットラムセントラル駅舎(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)
バンクーバーにあるWCEのコキットラムセントラル駅舎(23年12月22日、大塚圭一郎撮影)

 にもかかわらず次のコキットラムセントラル駅までの駅間距離は短く、わずか5分後に到着。本当は終点のミッションシティー駅まで乗りたかったが、コキットラムセントラル駅がスカイトレインと接続する最後の駅のため全線乗車は断念して下車した。

 下車時に、駅にある水色の端末にコンパスをかざして決済した。大人運賃は6・80カナダドル(約740円)で、現金払いの場合の8・05カナダドルより安い。

 さて、ウオーターフロント駅を発着してWCEに全線乗車して同じ日に戻れるのかを調べた。すると今年1月上旬時点のダイヤを検索したところ可能だった。

 一つのコースでは、ウオーターフロント駅の始発の午後3時50分に出る列車に乗ると、終点のミッションシティー駅に午後5時5分に到着する。

 帰路は午後5時40分に出発するBCトランジットの31系統路線バスのブルキンエクスチェンジ行きに乗り、終点で下車する。11分後に発車する1系統ハイストリート行きでハイストリートモールへ、続いて17分後に出る66系統フレーザーバレー行きで「ローヒード駅」という名称のバス停で降りる。

 目の前にあるスカイトレインの路線「エキスポライン」のローヒード・タウン・センター駅でウオーターフロント行きに乗り込めば午後8時半すぎに戻れる。バンクーバーと近郊の往復にもかかわらず約4時間40分余りの時間を要し、東海道・山陽新幹線の「のぞみ」ならば東京駅から小倉駅(北九州市)への移動時間に相当する。

 ただし、WCEが運行しているのは原則として平日だけだ。ご乗車は「日曜はダメよ」。

WCEに乗車中の筆者(23年12月22日)
WCEに乗車中の筆者(23年12月22日)

共同通信社ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社ワシントン支局次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸・旅行・観光や国際経済の分野を長く取材、執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を13年度から務めている。共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)などがあり、CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」に出演も。他にニュースサイト「Yahoo!ニュース」や「47NEWS」などに掲載されているコラム「鉄道なにコレ!?」、旅行サイト「Risvel」(https://www.risvel.com/)のコラム「“鉄分”サプリの旅」も連載中。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第8回 日本では今年全廃!バンクーバーの“隠れた名物”トロリーバス

バンクーバー中心部を走るトロリーバス(2023年12月21日、大塚圭一郎撮影)
バンクーバー中心部を走るトロリーバス(2023年12月21日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

「世界で5番目に住みやすい都市・バンクーバー編」

 米国の有力旅行雑誌「コンデナスト・トラベラー」の「世界で最も住みやすい都市」の調査で2023年に5位となったカナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーは、運輸当局トランスリンクの発達した公共交通機関で好きな場所に簡単に移動できるのが魅力の一つだ。特にユニークなのがカナダで唯一で、日本では24年中に全廃されるトロリーバスが縦横無尽に走っていることだ。そんなバンクーバーの“隠れた名物”に乗り込み、バンクーバー湾を見下ろす美しい街並みを一望した。

バンクーバーのトロリーバス。車体の屋根のトロリーポールで架線から集電している(2023年12月23日、大塚圭一郎撮影)
バンクーバーのトロリーバス。車体の屋根のトロリーポールで架線から集電している(2023年12月23日、大塚圭一郎撮影)

【トロリーバス】バスの車体の屋根に棒状の集電装置「トロリーポール」を取り付けており、空中に張った「トロリー線」と呼ばれる架線から電気を取り込んでモーターを駆動させるなどして走る。「トロバス」の愛称でも呼ばれる。日本の法律の鉄道事業法では鉄道の一種である「無軌条電車」に分類しており、運転には鉄道と同じ運転士の資格が必要となる。
 軽油を燃料にしたディーゼルエンジンで走る通常の路線バスと異なり、トロリーバスは走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないため環境性能が優れており、走る時のモーター音が静かなのも利点。一方、トロリーポールが架線から外れて立ち往生してしまうトラブルが起こる場合があり、運転手が車外に出てトロリーポールを架線に接続させる作業によってバスの運行が遅れたり、道路渋滞を招いたりするのが難点となる。

日本では唯一の路線が消滅へ

 中部山岳国立公園の一部で、標高3千メートル級の山が連なっている長野県と富山県にまたがる山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」の立山トンネルを通る日本で唯一のトロリーバスが、2024年11月30日をもって運行を終える。運行する立山黒部貫光が23年11月30日、国土交通省北陸信越運輸局に対して24年12月1日付での廃止を届け出た。

 立山黒部アルペンルートは積雪が多い冬季の毎年12月から翌年4月中旬は運休しており、2025年4月からは電気バスに切り替える。電気バスならば架線が必要ではない上に「高地における安定走行性に加え、今後一層の技術革新が見込まれる」(立山黒部貫光)と判断した。

日本の大都市では1972年前に全廃

 日本では架線にトロリーポールが届く車線しか走れないことなどが難点となり、横浜市で1972年に廃止されたのを最後に大都市のトロリーバスは一掃された。

 これに対し、富山県内にある標高2450メートルの室堂駅と標高2316メートルの大観峰駅の約3・7キロを約10分で結ぶ立山黒部貫光は1996年にトロリーバスを導入した“後発”だ。71年の開業後にディーゼルエンジンのバスを走らせていたものの、観光客の増加に伴う増便でトンネル内に滞留する排出ガスが問題化したためトロリーバスに切り替えた。

 立山黒部貫光によると、トロリーバスを運行してきた約28年間の累計利用者数は1920万人を超えている。今年は「ラストイヤーを記念したイベントなども実施していく」(立山黒部貫光)だけに、乗り納めを目指して大勢の旅行者が押しかけることになりそうだ。

 立山黒部アルペンルートでは、関西電力も扇沢(長野県)と黒部ダム(富山県)の間の「関電トンネル」でトロリーバスを1964年から2018年まで半世紀余り運行していた。19年からは電気バスを運転している。

路面電車を代替

 トロリーバスの“最後の牙城”が年内に陥落する日本に対し、バンクーバーでは第二次世界大戦終了から間もない1948年8月に営業運転が始まったトロリーバスが今も主要交通手段の一つだ。13系統の延べ約315キロもの路線が運行されている。

 バンクーバーではPCCカー(本連載第3回「トロントの往年の路面電車、米首都圏で今も健在!」参照)などを用いた路面電車の路線網があったが、トロリーバスのほうが整備や維持の費用を抑えられると判断。路面電車を1955年に全廃した一方、トロリーバスの路線を順次広げてきた。

 路線は主にバンクーバー中心部を発着。使っている車両はカナダ中部マニトバ州ウィニペグに本社を置くバスメーカー、ニューフライヤー・インダストリーズが製造した全長12・2メートルの「E40LFR」と、二つの車体をつなげた全長18・3メートルの連節バス「E60LFR」がある。ともに床が低く、乗降扉の部分に段差がないため、車いすやベビーカーの利用者でも乗り降りしやすいバリアフリーの設計になっている。

頭一つ抜き出た充実ぶり

 バンクーバーはコンデナスト・トラベラーの23年の「世界で最も住みやすい都市」で総合得点97・3点となり、3都市が入って国別の最多となったカナダの中で最上位だった。西部アルバータ州カルガリーは96・8点で7位、カナダの最大都市トロントは96・4点で9位だった。日本は大阪が96・0点で10位に入った。

 カナダのトップテンに入った3都市の共通しているのは公共交通機関で移動しやすい点だが、バンクーバーの充実ぶりは頭一つ抜き出ている。トロリーバスを含めた路線バスが幅広く運行されており、3路線全線が無人運転の「スカイトレイン」、近郊と結ぶ鉄道「ウエスト・コースト・エクスプレス」、ノースバンクーバーと結ぶ水上バス「シーバス」もある。

 バンクーバーを訪れる際の常套手段として、私は昨年12月に旅行した際も幅広い公共交通機関に乗り込んだ。宿泊したザ・リステルホテルが面したロブソン通りにはトロリーバスの5番系統(途中から6番系統として運行)が走っており、市内を行き来するのに何度も活用した。利用時はニューフライヤーのE40LFRが運用されていた。

カナダ・バンクーバーのトロリーバス(2023年12月23日、大塚圭一郎撮影)
カナダ・バンクーバーのトロリーバス(2023年12月23日、大塚圭一郎撮影)

 スカイトレインの路線「カナダライン」のイエールタウン・ラウンドハウス駅へ向かった際は、集積回路(IC)乗車券「コンパス」を乗車口の端末にかざして車両前部にある座席に腰かけた。

心温まる光景

 少し先のバス停でベビーカーに赤ちゃんを乗せた白人の夫婦が通路を挟んだ反対側の座席にやって来た。赤ちゃんが私の顔をのぞき込んでいるのに気づいたので、手を振ってあいさつして「お子さんに興味を持ってもらっています」と話しかけると夫婦はほほえんだ。

 バスが曲がってデイビー通りに入ると、10人ほどのアジア系女性のグループが乗り込んできた。女性たちは赤ちゃんがいるのに気づくと「ワー」と歓声を上げ、ベビーカーを取り囲んで笑顔で見つめた。

 先のバス停で夫婦が降車した時には女性たち全員が手を振って赤ちゃんを見送り、もちろん私も一緒になって手を振った。

 多くの人種が共生し、知らない相手にも温かく接する心温まる光景を眺めて思い出したのが、コンデナスト・トラベラーのバンクーバーについての「最も重要なのはここの人々はとてもフレンドリーなので、ほぼすぐに打ち解けた気持ちになるでしょう」という寸評だった。指摘は正鵠を射ており、旅行者の私もすぐにアットホームな気分に包まれた。

共同通信社ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社ワシントン支局次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸・旅行・観光や国際経済の分野を長く取材、執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を13年度から務めている。共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)などがあり、CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」に出演も。他にニュースサイト「Yahoo!ニュース」や「47NEWS」などに掲載されているコラム「鉄道なにコレ!?」、旅行サイト「Risvel」(https://www.risvel.com/)のコラム「“鉄分”サプリの旅」も連載中。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第7回 路線バスで紙幣を運賃箱に入れようとした時、運転手さんは… BRTとバスが発達したウィニペグ

VIA鉄道カナダのチャーチル発ウィニペグ行きの夜行列車(2022年12月31日、大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダのチャーチル発ウィニペグ行きの夜行列車(2022年12月31日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 凍える日が多い冬のカナダだが、私は長期休暇になると駐在している米国から直ちに北上して国境を越えるのがもっぱらだ。自動車の運転を敬遠している者としては公共交通機関で安全に移動できる利点が大きいのに加え、訪れるたびにとても良い方々と出会えて心温まるのも大きい。昨年12月に訪れた中部マニトバ州の最大都市で州都のウィニペグは、バス高速輸送システム(BRT)と路線バスが発達しているため移動しやすい。ただ、紙幣はあったものの小銭を持たずに路線バスに飛び乗ってしまったため、運転手さんに過分な気遣いをさせてしまった―。

ウィニペグ市街地を走るウィニペグ・トランジットの路線バス(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)
ウィニペグ市街地を走るウィニペグ・トランジットの路線バス(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)

【BRT】バス高速輸送システムのことで、英語の「Bus Rapid Transit」の頭文字を取って「BRT」と略される。バスだけを走らせる専用道や、バス用の車線を一部活用するため通常の路線バスより道路渋滞に巻き込まれにくく、速達性と定時性を確保しやすいのが特色。カナダではウィニペグのほかに首都オタワや西部アルバータ州カルガリーなどでBRTが走っており、2023年11月16日にはブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー都市圏で3つのルートを優先的に新設することが発表された。

 日本を含めた世界で走っており、JR東日本は2011年3月の東日本大震災で被災した気仙沼線の柳津(やないづ、宮城県登米市)―気仙沼(同県気仙沼市)間と大船渡線の気仙沼―盛(岩手県大船渡市)を復旧させるためにBRTを導入した。JR九州は17年7月の九州北部豪雨で被災した日田彦山線の添田(福岡県添田町)―夜明(大分県日田市)間(29・2キロ)の復旧のため23年8月28日に添田―日田(日田市)間でBRTの運行を始めた。

路線バスでウィニペグの空港から駅へ

ウィニペグ国際空港の旅客ターミナル内(2022年12月26日、大塚圭一郎撮影)
ウィニペグ国際空港の旅客ターミナル内(2022年12月26日、大塚圭一郎撮影)

 カナダで中心部と空港を結ぶアクセス鉄道が走っているのはバンクーバーと国内最大都市の東部オンタリオ州トロントの2都市だけ。ただ、オタワが早ければ2024年4月にもオタワ国際空港まで鉄道で行けるカナダ3番目の都市となり、27年に東部ケベック州モントリオールの無人運転鉄道「REM」がモントリオール国際空港まで延伸する予定だ。

 詳しくは本連載「カナダ“乗り鉄”の旅」第6回をご参照いただきたい。

 大部分の都市では空港への主要な移動手段は路線バスとなっており、私も多くの都市で空港へ向かうバスのお世話になってきた。

 どの都市で乗った路線バスの運転手さんも親切だった。中でも印象的だったのは2022年12月27日にウィニペグ国際空港からVIA鉄道カナダの列車が発着するユニオン駅へ向かった時に乗ったバスの男性運転手さんだ。

運賃箱の投入口を手で押さえる

 空港の旅客ターミナルを出て少し歩いた場所にあるバスの停留所に着くと、ちょうど公共交通機関ウィニペグ・トランジットの路線系統15番のサージェント・マウンテン行きのバスが滑り込んできた。

 運転手さんに「ユニオン駅に行きたいのですが、このバスでいいですか?」と尋ねると、「途中でバスを乗り換えれば行けるよ」と教えられた。

 これはさい先が良いと満足しながら財布を開けると、そうとも言えない事態なのに気づいた。米ドルから交換したカナダドルの紙幣が入っているものの、カナダ入国後に買い物をしていなかったため小銭が全くないのだ。

 バスの運賃を確かめると大人が3・15カナダドル(約340円)で、妻と息子を含めた3人で計9・45カナダドルとなる。

 そこで10カナダドルを運賃箱の投入口へと投下しようとすると、運転手さんが慌てて投入口を手で押さえた。

「お釣りはいいですよ」と申し出たものの…

 運転手さんは「この機械はお釣りが出ないんだ。小銭はないか?」と尋ねてきた。

 そこで、「小銭はないので、お釣りはいいですよ」と10カナダドルを再び入れようとしようとした。大人3人で10カナダドルならばタクシーで移動するよりも安い。0・55カナダドルは運転手さんへのチップだと思えばいい。

 ところが、運転手さんは再び投入口を手で押さえてこう言った。

 「いや、運賃よりも多くもらうわけにはいかない。次に乗る時は小銭を用意して」

 そして「バスの乗り換えにこれが必要だから」と乗り換え用の切符も3枚くれ、乗り換えるバス停と、乗るべきバスの路線系統も丁寧に教えてくれた。

 あまりにも律儀な運転手さんの様子に申し訳なく思いながらも謝意を伝え、「次は小銭を用意するね」と約束して乗り換え用の切符をありがたく受け取った。

日系カナダ人の投票権を請願

ウィニペグ市内で見つけたネリー・マクラングさんらを描いた壁画(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)

 ウィニペグは積雪があったものの、走り出したバスの運転手さんは雪道に全くちゅうちょする様子もなく鮮やかにハンドルをさばいていく。

 車窓から白銀の街並みを眺めていると、カラフルな建物の壁面が目に入った。左上に「女性たちの議会」というタイトルが付けられ、議場に居並ぶ女性たちが描かれていた。

 壁画の題材は『ダニーの信条』などの著書がある作家で、女性の参政権獲得に尽力した故ネリー・マクラングさん(1875~1951年)だ。東部オンタリオ州生まれで、マニトバ州に住んだマクラングさんらの活躍により、マニトバ州は1916年にカナダの州で初めて女性に投票権を付与した。

女性の参政権獲得に尽力したネリー・マクラングさん(1875~1951年)
女性の参政権獲得に尽力したネリー・マクラングさん(1875~1951年)

 また、マクラングさんら女性5人は英国領北アメリカ法に定める「人間」には女性が含まれるとの訴訟を起こし、1929年に勝訴。この判決は、それまで女性の立候補を認めていなかったカナダ連邦議会上院で女性議員が誕生するきっかけとなった。

 マクラングさんは1930年代にブリティッシュ・コロンビア州に対して日系カナダ人にも投票権を与えるように求める請願活動を展開。1930年代後半から40年代前半にかけてはカナダ政府にユダヤ人難民を受け入れるように迫った。

 マクラングさんは1932年、女性で初めてカナダ放送協会(CBC)の理事となった。ウィニペグにはネリー・マクラング財団があり、私が目撃したのは女性参政権に道を開いた功績を顕彰する壁画だったようだ。

人気キャラクターの名前の由来

ウィニペグ・ユニオン駅舎内での筆者(2022年12月27日)
ウィニペグ・ユニオン駅舎内での筆者(2022年12月27日)

 無事に着いたウィニペグ・ユニオン駅は1911年に完成した風格のある石造りの建物で、上部にVIA鉄道のロゴを掲げている。建物内のコンコースは吹き抜けで天井がドーム状になっており、クリスマスツリーの前には2022年9月に亡くなったカナダ元首でもあったエリザベス英女王の写真を展示していた。

 VIA鉄道はユニオン駅舎の改修のために2500万カナダドル(約27億3千万円)超を投じることを23年8月に発表。マリオ・ペロキン最高経営責任者(CEO)は「ユニオン駅はウィニペグの象徴で歴史的建造物というだけではなく、活気のある街と州のシンボルにもなっている。VIA鉄道は手入れをする役割を果たせることを誇りに思う」とコメントした。

 ウィニペグは人気キャラクター「くまのプーさん」(英語名「Winnie the Pooh」)のモデルとなったクマ「ウィニー」の出身地。ユニオン駅の近くには10カナダドル紙幣に描かれているカナダ人権博物館がある。

ウィニペグのカナダ人権博物館(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)
ウィニペグのカナダ人権博物館(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)

 2022年の推計人口は約78万3100人で、マニトバ州(23年で144万4190人)の半分強が集まっている。

波瀾万丈の鉄道旅に

 私たち家族は約900人が住むマニトバ州北部チャーチルへ2泊3日で向かうVIA鉄道の夜行列車に乗り込んで往復した。往路の列車は一時16時間超も遅れる波瀾万丈の旅となった。

VIA鉄道カナダのチャーチル発ウィニペグ行きの夜行列車(2022年12月31日、大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダのチャーチル発ウィニペグ行きの夜行列車(2022年12月31日、大塚圭一郎撮影)

 予約していた2023年元日の航空便に間に合わなくなることを一時は恐れたが、復路の列車はウィニペグ・ユニオン駅に22年の大みそかの午後10時20分、定刻より5時間35分遅れで到着した。

 詳しくは共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などで連載している「鉄道なにコレ!?」の第37回から5回にわたって取り上げた旅行記をご覧いただきたい。

 駅に隣接した市場「ザ・フォークス・マーケット」は大みそかの夜とあって大にぎわいだった。夕食にすしを堪能した後、宿泊先の空港近くにあるホテルへ向かうためにウィニペグ・トランジットの15番バスが発着するバス停へ向かった。

汚名返上のはずが…

 バス停で私はこれまでの買い物でためた小銭を握りしめていた。ウィニペグ国際空港から乗った路線バスで期せずして“無賃乗車”のような形になってしまい、今度こそぴったりと運賃を支払うためだ。

 金額はもちろん大人3人分のバス運賃、9・45カナダドルだ。「次は小銭を用意する」という往路の運転手さんとの約束通りに運賃箱に投入し、汚名返上を果たすという算段だった。

2022年の大みそかにウィニペグ市街を走る「TAKE A FREE RIDE」(乗車無料)と表示したウィニペグ・トランジットの路線バス(2022年12月31日、大塚圭一郎撮影)
2022年の大みそかにウィニペグ市街を走る「TAKE A FREE RIDE」(乗車無料)と表示したウィニペグ・トランジットの路線バス(2022年12月31日、大塚圭一郎撮影)

 ところが、近づいてきたバスの行き先表示をひと目見てあぜんとした。電光掲示板にオレンジ色の文字で「TAKE A FREE RIDE」(乗車無料)と大書しているではないか。地元住民によると「大みそかに出かけて新年を祝う人たちで道路が渋滞するのを避けるため、バスを無料運行している」という。

 無料ということは持っている小銭を運賃箱に入れようとしても、行きのバスの運転手さんのように投入口を手で押さえて阻止されるのは間違いない。

「0:00 AM」と表示されたウィニペグ・トランジットの路線バスのデジタル時計(2023年1月1日、大塚圭一郎撮影)
「0:00 AM」と表示されたウィニペグ・トランジットの路線バスのデジタル時計(2023年1月1日、大塚圭一郎撮影)

 バスに乗ったのは2022年12月31日の午後11時50分ごろ。年越しを迎えたのはバス車内で、天井のデジタル時計の表示が「0:00 AM」に切り替わると乗客らで「新年おめでとう!」と声を掛け合って祝った。 移動中のバスの路上で新年を迎え、2023年という新たな旅路が始まることに胸が躍った。その一方で、約束が道半ばに終わってしまったことを後ろめたく感じた…。

VIA鉄道カナダの列車が発着するウィニペグ・ユニオン駅(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの列車が発着するウィニペグ・ユニオン駅(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)
ウィニペグ・ユニオン駅の近くに保存された旧型客車(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)
ウィニペグ・ユニオン駅の近くに保存された旧型客車(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)
ウィニペグ・ユニオン駅の近くに保存されている車掌らが乗務するための車両「カブース」(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)
ウィニペグ・ユニオン駅の近くに保存されている車掌らが乗務するための車両「カブース」(2022年12月27日、大塚圭一郎撮影)

共同通信社ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社ワシントン支局次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸・旅行・観光や国際経済の分野を長く取材、執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を13年度から務めている。共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)などがあり、CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」に出演も。他にニュースサイト「Yahoo!ニュース」や「47NEWS」などに掲載されているコラム「鉄道なにコレ!?」、旅行サイト「Risvel」(https://www.risvel.com/)のコラム「“鉄分”サプリの旅」も連載中。

「カナダ“乗り鉄”の旅」第6回 空港アクセス鉄道、3都市目オタワの来年4月開業は可能? 日本などに続きカナダでも整備進む

カナダの首都オタワを走るO-トレインのコンフェデレーション線(2023年9月28日、大塚圭一郎撮影)
カナダの首都オタワを走るO-トレインのコンフェデレーション線(2023年9月28日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダの首都オタワや、人口が国内2位のモントリオールで中心部と近郊の国際空港を鉄道で結ぶ動きが広がっている。カナダで3番目の空港アクセス鉄道の誕生を控えたオタワでは、開業時期が当初予定していた2022年終盤から延期を繰り返している。運行当局のオタワ・カールトン地域交通公社(OCトランスポ)は現在の営業運転開始目標を「2024年4月」と表明しているが、市民は「さらに遅れるのではないか」と不安視する。

京成電鉄や京浜急行電鉄などを通って成田空港と羽田空港を直通する電車(左)(2020年10月28日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)
京成電鉄や京浜急行電鉄などを通って成田空港と羽田空港を直通する電車(左)(2020年10月28日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)

【空港アクセス鉄道】都市の中心部と主要空港を結ぶ鉄道で、モノレールや新交通システムも含まれる。日本では東京(羽田空港と成田空港)、名古屋(中部空港)、大阪(伊丹空港と関西空港)、札幌(新千歳空港)、福岡(福岡空港)の5大都市圏の全てで主要空港を直結する鉄道が走っており、仙台空港や神戸空港、米子空港(島根県)、宮崎空港、那覇空港にもアクセスする路線が走っている。熊本県は熊本空港とJR豊肥線肥後大津駅の間にアクセス鉄道を2026年度から建設し、2034年度末に開業して熊本駅まで1本の電車でつなぐことを目指している。

羽田空港第3ターミナル。奥は富士山(2020年10月18日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)
羽田空港第3ターミナル。奥は富士山(2020年10月18日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)

カナダの空港アクセス鉄道は2都市だけ

 日本や欧州では多くの都市に空港アクセス鉄道があるが、カナダでは最大都市のトロントと西部バンクーバーの2都市だけにとどまっている。

 トロントではVIA鉄道カナダや通勤列車「GOトランジット」などが乗り入れるユニオン駅と、エア・カナダの羽田空港と結ぶ路線も発着しているトロント・ピアソン国際空港を列車「UP(アップ)エクスプレス」が約25分で結んでいる(本連載第1回参照)。運行しているディーゼル列車はJR東海の子会社、日本車両製造が手がけた。

 バンクーバーでは鉄道「スカイトレイン」の路線「カナダライン」が中心部とバンクーバー国際空港をつないでいる。バンクーバー空港には全日本空輸の羽田空港と結ぶ路線、エア・カナダと日本航空のそれぞれ成田空港と結ぶ路線などが乗り入れている。

カナダ・バンクーバーのスカイトレイン「カナダライン」の電車(2018年5月、大塚圭一郎撮影)
カナダ・バンクーバーのスカイトレイン「カナダライン」の電車(2018年5月、大塚圭一郎撮影)

急回復する外国人旅行者の利便性も向上

 一方、他の都市では路線バスが中心部と空港と結んでいる。だが、道路の渋滞に巻き込まれると遅れるリスクがある。専用の軌道を走る鉄道の方が安定している上、同時に多くの利用者を運べる強みがある。

 空港アクセス鉄道は初めて訪れる外国人旅行者らにとって比較的分かりやすく移動できるのも利点だ。カナダ観光局によると、外国からの宿泊旅行者数は2019年に2210万人と過去最高を記録したが、その後は新型コロナウイルス禍で激減した。

 今年に入ってからは大きく回復し、1~7月累計で1507万5千人に達した。トロントとバンクーバーでは市街地と移動しやすい空港アクセス鉄道が重宝されている。鉄道の建設が進められる都市では雇用が創出され、新型コロナ禍からの景気回復に一役買うことが期待されている。

自動券売機も設置済み

O-トレインのトリリウム線の開業を控えた空港駅の入り口(2023年10月3日、大塚圭一郎撮影)
O-トレインのトリリウム線の開業を控えた空港駅の入り口(2023年10月3日、大塚圭一郎撮影)

 うち6月に試運転が始まったのが、OCトランスポの鉄道「O-トレイン」の南北に走る路線「トリリウム線」の延伸区間だ。既に運行していた区間の最南端に当たるグリーンボロ停留場から南へ伸ばし、グリーンボロの次のサウスキーズ停留場で分岐する支線がオタワ国際空港とつなぐ。サウスキーズ停留場からライムバンク停留場まで南進する新規開業区間の建設費も含め、延伸の総事業費は12億カナダドル(約1300億円)に上る。

O-トレインのトリリウム線の空港駅に設置された自動券売機(2023年10月3日、大塚圭一郎撮影)
O-トレインのトリリウム線の空港駅に設置された自動券売機(2023年10月3日、大塚圭一郎撮影)

 私は9月下旬から10月上旬にかけてオタワを含めたカナダを訪れ、オタワ空港の旅客ターミナルに隣接した高架になっている空港停留場を見てきた。現段階では立ち入り禁止になっているもののプラットホームは既に完成しており、停留場の入り口には自動券売機も設置済みだ。

 開業後に列車で空港へ向かう利用者は、到着したプラットホームから5分ほど歩くだけで航空便出発の保安検査場に向かうことができそうだ。荷物を預け入れる場合、エア・カナダなどの航空会社のカウンターは通路の途中にある。

思わぬとばっちりも…

 ところが現在の開業目標は2024年4月と、22年終盤から大きく遅れている。「思わぬとばっちりを受けている」と関係者から不満の声が漏れているのが、トリリウム線の沿線にあるカールトン大学だ。OCトランスポは延伸工事のため、2001年から走っていたトリリウム線を20年5月から全面運休している。

延伸工事のため現在は運休中のカナダ・オタワの鉄道「O-トレイン」の路線「トリリウム線」(2016年7月6日、大塚圭一郎)
延伸工事のため現在は運休中のカナダ・オタワの鉄道「O-トレイン」の路線「トリリウム線」(2016年7月6日、大塚圭一郎)

 当初は新型コロナ禍で大学に行かずに済むオンライン講義も採り入れられていたため、トリリウム線の運休による影響は限られていた。しかし、新型コロナ禍が一服してもトリリウム線が止まっているため、カールトン大学の教職員や学生は代わりに不便な路線バスの利用を余儀なくされている。

1本の列車とはならず

 O-トレインのトリリウム線が晴れて延伸後も、オタワ中心部と空港の間を1本の列車では行き来できない難題がある。それどころか、少なくとも当面は利用者が途中の停留所で2回乗り換え、3本の列車を利用することを余儀なくされる。

 空港からの利用者は二つ先のサウスキーズ停留場で下車し、トリリウム線を北上する列車に乗り換えると終点のベイビュー停留場に着く。オタワ中心部に向かうには高架に上がり、オタワを東西に結ぶ路線「コンフェデレーション線」に乗り換えることが必要だ。

オタワ中心部の地下区間でのO-トレインのコンフェデレーション線(2023年9月28日、大塚圭一郎撮影)
オタワ中心部の地下区間でのO-トレインのコンフェデレーション線(2023年9月28日、大塚圭一郎撮影)

 東へ3つ先にあるのが連邦議会議事堂の最寄りの議事堂停留場で、4つ先のリドー停留場からは国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産のリドー運河やバイワード市場に徒歩でアクセスできる。

 OCトランスポの関係者は「空港と行き来する利用者が十分見込めるようになれば、(ベイビューから)空港までの直通運転を検討したい」と打ち明ける。もしも実現すれば乗り換えは1回に減るものの、ベイビューでの残る1回の乗り換えは続く公算が大きい。

オタワ中心部に直通できない理由

 というのも、トリリウム線は非電化でディーゼルエンジンを搭載した列車が走っており、中心部では地下を走る電車のコンフェデレーション線に現状では乗り入れさせられないからだ。ディーゼル車両が密閉した地下駅を走ると、ディーゼルエンジンが排出する煙が充満するといった悪影響が出る。

 もっとも、OCトランスポはトリリウム線とコンフェデレーション線の直通運転の可能性を完全に排除したわけではない。トリリウム線の延伸に伴って導入したスイスの鉄道車両メーカー、シュタッドラー・レールが製造した新型車両は改造すれば屋根にパンタグラフを取り付けて架線から電気を取り込んだり、充電池に電気をため込んだりしてモーターで走る構造に転換することが可能なのだ。

 しかし、直通運転には車両の改造にとどまらない大がかりな設備改良が必要となり、多額の投資を迫られるだけに実現性はかなり低そうだ。なぜなら、O-トレインの整備に対して納税者のオタワ市民からは「金食い虫だ」との批判も出ているからだ。コンフェデレーション線の東西両方向への延伸で大規模な整備事業は一服する公算が大きい。

モントリオールは2027年の予定

 カナダ2番目の都市、東部モントリオールでは今年7月にモントリオール中央―ブロサール間(16・6キロ)間が先行開業した自動運転電車「REM」がモントリオール国際空港まで2027年に延びる予定だ。

 延伸後はエア・カナダの成田と結ぶ直行便も発着するモントリオール空港と、VIA鉄道カナダの都市間を結ぶ列車やアムトラックの米国ニューヨークと結ぶ国境縦断列車「アディロンダック」(本連載第4回第5回参照)などが発着するモントリオール中央駅と26分でつなぐようになる。

カナダ・モントリオール国際空港と中心部を結ぶ路線バス「747系統」(2018年6月9日、大塚圭一郎撮影)
カナダ・モントリオール国際空港と中心部を結ぶ路線バス「747系統」(2018年6月9日、大塚圭一郎撮影)

 現在は路線バス「747系統」がモントリオール空港の旅客ターミナルに隣接したバス停留所と、モントリオール中央駅の近くのバス停をつないでいる。ただ、駅までの徒歩を含めて通常約40分かかる。REMがモントリオールの玄関口となっている空港と駅を直結し、所要時間が短縮すれば旅行者の利便性向上に資するのは請け合いだ。

カルガリーは調査に着手

 一方、市内を次世代型路面電車(LRT)が走っている西部アルバータ州カルガリー市は今年7月10日、LRTの路線をカルガリー国際空港まで延ばす最適なルートを探るための調査をすると発表した。調査には300万カナダドル(約3億2600万円)の予算を充てており、来年8月に完了する予定だ。

カナダ・カルガリー中心部を走る次世代型路面電車(LRT)(2018年10月4日、大塚圭一郎撮影)
カナダ・カルガリー中心部を走る次世代型路面電車(LRT)(2018年10月4日、大塚圭一郎撮影)

 カルガリーにはウエストジェット航空(カナダ)の成田と結ぶ路線が今年5月1日に就航し、観光業界関係者は「成田でアジアと結ぶ路線と乗り継ぐ旅行者も取り込んでおり、利用者数は堅調に推移している」と指摘する。

 カナダの特性である観光大国としての基盤をより強化し、日本との往来にも役立つ空港アクセス鉄道。既存のトロントとバンクーバー、開業が確実なオタワとモントリオール、そして「第5の都市」になる公算が大きいカルガリーに続いて他都市でも建設の動きが広がるのかどうか注目されそうだ。

共同通信社ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社ワシントン支局次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸・旅行・観光や国際経済の分野を長く取材、執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を13年度から務めている。共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)などがあり、CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」に出演も。他にニュースサイト「Yahoo!ニュース」や「47NEWS」などに掲載されているコラム「鉄道なにコレ!?」、旅行サイト「Risvel」(https://www.risvel.com/)のコラム「“鉄分”サプリの旅」も連載中。

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