「カナダ“乗り鉄”の旅」第6回 空港アクセス鉄道、3都市目オタワの来年4月開業は可能? 日本などに続きカナダでも整備進む

カナダの首都オタワを走るO-トレインのコンフェデレーション線(2023年9月28日、大塚圭一郎撮影)
カナダの首都オタワを走るO-トレインのコンフェデレーション線(2023年9月28日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダの首都オタワや、人口が国内2位のモントリオールで中心部と近郊の国際空港を鉄道で結ぶ動きが広がっている。カナダで3番目の空港アクセス鉄道の誕生を控えたオタワでは、開業時期が当初予定していた2022年終盤から延期を繰り返している。運行当局のオタワ・カールトン地域交通公社(OCトランスポ)は現在の営業運転開始目標を「2024年4月」と表明しているが、市民は「さらに遅れるのではないか」と不安視する。

京成電鉄や京浜急行電鉄などを通って成田空港と羽田空港を直通する電車(左)(2020年10月28日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)
京成電鉄や京浜急行電鉄などを通って成田空港と羽田空港を直通する電車(左)(2020年10月28日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)

【空港アクセス鉄道】都市の中心部と主要空港を結ぶ鉄道で、モノレールや新交通システムも含まれる。日本では東京(羽田空港と成田空港)、名古屋(中部空港)、大阪(伊丹空港と関西空港)、札幌(新千歳空港)、福岡(福岡空港)の5大都市圏の全てで主要空港を直結する鉄道が走っており、仙台空港や神戸空港、米子空港(島根県)、宮崎空港、那覇空港にもアクセスする路線が走っている。熊本県は熊本空港とJR豊肥線肥後大津駅の間にアクセス鉄道を2026年度から建設し、2034年度末に開業して熊本駅まで1本の電車でつなぐことを目指している。

羽田空港第3ターミナル。奥は富士山(2020年10月18日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)
羽田空港第3ターミナル。奥は富士山(2020年10月18日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)

カナダの空港アクセス鉄道は2都市だけ

 日本や欧州では多くの都市に空港アクセス鉄道があるが、カナダでは最大都市のトロントと西部バンクーバーの2都市だけにとどまっている。

 トロントではVIA鉄道カナダや通勤列車「GOトランジット」などが乗り入れるユニオン駅と、エア・カナダの羽田空港と結ぶ路線も発着しているトロント・ピアソン国際空港を列車「UP(アップ)エクスプレス」が約25分で結んでいる(本連載第1回参照)。運行しているディーゼル列車はJR東海の子会社、日本車両製造が手がけた。

 バンクーバーでは鉄道「スカイトレイン」の路線「カナダライン」が中心部とバンクーバー国際空港をつないでいる。バンクーバー空港には全日本空輸の羽田空港と結ぶ路線、エア・カナダと日本航空のそれぞれ成田空港と結ぶ路線などが乗り入れている。

カナダ・バンクーバーのスカイトレイン「カナダライン」の電車(2018年5月、大塚圭一郎撮影)
カナダ・バンクーバーのスカイトレイン「カナダライン」の電車(2018年5月、大塚圭一郎撮影)

急回復する外国人旅行者の利便性も向上

 一方、他の都市では路線バスが中心部と空港と結んでいる。だが、道路の渋滞に巻き込まれると遅れるリスクがある。専用の軌道を走る鉄道の方が安定している上、同時に多くの利用者を運べる強みがある。

 空港アクセス鉄道は初めて訪れる外国人旅行者らにとって比較的分かりやすく移動できるのも利点だ。カナダ観光局によると、外国からの宿泊旅行者数は2019年に2210万人と過去最高を記録したが、その後は新型コロナウイルス禍で激減した。

 今年に入ってからは大きく回復し、1~7月累計で1507万5千人に達した。トロントとバンクーバーでは市街地と移動しやすい空港アクセス鉄道が重宝されている。鉄道の建設が進められる都市では雇用が創出され、新型コロナ禍からの景気回復に一役買うことが期待されている。

自動券売機も設置済み

O-トレインのトリリウム線の開業を控えた空港駅の入り口(2023年10月3日、大塚圭一郎撮影)
O-トレインのトリリウム線の開業を控えた空港駅の入り口(2023年10月3日、大塚圭一郎撮影)

 うち6月に試運転が始まったのが、OCトランスポの鉄道「O-トレイン」の南北に走る路線「トリリウム線」の延伸区間だ。既に運行していた区間の最南端に当たるグリーンボロ停留場から南へ伸ばし、グリーンボロの次のサウスキーズ停留場で分岐する支線がオタワ国際空港とつなぐ。サウスキーズ停留場からライムバンク停留場まで南進する新規開業区間の建設費も含め、延伸の総事業費は12億カナダドル(約1300億円)に上る。

O-トレインのトリリウム線の空港駅に設置された自動券売機(2023年10月3日、大塚圭一郎撮影)
O-トレインのトリリウム線の空港駅に設置された自動券売機(2023年10月3日、大塚圭一郎撮影)

 私は9月下旬から10月上旬にかけてオタワを含めたカナダを訪れ、オタワ空港の旅客ターミナルに隣接した高架になっている空港停留場を見てきた。現段階では立ち入り禁止になっているもののプラットホームは既に完成しており、停留場の入り口には自動券売機も設置済みだ。

 開業後に列車で空港へ向かう利用者は、到着したプラットホームから5分ほど歩くだけで航空便出発の保安検査場に向かうことができそうだ。荷物を預け入れる場合、エア・カナダなどの航空会社のカウンターは通路の途中にある。

思わぬとばっちりも…

 ところが現在の開業目標は2024年4月と、22年終盤から大きく遅れている。「思わぬとばっちりを受けている」と関係者から不満の声が漏れているのが、トリリウム線の沿線にあるカールトン大学だ。OCトランスポは延伸工事のため、2001年から走っていたトリリウム線を20年5月から全面運休している。

延伸工事のため現在は運休中のカナダ・オタワの鉄道「O-トレイン」の路線「トリリウム線」(2016年7月6日、大塚圭一郎)
延伸工事のため現在は運休中のカナダ・オタワの鉄道「O-トレイン」の路線「トリリウム線」(2016年7月6日、大塚圭一郎)

 当初は新型コロナ禍で大学に行かずに済むオンライン講義も採り入れられていたため、トリリウム線の運休による影響は限られていた。しかし、新型コロナ禍が一服してもトリリウム線が止まっているため、カールトン大学の教職員や学生は代わりに不便な路線バスの利用を余儀なくされている。

1本の列車とはならず

 O-トレインのトリリウム線が晴れて延伸後も、オタワ中心部と空港の間を1本の列車では行き来できない難題がある。それどころか、少なくとも当面は利用者が途中の停留所で2回乗り換え、3本の列車を利用することを余儀なくされる。

 空港からの利用者は二つ先のサウスキーズ停留場で下車し、トリリウム線を北上する列車に乗り換えると終点のベイビュー停留場に着く。オタワ中心部に向かうには高架に上がり、オタワを東西に結ぶ路線「コンフェデレーション線」に乗り換えることが必要だ。

オタワ中心部の地下区間でのO-トレインのコンフェデレーション線(2023年9月28日、大塚圭一郎撮影)
オタワ中心部の地下区間でのO-トレインのコンフェデレーション線(2023年9月28日、大塚圭一郎撮影)

 東へ3つ先にあるのが連邦議会議事堂の最寄りの議事堂停留場で、4つ先のリドー停留場からは国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産のリドー運河やバイワード市場に徒歩でアクセスできる。

 OCトランスポの関係者は「空港と行き来する利用者が十分見込めるようになれば、(ベイビューから)空港までの直通運転を検討したい」と打ち明ける。もしも実現すれば乗り換えは1回に減るものの、ベイビューでの残る1回の乗り換えは続く公算が大きい。

オタワ中心部に直通できない理由

 というのも、トリリウム線は非電化でディーゼルエンジンを搭載した列車が走っており、中心部では地下を走る電車のコンフェデレーション線に現状では乗り入れさせられないからだ。ディーゼル車両が密閉した地下駅を走ると、ディーゼルエンジンが排出する煙が充満するといった悪影響が出る。

 もっとも、OCトランスポはトリリウム線とコンフェデレーション線の直通運転の可能性を完全に排除したわけではない。トリリウム線の延伸に伴って導入したスイスの鉄道車両メーカー、シュタッドラー・レールが製造した新型車両は改造すれば屋根にパンタグラフを取り付けて架線から電気を取り込んだり、充電池に電気をため込んだりしてモーターで走る構造に転換することが可能なのだ。

 しかし、直通運転には車両の改造にとどまらない大がかりな設備改良が必要となり、多額の投資を迫られるだけに実現性はかなり低そうだ。なぜなら、O-トレインの整備に対して納税者のオタワ市民からは「金食い虫だ」との批判も出ているからだ。コンフェデレーション線の東西両方向への延伸で大規模な整備事業は一服する公算が大きい。

モントリオールは2027年の予定

 カナダ2番目の都市、東部モントリオールでは今年7月にモントリオール中央―ブロサール間(16・6キロ)間が先行開業した自動運転電車「REM」がモントリオール国際空港まで2027年に延びる予定だ。

 延伸後はエア・カナダの成田と結ぶ直行便も発着するモントリオール空港と、VIA鉄道カナダの都市間を結ぶ列車やアムトラックの米国ニューヨークと結ぶ国境縦断列車「アディロンダック」(本連載第4回第5回参照)などが発着するモントリオール中央駅と26分でつなぐようになる。

カナダ・モントリオール国際空港と中心部を結ぶ路線バス「747系統」(2018年6月9日、大塚圭一郎撮影)
カナダ・モントリオール国際空港と中心部を結ぶ路線バス「747系統」(2018年6月9日、大塚圭一郎撮影)

 現在は路線バス「747系統」がモントリオール空港の旅客ターミナルに隣接したバス停留所と、モントリオール中央駅の近くのバス停をつないでいる。ただ、駅までの徒歩を含めて通常約40分かかる。REMがモントリオールの玄関口となっている空港と駅を直結し、所要時間が短縮すれば旅行者の利便性向上に資するのは請け合いだ。

カルガリーは調査に着手

 一方、市内を次世代型路面電車(LRT)が走っている西部アルバータ州カルガリー市は今年7月10日、LRTの路線をカルガリー国際空港まで延ばす最適なルートを探るための調査をすると発表した。調査には300万カナダドル(約3億2600万円)の予算を充てており、来年8月に完了する予定だ。

カナダ・カルガリー中心部を走る次世代型路面電車(LRT)(2018年10月4日、大塚圭一郎撮影)
カナダ・カルガリー中心部を走る次世代型路面電車(LRT)(2018年10月4日、大塚圭一郎撮影)

 カルガリーにはウエストジェット航空(カナダ)の成田と結ぶ路線が今年5月1日に就航し、観光業界関係者は「成田でアジアと結ぶ路線と乗り継ぐ旅行者も取り込んでおり、利用者数は堅調に推移している」と指摘する。

 カナダの特性である観光大国としての基盤をより強化し、日本との往来にも役立つ空港アクセス鉄道。既存のトロントとバンクーバー、開業が確実なオタワとモントリオール、そして「第5の都市」になる公算が大きいカルガリーに続いて他都市でも建設の動きが広がるのかどうか注目されそうだ。

共同通信社ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社ワシントン支局次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸・旅行・観光や国際経済の分野を長く取材、執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を13年度から務めている。共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)などがあり、CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」に出演も。他にニュースサイト「Yahoo!ニュース」や「47NEWS」などに掲載されているコラム「鉄道なにコレ!?」、旅行サイト「Risvel」(https://www.risvel.com/)のコラム「“鉄分”サプリの旅」も連載中。