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閑散としたバンクーバー空港。Photo © the Vancouver Shinpo

~日本入国体験談(後編)~

 「日本に一時帰国、入国体験をレポート」の後編。日本政府が3月18日に決定した「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う水際対策強化に係る新たな措置」により、今は日本への渡航を避けているという新報読者も多いと聞く。しかし、やむを得ず日本に渡航する必要がある人もいる。

 4月に日本に飛び7月にカナダに戻ってきた優子さん(65歳、女性)が入国時の体験談を寄せてくれたので2回に分けて紹介している。今回はPCR検査が終わってからの体験談。
(注:寄稿された体験談に編集部で見出しを付けた)

***

65歳、ベンチで一晩過ごす

 PCR検査を受けた後は、また「はいどうぞこちらへ」に促され、ぐるぐる歩いていくと見覚えのあるゲート。自動販売機、階段、なあんだ最初に集められたゲートではありませんか。ここで待機せよ、ということか。

 65歳のおばあさんが段ボールのベッドどころかベンチで夜を明かすのです。でもよく考えている。4人掛けベンチにはてすりがなく、多少後ろに傾いてはいるが、横になるのに十分な幅。エコノミー席3席より寝やすいでしょう。私が最後から2番目なので選択肢はあまりない。

 あれ? 人数が増えているような? 充電ポールをはさんだベンチはもうとられていてなし。背中合わせのベンチの片側がとられているのは距離がとれないから、嫌だなと思っていると一番奥に2列、並行にベンチあり。一番奥から2番目が空いていました。

 向かい合わせのベンチには充電ポールあり。女性が携帯に没頭中。ポールの反対側の背中合わせのベンチでは男性が携帯でお話し中。あれあれ、ポールに電話をつないでいるから、二人の頭の間には1メートルも距離がない。いいのかね。

 するとアナウンス。「試験結果が出た方がいらっしゃいます。JALの…」、おおそうか、やっぱり他の飛行機の人もいるのね。ひょっとして陽性の結果??? なんぞとつい憶測。結果報告が2回ありました。

 空港のベンチを半分予想して準備していた私は、キルティングの上着を枕に、コートをかけてうとうとしていると「夕食を取りに来てください」のアナウンス。食べ物にはすぐに反応するおばさんです。最後に取りにいくと、3人係員が並び、右側の人に手を差し出し、消毒液を派手にふきかけられ、次にお弁当とお茶を自分で取ります。

 なぜお茶の段ボールとお弁当の段ボールの後ろそれぞれに係員がいるのか不明。余分に取るのを監視しているかしら。お弁当を自分で取るのに手を消毒する意味はありますか。陽性の人がお弁当を取ると、ほかのお弁当にウイルスを付着させる可能性があるからかしら。

 ごみ箱は使用禁止。お弁当とペットボトル用に段ボールが別途用意されていました。お弁当はコロッケ1個を半分に切って、申し訳程度のキャベツ、揚げシュウマイ1個、切り昆布、つけもの、ごはん。日本国民の税金です。私は機内食を全部たいらげていたので、手をつけず、万が一朝食が出ないときのためにとっておくことにしました。もちろん自前の非常食も用意してありました。水のボトルもちゃんと機内で2本もらっておいたし。

 さて寝ようとしても、例の電話男が電話をやめない。小さな声ではあるが聞こえる。うとうとして時計を見ると1時間しか経っていない。また聞こえる。またうとうとする。これの繰り返しで、寒気もしてきて朝4時。よく話すことがあるわねえ。起きてお手洗いに行くと、あら、お手洗い側のベンチの人は毛布をかけている。毛布も配ったのに知らなかったということは私はちゃんと寝ていたんだわ。もう職員らしき人の姿はなし。音楽も消えている。

 なぜ142番ゲートであるか、というと1にお手洗い、2に自販機でしょう。もちろん位置的にループを作りやすかったというのもあると思います。日本のお手洗いのすばらしさよ。広い、清潔、ウォッシュレット。しかし、音を流す必要あります? 水を余計に流すのと電気を消費するのではどちらが環境にやさしいのでしょうか。便座消毒液まで完備。乾燥機を使用禁止にしているので、タオルのいらないカナダに慣れてしまっている若者はどうしているのかしらん、とは思いましたが。

 ゲートから素晴らしい朝日が望めました。いつの間にか電話男は向かい側、私の前ではなく、その次のポールのベンチの女性に「電話うるさくありませんでしたか」と聞いている。正直に言えばいいのに「いいえ」と返事をするのね。そのまま二人は楽し気にお話しを続けております。なんだね、これは、とおばさんのやっかみ。

PCR検査陰性で無事、外へ

 ゲート内にひとつだけあったコンピュータ用のテーブルで仕事をしながら、早く時間よ経て、と時計を見ている私。朝食のおにぎりと一緒に誰か来る、というのが私の読み。6時、車の音がし始め、7時、ラジオ体操の音。8時、誰もこない。9時半、いらっしゃいました。結果が出ました、と言って、JALの方から案内。次にANA、5人ずつ呼ばれます。ANAの3番目のグループで呼ばれました。ちょっとどきどき。「陰性です」とピンクのカードを渡され「これを見せてください」とのこと。

 返却されていた2枚の書類を手渡し、再度どんな方法でどこへ行くかを聞かれ、公共交通機関には乗らない旨、念を押されてゲート退出。ピンクのカードが葵のご紋。見せるだけで「ははあどうぞ」と言われて先へ行けるのです。そのままパスポート管理、そしてターンテーブル。昨晩着いていた荷物は、カートにのせられて待っていました。さすが日本。持ち主毎に1台ずつです。こういうのを見ると愛国心が新たになります。

 到着ロビーに人はまばら。迎えの車を待つために1階に降りて外へ出ると、あらら、羽田空港は散歩とランニングのコースなのね。次々と来るわくるわ。走る人は高そうなウエア。歩く人はどうでもいい服装の同年代多数。142番ゲートから入国までは歩く歩道が使えたので、ここまで計5400歩。

感想総括

 一番感じたのは、相変わらず人海戦術、紙だ、ということです。それぞれの手続きでPCは一切登場せず、乗客の記入した書類をチェックして確認した旨を記入して重ねていました。その後コンピュータに入力するのでしょうから、最初からタブレットでも使った方がよほど早い、と思うのですが。入力ミスはどうする、とでもいうのかしら。

 提出した4枚の書類のうち、2枚は承諾書でしたが、2枚の記入内容は同一でした。提出先が違うのでしょうが、今の70歳代なら画面入力でもいけるでしょう。 システムを作り上げる時間はあったはず。 1回の入力で済むように今後のためにも作っておくべきですね。プライバシーの話とは別ものだと思いませんか。縦割りだから無理なのかしら。

 税関申告書をはじめ、日本のお役所の提出書類で思うのは、記入する人の立場に立ったデザインをしていないことです。スペースが必要な欄がやたらと小さかったり、金額なんか小さな欄でいいのに大きかったり。紙も資源です。

 この経験で、これまで避難所生活を強いられた方々に対して申し訳ない気持ちがしています。条件ははるかによかったにもかかわらず、多数の人間がひとつのオープンな場所で夜を過ごす大変さを実感しました。それも準備の上だったのに。理解が足りなくて申し訳ありませんでした。

 なお朝食のおにぎりは実現せず。迎えを待つ間、人のいない到着ロビーで、手を付けなかった夕食弁当をいただきました。おいものちゃんとしたコロッケでした。日本の皆さま、ごちそうさまでした。

*** 

 3月18日に決定した「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う水際対策強化に係る新たな措置」は、一部の国や地域からの日本人を含む入国者に対し、PCR検査の実施、検疫所長の指定する場所での14日間の待機、日本国内において公共交通機関を使用しないことを要請している。

 当初は欧州諸国からの入国者が中心だったが、4月1日には水際対策強化の対象をカナダを含む49か国・地域に拡大した。7月31日現在も日本人がカナダから日本に帰国する場合、
・質問票の記入、体温の測定、症状の確認等
・PCR検査の実施
・検査結果が出るまでは空港内のスペース又は検疫所長が指定した施設等で、結果が判明するまでの間待機
・検査結果が陰性の場合も、入国から14日間は自宅や自身で確保した宿泊施設等で不要不急の外出を避け、待機
することになっている。

*記事中の個々のサービスに関する感想は取材協力者の個人的な感想です。

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