日本語教師 矢野修三
7月文月も後半に入り、夏本番。日本は猛暑、酷暑。それに比べて、バンクーバーの夏は誠に素晴らしく、至福のときを過ごしていたのだが・・・。思いもよらない、ちょっと笑いを誘う、難儀な質問が舞い込んできた。
先月号の弁護士に関する「本の紹介」の記事を読んだ日本語上級者からの驚きの質問。なぜ、「弁護士」と「弁当」の「弁」は、同じ漢字なんですか?である。
えー、こんな質問、長く日本語教師をしているが、初めてで、びっくり仰天。でも確かに言われてみれば不思議である。なかなか「弁護士」と「弁当」の共通点など思いつかず、言葉に詰まってしまった。「うーん、ごめん 調べるね」と、恥ずかしながら謝らざるを得なかった。
そこでまず、「弁当」の語源が知りたくなり、早速調べてみた。諸説あるようだが、中国語の「便当」という言葉に由来するというのが有力らしい。中国語ではこの「便当」は「都合がよい」や「便利である」という意味で、これが日本に伝わり、「弁当」という漢字が当てられたようである。加えて、この「弁当」を日本式に「持ち運びする便利な食べ物」として使うようになったとのこと。
そして、江戸時代ごろから、「弁当」を持って、お花見などの行楽を楽しむようになり、さらに、芝居の合間(幕の内)に食べる弁当として、「幕の内弁当」なども大いにもてはやされ、いわゆる日本特有のお弁当文化が花開いたようである。なるほど。
一方、弁護士の「弁」だが、昔は「辯」という漢字か使われており「辯護士」であった。この「辯」の意味は「言葉で治め、正す」という意味とのこと。人々の権利や利益を守る法律の専門家、まさしく、「辯護士」である。
しかし戦後1946年の当用漢字制定に伴い、この「辯」は、画数が複雑なので、簡単な「弁」に変えられてしまった。ほかにも「ベン」と読み、複雑な漢字、例えば「辨償」が「弁償」に、「花瓣」が「花弁」にと、すべてこの「弁」に統一されてしまった。
それゆえ、そもそも「弁護士」と「弁当」の「弁」は、直接関係なし。さらに「弁」にはたくさんの意味があるのは当たり前なのである。うーん、大いに納得し、何となくホッとした。
とはいえ、「もともとは別々の漢字でした」。こんな説明では、日本語学習者はあまり実感がわかず、面白くないであろう。
そこで、この「弁」には大きな意味で、「うまくまとめる」という意味があり、「弁護士」は言葉を用いて人と人の間をまとめるのが仕事であり、「弁当」はご飯やおかずを一つの箱の中にうまくまとめること。どちらも「まとめる」という点で仲間だよ・・・。少し面白味を出して、詭弁にならないように、こんな説明をしようと意気込んでいる。
そんなことを考えていたら、「弁慶」はなぜ「弁」なのだろう・・・、余計な疑問が頭をもたげた。そして、思わず五条大橋の上で、弁慶か牛若丸に京都弁で弁解しながら、手作り弁当を差し出す。こんなシーンを思い浮かべてしまった。失礼しました。
生徒の思わぬ質問から、「弁」に関するいろいろな知識を得ることができ、改めて教師冥利に尽きる思いである。でも日本語教師として、この「弁」はなかなか面白いが、すごく面倒な漢字だと分かったので、もう「弁」に関する質問は「勘弁」 願いたい。

「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら。
矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)
メール:yano94canada@gmail.com
ホームページ:https://yanoacademy.ca
日本語教師として37年、81歳になって
初めて、平仮名「あいうえお」の
素晴らしさ、奥深さを悟りましたよ。
愛情、いっぱいで、生まれ
あ い う
笑顔で、終える。
え お
素晴らしきかな「あいうえお」





















