リッチモンド・アートギャラリーで日本人アーティスト作品を紹介「Ongoing/Pacific Crossings」開催中

左から、村田さん、原さん、小川さん、Daceyさん、柴田さん、同ギャラリーでボランティアとして今回の展示会をアシストした宮坂麻衣子さん。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ
左から、村田さん、原さん、小川さん、Daceyさん、柴田さん、同ギャラリーでボランティアとして今回の展示会をアシストした宮坂麻衣子さん。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ

 カナダ・リッチモンド市のリッチモンド・アートギャラリーで「Ongoing/Pacific Crossings」が開催されている。日本人アーティスト11人とバンクーバーを拠点とするカナダ人アーティスト、合わせて50作品以上が展示されている。

日加アーティスト交流から生まれた作品展

 今回の展示会は、東京・吉祥寺を拠点とするアートスペース「Art Center Ongoing」の活動と、そこで活動するアーティストたちを紹介する企画展。2008年に小川希さんによって設立されたOngoingは、商業ギャラリーや美術館とは異なる「オルタナティブ・スペース」として、実験的な表現を支援し続けてきたという。

 インディペンデント・キュレーターの原万希子さんは、バンクーバーを拠点に太平洋を越えた文化交流を進めるキュラトリアル・リサーチ・グループ「Pacific Crossings」を同ギャラリーのShaun Dacyさんと他2人で立ち上げたと説明。「今回のプロジェクトは、Ongoingの活動とバンクーバーの若いアーティストをつなげられないかと考え、2019年に小川さんをリサーチ・レジデンスで2週間バンクーバーへ招いたことから始まっています」。地域のアーティストやスタジオをめぐり、関係を築いて、今回の展示会へと結実したという。 今展示会は原さんと小川さんが共同キュレーターを務めている。

「見たことのないもの」と出会う場所

会場には多くの作品が展示されている。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ
会場には多くの作品が展示されている。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ

 小川さんは、Ongoingを1階にカフェ、2階にギャラリー、さらにライブラリーやアーティスト・イン・レジデンス機能を備えた場所と話す。所属作家を持たず、小川さんが選んだ作家による展示を約2〜3週間ごとに開催し、年間20本以上の展示会を実施。多くのアーティストが集まり、情報交換や議論を重ねる「創造のハブ」として機能しているという。 18年前に始まった時に「変な場所ができた」と口コミで広がり、今では海外からのレジデンス参加者も多く、Ongoingから海外へと送り出すこともある。そうしてネットワークが大きくなっていったと振り返る。

 原さん、Dacyさん、小川さんが、「何か一緒にやろう」という話になり、今回の「Ongoing/Pacific Crossings」が実現した。原さんは、メインストリームの美術館や商業ギャラリーとは異なる新しい実験や表現を試せるオルタナティブ・スペースが重要と強調する。小川さんも同じ思いを共有する。そうした「オルタナティブなアートシーンが東京に存在していること、それが国際的につながっていく可能性を感じてほしい」と話す。18年間、東京の一角で続いてきた実験的なアート環境そのものを紹介することに意義があるという。

 「こんなものは見たことがない」「これは何だろう」という発見こそが、この展示会の醍醐味。日本文化の表層的な紹介ではなく、「現在進行形で生まれている実験や創造の現場を見てもらいたい」と語った。

村田峰紀さん「背中で語る」パフォーマンスを通して表現

村田さんと白いシャツの背中をキャンバスにした作品「背中で語る」。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ
村田さんと白いシャツの背中をキャンバスにした作品「背中で語る」。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ

 「自分自身が言葉に対してコンプレックスがあって」。作品について聞くと、村田さんはそう切り出した。養護学校やアフタースクールに通っていた経験があると明かす。学校の中では優等生だったが、言葉に対しては劣等生。吃音もひどかった。「そういう幼少期がありました」。声変りをすると、より声が届かないような感覚に。

 しかし「だんだんそれを『自分らしさ』というアイデンティティに捉えるようになりました。言葉として出てこなかった言葉が、自分の中に溜まっているような感覚があったんです。それをどうにか表現しようとこのパフォーマンスが生まれました」。

 ギャラリーの入り口を抜けていくとたくさんの白いシャツがぶら下がっている。村田さんの作品だ。シャツの背中には絵とも模様ともつかない線の群れが描かれている。

 「日本語には『背中で語る』という言葉がありますよね。何もしゃべらないけど背中を見せることで相手に何かを伝える。手を動かしている姿や行動を見て、言葉ではなく、そこから学んでいく。それを自分の言葉に置き換えたら、『背中で語る』ということがアクションとしてできるんじゃないかと思ったんです」

 初めは言葉に対する黒と赤の作品だった。黒は文字、赤は訂正。しかし、それだけではないと気付く。「自分がそこに立っているということは周りに何かがあるということ。感情や時間や歴史が自分の周りにたくさんあると思うので、その時の感情を色でぶつけています」

パフォーマンスを披露する村田さん。2026年7月25日、リッチモンド市。
パフォーマンスを披露する村田さん。2026年7月25日、リッチモンド市。

 背中に描くとき鏡などは使っていない。自分の感覚だけでペンを動かす。使っているのはジェルクレヨン。「普通のクレヨンよりも柔らかい素材です。なので背中にも描きやすい」。デザインは「(木をイメージした作品を指しながら)こういうふうにしたいなと思いながら、茶色でこの辺にこう描くとこういうデザインになるだろうという感じです」。オープニングの日にはギャラリー前の広場でパフォーマンスを披露した。

 今回は100点が展示されている。台湾に3カ月滞在した時の作品という。「台湾にいながら感じたことだったり、逆に海外にいることで日本を思ったり」を表現した。「色々な場所で感じたこと、その場所ごとに思ったことを考えながら描いています」。

 自身の感情を描けるようになり言葉へのコンプレックスは克服できたのかと問うと、「今こうして話していますし、『話せなかった』という言い方も違うかもしれませんが、克服したというよりは認めたという感じです。うまく話せいないことも一つのコミュニケーションだと。これまでは言葉が話せないことでコミュニケーションが取れていないと思っていたんですけど、今は逆にそれも自分らしさなんだと思えるようになりました」と語った。

柴田裕輔さん「ハッピーランド」夢と現実のはざまで

柴田さん。写真のイチゴは日系カナダ人が働いたストロベリーファームを象徴する。イチゴの種は全て取り除いている。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ
柴田さん。写真のイチゴは日系カナダ人が働いたストロベリーファームを象徴する。イチゴの種は全て取り除いている。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ

 展示会場の最も奥に巨大なオブジェがある。カラフルなLEDライトがピカピカ光るそこは「ハッピーランド」。柴田さんの作品だ。

 今年初めにはリッチモンドに2週間滞在して作品のリサーチをした。日系カナダ人や留学生などに話を聞いた中で共通して印象に残ったのがカナダへの夢と現実のギャップだった。戦前に夢を抱いてカナダに渡った日本人。現実は差別との戦いだった。カナダで英語を使って働くことを夢見て渡加する留学生。来てみると無償インターンシップすら見つからない現実。「時代は違うし、その過酷さも全然違うけれど、どこかつながっているところが自分の中で見えてきたんです」。

 大きな夢とその先にある現実。「そのギャップにこそ価値があるんじゃないかと思いました」。

「ハッピーランド」の入り口。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ
「ハッピーランド」の入り口。2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ

 キラキラした入り口の大きな穴を抜けると「そこは廃校になった学校という設定です」と説明する。外側のキラキラした華やかさとは対照に広く薄暗い部屋には、日系カナダ人と留学生の思いを代弁するさまざまな言葉があちらこちらに隠されている。強制移動先だったシュガービーツ農園を象徴する砂糖の近くに、「写真婚」を表現する写真がないアルバムに、鉛筆の削りかすが残る机の上に、白板のレールに、思いが刻まれている。

 「ハッピーランド」とは日系カナダ人が1942年、強制収容所に送られる前に集められたヘイスティングスパーク(現PNE)の馬小屋近くにあった遊園地の名前で、「皮肉を込めて」付けた。キラキラした感じは、滞在中にリッチモンド市でモール前の駐車場に設置されていた移動遊園地にヒントを得た。「ある日突然遊園地が現れて、またさっとなくなる。夢の後みたいな感じ。そのハリボテ感が合ってるなと思ってハッピーランドと組み合わせました」。

 そこにぽっかり開いた穴は日系カナダ人のアイデンティティ喪失を表現する。カナダ人と結婚して家族もできて幸せだけど、どこか「Belong」していない感覚。「みんなどこか穴が開いているんじゃないですかねという話がインタビューの中にあって、それがすごく大きかったんです」。

写真のイチゴから取り除いた種で描いたメッセージ。 “There’s a hole in everyone, isn’t there?” 2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ
写真のイチゴから取り除いた種で描いたメッセージ。 “There’s a hole in everyone, isn’t there?” 2026年7月25日、リッチモンド市。撮影 日加トゥデイ

 今回の作品は「みんな夢と現実のはざまでサバイブしている。希望通りにいったり、いかなかったりしながら生きている感じ」を全体で表現している。

 柴田さんは以前アルバータ州エドモントンに1年間滞在したことがあるという。今回作品のために滞在したバンクーバーの印象を聞くと「全然違いますね」と表情を崩す。「(エドモントンは)もっとローカルな感じ。でもそれがすごくカナダっぽい感じです。バンクーバーは日本に近い気がします。おしゃれな感じもするし。ほぼずっと仕事しかしていませんでしたが、楽しみました」と笑った。

 「Ongoing / Pacific Crossings」は10月4日まで。9月12日には原さんによる日本語ツアーも行われる。

Ongoing / Pacific Crossings

期間:7月25日~10月4日
会場:リッチモンド・アートギャラリー(Richmond Cultural Centre:7700 Minoru Gate, Richmond)
ウェブサイト:https://www.richmondartgallery.org/
原万希子さんによる日本語ツアー:9月12日(土)午後2時から。予約推奨。(英語でのツアーは同日午後1時から)

(取材 三島直美)

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