第96回「ささやかながら強力な絆作りに」

 今回は、ある美容院と化粧品店での、ささやかながら強力な絆作り活動のお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の取り組みだ。

 まずは美容院。店主は常々「誕生月に来たお客さんへのプレゼントをどうするか」を考えていた。これまでもプチギフトをプレゼントしてきて、喜んでもらえてはいるが、もうひとつしっくりこない。さらに良いものはないものか、と。

 そんなある日、「冷凍ケーキ」に出合った。ケーキのプレゼントは以前考えたことがあるが、来店直前に買いに行かなければならず、少し大変だ。しかし冷凍ケーキなら、前もって買って店で冷凍保管しておき、解凍して出せばよい。

 そこで早速注文し食べてみると、これがなかなか美味しいし、解凍時間も30分ほど。お客さんが来店する少し前からの準備で大丈夫。よしこれなら、と決め、次は演出。ハッピーバースデーと書かれたきれいな紙皿と共にローソクを準備。電気を消してハッピーバースデーの曲を流しながらローソクに火を点けて出し、吹き消してもらうようにした。

 そして実際行ってみると、期待以上に喜ばれた。ケーキを写真に撮る方はもちろん、その写真を家族に送る方、SNSにアップする方、ある男性客には、帰り際まで何度もお礼を言われ、大いに手ごたえを感じたのだった。

 次に化粧品店での取り組み。こちらはさらにシンプルに、お客さんが美容の施術を受ける鏡の前に、バースデーメッセージボードを置いた。ここでのポイントは、そこにお祝いメッセージと共に、お客さんの「ファーストネーム」を書くこと。さらに、来店されたお客さんには「○○(ファーストネーム)さん、お誕生日おめでとうございます」と声をかけるようにした。

 こちらもまた想像以上に喜ばれた。お客さんからは、「年を重ねるにつれ、『○○の奥さん』『○○ちゃんのママ』など、周りからも家族からもファーストネームで呼ばれることがなくなってきたから、久しぶりに呼ばれて嬉しい」「誕生日なんて、お祝いどころか覚えてくれてもいないから、感動した」などの声が上がった。

 誕生月などの、お客さんを喜ばせられる機会。そんなときは、ささやかでもいい、彼らのように何か考えて、アクションしてみることをお薦めする。誰にとっても嬉しいものだ。そしてそれを考え実行してくれたあなたのことを、お客さんは大切に思うようになっていくのである。

小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール 

山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
 
人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。

2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。 

「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は最新刊『「顧客消滅」時代のマーケティング』をはじめ、新書・⽂庫化・海外出版含め40冊。

九州⼤学非常勤講師、⽇本感性⼯学会理事。