渡辺直美、初のバンクーバー公演 英語で挑む新たな笑い

北米ツアー「Naomi Watanabe: From Tokyo」のバンクーバー公演に出演した渡辺直美さん。2026年6月13日、バンクーバー市。 Photo credit: S. Ace Suasola
北米ツアー「Naomi Watanabe: From Tokyo」のバンクーバー公演に出演した渡辺直美さん。2026年6月13日、バンクーバー市。 Photo credit: S. Ace Suasola

 ビヨンセのダンスパフォーマンスで一躍人気を集め、日本のお笑い界を代表する存在となった渡辺直美さん。現在は活動拠点をニューヨークに移し、英語によるスタンドアップコメディに挑戦している。

 その渡辺さんが6月13日、北米18都市を巡るツアー「Naomi Watanabe “FROM TOKYO”」の最終公演をバンクーバー市「Vogue Theatre」で行った。初のバンクーバー公演は2公演とも完売。北米ツアーの締めくくりにふさわしい夜となった。

「日本のビヨンセ」からスタンドアップコメディアンへ

 渡辺さんは2007年のデビュー以来、ビヨンセのダンスパフォーマンスで爆発的な人気を得た。お笑い芸人として人気を集める一方、映画やドラマ、ファッション分野にも活動の場を広げ、アパレルブランド「PUNYUS(プニュズ)」のプロデュースも手掛けた。インスタグラムのフォロワー数は985.4万人に上る。

 日本で確かな人気を築く中、2021年に選んだ新たな舞台がニューヨークだった。

 アメリカで挑戦しているのがスタンドアップコメディ。日本のコントやモノマネとは異なり、マイク1本で観客を笑わせるアメリカ独自のお笑い文化だ。言語も文化も異なる環境に飛び込み、英語でステージに立ち続けている。

 2023年には全米7都市を巡るライブツアーを実施。2024年にはニューヨークで初の単独スタンドアップ公演を開き、チケットは発売後数分で完売したという。

 北米での活動が軌道に乗る中、今年2月には東京ドームで単独公演「渡辺直美(20)in 東京ドーム」を開催。販売されたチケット44,356枚は、「女性ソロコメディアンによるコメディーショーで販売されたチケットの最多枚数」としてギネス世界記録に認定された。

 その直後にスタートしたのが北米18都市ツアー「Naomi Watanabe “FROM TOKYO”」。バンクーバーはその締めくくりの舞台となった。

「英語はベイビースタイル」

ショーの最後に急きょ観客全員に撮影OKの時間が...。SNSでのシェアもと。渡辺さんは、バンクーバー公演後、自身のSNS(Instagram)に「もっと大きくなって必ず帰ってきます」と投稿した。2026年6月13日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
ショーの最後に急きょ観客全員に撮影OKの時間が…。SNSでのシェアもと。渡辺さんは、バンクーバー公演後、自身のSNS(Instagram)に「もっと大きくなって必ず帰ってきます」と投稿した。2026年6月13日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 夜7時からの公演は、日本人と外国人の観客が半々といった様子だった。登場前から「今日はどんな服を着てくるかな」という期待の声が上がる中、渡辺さんが姿を現した瞬間、会場は一気に沸き上がり、日本の国旗を掲げるファンもいた。「過去に私のツアーに来たことがある人は?」という問いかけに手を挙げたのはわずか1人。それにもかかわらず、会場の盛り上がりは知名度の高さを物語っていた。

 ネタの軸は日本と北米の文化の違い。知らない人が突然話しかけてくるスモールトークの文化や、トイレの個室にある謎の隙間など、ニューヨークでの暮らしの中で感じた戸惑いを次々と笑いに変えていった。スタンドアップコメディとは言え、ただ話すだけではない。驚いた表情で舞台を走り回り、時には身をかがめながら、その場面を全身で再現する。マイク1本のスタンドアップコメディながら、全身を使ったパフォーマンスは、渡辺さんが日本で築いてきた芸風を思わせた。

 「私の英語はベイビースタイル」。そう笑った渡辺さんだが、公演のほとんどを英語で進行した。ときには、「えー!」「うそー!」と思わず日本語が飛び出す。それさえも笑いに変える。表情や動き、間合いを自在に操り、笑いを生み出す姿は、笑いに言語の壁などないと証明しているようだった。

「あなたの選択はいつだって正しい」夢を追う若者へ

 公演の中では台湾出身の母のことも語られた。シングルマザーで外国である日本に来てゼロから始めたことと自身が外国であるニューヨークでゼロから挑戦したことを重ね合わせ、「怖かった」母親のことをユーモアたっぷりに語った。

 後半には客席との質疑応答コーナーも。マイクを握ったのは、16歳でカナダに移住し、バンクーバーで俳優を目指しているという女性。「日本で成功してからニューヨークでゼロから始めた渡辺さんに背中を押されてきた。毎日前に進む力はどこから来るのか」。そう話し始めた女性は言葉を続けるうちに涙を流した。

 渡辺さんは少し考えた後、「つらいことはある。でも私はコメディアンだから、嫌なことが起きても全部ネタに変える。この人生はあなただけのもの。あなたがこれまで選んできたことは、いつだって正しい」と言葉をかけた。観客が静かに聞き入る中、渡辺さんはそう語り終えるやいなや「What do you think? Good, right?」と逆に問いかけ、会場を笑いに引き戻した。

 公演後も余韻は続いた。日本人の友人に連れられてきたというメキシコ人留学生は「彼女はユニークで、特別で、何でもあり」と興奮した様子で話し、日本人留学生の女性は「英語であんなにおもしろく話ができるなんてすごすぎる」と絶賛した。反響はSNSのX(旧Twitter)にも広がった。投稿では、日本人が英語でスタンドアップコメディに挑戦していることへの驚きや、英語のみで大勢の観客を魅了するパフォーマンスへの称賛の声が見られた。

 日本でトップスターとなりながら、ニューヨークでは再び英語で笑いを学ぶ一人のコメディアン。その姿に胸を打たれた人も少なくなかったようだ。「絶対またバンクーバーに来る」と宣言した渡辺さん。バンクーバーで次の公演を期待するファンも多いにちがいない。

北米ツアー最終日のステージを終えた渡辺さんが観客と記念撮影。この日の2公演はいずれも完売だった。2026年6月13日、バンクーバー市。Photo credit: S. Ace Suasola
北米ツアー最終日のステージを終えた渡辺さんが観客と記念撮影。この日の2公演はいずれも完売だった。2026年6月13日、バンクーバー市。Photo credit: S. Ace Suasola

(取材 田上麻里亜)

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