終活は新しい大人のマナー
叶多範子
バンクーバーでは、やっと新学期が始まりましたね。今年は、「なんだか夏休みがいつもより長くない?」と感じた方も多いのではないでしょうか。「あれ? 学校って、もう少し早く始まっていなかったっけ?」
実は、私もそう思った一人です。気のせいではありません。今年のバンクーバーの公立学校は9月8日スタート。昨年より6日も遅かったんです。長かった夏休みが終わり、子どもたちは学校へ。大人たちも、少しずついつもの生活に戻っていく時期になりました。
前回は、相続の現場で耳にする「なんで私が……」という言葉について書きました。今回は、多くの方が「自分は大丈夫」「うちは複雑なケースではない」と思ってしまう理由について、お話ししたいと思います。
中でもよく聞くのが、「うちは子どもが2人だから、半分ずつにすれば大丈夫でしょう」という言葉です。
子どもは2人。財産も半分ずつ。一見、とても公平に見えます。でも、本当にそうでしょうか。
例えば、子どもが2人いて、一人には大学の学費や留学費用を出した。あるいは、マンションを買うときに、頭金を援助した。一方、もう一人には、そういった援助をしていなかった。
親としては、特別扱いをしたつもりはないかもしれません。そのとき必要だったから出した。それだけだったのかもしれません。でも、親が亡くなって、残った財産を2人で半分ずつ分けることになったとき、「あれだけ出してもらっていたのに、残った財産も半分ずつなの?」もう一人が、そう思うことがあります。
お金ではなく、時間や労力の場合もあります。一人は、何年も親の病院に付き添ってきた。買い物や送迎もした。介護が必要になれば、それも引き受けた。もう一人は、そうした親の世話にはほとんど関わっていなかった。
それでも遺産は半分ずつ。「私がこれだけやってきたのに、どうして同じなの?」そんな不満が出てくることもあります。
そして海外に住んでいる私たちの場合、この話はさらに身近です。日本にいるきょうだいが、親の病院への付き添いや買い物、役所の手続き、介護などをしてくれている。海外にいる自分は、そう簡単には駆けつけられません。
もちろん、何もしていないわけではないでしょう。電話をする。お金を送る。できるだけ日本に帰る。それぞれの場所で、それぞれができることをしている。でも、日本にいる兄弟姉妹と海外にいる自分では、見えているものが違うことがあります。
「相続で揉めるのは、お金持ちの家でしょう」「うちは財産もそんなにないし、子どもたちも仲がいいから大丈夫」これも、よく聞く言葉です。
子どもたちの仲が良くても、お金が絡むことで関係が変わってしまうことがあります。あるいは、子ども本人ではなく、その配偶者が納得できないことから、話がこじれるケースもあります。
実際の相続では、財産の金額だけが問題になるわけではありません。「私はしてもらっていない」「私ばかり親の面倒を見てきた」「あのとき、お姉ちゃんには出してあげたよね」「弟は何もしなかったよね」それまで表に出ていなかった気持ちが、親が亡くなったあとに出てくることがあります。
そして、そのときにはもう、「どうしてこうしたの?」「お父さんは、どう考えていたの?」「私の言い分も聞いてほしかった」そう言いたくても、本人はいません。
私は、ここがとても大事だと思っています。相続の話は、亡くなったあとのための話だから、亡くなったあとに家族が考えればいい。でも、そうではありません。親が元気なうちだからこそ、話せることがあります。
「私はこう考えているけれど、あなたたちはどう思う?」
子どもたちに聞いてみる。もしかしたら、「実は、ずっと不公平だと思っていた」そんな、聞きたくなかった言葉が返ってくるかもしれません。
でも、親が亡くなったあとに、きょうだい同士でその不満をぶつけ合うより、親が元気なうちに聞けた方がいい。私はそう思います。その場ですべて解決しなくてもいい。
「そんなふうに思っていたんだ」
それを知るだけでも、その後にできることは変わってきます。遺産の分け方を考え直すかもしれない。なぜこの分け方にしたのか、きちんと伝えておこうと思うかもしれない。あるいは、話してみたら、親が心配していたほど子どもたちは気にしていなかった、ということもあるでしょう。
大切なのは、「うちは大丈夫」と親だけで決めてしまわないこと。子どもが2人だから、半分ずつ。それで本当に大丈夫なのか。
元気なうちに、一度聞いてみませんか。
「私はこう考えているけれど、あなたたちはどう思う?」
親が亡くなってからでは、もうできない会話です。
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本コラムは終活に関する一般的な情報提供を目的としています。内容には十分配慮しておりますが、必要に応じてご自身での確認や、専門家へのご相談をおすすめします。なお、本コラムをもとに行動されたことによる不利益については、免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。
叶多範子(かなだ・のりこ)
海外終活アドバイザー
遺言・相続専門 弁護士アシスタント
親しい友人の急逝をきっかけに、事前の準備が周囲の負担を減らし、安心をもたらすことを実感。現在は相続専門の弁護士アシスタントとして実務に携わりながら、50代からの海外在住日本人に向けて終活の重要性を伝えています。
終活を「死の準備」ではなく、人生を整える「私活(わたしかつ)」と考え、エンディングノートを活用してその考え方を広げています。
カナダ・バンクーバー在住。家族はカナダ人の夫と2人の息子、愛猫1匹。
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