腰痛のトリセツ(カナダ版)

 それにしても、今年の夏は薬局が混んでました。世界の至る所で戦争や猛暑、山火事となると、平和そうなのはサンシャインコースト(?)という流れになったようで、とにかく8月にしては薬局を利用する患者さんが多く、これに伴い私も毎日長時間よく働きました。

 前回のコラムで触れた7月末のテニス大会では、シングルスでなんとか2勝し、敗者復活戦を勝ち抜くことができました。勝てばうれしいものですが、試合翌日には筋肉痛がしっかり残りました。そのついでというわけではありませんが、今日は腰痛のお話をしましょう。

 私は学生時代に椎間板ヘルニア(椎間板が突出して、神経を圧迫するもの)を経験しました。椎間板は、背骨の骨と骨の間でクッションの役割を果たす組織で、丈夫な線維の輪の中に、ゼリー状の芯が収まった構造をしています。ここに強い負担や加齢による変化が重なると、中身が外へ飛び出し、すぐ近くを通る神経を圧迫することがあります。これがヘルニアです。腰の痛みだけでなく、お尻から脚にかけての痛みやしびれ、いわゆる坐骨神経痛(英語でsciatica[サイアティカ])を伴うことも少なくありません。

 当時の私は「一生この腰痛と坐骨神経痛と付き合うのか」とかなり落ち込みましたが、幸い手術には至らず、当時主流だった牽引療法(機械で腰を引っ張るもの)に通ううちに痛みは治まり、その後テニスを再開して試合にも出ることができました。もっとも、椎間板ヘルニアの多くは、飛び出した部分が時間とともに体に吸収されて小さくなり、手術をしなくても数週間から数か月で軽快することが知られています。現代医学では牽引療法の効果は限定的と考えられており、今にして思えば、自然の回復力に助けられたのかもしれません。ただ、それからというもの、年に1、2回は何かの拍子に椎間板が飛び出るようで、激しい腰痛に襲われます。

 運動不足や体重増加によって腰痛が起こりやすくなることは、医学的にも説明できます。運動不足が続くと、腹筋や背筋など、腰を支える筋肉が弱くなり、股関節や背中の動きも硬くなるため、立つ、歩く、物を持つといった動作の負担が腰に集中しやすくなります。また、体重の増加も腰痛のリスクを高めます。特に腹部に脂肪がつくと、腰椎にかかる負担が増え、姿勢や体のバランスも変化します。

 もっとも、体重が増えると動くことが億劫になり、さらに運動量が減るという悪循環にも陥りやすくなります(数か月前までの私のことです)。過体重や肥満、運動不足は、腰痛と関連する要因として知られています。

 急な腰痛が起きると、動くこと自体が大変なので、じっとしていたくなります。しかし、危険な病気や重大な神経症状がない一般的な腰痛では、長期間の安静は回復を遅らせます。痛みを悪化させない範囲で、歩く、立ち上がる、家の中で動くなどの活動を続ける方がよいとされています。ただし、脚に力が入らない、しびれが進行する、排尿・排便の異常や発熱を伴う、といった場合は、単なる腰痛と考えず、早めに医療機関を受診してください。

 春先からお話ししているように、私の場合、減量のためにほぼ毎日続けてきたジョギングとテニスによって、体重や体力をある程度維持でき、腰を支える筋肉を使い続けられたことが、腰痛の再発予防につながったのかもしれません。

 腰痛のとき、薬局で「コルセット(腰部サポーター、英語でback braceやlumbar support)はどこですか」と尋ねられることがよくあります。装着すると腹圧が高まって腰が支えられる感覚があり、動くのが怖い時期の「お守り」として頼りにしている方も多く、私もその一人です。

 ただ、腰痛の予防については、コルセットは何もしない場合と比べて効果に差がないとするエビデンスが示されており、治療についても、その有効性ははっきりしないと結論づけられています。それでも、まったく無意味というわけではなく、痛みが強い急性期に短期間だけ補助的に使うなら、役に立つ場面があります。ポイントは、長期間・一日中つけっぱなしにしないこと。コルセットに頼って体幹の筋肉を使う機会が減るのはよくありません。痛みが落ち着いてきたら、コルセットを外す時間を少しずつ増やし、自分の筋肉で動くようにしていきます。

 腰痛や肩の痛みに使う市販薬は、種類が豊富に見えるものの、有効成分を見ると選択肢は限られています。代表的なのは、アセトアミノフェン(商品名Tylenol)と、イブプロフェン(Advil、Motrin)やナプロキセン(Aleve)、アスピリンといったNSAIDs(エヌセイズと発音)です。

 NSAIDsは「非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)」の総称で、痛みや炎症を起こすプロスタグランジンという物質が作られるのを抑えます。炎症を伴う筋肉痛、関節痛、急性腰痛などで、痛みの軽減に役立つことがあります。一方、アセトアミノフェンは、主に中枢神経に働きかけて痛みや発熱を抑えますが、NSAIDsのような抗炎症作用はほとんどありません。なお、急性腰痛に限っていえば、アセトアミノフェン単独の効果は限定的だったという研究報告もあり、近年の海外ガイドラインでは、使える人にはNSAIDsを優先する傾向があります。それでも、胃腸や腎臓、心臓などに疾患のある人にはNSAIDsが使いにくいため、アセトアミノフェンは今も大切な選択肢です。

 NSAIDsは、胃潰瘍や消化管出血の既往、腎機能低下、心不全、高血圧、心血管疾患、抗凝固薬・抗血小板薬の使用がある人では注意が必要です。アセトアミノフェンも安全性の高い薬と考えられていますが、決められた量を超えれば肝障害の危険があります。かぜ薬や頭痛薬に同じ成分が含まれていることがあるため、複数の市販薬を重ねて服用する場合には、必ず成分を確認するようにしてください。

 椎間板が神経を圧迫すると、その周辺の筋肉が一気にこわばり、腰が伸ばせなくなるときがあります。そこで登場するのが筋弛緩薬です。市販薬コーナーには、メトカルバモールとアセトアミノフェンの合剤(Robaxacet)や、イブプロフェンとの合剤(Robax Platinum)が並んでいます。一方、シクロベンザプリンは処方薬で、急性腰痛に伴う筋肉のけいれんに短期間使われます。筋弛緩薬は、痛み止めの主役ではなく、筋肉のこわばりが強いときに短期間(1〜2週間まで)だけ加える脇役のような存在です。副作用は眠気とふらつきで、運転前の服用やアルコールとの併用は避けてください。

 貼り薬や塗り薬には、NSAIDsを含むもの(Voltaren Emulgelなど)のほか、メントール、サリチル酸メチル(Rub A535など)、カプサイシンなどを含む製品があります。サロンパスのような冷感タイプは、運動後の筋肉の張りや、熱っぽく感じる部位に使用すると、冷たさによって痛みが一時的に和らぐことがあります。ただし、冷感があるからといって、筋肉の損傷を直接治療しているわけではありません。強いヒリヒリ感、発赤、腫れ、水疱が出た場合は、直ちに使用を中止し、必要に応じて医療機関や薬剤師に相談してください。

 急な運動後に熱感がある場合には、タオルで包んだ冷却材を短時間当てる方法(アイシング)が役立ちます。一方、腰痛発作時に筋肉がこわばる場合には、温かいジェルパックや低温の温熱パッドを使うと、筋肉の緊張が和らぎます。冷却と温熱のどちらが合うかには個人差があるため、皮膚を保護しながら試し、ご自分がラクになる方法を選ぶとよいでしょう。なお、メントールやサリチル酸メチル、カプサイシンを含む貼り薬・塗り薬の上から温めるのは、皮膚への刺激が強まり、やけどのような皮膚障害を起こすことがあるため避けてください。

 腰痛があると、とりあえず動かないことが最善の処置のように思えますが、完全に動きを止めると、筋力や関節の動きが低下し、かえって回復が遅れることがあります。だからといって、痛みを無視して運動を続けるのも適切ではありません。大切なのは、痛みの状態を確認しながら、できる範囲の運動を続けること。コルセットも、飲み薬も、貼り薬も、その運動と日常生活を続けるための脇役と考えると、上手に付き合えます。私は、椎間板ヘルニアの経験があるからこそ、腰をかばいすぎて動かなくなるのではなく、日々のジョギングやテニスを通して、体力と筋力を維持することの大切さを実感しています。皆さんも、腰痛や痛み止めのことで気になることがあれば、どうぞ薬剤師にお気軽に声をおかけください。

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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