たまにはメンズヘルスも考える

 6月が終わってから言うのもなんですが、6月はカナダの「男性の健康月間(Men’s Health Month)」でした。(急に暑くなって、頭がついていかずに原稿の締め切りを逃してしまいました。失礼しました。)

 女性の場合は「美容と健康」といった具合に、健康が自然に語られることも多く、話題も豊富です。2026年4月のコラム「ナショナルファーマケアが始まりました」でお伝えしたように、女性のホルモン補充療法の薬はナショナルファーマケアにより、公費でカバーされるようになりました。また、私には、もうすぐティーンエイジャーになろうかという娘がいますが、学校や習い事のダンスでのソーシャルライフを見ていても、とにかくガールズの元気がいいこと。そうです、私たちはすでに「女性の時代」を生きていると言っても過言ではありません。

 カナダ政府が私と同じように感じたかどうかは定かではありませんが、男性や男子の健康にも、国を挙げて目を向けようという動きが進んでいます。この6月、カナダ保健省(Health Canada)は、「男性と男子のための健康戦略(Men and Boys’ Health Strategy)」づくりに向けた全国規模の聞き取り調査を終えたと発表しました。背景には、男性の健康が改善すれば、年間124億ドルの節約が見込まれるという試算があります。

 逆に、そんなに社会に損失を被らせていると聞くと、男性の一人としては肩身が狭いばかりですが、確かに私もお父さん仲間との話題といえば、腰痛、いびき、五十肩、がん、老眼、高血圧に高血糖といったことが多いのも現実。医療費の節約というよりは、純粋に、男性のみなさんに元気でいてほしいと切に思います。

 ただ、男性としてもマインドセットを変える必要があります。「男はちょっとくらい大丈夫。クリニックは行かないから」といったふうに、病気のサインが出ているのに受診を先延ばしにするうちに、対応が遅れてしまうことはよくあります。

 自覚症状の少ない代表的な疾患といえば、高血圧や高コレステロール血症です。どちらも静かに進み、ある日突然、心筋梗塞や脳卒中として現れます。高血圧の一番よい管理方法は、毎日血圧を測ることです。血管が老化して弾力を失い、血圧が上がるのはある程度仕方のないことですが、それをタイムリーにキャッチして、生活習慣を改善したり薬を服用したりすることで、悪化を防げます。幸い、血圧の薬は概して安価ですから、費用についてはご心配なく。悪玉(LDL)コレステロールを減らすには、スタチン系の薬が非常に有効で、これまで世界中で数え切れないほどの命を救ってきました。

 2型糖尿病もまた、中年以降の男性に多く、静かに進む病気です。カナダ糖尿病学会(Diabetes Canada)は「40歳以上の成人は、少なくとも3年に1回、2型糖尿病の検査を受けること」を推奨していますが、(私を含め)いったいどれだけの男性がこの助言どおりに検査を受けていることか。最初の一歩は生活習慣の改善(食事管理と運動)ですが、必要なら薬もしっかり使って悪化を防ぎたいものです。高血糖が続くと血管がダメージを受け、神経障害、網膜症、腎障害という三大合併症が起こり、さらに心筋梗塞や脳卒中のリスクも高まることはよく知られています。最近では、多くの糖尿病の薬の費用は、ナショナルファーマケアが負担してくれるようになりました。第一選択薬のメトホルミンや、必要に応じて処方されるインスリン、さらには心臓保護効果の高いSGLT2阻害薬(Jardiance®など)も自己負担ゼロですから、お金の心配はありません。これらの薬を活用し、糖尿病とは上手に付き合っていきましょう。

 ここ数年の流行語とも言えるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)のお薬であるセマグルチド(Ozempic®。減量目的に承認された高用量版が Wegovy®)や、GLP-1とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)に作用するデュアルアクション型のチルゼパチド(Mounjaro®と同成分で減量用の Zepbound®)は、食後に腸から出るこれらのホルモンの働きをまねて、満腹感を高め食欲を抑えることで、体重を減らします。

 最近は Ozempic®のジェネリック薬も登場し、週1回1mgで4週間あたりの費用が約100ドル(ブランド版は約250ドル)と、ぐっと手が届きやすくなりました。これらの薬はナショナルファーマケアの補助の対象外ですが、免責金額ベースのBCフェアファーマケアや、多くのプライベートプランの費用負担の対象となっています。

 今から2年半前のことですが、減量目的で Ozempic®を求める人が大量に現れ、欠品が起きました。「糖尿病管理のために本当に薬が必要な人がいるのに、けしからん!」という声も多く聞かれました。私は、日頃から多くの薬の欠品を薬局で目にしていますから、欠品そのものはある程度仕方のないことだと感じました(過去コラム「痛み止めが欠品です。」)。しかも肥満は、心疾患やがんの明確なリスク要因の一つです。減量そのものを適応とした Wegovy®という薬も承認・発売されました。つまり当時はまだ Wegovy®が手に入らなかったために非難されただけで、薬の力を借りて体重を減らすのは特に悪いことではありません。これらの薬と同時進行で糖分やお酒の量を減らし、運動を心がけながら、少しずつ体重を減らしていこうではありませんか。

 中年といえば、ぽっこりお腹。その正体は、おなかにつきやすくなる内臓脂肪です。この脂肪は炎症物質を出してインスリンの働きを鈍らせ、高血圧・高血糖・コレステロール異常を招き、心臓病やEDのリスクも高めます。さらに、内臓脂肪の増加はテストステロン(男性ホルモン)を下げ、それがまた脂肪を増やす悪循環にもつながります。テストステロンの減少に伴い、だるさ、気分の落ち込み、性欲の低下、筋力の衰えといった不調が出ることもあります。血液検査でホルモン値を調べたうえで、必要に応じてテストステロンを補う治療(皮膚に塗るジェルや筋肉注射)という選択肢を選ぶことができます。

 心の健康も同じで、ホルモン減少による落ち込みなのか、うつ状態なのかは、見極めが必要です。男性は声に出しにくい人もいるかもしれませんが、抗うつ薬にもいくつもの効果的な薬がありますから、心の不調は早めにキャッチして、受診につなげましょう。

 前立腺も、男性ならではのテーマです。夜中に何度もトイレに起きる、おしっこの出が悪いといった症状は、前立腺肥大のサインかもしれません。タムスロシンやフィナステリド(ともにジェネリック名)といった薬で、肥大を抑えたり、尿の通りをよくしたりできます。前立腺がんもまた、初期には自覚症状が乏しく、血液検査(PSA)などで見つかることが多い病気です。まずは検査について医師に相談してみてください。

 こちらもまた男性特有の悩みですが、ED(勃起不全)は血管の健康を反映するサインでもあります。40代以降の患者さんの間では、シルデナフィル(Viagra®)やタダラフィル(Cialis®)といったEDの薬がよく処方されます。これらの薬をナショナルファーマケアが全額負担してくれたら、より多くの男性が自信と笑顔を取り戻せるかもしれないというのは夢物語ですが、それほど深刻な問題でありながら、薬の力で対処できるのがEDという病気です。おおむね健康な方であれば、オンライン診療のプラットフォーム(Rocket Doctor、Avee Health、Tia Health など)でのバーチャル診察を受けていただければ、薬局に処方せんが送られ、お薬が手に入ります。少し試してみたいという方は、どうかご検討ください。

 さあ男性のみなさん、ご自身のため、そして家族に迷惑をかけないためにも、積極的に健康管理をしていきましょう。気になることがあれば、お薬の専門家である薬剤師に、どうぞお気軽に声をおかけください。

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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