ナショナルファーマケアが始まりました

 2026年3月1日、ブリティッシュコロンビア州で、お薬代の患者負担を軽減する目的で、一定の薬の費用を連邦政府が負担するナショナルファーマケア(National Pharmacare)が導入されました。BCファーマケアはこれまで通り州が保険者として運営していますが、今回ナショナルファーマケアプランの対象となる特定の薬に限っては、連邦政府が資金を拠出する公費負担のシステムが新たに加わった形になります。つまり、窓口は州、財源は連邦という役割分担のもと、糖尿病治療薬、避妊薬、そして更年期のホルモン補充療法の費用が全額カバーされるようになりました。

 この制度の背景としては、2024年2月29日、連邦政府のマーク・ホランド保健大臣が、ナショナルユニバーサルファーマケアの第一段階を定める法案「ファーマケア法(Bill C-64)」を議会に提出しました。この法案は、糖尿病治療薬と避妊薬への普遍的アクセスを柱としており、連邦政府が州・準州と協力して「単一支払者(シングルペイヤー)」による全額公費負担を目指すというものでした。そして翌2025年3月、BC州と連邦政府が正式に協定を締結し、連邦政府が最大6億7,000万ドルの資金を拠出し、今回のナショナルファーマケアが誕生しました。

 糖尿病はカナダ全体では深刻な課題でありながら、カナダ国内で糖尿病を抱える約370万人のうち、4人に1人が費用を理由に治療を継続できないという現実があります。薬局の現場でも、「薬代が高い!」という患者さんからのフィードバックを何度も頂いてきました。

 今回公費負担となる糖尿病の薬は、標準的な治療薬であるmetforminやglyburide、gliclazideといった飲み薬、そして近年処方が増えているdapagliflozinやempagliflozin、そして注射薬であるinsulinまで、幅広く対象となっています。ただし、saxagliptin、linagliptin、pioglitazoneという3種類の薬については、医師が「この患者さんにはこの薬が必要です」と行政に申請する手続き(special authority:特別承認)が別途必要になります。少し手間はかかりますが、承認されれば自己負担ゼロで公費負担となりますので、これらの薬を服用中の方は薬剤師にご相談ください。

 更年期のホルモン補充療法についても、需要の大きさは数字が物語っています。カナダでは40歳以上の女性1,000万人以上が更年期の影響を受けており、これは国全体の人口のおよそ4分の1に相当します。

 更年期症状を経験する女性は全体の約80%にのぼり、適切に治療しなければ生活の質の低下につながります。しかし、2020年から2023年の3年間でホルモン療法を求める45〜65歳の女性が20.7%増加しているという近年の傾向を見ると、潜在的な需要の大きさを示しています。ナショナルファーマケアにより、指定された経口薬(Estrogenやprogesterone)、貼付剤(Estradotとそのジェネリックなど)、ジェル剤(Estrogel)、膣内投与薬(Premarin cream、Imvexxy)など、さまざまな剤形の薬が負担の対象となりました。

 利用の手続きはシンプルです。BC州のMSP(メディカルサービスプラン)に加入していれば特別な登録は不要で、処方箋とBCサービスカードを薬局にお持ちいただければ、調剤手数料を含め自己負担ゼロで受け取ることができます。もしMSPを申請したばかりで、公費負担が開始されていないという状況であれば、必要最小限の量の薬を自己負担として購入し、数週間おきに、ナショナルファーマケアが有効になっているかを薬剤師に確認するのが良いと思います。

 4月1日からは、ランセット(血糖値測定時に指を穿刺する針)、アルコール綿、血液・尿ケトン検査ストリップも複数のプランで給付対象に加わりました。ただし、最初から全額公費負担となるのはプランC(生活支援を受けている方向け)やプランW(先住民族向け)の加入者に限られます。フェアファーマケアの場合は、免責金額に達してから公費負担が適用される仕組みですので、ご注意ください。

 薬局へのお問い合わせが特に多い項目として、血糖値測定器のテストストリップや持続血糖測定器(CGM)のセンサーがあります。現時点では、これらはナショナルファーマケアプランの給付対象には含まれていません。その代わりに、通常のBCファーマケアのもとで、免責金額を超えた時点から70%が公費負担、年間最大額に到達後は自己負担がゼロとなります。

 テストストリップに関しては、費用が自動的に全額カバーされるのではなく、ベネフィット(助成)を受けるための資格を得るというステップが必要です。具体的には、糖尿病教育クラス(注)で測定器の正しい使い方や管理方法についてのトレーニングを受けることが条件となります。この指導を受けることで初めてベネフィットの対象として認定され、公費による助成が受けられるようになります。また、CGMの場合は、トレーニングは不要ですが、BCファーマケアの特別承認(Special Authority)が必要となります。

 ナショナルファーマケアやBCファーマケアの適用範囲、ご自身の負担割合など、ご不明な点がございましたら、お気軽に薬剤師にご相談ください。

(注)例えば、Vancouver Coastal Health Diabetes Education Centresがこれに該当します。https://www.vch.ca/en/service/diabetes-education-centres

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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