みなさんのおかげです!

 先日、日加トゥデイの「日系だより:日本人薬剤師の佐藤厚さん、BC州薬剤師協会のBowl of Hygeia賞を受賞」でも取り上げていただいたように、このたびBC州薬剤師協会(BCPhA)の2026年度「Bowl of Hygeia Award(ボウル・オブ・ハイジーア賞)」を受賞いたしました。

 本賞は、地域社会への貢献や公衆衛生活動において顕著な功績を挙げた薬剤師に贈られるもので、このような名誉ある賞をいただけたのも、本コラムの読者のみなさまをはじめ、これまで私を支えてくださったすべての方のおかげに他なりません。心よりお礼申し上げます。

受賞を通じて学んだこと

 今回の受賞に際して、不勉強な私が学んだことは、ギリシャ神話でした。Bowl of Hygeiaの「Hygeia」とは、ギリシャ神話に登場する健康・衛生を司る女神ハイジーア(ギリシャ語ではヒュギエイアと発音)のことで、英語で公衆衛生を意味するhygieneの語源にもなっています。

 ハイジーアは医術の神アスクレーピオスの娘で、アスクレーピオスが治療を担ったのに対し、ハイジーアは病気の予防と健康の維持を象徴する存在となりました。また、このハイジーアの杯は、パリやアメリカの薬剤師会でも薬学のシンボルとして用いられています(と、時間が経って知りました)。

カナダで薬剤師になるまで

 そもそもなぜ私がここカナダに辿り着いたかといえば、大学1年生の春休みを利用してバンクーバーを訪れたことに始まります。生まれて初めての海外旅行で、自然豊かな土地と気さくなカナダ人の性格がとても気に入りました。そして、職能が進化し続ける北米の薬剤師に強い興味を持ち、私もカナダで薬剤師として働きたいと思いました。

 ちなみに、東京都品川区にある母校・星薬科大学の創立者、星一先生の胸像には「本学は世界に奉仕する人材育成の揺籃である」と刻まれています。学生時代の私はその言葉に強く心を動かされ、自然と「世界」を意識するようになりました。また、「親切第一」という教育理念も、シンプルでありながら、薬剤師のマインドセットの根幹をなすもので、今も自分の中に生き続けています。そして、大学院時代、実験が下手で「進路は海外!」と語る私を叱責や否定することなく「君のような生き方、俺は好きだよ」と励ましの言葉をかけてくださった故・鎌田勝雄先生には、心より感謝の意を表したいと思います。

 それにしても、要領の悪い私にとって、カナダで薬剤師になるまでの道のりは平坦ではありませんでした。国家試験は筆記と実地の二部構成ですが、実地試験では3度不合格となり、4回目でようやく合格しました。ここまで粘った例は、少なくとも自分の周りでは聞いたことがありません。その間、日本とカナダを行き来しながら好き勝手にやっていた私を見守ってくれていた母には、今でも頭が上がりません。

 実地試験での度重なる不合格の後、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の外国人薬剤師向けブリッジングプログラムを受けることになり、その一環として実習に行ったのが、バーナビーにあるロンドンドラッグスでした。当時は自分で実習先を探さなければならず、必死でした。しかし相手の身になれば、どこの馬の骨ともわからない、突然押しかけてきた自称外国人薬剤師を教える側の方が、どれだけ大変だったかと思うと、今でも感謝しかありません。

 この実習中にたまたま本社の採用担当の人がお店を訪れ、話をする機会がありました。その結果、「ギブソンズならフルタイムで雇うから、とにかく実地試験に合格して」と声をかけていただき、まともな就職活動もせずに就職先が決まってしまったのです。人とのつながりの大切さと、ありがたさを改めて実感した出来事でした。実習先でお世話になった先輩薬剤師のみなさんには心から感謝しています。

 また、この頃バンクーバーで出会った妻の応援のおかげもあり、カナダの薬剤師になることができ、18年間ギブソンズで仕事を続けて現在に至ります。

地域に寄り添う薬剤師として

 ギブソンズのロンドンドラッグスでカナダの薬剤師デビューしたと言っても、最初の数年は本当に大変でした。仕事を覚えるのが大変なだけではなく、英語に慣れて、コミュニティに溶け込むことにも時間がかかりました。当時のメイン薬剤師は大ベテランばかりで、忍耐強く指導していただいた彼らにはどんなに感謝しても足りません。

 それでも仕事に慣れて、他の薬剤師が順に会社を去ったため、2019年からはマネージャーを任されることになりました。2025年は近隣のワクチン接種機関がすべて接種を中止し、私の薬局がギブソンズで唯一のワクチン接種拠点となりました。以来、これまでにも増して地域の方々のワクチン接種を担っています。

 また、小さい町ですから、コロナ以降営業時間を短縮したままの薬局が閉まった後にフェリーでギブソンズに到着した患者さんのために薬局に戻ったり、急を要する場合にはバンクーバーまで自分で薬を取りに行ったりすることもあります。これからも、地域の方々に寄り添える存在でありたいと思っています。

みなさんのおかげです

 受賞後、コミュニティのFacebookページで今回のニュースが取り上げられ、大変多くの「Like」をいただきました。私はソーシャルメディアに疎い上に、脚光を浴びることに慣れていませんから、いつかコメントにカスタマーサービスに関する苦情が入るのではないかという不安が先行して怖くなりました。

 しかし、勇気を出して寄せられたコメントを見ると好意的なものばかりで、ホッとしてお礼のコメントをポストしました。このように、正式な発表と表彰式があってからの4週間ほど、色々な意味でドギマギしていましたから、大きな波が過ぎて、ようやくホッとしているところです。

 これまでの経験を通じて、自分が地域の患者さんを支えてきたというよりも、薬局で出会った多くの人々から学び、支えられてきたという思いが強いです。地域に根ざした薬剤師の実践とは、その関係性の中で育まれていくものなのだと感じています。

 試験に合格できず、先が見えずにもがいていた20代の自分自身に、「いずれ報われる時が来るから、諦めずに頑張れ」と背中を押したいという気持ちが生まれたのと同様に、次世代を担う日本の若い薬剤師のみなさんにとっても、ささやかな励みとなれば嬉しいと思います。

 2022年以来UBCのFlex PharmDプログラムに在籍しながら学位取得に向けて勉強してきましたが、ようやく所定の単位を取得し、あとは卒業試験を残すのみとなりました。来年までには名前に「Dr.」がつく予定ですが、ボウル・オブ・ハイジーア賞と合わせて、その名に恥じないよう一層研鑽を積み、精進して参りたいと思います。

 読者のみなさま、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

お薬についての質問や相談はこちらからお願い致します。https://forms.gle/Y4GtmkXQJ8vKB4MHA

全ての「また お薬の時間ですよ」はこちらからご覧いただけます。前身の「お薬の時間ですよ」はこちらから。