書道や日本の記憶にインスパイアを受けてダンスを制作~カーター詩音・スカイさん~(後編)

Performances at Kinetic Studio in Halifax, Nova Scotia. February 2020。Photo courtesy of Kevin MacCormack
Performances at Kinetic Studio in Halifax, Nova Scotia. February 2020。Photo courtesy of Kevin MacCormack

 コンテンポラリーダンスのアーティスト、カーター詩音・スカイ(以下、詩音)さん。スコシアバンク・ダンスセンターの「Iris Garland Emerging Choreographer Award」を2021年6月に受賞した。同賞は新進のダンスアーティストをサポートするためのもの。

 また、制作したショートフィルムはアメリカやトルコ、ギリシャ、キプロスなどで上映され、世界に活躍の場を広げている。

 カナダ人の父と日本人の母を持つ日本生まれ、6歳まで日本で育ったという詩音さんにZoomで話を聞いた。2回に分けて紹介する。前編のダンスと日本語学習や書道とのつながりに続き、後編では日本の祖父母との思い出など。

– スコシアバンク・ダンスセンターが新進のダンスアーティストをサポートする「Iris Garland Emerging Choreographer Award」を受賞したそうですね。おめでとうございます。

 ありがとうございます。「Iris Garland Emerging Choreographer Award」は19歳から35歳までの新進のダンスアーティストやダンスを学ぶ学生に贈られる賞で、スタジオなどでのリハーサルなどのサポートもしていただけます。まさかいただけるとは思っていなかったので、受賞できて光栄でしたし、とてもうれしかったです。

 2022年にはスコシアバンク・ダンスセンターでパフォーマンスをする予定です。

– 2019年に大学を卒業してから、ダンサーとしてのキャリアを本格的にスタートしたのでしょうか。

 はい。でも卒業したら、すぐに仕事が来るという世界ではないので、さまざまなイベントのオーディションに参加してキャリアを積んでいるという状況です。

 すぐに受け入れてもらえるわけではないということも知っていましたので、少しずつ、小さいイベントなどから始めています。

 10月にモントリオールでパフォーマンスを予定していて、今はそのリハーサルなどの準備で忙しくしています。

Artist residency at LEÑA Artist Residency on Galiano Island, BC. December 2020。photo courtesy of Dayna Szyndrowski
Artist residency at LEÑA Artist Residency on Galiano Island, BC. December 2020。photo courtesy of Dayna Szyndrowski

– 新型コロナウイルス感染拡大で特にアーティストの方たちは、活動の場所を失って苦労していると聞きます。

 感染拡大による規制で会場でのパフォーマンスがキャンセルや延期になってしまいました。特に昨年3月から4月にかけては何をしたらいいのか、どうしたらいいのか分からなくなってしまいました。

 そんな中で自分の部屋や屋外で動画撮影を始めました。さまざまな規制や制限がありましたが、コロナの中でもアーティストとして何とかクリエイティブであり続けていきたいと思いました。

 こうして制作したショートフィルムをアメリカやトルコ、ギリシャ、キプロスなどに送り、上映してもらうことができました。

 フィルム制作はパンデミックがなければ時間をかけては行わなかったと思っています。コロナが収束しても、異なるデバイスを使うなどしてダンスフィルムの制作を続けて、デジタルコンテンツを発表していきたいですね。

– 日本のおじいさんの思い出を活かした作品もあるそうですね。

 はい、ソロ作品「Residuals(住み・墨)」で、「ルーツ」を日本とカナダに持つという私のアイデンティティをベースに作りました。二つの文化、バックグラウンドのもとで育った経験を反映したものになっています。

 小さいときに日本からカナダに移ってきたことで、特に伝統的な日本文化に対しては隔たりを感じることがありました。カナダで育ったことで、日常的に見ることができなかった、触れることがなかった日本文化があると感じてきました。

 またカナダで何度か引っ越しをしたこともあり、これまで育ってきた中で私にとっての普遍的な「ホーム」は日本の祖父母の家なんです。生まれたときからずっと変わらないもの、祖母が今も住む家に、強い思い入れがあります。とても大切なものです。

 この作品では祖父母の家や、その家に暮らしていた家族の記憶をたどりながら、コレオグラフィー(振り付け)を考えました。

 たとえば亡くなった祖父はいつも裏庭でタバコを吸いながら、しゃがんで盆栽の手入れをしていました。反対を向いた祖父の背中を今もはっきりと覚えています。

 作品では祖父母の家での記憶を扱い、ステージの一番奥に後ろ向きにしゃがんでいるところから始まります。祖父がいつもそうしていたように…。続いて、祖母がいるキッチン横の畳の部屋へとステージを移動します。 祖母はいつも正座をしていました。こういった記憶のひとつひとつをダンスで描いています。 

– 日本の親戚の方たちにも作品を見ていただきたいですね。詩音さんの今後の目標について聞かせてください。

 プロのダンスアーティストとして日本に行って、パフォーマンスを行うことです。さらに日本のアーティストとコラボレーションして一緒に作品の制作などできたらいいですね。

 これまでにもカナダで活躍している書道家の姫洲さんと作品を作ったことがありますが、もっといろんな方と一緒に新しいことに挑戦してみたいです。

 ダンスでは今後も私と日本との関係を映し出した作品を、さらに書道以外の異なる日本文化を活かした作品を作っていきたいです。カナダには日系アーティストの横のつながりもあるので、日系アーティストとしての活動も続けていきたいとも思っています。

 最後にもうひとつは資金が必要なので、お金持ちになれたらですが、バンクーバーかどこかで建物を購入して、それを改築して新しいアートのスペースにできたらいいですね。ダンスクラスやワークショップ、音楽など、いろんなアーティストが来て利用してもらえる場所です。そんな場所を作るのが夢です。

コンテンポラリーダンスのアーティスト、カーター 詩音・スカイさん 。Photo courtesy of Bee Kent
コンテンポラリーダンスのアーティスト、カーター 詩音・スカイさん 。Photo courtesy of Bee Kent

カーター詩音・スカイさん
ウェブサイト

https://shionskyecarter.com/

インスタグラム
https://www.instagram.com/shionskye/

(取材 西川桂子)

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