「カナダで出会った新渡戸稲造」④

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札幌農学校 そしてアメリカ留学 

 この「カナダで出会った新渡戸稲造」ですが、バンクーバー新報に2017年6月から7回ほど掲載されました。その後、新たな発見や付け加えたいこと、そして少し直したいところなども多々見つかり、今回の新しいオンライン版バンクーバー新報に改めて投稿したく、よろしくお願いいたします。

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 東京に住んでいる太田叔父さんの養子になった稲造が盛岡から東京にやってきたのは、明治4年(1871年)、9歳のときで、名前も太田稲造と変わりました。そのころの東京はレンガ造りのビルが建ち並び、道もどんどん整備され、馬車が走り、翌年1872年には新橋・横浜間に鉄道が開通するなど、文明開化の音が鳴り響いていました。

 ちょんまげも切り、洋服を着る人も多くなり、そんな光景を見て稲造はびっくりしたことでしょう。すぐに英語学校に入ります。当時は西洋に追いつけと、若者の間で英語学習がブームになっていたようです。

 15歳(1877年)のとき、祖父や父の遺志を継ぎ、農学を学ぶため、創立されたばかりの札幌農学校(いまの北海道大学)に2期生として入学します。アメリカから教頭として招いたクラーク博士はわずか8ヶ月だけの在任でしたが、1期生に大きな影響を与えました。

 「少年よ、大志を抱け」はあまりにも有名です。稲造が入学したときは、すでにクラーク博士はいませんでしたが、博士の影響は大きく、キリスト教の洗礼も受け、同期には生涯の友となるキリスト教伝道者の内村鑑三もいました。

 授業はすべて英語で行なわれ、聖書や多くの本を原書でむさぼるように読んだようです。外国の文化を吸収し、世界の仲間入りしたいという当時の若者の強い意欲が感じられます。

 そして3年生(18歳)のとき、稲造にとって痛恨の出来事が、母の死です。9歳のときに別れてから、一度も会っておらず、頑張っている大学生活のことを母親に報告したいと思っていた稲造にとって、母の死は悔やんでも悔やみきれないことでした。その後の彼の書物などにも、亡き母への思いが数多く見られます。

 札幌農学校を卒業して、21歳のとき東京に戻ります。さらなる勉学のため、東京帝国大学(いまの東京大学)に入学します。面接のとき、農学と関係ない英文学などを学びたい理由として、教授に答えた言葉が有名です。「太平洋の橋になりたいと思います」

 それはまさに、「しっかり勉強して、立派な人になりなさい」と育てられ、今は亡き母に向かって自分の志を述べたものだったのでは、と思えてなりません。

 UBCの新渡戸ガーデンに「願わくは われ太平洋の橋とならん」の石碑があります。

UBCの新渡戸ガーデンにある「願わくは われ太平洋の橋とならん」の石碑 Photo © 矢野修三
UBCの新渡戸ガーデンにある「願わくは われ太平洋の橋とならん」の石碑 Photo © 矢野修三

 今まで何回も見ましたが、最初のころは、この言葉が21歳のときのものとは知りませんでした。でもそんなに若い時の決意だったのか、と分かって、改めてこの石碑を眺めると、何か胸に迫るものを感じてしまいました。

 東京帝国大学で勉強しているうちに、稲造は日本の教育は外国と比べてかなり遅れていると感じ始めたようです。もっと新しい学問や西洋文化を学ぶには日本では難しく、どうしてもアメリカに行って勉強したいと思うようになりました。

 そしてその決意を養父の太田時敏に打ち明けます。でも、当時は外国に私費で留学するなどほとんど考えられなかった時代ですし、洋品店の経営もうまくいっておらず、当然ダメだと。

 しかし養父は「よし、行くがよい」と、なけなしのお金を用意して温かく送り出してくれました。このようなきびしい状況の中で、未知の外国、アメリカに1人で勉強しに行こうなどと考えた稲造もすごいと思いますが、それを許可した養父・太田時敏の決断も、稲造の将来性を見据えたすごい決断であった、と確信します。

 この時の稲造の養父に対する感謝の気持ちは言葉では言い表せないほど大きなものであり、のちの著書「武士道」にもそのことが記されています。

 そして太田青年は希望と不安を胸に、太平洋のかけ橋になろうと、アメリカに旅立ちました。1884年(明治17年)の秋、稲造22歳のときでした。

稲造の命日、10月15日に、UBCの新渡戸ガーデンにある 太平洋の架け橋の上で Photo © 矢野修三
稲造の命日、10月15日に、UBCの新渡戸ガーデンにある 太平洋の架け橋の上で Photo © 矢野修三

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