<プロローグ>
2026年3月14日、神戸・武庫川女子大学附属高等学校グローバルサイエンスコースの生徒34名がカナダ・バンクーバーへ渡りました。
彼女たちが追いかけたのは、海から川、そして森へと繋ぐ命の循環。日本とカナダ、場所は違えど共通する「自然との共生」というテーマに向き合い、知的好奇心と感情が揺さぶられる2週間の軌跡を3回のシリーズで辿ります。 本シリーズでは、多様な背景を持つ研修リーダーやピアサポーターたちだからこそ見えた、生徒たちの表情や気づき、そして成長を、それぞれの視点から綴ります。カナダで紡がれた「命の物語」を、それぞれの思いとともにお届けします。
「森は海の恋人」という視点を学ぶ事前交流会
今回のカナダ海外研修前に、生徒たちは、現地バンクーバー近郊の現地の高校生や大学生7名とオンラインで3回つながり、日本とカナダで活気的な対話の場が生まれました。
同世代ならではの視点でカナダを語る現地生が、大学や高校生活を紹介する横で「普段どんな自然の中で過ごしているのか」「森や海、川との関わりはどのくらいあるのか」といった対話を重ねました。アクティビティリーダーとして、これを通してカナダの人々にとって、自然とともに生きることは特別なことではなく、日常の一部であることを伝えていきたいと願いました。
カナダと比べることで、日本の生徒たちは自分たちの生活を見つめ直し、「自然との距離」や「社会の在り方」について考え始めていったのです。
日本とカナダを繋ぐ哲学
まずは日本の現状をより深く知るために、宮城県気仙沼の牡蠣養殖漁師であり「森は海の恋人運動」の創設者、故畠山重篤氏の活動についても学びました。「海の環境を守り、牡蠣を守るためには、海に注ぐ川、そして上流の森を守ることが不可欠である」という畠山氏の環境哲学を知り、『ではカナダではどうなっているのだろうか?』という疑問に繋いでいくことは、人と森と海の生態系を理解する上での大きな指針となりました。
畠山氏にはUnited Nationsから森のヒーロー賞が送られています(2012年)。なぜ漁師が?と思うでしょうが、これはシリーズ最後の『森と海は恋人NPO』についての寄稿文で説明することにします。
1989年から宮城の大川上流で植林活動を続け、東日本大震災の苦難を乗り越えてなお、自然と共生する地域づくりに尽力する畠山氏の姿。今はこの意思を息子の畠山信氏がしっかり受け継いで活動をされています。
森は海の恋人NPO団体の今までの歩みを知ることで、日本国外では一体どうなっているか?という点に、生徒たちは興味を持ち、「環境問題は国境を越えた共通の課題である」と少しずつ気づいていきます。カナダのサーモンが川を遡り、森を育む仕組みは、まさに畠山氏が提唱してきた「森・川・海」の循環と繋がりそのものです。自然と人々が繋がっているのは日本国内だけではなく、世界でも同様だという認識が高まっていきます。


国際交流の中で、生徒たちはカナダの学生が当たり前のように話す自然との関わりに触れ、「自然が身近にある生活とはどういうものなのか」といった関心を持ち始め質問が出始めます。明確な問いはこの時点でまだ生まれていませんが、深く考えていくきっかけになったのは確かです。

サーモン・フォレスト・プロジェクト・フィルムについて:
数々の国際フィルムフェスティバルで優秀賞を受賞した「Salmon Forest Project Film」は、映像作家Bill Heathによるドキュメンタリー作品であり、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の沿岸雨林におけるサーモンと森林、そして人々の関係を描いています。
本作品には、先住民の知識と西洋科学の両方の視点が織り込まれており、The University of British Columbia (UBC)の研究者であるDr. Teresa Ryanらも登場します。
サーモンが運ぶ栄養が森全体の生命を支えるという循環を通して、自然のつながりの重要性と、そのバランスが失われつつある現状を静かに問いかける多くの人に観てもらいたい作品です。
対話から自分ごととして広がる学び
事前研修の目的の一部であった国際交流を経て、生徒たちの意識には大小なれど関心度の差あれど、なんらかの小さな変化が生まれているのは確かでした。これまで気にかけていなかった森や海、川といった自然が、カナダの学生との対話を通して「自分にももっと関係のあるもの」として認識され始めたのです。
そうなると、
「サーモンが川や、森、海とどのようにつながっているのかを実際に見てみたい」
「先住民の人たちは自然とどう関わっているのか知りたい」
と、希望や問いが湧いてきます!
こうした具体的な関心は、「ただ海外に行く」という受動的な姿勢を、「自ら学びを掴み取る」という能動的なものへと変えていきました。
カナダと日本、場所は違えど、自然を愛し、人との関係性を考え、次世代へ資源を受け継ぎ、人とひとを繋ごうとする国民の想いは世界共通です。事前交流会は、生徒たちが「自然とのつながり」を自分ごととして捉え、グローバルな視点で未来を描き始めるための、大事な第一歩となりました。
寄稿者:山下 樹春
カナダ在住7年目。University of VictoriaにてChild & Youth Care分野を学びながら、留学中の小学生・中高生を対象とした英語学習支援、生活面のメンタリング、国際交流プログラムの引率を行っている。
自然とつながりをひらくカナダ研修の第一歩
カナダ到着後3日目に行われたウエルカムアクティビティを通して、英語やホームステイへの不安を抱えた生徒たちが、人とのつながりの中で表情をほぐし、自然や社会、環境を学ぶ第一歩を踏み出す様子を追います。
不安の先に見えた学びの景色
3月14日から29日まで、私の出身校である武庫川女子大学付属高校の生徒さんが、バンクーバーへ海外研修に来ました。私は多くのプログラムに同行し、生徒さんのサポートを担当しました。今回の研修の目的は、カナダの豊かな自然と人間の共生を肌で感じ、日本の社会や環境を見つめ直すこと。
到着して間もない研修初日。初めてのホームステイや慣れない英語、時差の疲れも重なり、生徒さんの表情には期待よりも不安と緊張が色濃く滲んでいました。「食事が合わない」「言葉が通じない」。そんな戸惑いから涙する生徒も。不安を抱えた生徒たちは、2週間の研修で何を学び成長していくのでしょうか?
研修最初の全体アクティビティはLCI Language School7階の広々とした教室から始まりました。雨模様の一日でしたが、大きな窓から光が入り、その先には遠くの山並みが見えていました。これから森や海や川へとつながっていく研修の入口として、印象的な空間でした。
生徒たちは、到着後のホームステイ先での二日間を経てこの日を迎えました。英語がうまく伝わらない不安、時差による疲れ、午前中に3校に分かれて参加した語学学校初日の緊張も重なり、表情はまだ少しかたく見えました。しかし、事前研修から交流してきたスタッフや、カナダ現地の大学・高校に通うボランティア学生さんたちと顔を合わせるうちに、少しずつ笑みがこぼれ始めました。人とのつながりが、学びの土台をつくっていくことを感じる時間でした。

七田式が伝える、脳の育ちとことばの見方
まずはAK Jump Educational Consulting Inc.の代表高林美樹さんによる、研修中、WOWと感じたことや問いを持ち続け、声を発信しようというウェルカムスピーチ、続いてLCI Language School校長Zoraida Alsoweis Carrascoさんからの、カナダの多文化環境で英語を思い切り楽しもうとのごあいさつがあり、その後、私から七田式右脳語学習得法についてお話ししました。
七田式教育は、脳科学の知見を土台に、右脳と左脳の働きの違い、発達年齢の特徴に合わせて子どもの力を育てていく日本で生まれた教育法です。知識の先取りだけでなく、親子の心のつながりを大切にしながら、子どもが本来持つ可能性を伸ばしていく点に特色があります。現在は世界各地でも教室が展開されています。
私は日本で17年間講師として経験を積んだ後、2010年に七田式認定フランチャイズ教室をバンクーバーに設立しました。これまで30年以上、子どもたちの可能性を信じ、その才能を引き出す教育に力を注いできました。また自身の親子留学を通して、子どもはなぜ文法や文字を知らないうちから言葉を使いこなせるのかという問いに関心を持ち、語学習得について研究を続けています。
ホストファミリーとの会話がうまくいかず自信を無くしている生徒たちに伝えたのは、『英語の聞き取りや発音がうまくできないのは能力不足だからではない』ということでした。日本語環境で育った私たちは、日本語特有の音の聞き方や発音の仕方を自然に身につけています。そのため日本語とは大きく違う英語の音をすぐに正確にとらえられないのは当たり前なのです。その話に、生徒たちは安心したような表情で耳を傾けていました。
その後は、右脳を使った記憶法にも挑戦しました。ゲーム感覚で問題に取り組むうちに、会場には笑い声が増え、最初の緊張がほどけていったように思います。

「答えのない教室」で見えた、思考する生徒たち
続いて行われたのが、バンクーバーの高校で数学の教師として勤務する梅木卓也先生による答えのない教室のレッスンです。梅木先生は、BC州のSimon Fraser大学にて、Peter Ljedahl氏が長年の研究をもとに発展させてきた教育方法を学びました。学習者が自ら考え、仲間と対話しながら理解を深めるためのレッスン作りとして世界中の教師が取り組んでいます。
梅木先生は日本で、独自の主体性を伸ばす授業方法を伝授されています。あらかじめ決まった正解を当てるのではなく、生徒が予想し、試し、修正し、対話しながら自分なりの納得解をつくっていく学びです。梅木先生は、この教育法を日本に広めることに注力し、頻繁に体験会や講演会を行い、日本からの研修受け入れにも取り組んでおられます。
生徒たちはトランプでランダムに3人のグループに分けられ、グループごとに大型ホワイトボード、マーカー1本、イレーザー1つが与えられました。この教育法では、協働グループの作り方や、書き消しできるホワイトボードの前に全員が立って考えること、マーカーやイレーザーの数までもが重要な実践の一つとされています。
最初の課題は、アラスカのカクトビックの中学生たちが、自分たちの言語であるイヌピアックに合う独自の数体系を築いた背景をもとに、提示された例から1〜20までの表し方を考えるものでした。生徒たちはアイデアを共有し、何度も書いては消し、また書き直していました。最初は遠慮がちだった声が次第に大きくなり、真剣な表情で意見をぶつけ合う姿が印象的でした。
二つ目の課題は、環境問題をテーマにしたものでした。まずは環境に悪影響を及ぼす要因を話し合い、そのあとでプラスチック包装や車通勤など与えられた10個の要因をどう分類し、何を基準に並べ替えするかを考え、その理由をことばにしていきます。この課題に正解はなく、まさに『答えのない問題』なのですが、あるグループは身近さで整理し、別のグループは影響の大きさで考えていました。同じテーマでも、どの視点から見るかで答えが変わることに、生徒たちは驚いたような表情を見せていました。


森、海、川、そしてサーモンへつながる学びの入口
全体研修の初日、生徒たちはまだカナダの森にも海にも川にも出かけていません。サーモンや先住民の歴史に直接触れたわけでもありません。しかし、自然と社会、環境と人とのつながりを考える準備は、すでに教室の中で始まっていました。文化や歴史に触れ、自然や社会の問題を自分ごととして捉える経験の積み重ねが、これからのカナダでの体験をより深く受け止める感性のようなものを育てていくのだと思います。
初日の活動を通して印象に残ったのは、不安や緊張を抱えていた生徒たちが、人とのつながりの中で安心を得て、積極的になり様々なことに興味を持ち出したことです。自分の考えを言葉にし、異なる意見に触れ、物事を多面的に見ようとする経験は、これから自然や社会と向き合っていくための大切な土台になるはずです。ここから始まるバンクーバーでの生活と、森、海、川、サーモン、そして先住民の文化や知恵に触れる体験が、生徒たち一人ひとりに、多様な困難に向き合いながら自ら成長していく力と自然や環境を守る責任を自らのものとして受け止める意識を育む機会になることを願っています。
寄稿者:高橋容子
七田キッズアカデミーカナダ校長。武庫川女子大学附属高校、武庫川女子大学卒業生。脳科学を取り入れた教育法のスペシャリストとして、日本とカナダで赤ちゃんからシニアまでの指導に従事。
森とサーモンが教えてくれた共生の知恵
カナダ・バンクーバーでの自然体験を通して、生徒たちはサーモンの命の循環や先住民の価値観に触れました。原生林の中での学びは、単なる環境保護の知識を超え、自然と人との深い「つながり」を再確認し、自分自身の生き方を見つめ直す貴重な機会となりました。
サーモンと森から学ぶ命の循環
午前中は語学学校でのレッスン。すべて英語で行われる授業は、日本での学習とは異なる集中力を要します。
生徒たちからは、「普段以上に頭を使うので大変ですが、その分とても充実しています。もっと積極的に参加したい」「現地の友人もでき、交流の面でも貴重な経験になっている」といった声が聞かれました。慣れない環境への戸惑いを、自らの力で「前向きな意欲」へと変えていく逞しい姿が見られました。
そして、午後のアクティビティであるCapilano River Hatchery(キャピラノ鮭孵化場)では、サーモンを軸とした自然の生態系について学ぶために、Talaysayの先住民の環境ツアーに参加をしました。原生林の中での学びは、単なる環境保護の知識を超え、自然と人との深い「つながり」を再確認し、自分自身の生き方を見つめ直す貴重な機会となりました。

現地に到着し本研修一回目の森林散策が始まります。
雨の森の中へ入ると、巨木に囲まれ静かで寂然とした空間が出迎えてくれました。ノースショア山脈の雪解け水の流れや、クリーブランドダムから放流される力強い水の音が川から広がるなかを、生徒たちは周囲にキョロキョロ目を向けながら歩いていきました。
先住民ガイドであるCultural Land Ambassadorの説明が始まると、生徒たちは真剣な表情で耳を傾け、サーモンが川を遡上する理由や自然の循環について理解を深めていきます。
大自然を目の前にして、環境や生き物への関心が高まっていく数人の生徒さん
の様子が印象的でした。日本から到着間もなく、時差や慣れないホームステイでの環境や雨ばかりの薄暗いバンクーバーの気候もあり、多くの生徒たちは森に癒されながらも疲れた表情もみられ眠そうでした。
先住民の価値観と自然とのつながり


ガイドの説明の中では、カナダの先住民(First Nations)が数千年にわたり大切にしてきた考え方についても学びました。
そこでは、私たちの生活は自然の循環の中にあり、食べ物や水、木々や植物などすべての恵みは自然から与えられているという価値観が大切にされています。
そのため、自然から受け取るだけではなく、自分たちもその循環の一部として自然へ返していく「Give Back」という考え方が重視されています。
例えば、植物は単なる薬やハーブではなく、自然との繋がりを象徴する存在として、深い感謝とともに受け取ります。「森の木々はすべてを教えてくれる先生である」という教えに触れ、生徒たちは自然そのものが人の生き方やバランスを導いてくれる精神的(Spiritual)な存在であることを学びました。
自然と自分の関係に気づく時間

森林での説明の途中には、お茶をいただく時間もあり、生徒たちは静かな自然の中でリラックスしながら過ごしました。
その時間の中で、水や食べ物、植物といった日常の何気ない存在が、自然の循環によって支えられていることに意識が向けられていきます。
「日本での当たり前」と「カナダでの気づき」を照らし合わせることで、自分たちの生活がいかに自然と地続きであるかを再確認する時間となりました。今回の体験は、自然を客観的な「環境」としてではなく、自分自身とつながる「存在」として捉える大きな第一歩となりました。
生徒の感想:
訪問前は想像もできませんでしたが、先住民の方々は森林を非常に大切にしており、自然と共に生きる姿勢が印象的でした。特に、食料を得るために葉を採取した際には、そのお礼としてタバコの葉や自らの髪の毛を自然に返すという文化に大きな驚きを感じました。
今回の体験は、現地でしか得ることのできない貴重な学びとなりました。
先住民の考えに触れ、カナダの森を実際に歩いてみて、改めて自分たちは日本でいったいどれだけ森を大事に生きているかを考えるきっかけにもなったようです。
寄稿者:山下 樹春
カナダの海と平和、未来を創る。ノースバンクーバーで学ぶ共生の形
大自然と都市が調和するノースバンクーバーを舞台に、食・平和・建築のプロフェッショナルを訪ねました。日系起業家の挑戦や被爆体験者の願い、環境に配慮した持続可能なまちづくりに取り組む建築家。多様な「生き方」に触れ、生徒たちの視野が日本を超えて世界へと広がっていく様子を追います。
海のエコシステムと日本の食卓|日系起業家から学ぶ「食」の未来
語学学校は3日目を迎え、クラスにも徐々に馴染んできている様子。「さまざまな国から来たクラスメイトとも打ち解け、会話を楽しめている!」と授業にも意欲的に参加している声を聞くことができました。
午後のアクティビティでは、ノースバンクーバーで「TSUKIJI KITCHEN」を経営するTSUKIJI FISH MARKET Inc.代表の疋田拓也氏を訪ねました。元築地卸販売業者の疋田氏は、現在カナダで海のエコシステムを守りながら日本とカナダをつなぐ、魚を卸す事業を展開されています。
生徒たちは、絶品のスモークサーモンを味わいながら、疋田氏の「移民物語」と「食の哲学」に耳を傾けました。単なる「美味しい魚」の提供ではなく、いかにして豊かな海を次世代に残すか。自然とビジネスを両立させる情熱に触れ、生徒たちは「食」の裏側にある環境との深い繋がりを実感していました。
「環境を守ることは、自分たちの食卓を守ること」。その言葉は、遠い世界の出来事に捉えがちな環境問題を、自分たちの生活や将来のキャリアの延長線上にあるものとして再定義してくれました。生徒たちは、普段口にする「食」の裏側にある深い繋がりを、肌で感じる貴重な機会となりました。


<過去を未来へつなぐ対話|被爆者・ランメル幸さんが語る平和の種>

スペシャルゲストとして、広島の被爆体験を持つランメル幸さんご夫妻をお迎えしました。被爆者としての葛藤を越え、東日本大震災をきっかけに「二度と同じ悲劇を繰り返さない」と決意し、カナダで平和活動を続けている幸さん。
その静かですが力強い言葉に、生徒たちは真剣な面持ちで聞き入っていました。過去の歴史をどう受け止め、自分たちの未来にどう活かしていくかという深い問いが生まれ、平和を「守る」ための当事者意識が芽生えた瞬間でした。
チャールズさんは、約70年前に東京大学へUBCから交換留学した際のエピソードも共有してくださいました。当時はカナダから日本へ渡る人が非常に少なく、難関大学とされる東大にもほとんど競争相手がいなかったため、比較的容易に留学の機会を得ることができたそうです。
また、日本とカナダをつなぐその経験は、現在は廃版となっている『ヴァガボンド日本を駆ける』(Fraser Journal Publishing)という書籍の中でも語られているとのことです。
<環境に配慮した次世代のエコ建築>
最後に訪問したのは、現地の建築事務所のSynthesis Design Inc.です。ここでは持続可能なまちづくりの鍵となる「エコ建築」の実践について学びました。カナダらしいメープル材をふんだんに活用し、人と自然が調和する形で設計された空間は、まさに共生の象徴です。
驚くべきは、この地で日本の伝統技法が評価されていることでした。釘や金物を使わず、木と木を連結させる「継手(つぎて)」や「仕口(しぐち)」という技法。この日本古来の知恵が「世界の持続可能性に貢献している」という事実に、生徒たちは自国の文化に対する新しい誇りと、グローバルなモノづくりの可能性を感じ取っていました。
建築家の方から伺ったのは、単なる建物の設計にとどまらない、「森と川が共存するエコシステム」という視点です。建築に使われる「木」の起源である豊かな森、そこから流れ出す海へと栄養を運ぶ川。これらすべてが繋がって一つの生命圏を作っているというお話は、疋田氏の海洋ビジネスの視点とも重なり、生徒たちに「環境保護と私たちの生活は地続きである」という深い気づきを与えてくれました。

さらに、スペシャルゲストとしてバンクーバー最高峰のオマカセ寿司店Sushi MAHANAを営むシェフ・起業家のYuki Aida氏が登場。この建築事務所のクライアントでもある彼女から、カナダへ渡った当時の苦労や、仕事・人生に対する信念を伺いました。
「自分のためではなく、誰かのためにエネルギーを注ぐこと」。この日本らしい献身的な精神が、多様な文化が混ざり合うカナダで最高級の評価を得ている事実は、生徒たちに「自分たちのルーツにある精神性が、世界を動かす力になる」という、何にも代えがたい自信を与えてくれました。

次回の記事では、UBCの森林学部が管理する森の中での研修やキャンパスツアー・模擬授業等の様子をお届けします。
寄稿者:齊藤 紗織
カナダ在住3年目。日本では地元の自動車メーカーで総務部を経験。その後、Coop留学でバンクーバーに留学し、現在はワーキングホリデーで滞在中。AK JUMPでの国際交流プログラムの企画や運営を担当している。
<本研修プログラムの実施・協力組織>
梅木卓也(うめきたくや)
カナダの公立中高一貫校。数学教師・数学教育研究者 。兵庫県出身。2007年度のワーキングホリデーを機にカナダに渡り、学童保育や特別支援教育の支援員として教育現場に携わる。2019年度よりバンクーバー市の中高一貫校で数学教員を務め、現在はBTCの発案者であるリリヤドール教授のもとで数学教育の修士課程を修了。「答えのない教室」の著者、BTCの監訳者であり、認定講師としても活動しています。
LCI Language School
バンクーバーの姉妹カレッジ「LaSalle College」内にキャンパスを構え、最先端の設備環境で学べる語学学校です。「使える英語・実践的な会話」に重点を置いた多彩なプログラムを展開し、専門分野(アカデミック・ビジネス等)のクラスも充実。フレンドリーな校風と一人ひとりへの手厚いサポート、さらにカナダ各都市を巡りながら学べる「カナダワイド」プログラムなど、その高い教育・サービス品質で定評を得ています。
Talaysay Tours(タレイセイ・ツアーズ)
2002年に設立された、シーシェルトおよびスクワミッシュ先住民族によって運営される教育・エコツーリズム団体です。「土地・コミュニティ・自己・精神」の調和を尊ぶ先住民の伝統的な価値観に基づき、自然と共生する「本来のあり方」を伝えるフィールド教育を提供しています。
TSUKIJI FISH MARKET Inc. / TSUKIJI kitchen
元築地魚市場の卸販売業者としての経験を持つ疋田拓也氏が代表を務める、バンクーバー拠点の海洋ビジネス企業。カナダの持続可能な漁業資源を世界へ届けるとともに、併設の「TSUKIJI kitchen」を通じて、食の背景にあるエコシステムや「次世代に豊かな海を残す」哲学を伝えています。
Synthesis Design Inc.
ノースバンクーバーに拠点を置く、数々の受賞歴を持つ建築設計事務所。自然界のエコシステムと住環境の調和を追求し、持続可能な建築(サステナブル建築)を牽引しています。
Sushi MAHANA
シェフ・起業家のYuki Aida氏が手掛ける、バンクーバー最高峰のオマカセ寿司レストラン。地元の厳選された食材と日本の伝統技術を融合した独自のダイニング体験を提供しています。
武庫川女子大学附属高等学校
「高い知性」「善美な情操」「高雅な徳性」を兼ね備えた有為な女性の育成を理念に掲げ、グローバルな視野を持って社会に貢献できる女性の育成に力を入れています。本研修を通じて、自発的な探究心と国際感覚を育んでいます。
AK Jump Educational Consulting Inc.
カナダ・バンクーバーに拠点を置き、年齢・障害・バックグラウンドを越えて、カナダでの留学・進学、そして多角的な学びへの挑戦を、インクルーシブなチームで支えます。小中高生の留学から、教育専門家・政策関係者・カウンセラー向けの研修まで。対話を通して問いを深め、思考を広げる学びをデザインします。


























