
旅行誌「コンデナスト・トラベラー」の読者が世界最高の列車旅を選ぶ「コンデナスト・トラベラー・リーダーズ・チョイス・アワード」で2025年に3位となるなど、世界屈指の高評価を受けているのがカナダの超豪華列車だ。大きな窓からカナディアンロッキーの絶景を眺めることができる観光列車「ロッキーマウンテニア」だ。
目が肥えた本物志向の裕福な顧客層に人気があり、繰り返し参加するリピーターも多いことから、運行するアームストロング・コレクティブのセールス部門アジア・中南米担当ディレクターのジュリー・ワン氏は「特に9月の紅葉シーズンに旅行する場合などには座席を確保するため、最大1年前から計画を立て、座席を予約することを強くお薦めしたい」と呼びかける。そんな特別な体験は、列車に乗り込む前から待ち受けていた。
(共同通信社経済部次長・VIAクラブ日本支部会員 大塚圭一郎)
▽ホテルの出発時は「荷物は客室に」
1990年に発足したロッキーマウンテニアはカナダ西部を走り、カナディアンロッキーの眺望を楽しめる四つのコースを設けている。運行期間は毎年4月中旬から10月中旬までで、いずれのコースもおおむね週2~3往復している。

うち3コースはブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーを発着し、カムループスを経由してアルバータ州のジャスパーへ向かう2日間のコース、カムループスを経由してアルバータ州のレイク・ルイーズおよびバンフへ向かう2日間のコース、BC州のウィスラー、クイネルを通ってジャスパーへ行く3日間のコースだ。
残る一つのコースはジャスパーとレイク・ルイーズおよびバンフを2日間でつなぎ、2026年6、7両月だけ設定している。
列車は、ともに貨物鉄道大手のカナディアン・ナショナル鉄道(CN)、カナディアン・パシフィック・カンザス・シティ(CPKC)の線路を借りて走る。寝台車は連結していないため、経由地のホテルに宿泊する。

本物志向の顧客から高評価を得ていることが物語る通り、サービスも至れり尽くせりだ。バンクーバーを出発するコースの参加者は、中心部のフェアモント・ホテル・バンクーバーといった主要ホテルから列車の出発駅へシャトルバスで送り届ける。
これらのホテルの宿泊者には、特典が用意されている。「列車内で使わないスーツケースなどの大きな荷物は、客室内にそのまま置いておいてください」というものだ。参加者がホテルをチェックアウト後、客室の荷物をスタッフが回収して次の宿泊先の客室まで送り届けてくれるのだ。
このサービスについてロッキーマウンテニアの客室乗務員は「スタッフは一生懸命に荷物を探してくれますが、気づいてもらえるように分かりやすい場所に置いておいてください」と強調する。というのも、「スタッフが荷物を探す際、クローゼットの中は確認してくれるかもしれませんが、浴室の中だと見落とすかもしれないので」と冗談を交えながら注意を促した。
▽出発駅はパシフィック・セントラル駅にあらず
ただし、同じホテルにはさまざまな行き先を予約している参加者がいるため、誤った宿泊先に荷物を届けてしまうアクシデントが不安視されるかもしれない。
心配ご無用。ロッキーマウンテニアの事務所がフェアモント・ホテル・バンクーバーの地下1階にあり、出発前日までに訪れると荷物に荷札を取り付けてくれるのだ。
バンクーバーからカムループス経由でジャスパーへ走る列車に乗る私も前日に事務所を訪問し、スーツケースに荷札を結びつけてもらった。
しかしながら、私が泊まった部屋にスーツケースを置いておいても絶対に取りに来てはくれない。なぜならば、バンクーバーのホテルの宿泊価格に恐れをなした私は、無人運転鉄道「スカイトレイン」の路線エキスポラインのメトロタウン駅から徒歩圏内のバーナビー市の民泊を予約していたからだ。

乗車日の受け付け開始は午前6時45分、搭乗開始は7時半に設定されているが、チェックイン時に「7時15分ごろに着けばいい」と教えられた。このため6時20分に民泊を出発し、メトロタウンからエキスポラインで6駅先のメインストリート―サイエンスワールドで下車した。
近くにはVIA鉄道カナダの大陸横断列車「カナディアン」(本連載第27~35回、シリーズ「カナディアン」参照)が発着するバンクーバー・パシフィック・セントラル駅があるが、ロッキーマウンテニアは異なる。駅からターミナル通りをエキスポラインに沿って東へ戻り、ゼネラル・モーターズ(GM)の自動車販売店の脇を右折した場所にあるのだ。

キャスターが付いたスーツケースを引っ張りながら約20分歩くと、「STATION」の大きな白文字を掲げたれんが造りの建物に到着。狙い通り7時15分に着いたことに満足した。
同じタイミングで、ホテルからのシャトルバスが真横に止まった。悠々と降りてきた参加者たちには中心部の高級ホテルに投宿する前に、大手航空会社のビジネスクラスでバンクーバーを訪れた層も多そうだ。格安航空会社(LCC)「ジップエア トーキョー」で成田空港からバンクーバーへ移動し、シャトルバスが見向きもしない民泊からとぼとぼ歩いてきたわが身との落差をつくづく思い知らされた。
▽出発の合図はバクパイプ
2階まで吹き抜けになった駅舎の入口でスタッフに乗車券を見せ、引っ張ってきたスーツケースを預かってもらう。
「搭乗時刻までおくつろぎください」と言われ、駅舎内を進むとソファが並ぶ待ち合いスペースになっていた。ふと左手を見るとロッキーマウンテニアの客車が停車しており、ワクワクする旅路への玄関口が目前に控えていることを演出していた。

ピアノの生演奏が流れる中でコーヒーや紅茶が用意されている。隣に座った女性は「友人と2人で参加しているの。この日をとても楽しみにしていたわ」と笑顔で話してくれた。
午前7時半の搭乗開始が迫ると、列車のマネージャーがあいさつに立った。「今から出発前の伝統的な儀式があります」と紹介し、参加者も乗車前のカウントダウンに加わるように呼びかけた。「スリー、ツー、ワン」の大合唱後、「オール・アボード(全員乗車)!」のかけ声が響いた。
木管楽器バグパイプを演奏している男性が屋外へ出ると、参加者を客車へと先導した。拍手に包まれる中、参加者はそれぞれの客車へと歩み出した。
列車は3両の電気式ディーゼル機関車が、計20両の客車とスタッフ用車両、電源車をけん引する。長大な編成なのには理由があり、途中のカムループスまではレイク・ルイーズおよびバンフへ向かうコースの客車と、ジャスパーへのコースの客車が連結されているのだ。
▽性格が対照的な新幹線と比べると…
客車は二つのクラスに分かれており、天井近くまで続くドーム状の窓を備えた2階建て展望車両「ゴールドリーフ」(1両68席)、窓を大きくしたワンフロアの車両「シルバーリーフ」(1両56席)がある。東北・北海道新幹線のJR東日本E5系とJR北海道H5系で運行する「はやぶさ」の最上級クラス「グランクラス」がゴールドリーフ、続く「グリーン車」がシルバーリーフに相当する。

ただし、かかる料金は比較にならない。カムループス経由のバンクーバー―ジャスパー間の場合、ゴールドリーフの1人当たり料金は3804~4104カナダドル(1カナダドル=115円で43万7460~47万1960円)、シルバーリーフが2844~3084カナダドル(同32万7060~35万4660円)に達する。
バンクーバーとジャスパーの距離は460キロ弱あるが、同等の475・2キロある東北・北海道新幹線仙台―木古内(北海道木古内町)をグランクラスの飲料・軽食が付いてくる列車に乗った場合は大人3万150円(通常期)、グリーン車(飲料や軽食のサービスなし)は大人2万2940円(通常期)だ。

最高時速が320キロでスピード勝負の東北・北海道新幹線と、平均時速50キロで車窓を楽しむ時間消費型のロッキーマウンテニアの性格は対照的だ。そんな違いや、為替相場の円安傾向を考慮に入れてもすさまじい価格差で、ロッキーマウンテニアがこだわりの品質ときめ細やかなサービスでいかに高い付加価値をもたらしているかがうかがえる。
旅行者に至福の空間でゆっくりと過ごしてもらう時間消費型のロッキーマウンテニアと、旅行者に早く目的地に到達する移動手段を提供する時間節約型の新幹線とでは、当然ながら所要時間もかけ離れている。カムループス経由でバンクーバーからジャスパーまでは計20~23時間なのに対し、「はやぶさ」で仙台から木古内まで最短2時間24分で着いてしまう。
▽出だしからブラックジョーク

そうした大差があることを踏まえても、ゴールドリーフの2階の客室に入ると「やはりグランクラスと比べたのは正しかった」と実感した。なぜならば手元のボタンを操作するだけで背もたれが大きく倒れ、脚を伸ばすことができるオットマンが付いた座席は、グランクラスとよく似ているからだ。

私が今までにグランクラスの座席に腰かけたのは、試乗会で停車中の3分だけだ。グランクラスに匹敵する豪華座席で2日間に計20時間以上を過ごすことができ、しかも高い位置にあるドーム状の窓からの眺望も堪能できるのは、私のような鉄道旅行をじっくりと楽しみたい消費者には「いいところ取り」のようなパラダイスだ。
客室前方で担当乗務員のハリソンさん、ジェームズさん、パブラさん、レンカさんの4人が自己紹介し、「世界で有名なロッキーマウンテニアにようこそ!」と歓迎してくれた。スパークリングワインとオレンジジュースで乾杯し、午前8時すぎに列車が動き出した。

ハリソンさんが車内放送で「左手を見てください、大勢のスタッフが皆さんをお見送りしています」と伝えた通り、駅舎周辺では大勢のスタッフが笑顔で手を振っていた。参加者も手を振り返していると、ハリソンさんは「スタッフの笑顔には、皆さんを送り出し、これでようやく休みを取れるという喜びが込められているのです」というブラックジョークを飛ばした。
年配の円熟味のある夫婦を中心とする参加者から笑いが起きた。好反応を援軍に、ハリソンさんの“舌”好調ぶりは止まらない。「この列車のWi―Fiを探しているあなた、喜んでください。この列車はWi―Fiを用意していませんし、明日にかけて通る多くの区間では電話も通じません。スマートフォンの電源を切って、自然を楽しみましょう」と呼びかけた。
早速用意されたのが朝食だったが、同じ客車の1階にある食堂の座席数は半分に限られる。そこで、客車の前半分に座っていた参加者が食堂に案内され、私を含めて後ろ半分の参加者は座席にとどまった。

車窓を眺めると、併走しているスカイトレインの路線「ミレニアムライン」の電車マーク2が追い抜いていった。高架のレンフリュー駅が左手に現れ、私がこの日出発したバーナビー市に入った。ミレニアムラインの駅周辺には超高層マンションが林立し、バンクーバー都市圏のベッドタウンになっていることを実感する。
窓外をしばらく眺めていると、デジャブ(既視感)にとらわれた。バンクーバーには何度も足を運んでいるが、2年前に見た景色と重なるのだ。
朝食までの腹ごしらえとしてレモンローフとコーヒーを持ってきてくれたハリソンさんに、「もしかして…」と質問した。

すると、妙に納得させてくれる、機転の利いた答えが返ってきた―。
(「カナダ“乗り鉄”の旅」第40回 ロッキーマウンテニア【中】に続く)
【コンデナスト・トラベラー・リーダーズ・チョイス・アワード】アメリカの出版大手コンデナストの旅行誌「コンデナスト・トラベラー」が実施している読者投票。コンデナスト・トラベラーは旅行好きで可処分所得が高く、目の肥えた読者が多いため、信頼性が高い評価を得られるとして注目されている。
世界最高の列車旅を選出する2025年の列車部門で、ロッキーマウンテニアは3位に選ばれた。評価理由として「大きな窓とガラスドーム型の天井を備えた客車から壮大な景色を余すことなく堪能でき、カナダ産のビールやワイン、食事を楽しめる」ことを挙げ、「スタッフの親切な接客と生き生きとした語り口が景色をより一層魅力的に演出している」と指摘した。
列車部門の首位はスコットランドを走る「ロイヤル・スコッツマン」、2位はヨーロッパの「ベニス・シンプロン・オリエント急行」だった。日本の列車は8位にJR九州の5日間かけて九州7県を周遊する「36ぷらす3」、17位にJR四国土讃線の多度津(香川県多度津町)と大歩危(おおぼけ、徳島県三好市)を結ぶ観光列車「四国まんなか千年ものがたり」がそれぞれ入った。



共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
「カナダ “乗り鉄” の旅」

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。
優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。





























