海上保安大学校練習船「いつくしま」約40年ぶりにカナダ寄港

バンクーバー市ダウンタウンを背に、ノースバンクーバーのピアに入港する「いつくしま」。Japan Coast Guardの文字も。(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
バンクーバー市ダウンタウンを背に、ノースバンクーバーのピアに入港する「いつくしま」。Japan Coast Guardの文字も。(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

 すがすがしい初夏の空が広がるバンクーバーに、5月17日、海上保安大学校練習船「いつくしま」が寄港した。専攻科生の遠洋航海実習の途中で、ブリティッシュ・コロンビア州の州都ビクトリアに次ぐ2つ目の寄港地となる。

バンクーバー総領事館による歓迎式典

 実習生68人、乗組員55人を乗せたいつくしまは、5月1日に広島県呉市の海上保安大学校を出港、約2週間かけてカナダに到着した。海上保安庁所属船のカナダ寄港は1987年以来だという。

 バンクーバーではノースバンクーバー市バラード・ドライ・ドック・ピアに入港し、船上で在バンクーバー日本国総領事館による歓迎行事が行われた。バンクーバー日本語学校、バンクーバー補習授業校の生徒や保護者も集まり、賑やかな催しとなった。

 髙橋良明総領事があいさつに立つと、制服に身を包んだ実習生たちは「Salute!」の掛け声で敬礼。総領事は歓迎の言葉とともに、海に囲まれた日本における海上保安庁の重要性や日本とカナダとの海を通じた交流の歴史に触れながら、バンクーバー在住の人々がいつくしまを見学し、海上保安庁を知ることの意義を語った。

青空のもと、あいさつする溝口直樹船長(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
青空のもと、あいさつする溝口直樹船長(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

 いつくしま船長で海上保安大学校教授の溝口直樹氏は歓迎に感謝の意を表し、「海の警察、海の消防」としての海上保安庁の役割について説明。「8,000キロ以上離れていますが太平洋を挟んで日本の隣はカナダです」と、広い海域の安全安心を守るために周辺諸国との連携は欠かせないことを語った。

 今回カナダとの連携の一環として、いつくしまにはカナダ沿岸警備隊(Canadian Coast Guard)の実習生4人も乗船している。ビクトリアから乗船し、この後ホノルルまで一緒に航海するという。

花束を受け取った海上保安大学校実習生や白いシャツを着たカナダ沿岸警備隊の実習生と一緒に。この後、アメリカの実習生も乗船するという(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
花束を受け取った海上保安大学校実習生や白いシャツを着たカナダ沿岸警備隊の実習生と一緒に。この後、アメリカの実習生も乗船するという(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

 厳しい訓練が続く航海だが、バンクーバー寄港は約40年ぶりということで、溝口船長はバンクーバーでの滞在を楽しみにしていると笑顔を見せた。

実習の様子が垣間見える船内見学会

 式典後には船内見学会が行われた。まずは実習生たちが学ぶ教室、そして生活の場である実習生居住区を見学。2段ベッドが2つ置かれた4人部屋やシャワーがずらりと並んだ浴室など、船内での生活が垣間見える空間を大人も子どもも興味深そうに眺めていた。

実習生の寝室。清潔だがスペースはかなり狭い(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
実習生の寝室。清潔だがスペースはかなり狭い(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
浴室は実習生たちが1日の疲れを癒やす場所(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
浴室は実習生たちが1日の疲れを癒やす場所(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

 船内は揺れに備え、廊下のいたるところに手すりがついている。食堂の椅子も床から伸びた鎖につながれていた。見学コースには各所に生徒が立って、見学者の質問に答えていた。

食堂の椅子は鎖で繋がれている(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
食堂の椅子は鎖で繋がれている(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

 船を操縦する場は船橋(ナビゲーションブリッジ)と呼ばれる。中央には舵があり、子どもたちは大喜び。記念撮影をする親子もたくさんいた。船橋後方にはノースバンクーバーとビクトリア周辺の海図があり、いずれもたくさんの書き込みが入っていた。

船橋の中央には舵が(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
船橋の中央には舵が(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
本物の船橋よりシンプルな実習生用の船橋(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
本物の船橋よりシンプルな実習生用の船橋(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

 いつくしまには実はもうひとつ船橋がある。それは実習生用の船橋だ。ここでは切替操作によって、実習生用船橋から実際に船を操ることも可能だ。海上保安庁の船で2つ船橋があるのは、教育訓練に特化したいつくしまだけだそうだ。

国際的な視野を持つ海上保安官を目指して 

 歓迎行事後、溝口船長に実習の様子を聞くと、実習生についてはまだ2週間ということで「まだまだこれからがんばって勉強してほしいです」と笑う。実習生は国内での航海実習は経験しているが海外への遠洋実習は初めてという。

 「(この遠洋実習は)これまでの総仕上げという位置づけです。さらに我々の仕事は外国とのつながりが多いので、国際的な視野を広げることが必要です。海外は初めてという実習生もいるのですが、日本と外国との関係を学んだり、また苦手意識を持つ人が多い英語でのコミュニケーションについても『なんとかなるんだな』ということを実感してもらいたいです(笑)」

杉藤希洸さん(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
杉藤希洸さん(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

 実習生にも話を聞いた。小学3年生までトロントやバンクーバーに住んでいたという通信科の杉藤希洸(ひかる)さんは、15年ぶりのカナダ再訪を楽しみにしていたという。通信士の英語のアクセントに耳馴染みがあったり、ふとしたところで懐かしさを覚えると話す。

 一方、海外への航海は初めてで「最初の方は波に揺られて大変でした」と振り返る。「無線が全く聞こえなくなるのも新鮮で、太平洋の真ん中にいるんだなと実感しました」。今回の実習では、通信士としての職務の向上はもちろん、国際交流を通じて対外的にも信頼される海上保安官を目指したいと抱負を語った。

早川莉央さん(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
早川莉央さん(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

 機関科の早川莉央さんは日本国外に出たのが初めて。最初の寄港地ビクトリアでは、建物から英語でのコミュニケーションまで全てが新鮮だったと話す。実習について聞くと「この2週間は、今まで生きてきた中で一番長い2週間でした(笑)」という答えが。「夜も当直があるので生活リズムが崩れるんです。また機関科の実習が忙しくて、外の景色を見る機会も少ないので、その分お昼の体操時間が楽しみでした」

 もともと海に関わる仕事がしたかったという早川さん。高校時代、進路を調べる中で「海の警察、消防という海上保安官の仕事を見つけ、かっこいいなあと思いました」。憧れの仕事に向けて、総仕上げの場となる今回の遠洋航海実習。「現場に出る前の最後の実習なので学ぶべきことはたくさんあるのですが、それ以外にもいろいろな文化を学んだり、コーストガードの方とコミュニケーションを取ったり、初めての環境で自分の力が発揮できるようにがんばりたいと思います」と話した。

 いつくしまは5月20日にバンクーバーを出港後、サンフランシスコ(アメリカ)、ホノルル(同)、シドニー(オーストラリア)、シンガポール、マニラ(フィリピン)へと航海を続け、7月28日に海上保安大学校に戻る予定。実習生たちは12月から現場に配置され、新たな一歩を踏み出すことになる。

いつくしまがノースバンクーバーのピアに接岸する様子(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)
いつくしまがノースバンクーバーのピアに接岸する様子(2026年5月17日、ノースバンクーバー市。撮影 日加トゥデイ)

(取材 宗圓由佳)

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