さらに松浦栄のことを知ると映画のタイトル「Our Mr. Matsura」がとても愛おしく感じる。監督によると理由は2つあるそうだ。まず松浦はオカノガンの町の人々に先祖の写真を残して、いまだに感謝されている。「私たちの」は町の人々からの親愛を込めた声を取り上げた。撮影当初辛口だった人も、試写会後には「とても感動した。タイトルもすごく気に入った」とほめてくれたそうだ。
All of a sudden「急に具合が悪くなる」より。Photo provided by Vancouver International Film Festival
哲学者と人類学者の間で実際に交わされた書簡に着想を得た、濱口竜介監督による日本、フランス、ベルギー、ドイツの国際共同製作で、初の海外ロケ作品「All of a Sudden(原題)」。監督は大半をフランス人俳優とフランス語のダイアローグで撮りあげ、会話や観察の時間の中に「誰かを思い、大切にすること」の意味を問いていく。
VIFFエグゼクティブ・ディレクターKyle Fostner(カイル・フォスナー)氏は「今年はVIFFにとって、新たな章の幕開けとなる年です」と前置きし、「『Institute for the Moving Image(映像文化研究所)』の立ち上げ、過去最大規模となるライブ・パフォーマンス、さらに今年は映画史に名を残す巨匠たちの魅力的な傑作映画と、世界各地から台頭する新世代の力強い才能による作品との『バランス』を取り入れています。創造性、好奇心、そして人間味あふれる芸術才能の発掘と革新の場としてVIFFは常に進化を遂げています」と話した。
VIFFエグゼクティブ・ディレクターのKyle Fostner氏(左)とプログラミング・ディレクターのCurtis Woloschuk氏。2026年8月26日、バンクーバー市。Photo by Jenna Park/Japan Canada Today
2026年見どころの紹介。2026年8月26日、バンクーバー市。Photo by Jenna Park/Japan Canada Today
日本からの長編映画は4本。大物監督が並ぶSpecial Presentations部門で2本上映される。カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に招待された濱口竜介監督の「急に具合が悪くなる(All of a Sudden)」と、ベネチア国際映画祭でプレミア上映を終えたばかりの是枝裕和監督の同名漫画原作実写版作品「ルックバック(Look Back)」。どちらも上映前からかなり注目されている。
視点の優れたShowcase部門では、同じくカンヌ国際映画祭コンペティション部門に招待された深田晃司監督「ナギダイアリー(Nagi Notes)」(日加トウディ・メディアパートナー)と、カンヌ国際映画祭ある視点部門公式出品作品の岨手由貴子監督「すべて真夜中の恋人たち(All the Lovers in the night)」が上映される。
他にもカナダ初公開となる、マルクス・シュラインツァー監督「Rose」(ベルリン国際映画祭最優秀演技賞受賞)、ホン・サンス監督「Nowhere to Lay My Eyes」(ロカルノ国際映画祭監督賞・最優秀演技賞受賞)など世界の長編映画が並ぶ。
さらに、VIFFとジャーマン・フィルムズ(German Films)の共同企画による今年の特集映画はドイツ。「Focus on New German Cinema: Extreme Tension」と題し、心理的な深み、際立った映像美、そして社会への鋭い視点を備えた6本の長編映画が上映される。クリストフ・オットー監督「The Ballad From Wednesday to Thursday」やカイ・シュテニッケ監督「Trial of Hein」など、予告から緊張感が感じられる作品が登場する。
ノンフィクション作品では、長編50本以上を放つ、実質的にカナダで2番目の規模を誇るドキュメンタリー映画祭とも言われるVIFF。今年は、バンクーバーのジョエラ・カバル監督「First Comes Love: Nakabingwit」、デービッド・エーレンライク監督「Relax, Open Your Eyes」、カナダの注目作としてマシュー・ランキン監督最新作「Ladies and Gentlemen, Brian Mulroney」、ショーン・メナード監督「Run Terry Run」、そしてエイドリアン・ブイテンハイス監督「Man in Motion: The Rick Hansen Story」などカナダ文化に触れられる。
アーティスト・業界育成プログラムMedia Summit(10月3日から8日開催)の「VIFF Industry」と「Amp Music in Media Summit」は、現在進行中のプロジェクトに焦点を当て、ビジネスの発展を促すことを目的としている。脚本家、プロデューサー、編集技師、国際映画祭プログラマーなどが来加する。
音楽と映像を結ぶ「VIFF Amp」には、国内外の数多くの有力レーベル、音楽スーパーバイザー、作曲家が参加する。「VIFF Live」特別企画は「An Evening with Mark Mothersbaugh(マーク・マザーズボーの夕べ)」。多作な映画音楽作曲家であるマーク・マザーズボーが、16人編成のアンサンブルを従えて一夜限りの特別コンサートを開催する。「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」、「天才マックスの世界」、「マイティ・ソー バトルロイヤル」、「LEGO® ムービー」、「A Minecraft Movie(原題)」など、輝かしいキャリア作品の数々が披露される。
レジデンス「Alberni by Kengo Kuma」。バンクーバー市ダウンタウン。写真 Jenna Park
だがゆっくりと観光する暇もなく、バンクーバーのダウンタウンにあるアルバーニ・ストリートに直行した。そこには「粒子のダンス」の撮影当時は未完成だった隈研吾氏による超高層レジデンス「Alberni by Kengo Kuma」(1550 Alberni)があった。入り口付近の竹やぶなど一目で日本の伝統技術を感じられる43階建てで、ペントハウスからコールハーバーの景色を一望できる美しい建物。丸2日間、天気の様子をうかがいながら撮影していた岡監督によると、建物は太陽の向きによって表情が全く変わるという。そのため時間を変えて、同じ場所に何度も戻りながら色々な角度から撮影した。
戦後80年を迎えた今年、「世紀の裁判」映画の原作はジャック・エルハイによるノンフィクション「The Nazi and the Psychiatrist」。両親が自分を逃して犠牲になったユダヤ系軍人、弁護の余地なく判決を待つドイツ人被告、証拠検証にてこずりながら裁判に挑む検察官、同情心を抑えながら与えられた任務を果たす精神科医など、裁判に関わる人たち個々の苦悩がスリラー的に展開する。
VIFF今年のポスター。Photo by Jenna Park/Japan Canada Today
記者会見の様子。Photo by Jenna Park/Japan Canada Today
見たことのない世界の映画に触れて、自分の中で何かを感じる。そんな価値ある体験が意味ある変化を生み出すと、1982年に発足したThe Greater Vancouver International Film Festival Society。毎年バンクーバー国際映画祭の開催と、選りすぐった映画の上映をVIFF Centreで1年を通して提供している。
今回初の試みSpotlight on Koreaは、パク・チャヌク監督「No Other Choice」、ホン・サンス監督「その自然が君に何と言うの(What Does That Nature Say to You)」をはじめ、7本の韓国映画を一気に上映。新人監督(俳優はまだ未定)の舞台あいさつ付きで上映される。
An Evening with Marc Maronでは、コメディアンでポッドキャストで有名なマーク・マロンの「Are We Good?」を上映後、彼との長いQ&Aが予定されている。カナダのマシュー・ランキン監督は今回ゲストとしてLeading Lightsセクションを担当。日本でも有名なアキ・カウリスマキ監督の映画をはじめ監督が厳選した映画数本が上映される。
期待のプレミア上映はジム・ジャームッシュ監督の「Father Mother Sister Brother」や、パオロ・ソレンティーノ監督の「La Grazia」などに加えて、カンヌ国際映画祭でジャファル・パナヒ監督が最高賞に輝いた「シンプル・アクシデント(It Was Just an Accident)」、さらにヨアキム・トリアー監督の「Sentimental Value」、またベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督の「Young Mothers」も見逃せない。カナダのブリティッシュ・コロンビア部門では日系カナダ人の吉田真由美監督をはじめ地元の監督の新作が続々と登場する。