「特別な思い出はだいたい取るに足らないようなささやかな事柄の方が多い」。監督のそんなさりげない発想から生まれたような映画「Super Happy Forever」。この作品は今年のバンクーバー国際映画祭パノラマ部門から、見所としてメディアコンフェレンスで紹介された唯一の日本映画。9月7日、大学の授業のためバンクーバーに来られない五十嵐耕平監督は、東京から日加トゥディのインタビューに応えてくれた。
まず冒頭から海の好きな人、そうでない人でもため息が出るくらい奇麗な景色に遭遇する。そしてブルーのさわやかな海を囲むように、ひと夏の物語りが始まる。
海辺のリゾート地を5年ぶりに訪れた幼なじみの佐野(佐野弘樹)と宮田(宮田佳典)。でも佐野は最愛の妻・凪(なぎ、山本奈衣瑠)を亡くしたばかり。自身も悩みを抱えているが幸せを信じて明るい宮田。それに比べ佐野はただ怒りっぽい。彼の目的はただ一つ。凪と偶然に出会った場所で、二人の思い出の赤い帽子を見つけること。ひたすら帽子を探す彼の悲しみといらだちは隠せない。
今年ベネチア国際映画祭でプレミアしたこの作品は、3部構成で現在、過去、現在へと時間を横断する。1部での佐野の変わった行動が、2部でその理由が解かれる。偶然が偶然を呼んでワクワクしたり、カップヌードルのシンプルな幸せを感じた後は、3部で人生を変えるための帽子を私たち観客も一緒に探す。そして…
最後まで魅せる作品
静かで優しいから、どこかノスタルジックな恋や喪失感を期待すると、意外な所へたどり着くのでびっくり。「現在の日本だとどこか変わった映画だと思われるかもしれないですね」と語る五十嵐監督の言葉通り、独特な皮肉やユーモアが感じ取れた。ただこのふわっとした青春感は、どの年代の人にも通じるものがあり、席を立つと振り返ってまた見たくなる。
最近カナダでも見られる宗教的な自己啓発セミナーについて「信じることで救われたり明るくなるのはよいが、金銭と結びつくと良くないことがある」。また最近の映画で見られない入浴やタバコのシーンについても「自分の好きな映画にそういうシーンが多いから」と前置きして、「まあタバコ吸う人多いし、全然いいでしょう」と明るく応えてくれた。この70年、80年代の監督みたいな発言も五十嵐監督の大きな魅力だ。
年齢より若く見え、まだ新鋭イメージがある監督だが、大学在学中に手がけた「夜来風雨の声」が、2008年のシネマ・デジタル・ソウル映画祭でいきなり韓国批評家賞を受賞。続いて大学院時代に作った「息を殺して」がロカルノ国際映画祭に、さらに「泳ぎすぎた夜」がベネチア国際映画祭に連続招待されるという快挙を成し遂げている。また監督のミュージックビデオ(D.A.N.「Pool」「Native Dancer」)や過去のショート作品など長編作に至るまでの映像と色使いも注目してほしい。
主人公を見ているといつの世代でも青春時代はあったと実感。五十嵐監督は「ぜひ見てくださいね」と元気よく締めくくった。終わらないひと夏の物語、劇場で見たい作品だ。
「Super Happy Forever」上映日時・会場
10月4日(金)6:00 pm @Fifth Avenue Cinema
10月6日(日)6:15 pm @SFU Woodwards
https://viff.org/whats-on/viff24-super-happy-forever/
(取材 Jenna Park)
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