終活は新しい大人のマナー
叶多範子
ようやく春本番ですね。バンクーバーの街角も、色鮮やかな花々に彩られる季節となりました。新しいことが始まるこの時期、心もどこか軽やかになります。
さて、これまで遺言やエンディングノートの大切さをお伝えしてきましたが、読者の方からこんなお声をいただくことがあるので、今回は遺言についてまとめてお答えさせていただきます。
①遺言の必要性が今ひとつピンとこない
「うちは家族の仲が良いから、揉めることはない。遺言なんて大げさなもの、必要ないんじゃないかしら」
そのお気持ち、とてもよく分かります。信頼し合っている家族だからこそ、わざわざ「遺言」という堅苦しい形で縛りたくない。その優しさは、とても日本人的で尊いものです。でも、ここは日本ではないんです。
あなたの頭の中では大丈夫でも、カナダの制度・法律はそれを良しとしない場合があります。
なぜなら、ここカナダで暮らしている私たちが直視しなければならない、冷徹な事実があるからです。
それは、「家族の仲が良いことと、スムーズに手続きが進むことは、全く別の話である」ということです。
たとえ2人の兄が笑顔で『妹が全部受け継いでいいよ』と同意していたとしても、それこそ遺言が必要なんです。だってカナダの法律(BC州のWills, Estates and Succession Actなど)では、お兄さん2人も相続する権利があるのですから。「家族の合意」をすぐには認めてくれません。
法律で決められた配分、法律で決められた優先順位。それに従うためには、膨大な証明書類と、裁判所の許可が必要です。仲が良いから揉めることなく、妹さんに全ての遺産がいくかもしれない。けれど、それは国や裁判所の人にはわからない。
遺言がないということは、残された家族に「仲良く話し合う権利」を与えるのではなく、「法律というマニュアル通りに動かざるを得ない、不自由な時間」を強いることになってしまうのです。
②それでも、やっぱり大した財産がないから
「うちは大した財産がないから」という言葉の裏には、「だから手続きも簡単だろう」という期待が隠れています。
ですが、実際は逆です。財産が少ないほど、手続きが楽になるわけではありません。
1億円の遺産があっても、遺言があれば数ヶ月で整理がつくかもしれません。
一方で、100万円の貯金しかなくても、遺言がなければ、それを引き出すために数十万円の費用と1年以上の月日が費やされることがあります。
もし、あなたが「家族に少しでも現金を残してあげたい」と願うなら、その金額の大小に関わらず、遺言は「そのお金に最短距離でアクセスさせてあげるための鍵」になります。
鍵のない箱を渡された家族は、中身がたとえ思い出の品一つであっても、その箱を壊して開けるために、大変な苦労をすることになるのです。
③遺言を作るお金がもったいない
「遺言って、作るのにお金がかかるんでしょう?それがなんだかもったいなくて……」
そのお気持ち、よく分かります。目の前に差し迫った問題があるわけでもない。元気に暮らしている今、わざわざお金を使う気になれない。とても正直な感覚だと思います。
でも、少しだけ想像してみてください。
遺言を作らずに亡くなった場合、残された大切な方(ご家族やご友人)がカナダの裁判所を通じた手続き(Probate)をしなければなりません。通常は弁護士に依頼することがほとんどです。その費用は、遺言がある場合に比べ、遺言がない場合は2倍、3倍にもなると言われています。つまり、遺言を作る費用をはるかに上回るんです。
遺言を作る費用は、いわば大切な人へ残す、最後の段取り料です。
その何倍ものコストと手間が、残された大切な方にのしかかることになります。「もったいない」と思うお気持ちがあるなら、どうかそれを、あなたの大切な人を守るために向けてあげていただければと思います。
次回はエンディングノートへ寄せられた質問や疑問にお答えしたいと思います。
*ご感想・ご質問は、メールにてお気軽にどうぞ。voice@shukatsu.ca
本コラムは終活に関する一般的な情報提供を目的としています。内容には十分配慮しておりますが、必要に応じてご自身での確認や、専門家へのご相談をおすすめします。なお、本コラムをもとに行動されたことによる不利益については、免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。
叶多範子(かなだ・のりこ)
海外終活アドバイザー
親しい友人の急逝をきっかけに、事前の準備が周囲の負担を減らし、安心をもたらすことを実感。現在は相続専門の弁護士アシスタントとして実務に携わりながら、50代からの海外在住日本人に向けて終活の重要性を伝えています。
終活を「死の準備」ではなく、人生を整える「私活(わたしかつ)」と考え、エンディングノートを活用してその考え方を広げています。
カナダ・バンクーバー在住。家族はカナダ人の夫と2人の息子、愛猫1匹。
ホームページ:https://www.shukatsu.ca
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