日本語教師 矢野修三
2月の和風名、如月(きさらぎ)の由来は諸説あるが、寒さが厳しく、「更に衣(きぬ)を重ねて着る」という意味の「衣更着(きさらぎ)」が最も有力のようである。厳冬の候であり、風邪など引かぬように、衣服を更に着たくなるので、衣更着(きさらぎ)とし、中国の2月の月名である、この漢字「如月」を当てはめ、「きさらぎ」と読むことに。なかなか複雑なり。
ところで、2月如月も後半を迎えるころには春の足音が聞こえてくる。手がかじかむほど寒かったかと思えば、かなり暖かな日も、そんな気まぐれな天気を表す四字熟語が、いわゆる「三寒四温」。つまり、三日寒く、四日暖かい日が訪れ、だんだん春めく時節の言葉である。
折よく先日、この「三寒四温」を「一石二鳥」などの四字熟語にとても興味のある上級者に教えたところ、彼女から思わぬ質問を受け、びっくり仰天、面食らってしまった。
その内容は、「先生、これはお天気の話ですね。でしたら、漢字はなぜ『暖』ではなく、『温』ですか? 『三寒四暖』のほうがとても分かりやすいです」である。
えー、思わず笑いながら、うーん、何回も唸ってしまった。こんなこと、今まで考えたこともなかったが・・・、確かに、言われてみると、その通りである。でもよくもまあ、こんな発想を。流石だが、恐ろしき上級者。
事実、生徒には「暑い」と「熱い」の違いはとても大事だからねと、口を酸っぱくして教えている。どちらも訓読みは「あつい」であり、英語では両方「hot」、確かにややこしい。
そして、この「暖かい」と「温かい」も、両方「あたたかい」であり、生徒にしてはとても大変。書く場合はひらがなでもいいが、でも上級者になれば、「暖かい」と「温かい」の違いは理解してもらいたい。とりあえず、天気には「暖かい日」を使い、飲み物などには「温かいスープ」を使う。こんな説明である。
すると、この「三寒四温」だが、天気のことなので、「寒い」や「暖かい」であり、確かに、「温」は不自然である。生徒にすれば「三寒四暖(だん)」のほうが分かりやすい。
うーん、 困ってしまった。とても説明などできず、とりあえず、この「三寒四温」は中国から伝わった四字熟語なので、いろいろ調べてみるね、が精一杯。
早速、中国の友人にも聞いてみたが、この「三寒四温」は中国東北部で古くから使われた気象用語のようで、真冬の寒気の強弱を表わしており、「暖」はまだ早すぎで、「温」のほうがふさわしく感じたのは至極当然。「温暖な気候」などの言葉もあり、日本語ほど「暖」と「温」に、こだわっていないとのこと。なるほど。
この「三寒四温」は明治末期ごろ伝わってきたようで、日本の暦に合わせて、春先の語句として使うようになり、日本人も全く気にならない。むしろ、気になるのは「暖」と「温」の違いを一生懸命学んだ日本語学習者かも。Exactly
そこで、彼女にはこの「三寒四温」は昔からある、make senseな四字熟語なので、「暖」と「温」の違いなど気にする必要はないよ、と力説した。さっぱり要領を得ない説明だが・・・。
でも、少々気になり、日本の近代作家が作品の中に、この「三寒四温」を使っているかどうか、AIに調べてもらったところ、ゼロのようである。
あら、ひょっとすると、やはり言葉のプロは何となく、「温」に違和感を覚え、使いにくかったのでは・・・、と含み笑を浮かべながら、余計なことを考えてしまった。
生徒の思わぬ質問から、それなりに心温まる思いを巡らせた2月も「逃げる」がごとく、あっという間に過ぎてしまい、いと心寒く、寂しい限りでござる。

「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら。
矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)
メール:yano94canada@gmail.com
ホームページ:https://yanoacademy.ca
日本語教師として37年、81歳になって
初めて、平仮名「あいうえお」の
素晴らしさ、奥深さを悟りましたよ。
愛情、いっぱいで、生まれ
あ い う
笑顔で、終える。
え お
素晴らしきかな「あいうえお」





















