五輪空手銀メダリスト清水希容さん「フレンドシップ」でつながる空手

佐藤義輝(明)師範と清水希容さん(右)。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
佐藤義輝(明)師範と清水希容さん(右)。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 「『帰っておいで』と言ってくれる場所があるのは、私にとって大きな財産の一つです」。

 そう話したのは、空手女子形で全日本選手権7連覇、世界選手権2連覇、3度のアジア大会優勝を誇り、オリンピックで空手が初めて実施された2021年の東京五輪で銀メダルを獲得した清水希容さん。

 世界の舞台で戦い続けてきた清水さんが8月にバンクーバーを訪問。8月27日と30日には佐藤派糸東流空手バンクーバー本部道場主催「Summer Friendship Kata Training」に参加し、 Nikkei KarateやPemberton/Whistler Karate Clubなどの空手家191人と共に汗を流した。

 これでバンクーバーを訪れるのは3回目という清水さん。繰り返しこの地を訪れる理由、そして現役引退後の今の気持ちを聞いた。

空手を通じて一緒に過ごす時間そのものを大切に

一つ一つの動作を丁寧に指導する清水希容さん(左手前)と、稽古に励む参加者たち。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
一つ一つの動作を丁寧に指導する清水希容さん(左手前)と、稽古に励む参加者たち。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 清水さんが初めてこの街を訪れたのは2024年。セミナーに招かれての訪問だったが、その前後の期間を使ってバンクーバーで長く過ごすことにした。その時の滞在先が佐藤派糸東流空手バンクーバー本部道場とも関係が深い家族だった。

 こうした縁がきっかけとなり、2025年には「Friendship Training」としての交流が始まった。今回で2回目の開催になる。

 佐藤派糸東流空手バンクーバー本部道場を率いる佐藤義輝(明)師範は、今回のイベントは「彼女にとってはホリデー」のため、試合を意識した練習ではなく、楽しみながら空手に向き合うことを大事にしていると説明。何よりも一緒に過ごす時間そのものが貴重で「フレンドシップが一番大切」と力を込めた。

 一方、メンバーでも大会出場を目指す選手たちにとっては、世界チャンピオンと同じ空間で稽古できるまたとない学びの機会になっているという。

清水さんにとってバンクーバーはもう一つの家

「戻っておいでと言ってくれる場所があるのは、私にとって大きな財産の一つです」と、個別インタビューで語った清水希容さん。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
「戻っておいでと言ってくれる場所があるのは、私にとって大きな財産の一つです」と、個別インタビューで語った清水希容さん。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 イベント前に清水さんに話を聞いた。清水さんは今でも鮮明に1回目に訪問した時のことを覚えている。

 2024年当時は、競技を続けるか次の道に進むかを迷っていた時期で、バンクーバーで出会ったメンバーに何度も相談に乗ってもらったという。バンクーバーで、純粋に空手を楽しむ人たちの姿を見て、競技以外にもさまざまな空手の形があるのだと気づかされた。「いい意味で、まだ(競技を)やりなよと言ってくれましたし、でも、どっちの道を選んでも応援してくれるというスタンスでした。日本だけでなく、海外にも家族のような人たちがいるというだけでも、すごく支えられています」

 引退という決断を経て迎えた2回目の訪問では、空手との向き合い方が変わっていた。競技の物差しだけでなく、国や人それぞれの向き合い方に目が向くようになったという。競技が全てではなく、生活の一部として、そして日本文化として純粋に空手を楽しんでいる人たちの姿は、清水さんの目にうれしく映った。「そこに私も入らせてもらえるのがすごくありがたい」と話し、今の自分なりの形で伝えられることを伝えていきたいという。

世代や道場を超えて集まった参加者たちが稽古前に記念撮影。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
世代や道場を超えて集まった参加者たちが稽古前に記念撮影。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 3回目となる今回の訪問を通じて伝えたいことを聞くと、「日本の精神性の部分」だと答えた。人を思う気持ちや感謝の気持ちを持つということを「強制ではなく自然に感じ取ってもらえたら」と話す。

 日本の文化だけが優れているわけではなく、カナダにも受け継がれてきたすばらしい文化がある。それぞれが良いと思うものを認め合い、互いに影響し合えたらいいとして、「お互いの種植えができたら」と表現した。押し付けるのではなく、共に作っていくことを、どこに行っても大切にしているという。

 そして、「私が教えるというよりも、一緒にその空間を楽しんで、みんなで過ごせたらいい」と柔らかな笑顔を見せた。

世代も道場も超えて 再会喜び、共に汗を流す

 8月27日、日系文化センター・博物館には白い道着に身を包んだ子どもや大人122人が集まった。

 清水さんは開始のあいさつで、「みなさん、お久しぶりです。ここに来るのは、私の楽しみでもあり、来るたびにエネルギーをチャージさせてもらっています!」と、集まった参加者を前に笑顔がはじけた。当日は3つのセッションが行われ、空手を愛する幼い子どもから大人まで幅広い年代が肩を並べて汗を流した。

手本を見せる清水希容さん。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
手本を見せる清水希容さん。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 ダイナミックな気迫あふれる動きで知られる清水さんだが、この日の指導で伝えていたのは、その迫力の裏にある細やかな体の使い方。「引き手」(突きと同時に反対の拳を体の脇へ引く動作)や体の軸と重心の使い方など、一つ一つの動作を丁寧に説明した。自ら手本として突きを放つと、道着の袖がパンッと鋭い音を立てた。力強い動きに見えても実はリラックスすることがコツだという。

 清水さんのイベントに参加するのは今回で3回目というSara Ngさんは空手歴14年。イベント後には「先生が基本の動きを一つ一つ段階を踏んで教えてくれた」と満足そうな表情。「自分の体の使い方、特に体重をどう利用するかをもっと意識するようになった」と膝を使った体重移動について新たに学んだ。「(清水さんが)また来てくれるとは思っていなかった」と話し、再会を喜んだ。

 「種植え」という清水さんの言葉の通り、3年をかけて育ててきた関係は世代や道場を超えてこの日も確かに根を張っていた。

白帯から黒帯まで、笑顔の中にも真剣なまなざしをのぞかせる参加者たち。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
白帯から黒帯まで、笑顔の中にも真剣なまなざしをのぞかせる参加者たち。2026年8月27日、バーナビー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

(取材 田上麻里亜)

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