ホーム 著者 からの投稿 Miyai Michiru

Miyai Michiru

Miyai Michiru
9 投稿 0 コメント

三池崇史監督「バッド・ルーテナント:トウキョウ」トロント国際映画祭でワールドプレミア-小栗旬、間宮祥太朗らがレッドカーペットに登場

TIFF で上映された「Bad Lieutenant: Tokyo」 Courtesy of NEON
TIFF で上映された「Bad Lieutenant: Tokyo」 Courtesy of NEON
TIFF で上映された「Bad Lieutenant: Tokyo」 Courtesy of NEON
TIFF で上映された「Bad Lieutenant: Tokyo」 Courtesy of NEON

 先日閉幕したトロント国際映画祭(TIFF)2026(9月10日~20日)で、9月14日に三池崇史監督の「バッド・ルーテナント:トウキョウ」をワールドプレミア上映。三池監督、主演の小栗旬さん、共演のリリー・ジェームズさん、間宮祥太朗さんらがレッドカーペットに登場、多くのファンから歓声があがった。

 1992年の「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト」をもとに、舞台を東京に移して製作された同作。警察内部で黒い噂が絶えない刑事を小栗旬さんが、アメリカからある事件のために来たFBI捜査官をリリー・ジェームズさんが演じるサスペンス・アクション。毎年、アカデミー賞受賞作や数々の話題作を送り出しているNEON社との共同プロジェクト。

 レッドカーペットで三池監督、小栗旬さん、リリー・ジェームズさん、間宮祥太朗さんに話を聞いた。

レッドカーペットに現れた三池崇史監督。TIFFは思い出深い映画祭と語る。2026年9月14日、トロント市。撮影 宮井みちる/Japan Canada Today
レッドカーペットに現れた三池崇史監督。TIFFは思い出深い映画祭と語る。2026年9月14日、トロント市。撮影 宮井みちる/Japan Canada Today

 三池監督は、前作を意識した点について「作っている時代とスタッフ、国も違うので、できるだけオリジナルに恥をかかせないように」考えていたと話し、「元の映画に対しては、リスペクトの気持ちがどういう形で映像に現れるかを、自由に作る場所を与えてもらったと思います」と語った。

 トロント国際映画祭については、「初めて海外の映画祭に来たのがトロントの『ミッドナイト・マッドネス』でした。プロデューサーも宣伝もいなくて一人で来て、映画祭とはどんなのだろう、と不安に思っていた時に観客の皆さんが熱狂してくれた」と振り返り、「日本でローバジェットで作っていた自分を、映画が(世界に)連れていってくれるという映画の力みたいなものを感じました。あの日のミッドナイトマッドネスの熱狂がなければ、ちょっと違った人生になっていたとも思いますね」と、トロント国際映画祭での思い出を語った。

レッドカーペットに姿を見せた主演の小栗旬さん。2026年9月14日、トロント市。撮影 宮井みちる/Japan Canada Today
レッドカーペットに姿を見せた主演の小栗旬さん。2026年9月14日、トロント市。撮影 宮井みちる/Japan Canada Today

 小栗旬さんは「日本で普段撮っている映画のスタイルに海外の人たちが参加してくれて、自分にとっても初めての経験だったので、すごく刺激的でしたし学ぶこともたくさんありました」と国際プロジェクト参加への感想を話し、カナダの観客には「どういう風に受け取ってもらえるのかワクワクしています。少し緊張しているところもありますけど、楽しんでいただけたらいいな、と思っています」と笑顔で期待を話した。

 日本での撮影、アクションなどをこなしたリリー・ジェームズさんは、「東京は大好きな街ですし、そこで三池監督と仕事ができるというのは一生に一度の夢がかなった体験でした」と笑顔を見せ、「ワイルドで混沌としていて、残酷なところもある映画ですが、実はその核心には驚くほど感動的なものがあります。登場人物たちは、より良く生きよう、新しい人生を始めようともがいている。だから意外なほど心に染みる作品でもあるのです」と映画を紹介した。

 間宮祥太朗さんは「三池監督とはずっと仕事をしてみたいと思っていたので、この作品に参加できたというのがうれしかったですし、三池作品ではあるのですが、今回NEONと組んだことで新しいエッセンスが加わっていて、お客さんがどう見てくださるのかすごく楽しみです」とワールドプレミアを迎えた同作に対する思いを話し、「ショッキングなシーンは多いですが、個人的には美しい映画だと思っていて、それぞれの登場人物のもがく姿、絶望の中から少しの希望を感じてもらえたら」と作品への思いを語った。

 会場内外には、上映数時間前からレッドカーペットを待つ人々が集まり大盛況の中で迎えた当日のプレミア。現地には、トロント国際映画祭への参加が5回目となる三池監督のファンも多く、上映後には約5分間のスタンディングオベーションが送られた。

(取材 宮井みちる)

合わせて読みたい関連記事

トロント国際映画祭で「わたしの知らない子どもたち(英題:Children Untold)」上映 西川美和監督インタビュー

レッドカーペットの西川監督と小八重葵美さん(左)。2026年9月10日、オンタリオ州トロント市。
レッドカーペットの西川監督と小八重葵美さん(左)。2026年9月10日、オンタリオ州トロント市。

 トロント市で9月20日まで開催されていたトロント国際映画祭(TIFF)で、西川美和監督作品「私の知らない子どもたち(英題:Children Untold)」が上映された。

レッドカーペットの西川監督と小八重葵美さん(左)。2026年9月10日、オンタリオ州トロント市。
レッドカーペットの西川監督と小八重葵美さん(左)。2026年9月10日、オンタリオ州トロント市。

 作品は、戦争で孤児となった12歳の少女・琴子(小八重葵美)が過酷な環境の中で性別を隠しながら生き延びようとする姿を描く。物語は、戦時中に教師として軍国主義に加担した過去に向き合う曽根(二階堂ふみ)の葛藤と、琴子ら戦争孤児たちの姿を絡めて展開する。戦後の混乱の中、犯罪に手を染めながらも懸命に生きようとする孤児たちと、彼らを取り巻く大人たちの姿を通して、戦争が残したものを浮かび上がらせる。

 トロント国際映画祭では、日本作品として初めてプラットフォーム部門のオープニング作品として上映された同作品。西川美和監督と主演の一人である小八重葵美さんがレッドカーペットや舞台あいさつに登壇し注目を集めた。

 映画祭開催中にトロントに滞在していた西川美和監督に話を聞いた。

―最初に「わたしの知らない子どもたち」というタイトルに込められた思いを教えていただけますか?

西川―タイトルの「わたし」というのは私のことです。最初は小説から書き始めたのですが、戦争孤児について調べていくうちに初めて知ることが本当に多かったんです。その時代に多くの孤児がいたことは漠然と知ってはいたのですが、そのひとりひとりがどこから来て、どんな名前を持っていて、孤児になった後どこへ行ってしまったのか、どんな大人になったのか、ほんとうに何も知らなかったな、と思いました。

 終戦から80年もたち、この映画を観てくださる方たちの多くも、私が描いたこの子たちのことを知らないと思います。観客の皆さんにとっても一人称の「わたし」になる話では、と思いこのタイトルに決めました。

―作品は全国で12万人もいたとされる戦争孤児たちが、過酷な環境の中でとにかく生き延びようとする様子を描きます。今回、子どもの目線で戦後を描こうと思われたのはどうしてでしょうか。

西川―2020年にトロント国際映画祭でも上映された「すばらしき世界」の主人公に、幼年期に戦争孤児たちと一緒に街で生き延びたというバックグラウンドがあったことが、戦争孤児たちについて知りたいと思ったきっかけでした。大変な状況の中よく子どもたちだけで生き延びたな、という思いから戦争孤児をしっかり扱ってみようと考えたのです。

 また、孤児を描くということは、日本にとって戦争が何だったのか、その時大人たちがどうしていたのか、を同時に描くことになります。孤児の方が残した手記や証言を見ていくと、子どもたちの生態や体験だけでなく、彼らを取り巻いていた大人たちが戦中戦後でどう変わったのか、も見えてきました。なので、子どもたちの話であると同時に大人の側の話でもあると思い、この描き方になりました。

―大人も生きるのが精いっぱいな極限状態の中、孤児になった子どもたちに何ができるのか、大人としてどうするべきか、が問われているとも感じました。

西川―戦争前には優しかった親戚が孤児になったら態度が変わったなど、人間が倫理を保つことがいかに難しいか、と強く思いますね。

―孤児の収容施設に入っても幸せとはいえない状況だったり、子どもに自分の人生を選ぶ選択肢はなかったのですね。

西川-当時、孤児たちの面倒を見たのが行政ではなくヤクザ*の人たちで、ヤクザ*に使われてその世界に進み犯罪者になるしか道がなかった子どもも多くいました。

―終盤に将吉が琴子に「生きててね」と言葉をかける場面があります。ふたりの別れ、という意味以上に「生きる」ということを考えるとても印象的なシーンでした。

西川―英語では「Live your life.」と訳してもらいました。「生きてくれ(死なないで)」という意味もあるのですが、自分自身の人生を生きるということが、いかに彼らにとって難しかったのか、という思いも込めています。そのチャンスをつかめた琴子とつかめなかった将吉を表す象徴的な言葉だと思います。そして、これは琴子に向けた言葉ではあるけれど、世界中の子どもに向けて伝えたいメッセージでもあります。

―琴子役の小八重葵美さんの眼差しの強さと演技には大変感銘を受けました。プレミア上映の会場でもたくさんの観客の方たちが称賛されていました。

西川―琴子は精神年齢が高い役なので、年齢の幅も取りながらたくさんの子に会いました。その中で、葵美ちゃんは、オーディション時に演技経験がなかったのに、直感的に脚本に書かれている感情をつかみ取る力があり、芯が強いことがうかがい知れる眼差しの強さがあり、この子しかいない、と思いました。カナダのお客さまにも彼女の魅力が届いてうれしかったですね。

―子役の皆さんが、とても生き生きと演じられていたのも印象的でした。演技指導はどのようにされたのでしょうか?

西川―おばあちゃんでさえも戦後生まれで、戦争について話す家族もいない世代の子たちです。東京大空襲が何かも知らないところからなので、スタッフと皆で資料館に行き、上野の街を散策したり、孤児体験のある方にお話しを聞くということから始めました。

 現代とは言葉使いもまったく違いますし、下駄や草履で歩く動作なども時間をかけて練習してもらいました。子どもたちはすぐに仲良くなって、リハーサルや撮影と大変だったと思いますけど、皆ほんとうによくがんばってくれました。

―2020年の企画開始から6年を経て、トロント国際映画祭でプレミア上映を迎えました。完成して今のお気持ちはいかがですか?

西川―長かったですね(笑)。この6年毎日この作品にかけてきたので。タイトル通り、自分にとっては知らない時代の知らない子どもたちのことを調べながら、勉強し直しながら作ってきました。重たいモチーフでしたが、本当に多くの方、スタッフ、キャストの皆さんが力を尽くしてくれて作品が完成したので、感謝と感無量の気持ちでいっぱいです。

「わたしの知らない子どもたち(英題:Children Untold)」の西川美和監督。オンタリオ州トロント市。
「わたしの知らない子どもたち(英題:Children Untold)」の西川美和監督。オンタリオ州トロント市。

―最後に映画を観る方にメッセージをお願いします

西川―私がこの映画を考えはじめた時と比べて、今戦争状態になっている地域が増えてしまっています。各地で武力衝突が絶えず、それが起きても当たり前の様になっているのも異常だと感じています。

 暴力や武力でなんとかなるという考えに対して、そうではないと言えるのは、やはり映画や文学の力であり務めでもあると思います。私の映画も微力ながら、いかに戦争というものが終わった後も怖ろしいか、と伝えていければと思っています。観てくださる方にも、戦争とは何なのか、それを繰り返さないためにどうしたらよいのか、を考えていただくきっかけになれば、と考えています。

***

 戦後の混乱の中、親もなく必死に生き延びようとする子どもたちを描く同作。トロント国際映画祭での上映後には、「戦争の犠牲になった子どもたちを思い、観ていて辛かった」、「葵美さんはじめ、子どもたちの繊細な感情描写と演技に感動した」などの感想があがった。

(取材 宮井みちる)

*インタビュー内での言葉のまま掲載しました。

FIFAワールドカップ2026:トロントでポルトガルが、バンクーバーでスイスがベスト16へ

試合開始前、続々と会場入りするポルトガルファン。2026年7月2日、トロント市。撮影 日加トゥデイ
試合開始前、続々と会場入りするポルトガルファン。2026年7月2日、トロント市。撮影 日加トゥデイ

ロナウドが史上最年長ゴールのポルトガル劇的勝利でベスト16進出 クロアチアはVAR判定に涙

トロントスタジアムでのポルトガル対クロアチア、試合開始前のセレモニー。2026年7月2日、トロント市。撮影 日加トゥデイ
トロントスタジアムでのポルトガル対クロアチア、試合開始前のセレモニー。2026年7月2日、トロント市。撮影 日加トゥデイ

 熱波がトロントを襲った7月2日、トロントスタジアムは気温30度超の暑さを超える熱気に包まれた。

 注目の一戦、FIFAワールドカップ2026決勝トーナメント1回戦(ベスト32)、ポルトガル対クロアチア。試合は1-1でアディショナルタイムまでもつれる激戦の中、ポルトガルが劇的な決勝ゴールを決めた一方、クロアチアは終了間際に決めた同点弾がVARによって取り消される波乱の結末。ポルトガル代表がクロアチア代表に2-1で逆転勝利を収めベスト16進出を決めた。

 この日の試合はトロントで行われるワールドカップ最後の試合。クロアチアとポルトガルの強豪2チームの対戦に、会場には43,036人が詰めかけ、試合開始前から熱い声援が響き渡っていた。

試合開始前、続々と会場入りするポルトガルファン。2026年7月2日、トロント市。撮影 日加トゥデイ
試合開始前、続々と会場入りするポルトガルファン。2026年7月2日、トロント市。撮影 日加トゥデイ

ポルトガルが主導も、クロアチアが先制

 前半は立ち上がりからポルトガルが試合を支配した。開始4分にはラファエル・レオンのパスからブルーノ・フェルナンデスが決定機を迎えたが、GKドミニク・リバコビッチの好守とDFの体を張ったブロックに阻まれる。その後もクリスティアーノ・ロナウドのフリーキックやレナト・ヴェイガのヘディングなどでゴールを脅かしたが、クロアチアの粘り強い守備を崩し切れないまま前半が終了。

 一方、後半開始からイゴール・マタノビッチを投入したクロアチアは攻撃が活性化。53分、ヨシプ・スタニシッチのクロスをイバン・ペリシッチが押し込み、先制点を奪った。さらにその直後にはマタノビッチが追加点を決めたかに見えたが、オフサイドとなり、VARにより得点は認められなかった。

ロナウドがW杯決勝トーナメント初ゴール

 反撃に出るポルトガルは62分、ロナウドが鮮やかにゴールネットを揺らしたものの、これもVARでオフサイドの判定。それでも68分、ポルトガルがPKを獲得すると、ロナウドが冷静に中央へ蹴り込み同点とした。

 このゴールはロナウドにとってワールドカップ決勝トーナメントで初得点。さらに男子ワールドカップ決勝トーナメント史上最年長得点記録を更新した。

ラモスが劇的決勝弾 クロアチアはVARに泣く

 試合終盤は両チームとも激しい攻撃をしかけ、会場のムードは最高潮に。

 75分にはマテオ・コバチッチがポスト直撃のシュートを放つなどクロアチアが勝ち越しに迫るが、GKディオゴ・コスタの好守にも阻まれる。

 すると後半アディショナルタイム4分、途中出場のゴンサロ・ラモスがヘディングでシュートを決め、ポルトガルが土壇場で勝ち越しに成功した。

 しかし試合はまだ終わらない。クロアチアはアディショナルタイム12分、ヨシュコ・グバルディオルがゴールを決め奇跡的に追いついたかに見えた。しかしVARによりイゴール・マタノビッチが直前にボールに触れていたことが確認され、オフサイド認定。ゴールは取り消された。

 この判定に納得できないクロアチアサポーターはピッチへボトルやビール缶を投げ込み、試合は一時中断。会場には大きなブーイングが響き渡ったが、残り時間はポルトガルが逃げ切った。

 試合後ポルトガルのロベルト・マルティネス監督は「ボールに内蔵されたチップが検知したためオフサイドと判断された。これは事実であり、誤認や主観的な判断などではない」と強調した。この日の試合では両チーム合わせて4つのゴールがVARで取り消しに。クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督は「今日の審判と判定には言いたいことはたくさんある」と悔しさをにじませながら「しかし、選手たちは最後まですばらしい戦いを見せた」と選手を称えた。

ロナウドらがディオゴ・ジョタへ勝利を捧げる

試合終了後、元ポルトガル代表FWディオゴ・ジョタの背番号21のユニフォームを掲げるロナウド。2026年7月2日、トロント市。撮影 日加トゥデイ
試合終了後、元ポルトガル代表FWディオゴ・ジョタの背番号21のユニフォームを掲げるロナウド。2026年7月2日、トロント市。撮影 日加トゥデイ

 試合終了後、ロナウドは昨年交通事故で亡くなった元ポルトガル代表FWディオゴ・ジョタの背番号21のユニフォームを身にまとい追悼。チームメートとともに勝利を亡きチームメートへささげた。

モドリッチにとって最後のW杯が終了か

 敗れたクロアチアは大会から姿を消し、40歳のルカ・モドリッチにとっては5度目のワールドカップが終幕。試合後には、レアル・マドリードで長年ともにプレーしたロナウドとモドリッチがピッチ中央で抱擁を交わす場面も見られ会場からは大きな拍手が送られた。

 ラウンド16に進んだポルトガルは7月6日、ベスト16でスペインと対戦する。

バンクーバーではスイスとアルジェリアが対決、軍配はスイスに

 決勝トーナメント1回戦(ベスト32)のスイス対アルジェリアの試合は、バンクーバー市BCプレースで行われた。会場を圧倒したのはアルジェリアファン。試合前恒例の応援合戦では、大ボリュームでFIFAランキング格上スイスに挑むアルジェリア選手を後押しした。

BCプレースで大声援を送るアルジェリアファン。2026年7月2日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
BCプレースで大声援を送るアルジェリアファン。2026年7月2日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

ベスト32に進んだアフリカ勢としてヨーロッパの一角を崩したかったが…

 ベスト32は6月28日、カナダ対南アフリカの試合で始まった。半数以上を占めるヨーロッパチームに続き、アフリカからも9チームが勝ち上がった。しかしここまですでに4チームが敗退。次戦でカナダと対戦するモロッコのみがベスト16に勝ち上がっている。アルジェリアも、アフリカ勢としてはモロッコに続きたいところだ。

スイス、中央からエンボロ(#7)が放ったゴールがネットに突き刺さる。2026年7月2日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
スイス、中央からエンボロ(#7)が放ったゴールがネットに突き刺さる。2026年7月2日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 しかし、先制点はスイス。序盤はアルジェリアが攻撃を強めるもゴールが遠くなかなか得点できない。そのすきをついてスイスが10分、少ないチャンスを逃さず先制。ネット左ゴールラインぎりぎりからヨハン・マンザンビが中央で待つブリー・エンボロにパスを送りゴールを決める。アルジェリアは前半終了間際に2本シュートを放つが惜しいところで決まらず、前半は1-0とスイスがリードして折り返した。

 後半に入り同点に追いつきたいアルジェリアだが出鼻をくじかれる。後半開始1分の46分、アルジェリアの守備の隙をついてスイスのダン・ンドイエが決めて2点目。これがダメ押しとなった。アルジェリアは再三のチャンスもゴールにつながらず、敗退。堅い守りでアルジェリアの攻撃を封じたスイスがベスト16に駒を進めた。

試合終了のホイッスルが鳴り、倒れこむアルジェリア選手たち。2026年7月2日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
試合終了のホイッスルが鳴り、倒れこむアルジェリア選手たち。2026年7月2日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 スイスはこれで3試合連続勝利。うち2試合はBCプレース。次戦も7月7日BCプレースで、7月3日のコロンビアとガーナの勝者と対戦する。

 7月7日はバンクーバーで行われる最後の試合。ベスト16という見ごたえのある試合が期待できる。

両チームの激しい攻防が続く。#11はスイス2点目を決めたンドイエ。2026年7月2日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
両チームの激しい攻防が続く。#11はスイス2点目を決めたンドイエ。2026年7月2日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

(取材 トロント・宮井みちる/バンクーバー・三島直美 写真・斉藤光一)

合わせて読みたい関連記事

FIFAワールドカップ:カナダ、スイスに惜敗も史上初のワールドカップ決勝トーナメント進出

2試合連続ゴールを決めているだけあり、スイスのマークも厳しいFWデービッド。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
2試合連続ゴールを決めているだけあり、スイスのマークも厳しいFWデービッド。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
いよいよ始まるカナダ対スイス戦。会場の熱気は最高潮に!2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
いよいよ始まるカナダ対スイス戦。会場の熱気は最高潮に!2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 FIFAワールドカップ2026グループB最終戦が6月25日、バンクーバー市BCプレースで行われた。カナダはスイスに1-2と惜敗。しかし、グループ2位で決勝トーナメント進出を決め、カナダサッカー史上初となるW杯ノックアウトステージ進出という快挙を成し遂げた。

 試合前の時点で、カナダはボスニア・ヘルツェゴビナとの引き分け、そしてカタールへの6-0の圧勝によってグループ首位に立っていた。この日のスイス戦は、引き分け以上で首位通過が決まる状況だった。スタジアムには、満員52,497人のファンが詰めかけ、街中もカナダ代表を応援する赤をまとった人々であふれこの日の試合を見守った。

守備の乱れから追いかける苦しい展開に

2試合連続ゴールを決めているデービッド。この日もカナダ先制の決定的チャンスだったが…。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
2試合連続ゴールを決めているデービッド。この日もカナダ先制の決定的チャンスだったが…。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 この日は白いユニフォームで臨んだカナダ代表。試合は序盤から互角の攻防を見せ、緊張感の高い展開となった。11分、スイスのブレール・エンボロが決定機を迎えるが、カナダGKマクシム・クレポーが好セーブで阻止。こぼれ球をヨハン・マンザンビが狙ったが、DFデレク・コーネリアスが体を張って防いだ。

 一方のカナダも19分、マシュー・ショワニエールのフリーキックからタジョン・ブキャナンが合わせるが、スイスGKグレゴール・コベルが好反応を見せる。前半終了間際にはアリ・アーメドがゴールに迫ったものの、再びコベルがセーブ。両チームとも譲らず、0-0で前半を終えた。

スイスに2点目を入れられ倒れこむカナダGKクレポー。前半は好セーブを連発していた。結果的にこれが決勝点となった。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
スイスに2点目を入れられ倒れこむカナダGKクレポー。前半は好セーブを連発していた。結果的にこれが決勝点となった。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 均衡が破れたのは後半開始わずか1分後だった。スイスがカナダ守備陣の背後を突くと、マンザンビのパスを受けたルベン・バルガスがシュートを決め、スイスが1-0と先制。さらに10分後の57分にはカウンターアタックからマンザンビが追加点を決め、リードを2点に広げた。

 2点を追うカナダは攻勢を強める。75分、ジェシー・マーシュ監督はブキャナンに代えてFWプロミス・デービッドを投入する。そのわずか1分後、ネイサン・サリバからのクロスにデービッドが反応し、滑り込みながら右足でゴール。途中出場からわずか1分でのゴールに、カナダファンが大爆発した。

カナダがゴールを決め1-2。カナダファンも大歓声を上げて喜ぶ。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
カナダがゴールを決め1-2。カナダファンも大歓声を上げて喜ぶ。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 終盤、カナダはスタジアムを真っ赤に染めたファンの後押しを受けて猛攻を仕掛ける。アディショナルタイムにはアリスター・ジョンストンのアシストからデービッドがヘディングシュートを放ったが、GKコベルが好守で阻止。最後まで同点ゴールは生まれず、試合終了のホイッスルが鳴った。

グループB 2位確定で次の舞台はアメリカに

試合終盤カナダは怒涛の攻めを見せるがあと1点が遠く...。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
試合終盤カナダは怒涛の攻めを見せるがあと1点が遠く…。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 この敗戦により、カナダはグループBの2位が確定した。もし引き分けていれば首位通過となり、7月2日に再びバンクーバーでベスト32を戦うことができた。しかし、2位通過となったため決勝トーナメント初戦はロサンゼルスとなる。

 マーシュ監督は、「バンクーバーでこのまま戦い続けたかったが、決勝トーナメントに進出したことこそが重要だ」と前を向いた。「試合序盤の流れが受け身となったのが良くなかったが、後半にかけて押し返すことができた」と振り返り、「スイスという強豪チームを相手に戦い学んだことが多くある。次の試合で生かすことが急務だと考えている」と話した。

 負傷のため、まだ1試合も出場していないアルフォンソ・デイビースについては、「(戦略上)試合に出る予定と発表していたが、実はまだ出ることができる状態ではなかった」と明かし、「次の試合には出場できるだろう」と話した。

 グループB首位通過によるバンクーバー開催の試合こそ逃したカナダ男子代表。しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦でW杯初ポイントを獲得すると、カタール戦では6-0の大勝を収めて初勝利を挙げた。さらに、史上初のノックアウトステージ進出も果たし、男子代表の歴史を次々と塗り替えている。次戦は28日。相手は韓国に1-0で競り勝った南アフリカ。快進撃の続きは舞台をアメリカに移す。

カナダ戦開始前、最寄り駅ターミナル・ステーションから会場のBCプレースへと続くカナダファンの行進。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 日加トゥデイ
カナダ戦開始前、最寄り駅ターミナル・ステーションから会場のBCプレースへと続くカナダファンの行進。2026年6月24日、バンクーバー市。撮影 日加トゥデイ

(取材 宮井みちる/写真 斉藤光一)

合わせて読みたい関連記事

FIFAワールドカップ:カナダ、バンクーバーでW杯初勝利!デービッドがハットトリックで爆発!

試合終了のホイッスルも聞こえないほどの大歓声が響いたBCプレース。真っ赤に染まったスタンドの右コーナーにカタールファンも見える。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ
試合終了のホイッスルも聞こえないほどの大歓声が響いたBCプレース。真っ赤に染まったスタンドの右コーナーにカタールファンも見える。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ

 カナダ代表は6月18日、バンクーバー市BC プレースで行われたFIFA男子ワールドカップ・グループB第2戦でカタールを6-0で下し、カナダ男子代表にとってワールドカップ初となる勝利を挙げた。W杯出場3回目にしての初勝利。その歴史的瞬間をバンクーバーで迎えた。

カタールを圧倒もほろ苦い初勝利に

 超満員の52,497人が詰めかけたスタジアムは試合開始前から熱気に包まれた。赤と白に染まった観客席から割れんばかりの大声援。試合前にはカナダ女子サッカー界のレジェンド、クリスティン・シンクレアさんも来場し、会場の雰囲気をさらに盛り上げた。

カナダFWラリンがゴール前でこぼれ球を押し込み先制点。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ
カナダFWラリンがゴール前でこぼれ球を押し込み先制点。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ

 主役はエースFWジョナサン・デービッドだった。29分と前半アディショナルタイム、さらに後半アディショナルタイムにも得点を挙げてハットトリックを達成。ワールドカップでの得点不足への批判を見事に跳ね返し、カナダをW杯初勝利へと導いた。

先制ゴールを決めMFコネと抱き合うラリン。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ
先制ゴールを決めMFコネと抱き合うラリン。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ

 この日黒のユニフォームを着用したカナダは試合序盤から主導権を握った。先制点は16分。カナダの初戦で得点したFWサイル・ラリンがこぼれ球を押し込み、スタジアムを歓喜に包んだ。そしてさらに激しく攻め続けた29分にはデービッドが待望の初ゴール。リードを2点に広げた。

 32分には、カウンターで抜け出したFWタジョン・ブキャナンを倒したカタールDFホマム・アーメッドが退場処分となり、カナダが有利な情勢に。さらに前半アディショナルタイムにデービッドが2点目を決め、カナダは3対0で前半を折り返した。

FWデービッドが前半アディショナルタイムに2つ目のゴールでカナダ3点目。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ
FWデービッドが前半アディショナルタイムに2つ目のゴールでカナダ3点目。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ

 後半開始直後にはカナダに大きなアクシデントが発生した。MFイスマエル・コネが危険なタックルを受けて左脚を負傷。担架で運び出された後、病院へ搬送される事態となった。

 それでもカナダは攻撃の手を緩めなかった。コネに代わって出場したMFネイサン・サリバが64分に鮮やかなフリーキックを決めると、75分にはDFジェイコブ・シャッフェルバーグのシュートが相手のオウンゴールを誘発。最後はデービッドがハットトリックを完成させ、6-0の圧勝。会場はファンの歓声で終了のホイッスルが聞こえないほどの歓喜に包まれた。

この日ハットトリックを決めたFWデービッド。「実力を疑っていなかった」とアラン・マーシュ監督も全幅の信頼をおいていた。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ
この日ハットトリックを決めたFWデービッド。「実力を疑っていなかった」とアラン・マーシュ監督も全幅の信頼をおいていた。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ

 この日のカナダはシュート数で33対2と圧倒し、GKマクシム・クレポーは相手にゴールを許さずクリーンシートを達成した。

 試合後の記者会見でジェシー・アラン・マーシュ監督はけがで退場したコネについて「病院ですぐに手術を受ける予定」と報告。ベンチのすぐ前で起きたため「(骨が折れる音が)聞こえた」と衝撃の大きさを語った。ただ、けがをさせたカタールの選手がロッカールームに来てコネに謝罪したことも明らかにした。

けがをして担架で運ばれながらもファンに手を振るMFコネと、心配そうに見守るチームメートやコーチたち。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ
けがをして担架で運ばれながらもファンに手を振るMFコネと、心配そうに見守るチームメートやコーチたち。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ

 コネは代表の中心選手の一人で、けがで抜けたことはチームにとって痛いが「この代表チームは私が前任者から引き受けた時から固い結束で結ばれているチームという印象。今大会でもそれは変わっていない」と監督。コネがけがをした瞬間代表メンバー全員がショックを受けたが、それでもその後も集中力を切らさずに勝ち切ることができた。「選手たちはお互いを信頼しているし、代表として戦うことを誇りに思っている」と団結力で次の試合に臨むと語った。

首位でグループBを突破し、ベスト32もバンクーバーで

 同日ロサンゼルスで行われたグループBのもう1試合では、スイスがボスニア・ヘルツェゴビナに4対1で勝利した。しかしカナダがカタールに6点差で勝利したことで、得失点差でスイスを上回り、グループ首位に浮上した。

 カナダは6月24日、再びBCプレースで1次リーグ最終戦に臨む。相手はスイス。引き分け以上でグループB首位通過が決定し、決勝トーナメント1回戦(ベスト32)をバンクーバーで戦うことができる。仮にスイスに敗れたとしても、グループの1位と2位はベスト32へ進出する。

1次リーグ第2戦では出場機会がなかったデイビーズだが試合終了後にファンに笑顔を見せる。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ
1次リーグ第2戦では出場機会がなかったデイビーズだが試合終了後にファンに笑顔を見せる。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ

 アラン・マーシュ監督は、24日に勝利すれば次は7月2日にバンクーバーで戦える、試合のための移動もなく時間に余裕ができるため、現在けがで出場していないアルフォンソ・デイビーズら選手にとっても有利に働くと語る。この日の試合に出場機会があるかと思われていたデイビーズだったが、チームが圧勝したこともあり出番はなかった。

 初勝利を大勝して勢いに乗るカナダ。次戦ではグループ首位というファンの夢を乗せて、もう一度BCプレースを歓喜の渦に巻き込めるか。6月24日正午にキックオフを迎える。

カナダのゴールが決まった瞬間、湧き上がるファン。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ
カナダのゴールが決まった瞬間、湧き上がるファン。2026年6月18日、BCプレース。カナダ対カタール戦。写真 斉藤光一/日加トゥデイ

(取材 宮井みちる・三島直美/写真 斉藤光一)

合わせて読みたい関連記事

喪失と創作をめぐる静かな愛の物語『Hamnet(邦題:ハムネット)』(クロエ・ジャオ監督)

Jessie Buckley stars as Agnes and Joe Alwyn as Bartholomew in director Chloé Zhao’s HAMNET Credit Agata Grzybowska / © 2025 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
Jessie Buckley stars as Agnes and Joe Alwyn as Bartholomew in director Chloé Zhao’s HAMNET Credit Agata Grzybowska / © 2025 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 年が明け、映画界はいよいよ賞レースのシーズンに入りました。クロエ・ジャオ監督最新作『Hamnet』は、トロント国際映画祭(TIFF)観客賞をはじめ、ゴールデングローブ賞の作品賞と主演女優賞を獲得し、今年最も注目されている一本です。ジェシー・バックリーの圧巻の演技と、自然の美しさが心に沁みる、静かで力強い感動作となっています。

あらすじ

 マギー・オファーレルの同名小説を原作に、シェイクスピアの『ハムレット』誕生の背景を描きます。舞台は16世紀イングランド。自然と共に生き、直感的な感覚を持つアグネス(ジェシー・バックリー)と、言葉と演劇の世界に身を置く夫ウィリアム(ポール・メスカル)は、慎ましくも確かな愛情に満ちた家庭を築いていました。しかし、幼い息子ハムネット(ジャコビ・ジュプ)の死によって、二人の日常は大きく揺らぎます。本作は、喪失の悲しみの中で再生の兆しを見つけていく夫婦の姿を丁寧に描いていきます。

Director Chloé Zhao with actors Paul Mescal and Jessie Buckley with on the set of their film HAMNET, Credit: Agata Grzybowska / © 2025 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
Director Chloé Zhao with actors Paul Mescal and Jessie Buckley with on the set of their film HAMNET, Credit: Agata Grzybowska / © 2025 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 この映画を観て強く心に残ったのは、「悲しみをどう生きていくのか」という問いでした。アグネスは、喪失の痛みを抱えたまま、それでも日々の生活を丁寧につないでいきます。その姿はとても静かで、だからこそ胸に迫ります。一方のウィリアムは、悲しみから少し距離を取り、創作という手段を通して息子の死と向き合おうとします。二人の在り方は対照的ですが、どちらも必死に生きようとする姿だと感じました。

 やがて『ハムレット』という作品が生まれ、失われた命に永遠の意味が与えられたとき、すれ違っていた二人の心が静かに重なっていく。その瞬間に、言葉にならない救いを見た気がします。この映画は、悲しみそのものを消すことはできなくても、「物語」が人を生かし、支え得るのだということを、そっと教えてくれているようでした。

 アグネスに関する史料は少なく、その生涯については多くが知られていません。それでも、シェイクスピアより年上であったことや、別居期間が長かったことなどから、二人の関係は必ずしも良好ではなかったのではないか、という説も伝えられています。しかし、この映画を観ていると、シェイクスピアの作品に見られるスピリチュアルな感性には、アグネスの影響が大きかったのだと思わずにはいられません。歴史上最も有名な劇作家の陰でひっそりと生き、愛していた彼女の存在に思いを馳せるとともに、彼女の存在に光を当てた原作も、ぜひ読んでみたくなりました。

Paul Mescal stars as William Shakespeare in director Chloé Zhao’s HAMNET, Credit: Agata Grzybowska / © 2025 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
Paul Mescal stars as William Shakespeare in director Chloé Zhao’s HAMNET, Credit: Agata Grzybowska / © 2025 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 『Hamnet』は、喪失を克服する物語ではなく、悲しみと共に生き続ける厳しさと、その中に宿るかすかな希望を描いています。派手なシーンはありませんが、アグネスに寄り添いながら迎える終盤のクライマックスは、さまざまな感情が渦巻き、圧巻の一言です。ジェシー・バックリー、ポール・メスカル、そして子役のジャコビ・ジュプとノア・ジュプ、皆の演技が素晴らしかったです。

 余談ですが、
TIFFで鑑賞した際、「シェイクスピア?あまり興味ない」と話していた人たちも、最後には皆、涙を流していたことを付け加えておきます。

 バンクーバーではCineplex系で上映中です。

Lalaのシネマワールド
映画に魅せられて

バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライターLalaさんによる映画に関するコラム。
旬の映画や話題のドラマだけでなく、さまざまな作品を紹介します。第1回からはこちら。

Lala(らら)
バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライター
大好きな映画を観るためには広いカナダの西から東まで出かけます
良いストーリーには世界を豊にるす力があると信じてます
みなさん一緒に映画観ませんか!?

映画「西海楽園」の鶴岡慧子監督、出演者にインタビュー「故郷で感じる人の温もりを描いた癒しの物語」バンクーバー国際映画祭で上映

右から鶴岡慧子監督、出演俳優の柳谷一成さん、上原大生さん。2025年10月11日、バンクーバー市。Photo by Michiru Miyai/Japan Canada Today
右から鶴岡慧子監督、出演俳優の柳谷一成さん、上原大生さん。2025年10月11日、バンクーバー市。Photo by Michiru Miyai/Japan Canada Today

 カナダ・バンクーバーで10月12日に閉幕した第43回バンクーバー国際映画祭(VIFF)で、鶴岡慧子監督の最新作「西海楽園(英語タイトル:Saikai Paradise)」が上映され、主演の柳谷一成さん、共演の上原大生さんと共に現地で取材に応じた。

 映画「西海楽園」は、長崎県西海市を舞台に、東京で俳優をする主人公・カズが故郷に帰省する数日間を描く。柳谷さんが実名の役名で出演し、実際の家族や友人も登場する。主人公の周囲の人々と街並みが、古い写真を見返すような懐かしさと共に優しく映し出される作品。

「西海楽園(Saikai Paradise)」より。Photo provided by VIFF
「西海楽園(Saikai Paradise)」より。Photo provided by VIFF

 鶴岡監督は「作品を客観的に見て、“癒し”がテーマだったと気づいたんです」と作品について語る。「主人公は、東京に出て人生なかなか思うようにいかない状況で故郷に帰り、どこか気まずさを感じます。自分も経験があるのですが、たまに地元に帰った時に、最初は自分の普段の生活と地元とのギャップがあって、何か気まずさを感じるんです。それが人だとか景色だとか、懐かしい地元と触れ合っていく中で徐々に癒されていく。その故郷で感じる“癒し”が今回の作品の一番のテーマです」とも。

 この作品は「故郷の西海で撮りたい」という柳谷さんの思いから生まれた。柳谷さんは「以前は田舎が嫌で出た部分がありました。時間がたち地元への思いが変わり、いずれは地元で映画を撮りたいという思いがふつふつと沸いてきたんです」と語る。2013年に初めて主演を務めた「はつ恋」の経験から、再び鶴岡監督と組むことを希望したという。「『はつ恋』がバンクーバー国際映画祭で上映された時には自分は来られなかったので、こうして今回やっと来られたのはうれしいですね」と笑顔を見せる。

フィクションとドキュメンタリーの融合

 柳谷さんと木下美咲さん以外の出演者は、これまで演技の経験がない柳谷さんの家族、友人など。柳谷さんの祖父を訪れるシーンや友人らとのバーベキューのシーンなどは全体の流れをある程度決めるだけで台本なしで撮影、自然な会話や表現を大切にした。鶴岡監督は「フィクションであることを前提にしつつ、地元の人々とのリアルな関わりをそのまま映したかったので、自然とこのような形になりました」と語る。「ちゃんと地元で生きてきている皆さんの顔が圧倒的に良くて、プロの俳優さんとは違ったひとりひとりの存在感があったので、素直にカメラを回すだけでよかった」と振り返る。

 「『バカ塗りの娘』を撮って、ドキュメンタリー的な表現により興味が傾いたというのもあり、ドキュメンタリー的な形になっているシーンもあります」と話す。「長く物を作っていらっしゃる人の動きには、経験が動作に凝縮されていてそのままで美しいので」と、柳谷さんの母親による豆腐作りのシーンは何の指示も出さずにそのまま撮影した。

地元の力で実現した映画制作

 制作は助成金のみで、スポンサーはなし。スケジュール管理から撮影許可の取得まで、ほぼ自力で行ったが、地元住民の協力が大きな支えになったという。鶴岡監督は「皆さんがチームのように楽しんでくれて本当にありがたかった」と感謝の気持ちを述べた。

 作品のタイトルにもなった「西海楽園」は、現在は閉園している仏教テーマパーク。柳谷さんは「昔はウォーターパークもあり花火や夏祭りが行われた、みんなが行った思い出のある場所なんです」と明かす。鶴岡監督も「以前の繁栄が去った場所がそのまま残っていて撮影場所としてもおもしろいと感じたのでロケ地に選びました。地方の寂しさを感じさせる名前も映画の雰囲気に合っていたので」とタイトルにも使用した思いを語った。

海と町、そこに流れる時間。西海市がもうひとつの主人公

 作中には西海の自然や文化が豊かに描かれている。柳谷さんが子どもの頃に“プライベートビーチ”と呼んで泳いでいた海岸などがロケ地として使用された。

「西海楽園(Saikai Paradise)」より。Photo proided by VIFF
「西海楽園(Saikai Paradise)」より。Photo proided by VIFF

 完成した作品を見て、柳谷さんは「地元の風景、家族や友だちとの姿が宝物のように感じられる作品になった」と語りつつ、「日本の端の西海という町に暮らしている人の話を、見る人がどう感じるのかとても楽しみ」と笑顔を見せた。

 映画初出演となった上原さんは「自分が出ている映画を見るのは恥ずかしさもあった」と笑顔を見せ「自分は東京の人間なので田舎に帰るという感覚が新鮮だったし、初めて行く西海の町と撮影をとても楽しんだ。見る人にも同じように楽しんでもらえれば」と期待する。

 鶴岡監督は「今回は、人と同じくらい“西海”が主役。強いドラマがあるわけではなく、そこで時間が流れていく様子や、西海の町そのものを楽しんでほしい」と述べ、静かに人と土地の関係性を見つめる作品の魅力を伝えた。「これからも日本の地方を題材とした作品を撮り続けたいと思っています」と今後の作品作りに対する豊富も語った。

***

 日本では10月27日に開幕する東京国際映画祭でアジアンプレミアとして先行上映される。上映日は10月29日と11月1日。https://2025.tiff-jp.net/ja/lineup/film/38006NCN01

話している時も3人の仲の良さが分かる楽しいインタビューとなった。2025年10月11日、バンクーバー市。Photo by Michiru Miyai/Japan Canada Today
話している時も3人の仲の良さが分かる楽しいインタビューとなった。2025年10月11日、バンクーバー市。Photo by Michiru Miyai/Japan Canada Today

(取材 Michiru Miyai)

合わせて読みたい関連記事

トロント国際映画祭でドキュメンタリー映画「I’m Still Single」上映「カナダで初のミシュラン2つ星を獲得した寿司職人、齋藤正樹さんを追う」

上映会場外に設置されたすしカウンターでは無料のすしが配られた。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
上映会場外に設置されたすしカウンターでは無料のすしが配られた。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 カナダで初めて2022年に、そして当時唯一のミシュラン2つ星を獲得したトロント市のすし店「Sushi Masaki Saito」。そのオーナーシェフ、齋藤正樹さんを追ったドキュメンタリーが9月14日に閉幕したトロント国際映画祭で上映された。上映会場には齋藤正樹さん、ジャマル・バーガー監督、立石従寛監督らも駆けつけあいさつ。上映後には会場外に寿司カウンターを設置し、観客に無料の寿司を振る舞うなどで大きな注目を集めた。

 映画は、寿司職人の齋藤正樹さんがビーチで寿司を握るシーンから始まり、北海道出身の彼がどのようにして寿司職人の道を選びトロントの店で握るようになったかを追う。「100%の顧客満足」が目標だと語る齋藤さんが、日々の営業、食材の準備、魚の扱い方や温度管理など細部へのこだわりを話し、時にスタッフを厳しく指導する姿なども映しだされる。

 この作品のタイトル「I’m Still Single」は、2022年にトロントで初めて開催されたミシュランスター授賞式の際、齋藤さんが受賞スピーチの一部として「I’m still single. I don’t know why.」と述べたことから。作品では、日々食を追及する齋藤さんが仕事の合間に派手に遊ぶ姿と、それとは対照的に孤独と寂しさを抱える一面も映し出している。

すし職人の齋藤正樹さん。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
すし職人の齋藤正樹さん。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 映画で自分を観る感想を「すごく恥ずかしいですね。1回目に見た時ははあまりストーリーが入る余裕がなかったくらい」と笑顔で話す齋藤さん。「タイトルの『シングル』という意味は、パートナーと別れたとか友だちが去ったとかいろいろ取れると思うのですが、見る方にも自分にとっての『シングル』に重ねて見てもらうとおもしろく見られるのでは」と話す。

 アメリカ・ニューヨークでミシュラン2つ星を獲得した後、トロントで共同創業者のウィリアム・チェンさんと「Sushi Masaki Saito」を開店し、2022年にはカナダ初の2つ星を獲得した齋藤さん。多忙な中、2024年にはフランス料理のシェフたちと新たなレストラン「LSL」を立ち上げた。新しい挑戦を続ける理由を「トロントのレストランシーンをもっと盛り上げたいんです。トロントはまだまだだけど、もっと伸びると思うので」と話す。

 海外での成功を「一度決めたことをやり続けたからかな、と思います」と振り返り、「失敗は全然いいと思う。決めた道をぶれずに進むことが大切だと思う。でも一番大切なのは楽しむことかな」と締めくくった。

 バーガー監督と立石監督は上映を、「トロントでカリスマ的な存在の齋藤さんを追った作品を映画祭で多くの人に見てもらえるのは本当に光栄」と喜ぶ。

ジャマル・バーガー監督(左)と立石従寛監督(右)。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
ジャマル・バーガー監督(左)と立石従寛監督(右)。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 「齋藤さんが提供する『おまかせ』というのは料理だけではなく、ストーリーのようなもの。順番、味、タイミング、プレゼンテーション全てを含めてがシェフとしての技術はもちろんクリエイターとしての資質も必要とされるもの。その料理を作り出している齋藤さんの人となり、考え方などを皆さんに見てもらいたい」とバーガー監督。

 立石監督は「まずは齋藤さんの愛にあふれるユニークな人柄を見ていただきたい。また、それを追いかけて見つけた普段は人に見せない一面も見てもらえれば」と語った。

(取材 Miyai Michiru)

合わせて読みたい関連記事

トロント国際映画祭で「レンタルファミリー」上映 HIKARI監督とブレンダン・フレイザーさんが登壇

トロント国際映画祭(TIFF)上映後、舞台あいさつに登場し大きな喝采を受けたHIKARI監督(左)とフレイザーさん。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
トロント国際映画祭(TIFF)上映後、舞台あいさつに登場し大きな喝采を受けたHIKARI監督(左)とフレイザーさん。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 トロント市で9月14日まで開催されたトロント国際映画祭(TIFF)でHIKARI監督の最新作「レンタルファミリー」を上映、6日にはHIKARI監督、主演のブレンダン・フレイザーさんが登壇した。

 同作品は、ブレンダン・フレイザーさん演じる東京に住む落ちぶれた俳優、フィリップ・ヴァンダープルーグが主人公。オーディションに落ち続け異国で孤独な日々を過ごしていた彼がある日、多田(平岳大)という男が経営するレンタルファミリー会社の仕事を受けたことで周囲の人と心がつながってゆくというストーリー。最初は家族を演じ偽ることにとまどっていたフィリップが、他人とでも心を通わせ家族のような絆を築く様子を描く。

トロント国際映画祭(TIFF)レッドカーペットで日加トゥデイのインタビューに答えるHikari監督。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
トロント国際映画祭(TIFF)レッドカーペットで日加トゥデイのインタビューに答えるHikari監督。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 上映前のレッドカーペットでインタビューに応じたHIKARI監督は、「レンタルファミリーはビジネスですが、他人でも心が繫がると家族のように心を埋めることもできると伝えたくて、この映画を作りました」と制作への思いを話した。

 「日本が舞台の作品だけど、寂しさというのは世界共通の感情です。私もアメリカに初めて来た時、家族がそばにいなくて友達もいなくて寂しかった。その時にホストファミリーが本当の家族のようになってくれ、だんだん友達ができてきて、寂しさが埋まっていったわけです」と自身の過去を振り返った。

 映画を観る人には、「家族がいない、問題があるなどの理由で寂しさを感じている人がいれば、家族でなくてもいい場合もあるよ、友達や周りの人が家族のようになってくれるということもあるよ、と伝えられたら。明日はきっと良いことがあるよ、という気持ちになってもらえればうれしい」とメッセージを送る。

 主演にブレンダンさんを選んだ理由については、「ブレンダンが『The Whale』の上映会場でQ&Aを行った時に、彼はオンラインでの参加だったため会場のスクリーンで大きなブレンダンを見たんです。その時、『これが私のフィリップだ!』と思いました。日本にいる寂しい大きなアメリカ人、彼しかいない、と思いました」と大きな笑顔を見せた。

 フレイザーさんは報道陣から作品への思いを聞かれ、「HIKARI監督はこの作品を心温まるすばらしいものに仕上げている。今こそ皆さんに見てもらいたい作品だと思う」と答えた。

 上映後、舞台あいさつに登壇し大きな喝采を受けたHIKARI監督とフレイザーさん。映画の大部分で日本語のセリフをこなしたフレイザーさんに、日本語についての質問が寄せられると、「日本語は勉強したのだが優秀な学生ではなかったようで」と笑いながら、「ただ自分は真似をするのが上手いので、セリフを聞き真似をしながら自分の言葉として話すという方法を取っていた」と明かした。

 映像には東京だけでなく地方の街、日本の自然も多く映しだされている。HIKARI監督は「10代の頃に日本を出たのだが、帰る度に毎回なんて美しい国だろうと思います。なので世界の人にもっと美しい日本を見てもらいたくて映像に含めました」と映像に込めた思いも話した。

  「レンタルファミリー」はバンクーバー国際映画祭でも上映される。

トロント国際映画祭(TIFF)で舞台に現れ、質問に答えるHIKARI監督(左)と主演のブレンダン・フレイザーさん。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
トロント国際映画祭(TIFF)で舞台に現れ、質問に答えるHIKARI監督(左)と主演のブレンダン・フレイザーさん。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

(記事/写真 Miyai Michiru)

合わせて読みたい関連記事

Today’s セレクト

最新ニュース