
豪華観光列車「ロッキーマウンテニア」で2026年5月、カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーからアルバータ州ジャスパーへ向かった。乗り込んだ2階建て客車「ゴールドリーフ」は窓ガラスが天井まで延びており、パノラマの車窓はさまざまな動植物を観察できる。その道中に客室乗務員のハリソンさんが放った「この後、進行方向右手を見てください。上に巣があります」という言葉が、あたかもお告げのように約2カ月後にリフレインされた。しかし、営巣した鳥の正体は異なっていた―。
共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
▽カナダ一暑い村

線路沿いに流れるフレーザー川からトンプソン川が分かれる地点に着くと、ハリソンさんが車内放送で「見えているのがカナダ一暑い村です」と声を張り上げた。当時約210人の人口を抱えていたリットン村は2021年6月27日に摂氏46・6度、翌28日に47・9度、続く29日に49・6度と3日連続でカナダの最高気温記録を更新した。
記録樹立が3日連続となった2021年6月29日、リットン村を悲劇が襲う。カナダ環境・気候変動省によると、近くのフレイザー渓谷で2021年6月29日に山火事が発生して延焼して2人が死亡し、焼失面積は8万3千ヘクタールを超えた。リットン村の9割が焼失し、郵便局なども全焼した。
リットン村は「村民の大部分は火災後に移住しました」と説明する。ただ、リットン村は復興に向けた取り組みを進めており「時がたてば、活気あふれるコミュニティーがよみがえるでしょう」と力を込めている。
続いて2021年時点の人口が1670人だったアシュクロフト村が見えた。ここは北海道美深町の国際友好都市となっている。アシュクロフト村の年間降雨量は、BC州で最も少ないという。カナダ一の最高気温記録を打ち立てた村と、BC州で年間降雨量が最も少ない村が近接していることは、この地域の自然環境が厳しいことを物語る。
▽同じ台詞でも、異なる鳥
ハリソンさんが「この後、進行方向右手を見てください。巣があります」と呼びかけたのは、アシュロフト村を通り過ぎた辺りだった。私はこの時点で、全く同じ台詞を日本で聞くことになろうとは予期していなかった。
しかも観光列車の車内というのも一致しており、異なるのは英語か日本語かという点と、営巣したのが木の上か電柱の上かという点、そして巣にこもった“正体”だ。
ロッキーマウンテニアに乗った約2カ月後の7月下旬、私が乗ったJR西日本の観光列車「天地(あめつち)」は山陰線を駆けていた。このときは、志賀直哉の小説「城の崎にて」の舞台として有名な城崎温泉(兵庫県豊岡市)から、TBSテレビ系列のドラマ「VIVANT」のロケ地を巡る「聖地巡礼」で盛り上がっている鳥取へ向かっていた。

岩見駅(鳥取県岩美町)を出発後、ガイドの案内を聞いて私は張り付いていた進行方向右側の窓から電柱の上に作られた巣を撮った。巣がある電柱を通り過ぎると、ガイドは「この間飛び立った(日本の特別天然記念物)コウノトリの巣です」と解説し、こう続けた。

「コウノトリのために人口の巣を作ってあげて、そこで繁殖させるのが普通ですが、岩美町は去年から今年にかけて初めて巣を作ったばかりのため、電柱の上に営巣したようです」
これに対し、ロッキーマウンテニアの車窓から見えたのはタカ目ミサゴ科の猛禽類「オスプレイ(ミサゴ)」が残した巣だ。こちらは木の上に作られていた。

残念ながらコウノトリも、オスプレイも飛び立って姿を拝むことはできなかったが、フレーザー川沿いの切り立ったがけには野生のウシ科ヒツジ属ビッグホーンが大勢で出迎えてくれた。

▽カナダの呼び方は「ビーバー」ではない!?
列車が1日目の終着駅、BC州カムループスに着く手前で、フレーザー川から分かれたノーストンプソン川を鉄橋で渡る。ハリソンさんは「この辺りには多くのビーバーが生息しています」と紹介すると、「ここはカナダなので、ビーバーのことをジャスティンと呼びます」と歌手のジャスティン・ビーバーさんと引っかけた冗談を飛ばした。
乗客が笑うと、追い打ちをかけて「ジャスティン・ビーバーさんがお好みではない皆さんは、シガーニーと呼びましょう」と訴えた。「シガーニー」と聞いて首をかしげた後、このネタの意味をようやく理解した。「シガーニー」とは、映画「エイリアン」で主演した俳優のシガーニー・ウィーバーさんのことだ。
アメリカで飲酒運転や逮捕などの醜聞を相次いで起こし、国外追放を求める署名運動が展開されたジャスティン・ビーバーさんとは対照的に、確かにシガーニー・ウィーバーさんは知的で万人に受け入れられそうな俳優だ。しかし、名字は「ウィーバー」であり、「ビーバー」ではない。
「それはビーバーではなく、ウィーバーだ!」とツッコミたかったが、ハリソンさんは「明日の集合時刻」という参加者にとって大事な話題に移っていた。
それは、カムループスから宿泊先のホテルまではシャトルバスで送迎し、翌日はホテルからカムループス駅までのバスが午前7時40分に出発するので15分前の7時25分にはチェックアウトをするようにということだった。
さらに「列車で必要のない荷物は、ホテルの客室にそのまま置いておいてください」と強調した。
▽預けた荷物を運ぶ“秘密”
カムループスのホテルでは、聞いていた通り預けていた荷物が客室内に“先着”していた。荷物を先に届ける“秘密”について、私は出発前にこのような段取りだと予想していた。
参加者が預けたい荷物を客室に置いたホテルでは、宿泊者がチェックアウトする際にロッキーマウンテニアの運営スタッフが脇におり、顧客の鍵を預かる。それらの鍵を使って荷物を回収すると、それらを駅までトラックで運ぶ。列車に連結した荷物車に荷物を載せ、目的地到着後にトラックに載せ替えてホテルへ運搬し、客室に荷物を届ける。ホテルではロッキーマウンテニアの運営スタッフが参加者に鍵を渡す。
ところが、カムループスでホテルの鍵を渡されたのは列車が駅に到着した車内だった。もしも同じ列車の荷物車で運ぶ場合、渡された鍵とは異なるスペアキーを使って荷物を搬入する必要が生じる。
もう一つ、疑問点が生じた。2日目の朝にカムループスのホテルをチェックアウトした際、ロッキーマウンテニアの運営スタッフがフロントの脇にいた。そこで鍵を渡そうとしたところ、「チェックアウトはフロントでお願いします」と指示された。すなわち、チェックアウトを終えた鍵を使い、荷物を回収していることになる。
カムループス駅で、客室乗務員が列車の編成を説明してくれた。その際に「荷物車はどこに連結されているのですか」と質問した。すると、「荷物車はつながれていません」という想定外の答えが返ってきた。
客室乗務員は種明かしをして「参加者が預けた荷物は列車ではなく、トラックで運んでいます。だから、昨日もホテルで荷物が客室に置いてあったでしょう」と話した。
荷物運搬用のトラックを別途手配しており、列車と比べて迅速に目的地のホテルまで運んでいるというわけだ。
▽「スパイがいるぞ!」

2日目は貨物鉄道大手カナディアン・ナショナル鉄道(CN)が所有する線路を通り、ノーストンプソン川に沿いながらカナディアンロッキーへ分け入っていく。豊かな緑と、美しい山容が待ち受けているのは請け合いだ。
列車がカムループス駅を出発する前に、ハリソンさんが参加者に「きょうは大きな見どころがあります。そこに到着する前に、皆様に知らせます」と予告した。

預けた荷物の運搬方法の予想が外れた私だったが、「大きな見どころ」がどこなのかは見当が付いた。というのも、同じ区間をVIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」で通った際、同じように「最大のシャッターチャンスですよ」と紹介された場所があったからだ。

ただ、別の客室乗務員のジェームズさんが「みんな、ヤマ場がやってきたぞ」と伝えたのは別の地点だった。ゴールドリーフの客車の1階にある食堂で昼食のデザートでチョコレートのサバイヨンを味わっていると、「みんな、よく聞いてくれ」と注意を促した。
そのヤマ場について「これからVIA鉄道のカナディアンとすれ違うんだ」と明かした。そのため、「すれ違った時に笑顔で『こっちは、こんなに楽しい体験をしているんだぞ!』と見せつけてやってほしいんだ」という要請だった。
走っているCNの線路は単線のため、列車交換ができる地点でロッキーマウンテニアが停車する。すると、東部オンタリオ州トロント発バンクーバー行きの反対方向のカナディアン1号が通り過ぎ、スピードは速くないため互いの顔が見えるのだという。

私が「でも、1年前に向こうの列車に乗ったばかりだからなあ」と水を差すと、ジェームズさんに「おい、ここにスパイがいるぞ!」と反撃されてしまった(苦笑)。
カナディアンの乗客や乗務員も手を振っており、列車交換という「ヤマ場」は平和裏に過ぎ去った。
▽三度目の正直?

カナディアンロッキーの山岳地帯の曲がりくねった線路を、列車がゆっくりと上っていく。カナディアンロッキーの最高峰とされるロブソン山(標高3954メートル)などの雄大な山容が窓越しに見えてくる深山幽谷で、ハリソンさんが「大きな見どころが近づいてきました。皆さん、列車の進行方向右手でカメラを構えてください」と注意を促した。
それは私の予想通りだった。2段になった高さ約90メートルのピラミッドの滝で、この区間を通る列車に乗らなければ全容を見られないという“特権”なのだ。私は2023年12月にカナディアン1号に乗った際は、シャッターを切るタイミングを逃して“玉砕”した。バンクーバー発トロント行きのカナディアン2号で2024年8月に通過した際には撮影できたものの、滝の一部しかファインダーに収めることができなかった。

今回は客車の1階に窓のない開放空間となった展望デッキがあり、窓越しに撮影していた過去2回と比べて撮りやすい環境だ。しかもピラミッドの滝が近づいてくると、客車をけん引するディーゼル機関車の機関士が極度まで減速してくれた。
かくして「ピラミッドの滝」と呼ばれるゆえんである三角形の全容を撮ることに成功した。ロッキーマウンテニアのスタッフに助けられての「三度目の正直」になったと言えよう。
山岳時間午後7時ごろ、列車がジャスパー駅のプラットホームに滑り込んだ。バンクーバーからの2日間の移動距離は460キロ弱で、宿泊先のカムループスでの滞在時間を除くと計20時間半をかけて結んだことになる。同等の距離の東北・北海道新幹線の仙台―木古内(北海道木古内町)間ならば「はやぶさ」が最短2時間24分でつないでおり、新幹線とは対照的な「スローライフ」を満喫できた旅だと言えよう。
しかも同じ区間をカナディアンで2回通っていたにもかかわらず、夜間に通過していた景色を今回初めて知ることができた。巨大な窓のパノラマビューの客車で日中だけ進んだおかげだ。

ロッキーマウンテニアは、探検家サイモン・フレーザーの足跡とカナディアンロッキーの“ブラックボックス”を開拓できる発見に満ちた行程で、向学心とおもてなし精神に満ちた乗務員が決して飽きさせることのない時間を提供してくれる。2日間過ごしても、さらに車中に“巣ごもり”したくなるような快適で心地よい鉄道旅行だと言えよう。
【ゴールドリーフ】カナダ西部の景勝地カナディアンロッキーを走る豪華観光列車「ロッキーマウンテニア」の最上級クラス。天井近くまで続くドーム状の窓を備えた2階建て展望車両となっており、1両当たり68席ある。もう一つの「シルバーリーフ」(1両56席)も大きな窓を採用しているが、車両は平屋になっている。
ロッキーマウンテニアは旅行誌「コンデナスト・トラベラー」の読者が世界最高の列車旅を選ぶ「コンデナスト・トラベラー・リーダーズ・チョイス・アワード」で2025年に3位となった。1990年に運行を始め、期間は毎年4月中旬から10月中旬まで。四つのコースを用意しており、いずれもおおむね週2~3往復している。


共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
「カナダ “乗り鉄” の旅」

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。
優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。



























