岩坪貢範(たかのり)さん
CRACRA(クラクラ)店主
カナダ滞在歴:バンクーバー3年(総領事公邸料理人)
初めて日本を離れて海外へ渡ったのが、カナダのバンクーバーでした。公邸料理人として3年余り滞在しましたが、カナダの魅力は、やはり多様な国の人々が集い、文化が融合している点だと感じます。豊かな自然に恵まれ、都市部からのアクセスも良い。そうした環境が非常に魅力的でした。
特に印象に残っているのは、2013年、バンクーバーの総領事公邸で初めて会食を任せていただいた時のことです。何もかもが初めての海外経験で、現地のキッチンで本当に料理ができるのか不安で眠れない夜を過ごしましたが、日本で考案し持参したメニューを現地の食材でうまく形にすることができ、大きな自信につながりました。
その際に提供したのは、前菜としてのサーモンの手毬寿司、ダンジネス(アメリカイチョウガニ)とアボカドを用いたオードブル、アサリとホタテ、エビの滋味深いスープ、天ぷら仕立ての新鮮な魚料理、そしてカナダ産のサーロイン牛をメインディッシュとしたコースでした。すべて地元の豊かな食材を活かし、日本人のお客様に「カナダに来て本当に良かった」と感じていただけるよう、心を込めて調理いたしました。
バンクーバーでの任期を終えた後は、一度実家に戻り、富山のレストランでサービスや日本酒について約1年間学びました。その後、南スーダン、そしてイタリアのバチカン市国日本国大使館での任務に同行し、合計で約10年間、大使と共に海外各地を巡りました。
カナダでは、実に多様な人種や文化が共存していることに強い衝撃を受けました。それまで日本しか知らなかった私にとって、それは大きな発見であり、同時に、危険な場所には近づかない、常に周囲に気を配るといった危機管理意識の大切さも学びました。この経験は、後のイタリアでの生活はもちろん、現在の日本の日常においても大きな財産となっています。
「海外で働きたい」という思いを抱いたのは、先輩から「公邸料理人」という制度について伺ったのがきっかけです。そこからは、ある種の勢いでした。英語も決して得意ではありませんでしたが、現地で必要に迫られれば自然と身についていくものです。ですから、もし海外へ行くことをためらっている方がいらっしゃるなら、「行きたい」と感じたその時点で、まずは一歩踏み出してみることをお勧めします。あれこれ考えるよりも、まず行動し、その中で考えていく。それが最良の方法だと私は信じています。
2024年10月には、筑波山の麓にレストラン「CRACRA(クラクラ)」をオープンいたしました。店名はイタリア語でカエルの鳴き声を表す言葉から着想を得ており、日本と海外での経験を融合させた“おもてなし”を大切にする空間を目指しています。カナダでの経験が、今の私自身、そしてこの店づくりに全て繋がっていると実感しています。
CRACRA(クラクラ)https://wqpo.github.io/cracra7/
(動画・記事 斉藤光一)
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