【体験談】制度は使い方次第 現地就職を目指した1年間のコープ留学

 カナダのコープ留学を通じてキャリアチェンジに挑んだ新島啓友さん(28)。社会人経験を経て踏み出した1年間の留学は、現地での就職を目指すにどれほどの準備が必要かを痛感するものだったという。「制度自体は悪くないと思う。でも、成果を出すには本人の覚悟と準備が必要だった」と語る新島さんの体験談は、コープ留学の実情を物語っている。

SNSで知ったコープ留学、「自分にもできそうだと思った」

コープ留学中のクラスの様子。写真提供:新島啓友さん
コープ留学中のクラスの様子。写真提供:新島啓友さん

 コープ留学の存在を知ったのは就職1年目の春。X(旧ツイッター)で目にした「カナダで働きながらスキルを学べる」という投稿がきっかけだった。ラグビーに打ち込んだ大学生活の後、IT企業に就職したが、新型コロナウイルス禍での在宅勤務が続き「これがやりたかった社会人生活なのか」と疑問が生まれた。

 「これからの人生について考えている時にたまたまコープ留学の投稿を見て、おもしろそうって思ったのがきっかけでした。キャリアチェンジがてら勉強できるしいいなって」

 そこからは、SNSやYouTubeで制度や費用、学校情報を調べた。勤めていた会社を退職した後にはマーケティングを独学しながら英語学習に打ち込み、アルバイトもしながら渡航費を確保。コープの制度を「収入を得ながら学べる点では長期的にマイナスにはならない」と捉え、2022年春にカナダへ渡航した。

期待と現実のギャップ「制度に頼るより、自分がどう動くか」

クラスメートとの一枚。学校を通じて生まれた繋がりは大きかったと話す。写真提供:新島啓友さん
クラスメートとの一枚。学校を通じて生まれた繋がりは大きかったと話す。写真提供:新島啓友さん

 カナダ到着後は1カ月ほど語学学校に通い、その後バンクーバーの私立カレッジでデジタルマーケティングの1年間のプログラムを受講した(6カ月間座学、6カ月間コープ)。だが、授業内容には期待とのギャップがあったという。「英語でマーケティングを実践的に学べると聞いていたけど、実際は教科書をなぞるような内容が多かったなと思います。本を数冊読めば身につくレベルでした」と振り返る。

 さらに、カリキュラムの途中でクラスが突然分割されるなど、学校側の運営にも戸惑うことがあった。講師も月ごとに替わるため進行や指導スタイルのばらつきが大きかったという。

 それでも学校に通ったからこそ得られたものはあった。学校を通じて出会ったクラスメートの紹介で、日本企業からデジタルマーケティングの仕事を受けるようになり、フリーランスとしての経験を積むきっかけとなった。「制度に頼るより、環境の中で自分がどう動くかが一番大事だと感じます。出会った人からチャンスが生まれることもある」と語り、人とのつながりが結果につながったと強調した。

就活で突きつけられた現実と「1年分の成果」

 6カ月の座学終了後は履歴書やポートフォリオを整え、本格的に就職活動を開始。応募数は100件を超えたが、面接に進めたのは4〜5社程度。いずれもローカル企業だった。「英語力だけでなく、成果を数字で語ることが求められました。経験はあったといっても半年程度のフリーランス経験では、マーケティングの成果を定量的に証明するには不十分でした」と語り、現地採用のハードルの高さを痛感した。

 思うような結果が出ないまま、1年間のコープ期間が終了間近となる。「このままでは帰国できない」と感じ、ビザをワーキングホリデーに切り替え、滞在を延長することを決めた。その後、日系企業からオファーを受け、ようやく現地での就業につながった。

 「現地で働くには実績と運が必要だったと思います。自分は(カナダに)来てすぐにフリーの仕事を始めていたから1年分の経験があったけど、それがなければ相当厳しかったと思う」と話し、当時のクラスメート約30人のうち、オフィス職で現地就職に至ったのはわずか数人だったという。

制度をどう使うかが鍵になる

インタビューに応じる新島啓友さん。撮影:田上麻里亜
インタビューに応じる新島啓友さん。撮影:田上麻里亜

 コープ留学は、制度の使い方次第で結果が大きく変わる。「ただの高額な留学で終わるか、経験として残せるかは自分次第」と語る新島さん。

 また、就職活動は現地に来てからでは遅いと感じた。これからコープ留学を考えている人に向けては、「プログラムの後半で一気に就活を始めるのではなく、カナダに到着して最初から動く必要がある」と語り、限られた時間の中で戦略的に動く重要性を訴えた。

 「制度そのものが悪いとは思わない。むしろチャンスにはなった」と語る。それでも、事前に思い描いた理想とのギャップに戸惑ったのも事実だ。

 「高額な学費を払って終わるだけの留学にしないためには、制度をどう活用するかを考える必要があった」と振り返る。早い段階での就職活動の準備、目的の明確化、英語力と実務スキルの習得が重要だと語った。

 経験や実績のある社会人であっても就職活動には苦戦したという新島さんの体験は、コープ留学の難しさを浮き彫りにしている。実務経験のない大学生にとっては、現地で仕事を得ることのハードルはさらに高い。

 次回は、大学在籍中にコープ留学に参加した学生に話を聞く。

(取材 田上麻里亜)

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