10☆「年」と「歳」どっちがお好み?

 前回のエッセイ「8才」と「8歳」をお読みになった方から「年を取る」と「歳を取る」と、どっちが正しいのか・・・などの問い合せをいただいた。これは日本語教師としてもときどき受ける質問であり、確かに日本人でもどちらを使うべきか・・・迷う人も多い。

 先ず、漢字の決まり事を少々。「年」はもちろん、「歳」も常用漢字である。常用漢字とは国が定めた一般的に使用される漢字の目安。でも読み方が結構ややこしい。「年」は音読み(中国語式発音)の「ネン」と、訓読み(日本語式発音)の「とし」で、小学校で習う。でも中学で習う「歳」は読み方が複雑。音読みの「サイ・セイ」は常用だが、訓読みの「とし」はなぜか常用外である。

 それゆえ、公式な文書や新聞などには「歳を取る」は残念ながら使えず、「年を取る」が正式な書き方とのこと。うーん、確かにややこしい。でもこれはあくまでも目安であり、個人的なブログやメールなどには「歳を取る」を使っても全く問題なし。

 すると「年」と「歳」の違いが気になる。うまく使いこなすコツは何か・・・。別に決まりなどなく、人によってまちまちだが、一般的には年齢の老若によって使い分けているのでは・・・。

 例えば「年を取るにつれてだんだん世間が見えてくる」などは若年者であり、「年を取る」のほうがふさわしいかも。一方「歳を取ると物忘れがひどくなる」などは老齢者の表現で、「歳を取る」のほうが似合っていると思う人が多いのでは。事実「年を重ねる」よりは「歳を重ねる」のほうが何となく落ち着きを感じる。

 更に、会社などで部下を叱る場面の「いい年して、そんなことも・・・」などの対象者は若手社員であり、一方、年配者の自戒の言葉として、「いい歳して、赤面の至り」などのように「年」と「歳」の使い分け、いとおかし。「歳」の訓読み「とし」は常用外だと、ほんのり意識しつつ、使い分けは個人個人のお好みでノープロブレム!

 でもちょこっと注意も必要。「この家もかなり年取った」などの人間以外の場合は「歳」は使えない。加えて「年寄りの冷や水」や「美人に年なし」などの慣用句には「年」を使うのがルールとされている。なるほど。

 人生100年時代と言われており、年甲斐もなく、老いの木登りではないが、エスカレーターなどなるべく使わず、階段をよじ登って体を鍛え、元気に歳を取りたい、重ねたい所存でござる。

矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)    
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