14 ◎ 日光は「結構」です !

日本語教師  矢野修三

  先ずは、こんな会話を・・・
 お客 「これ、結構なメロンね~」
 店主 「はい、結構売れていますよ。奥さんもいかがですか」
 お客 「でも値段もなかなか結構ね、今日は持ち合わせがないから結構よ」
 店主 「奥さん、お金なんかいつでも結構ですよ~」

 日本語における、曖昧な表現の一つとされているこの「結構」だが、日本人はこんなわざとらしい会話でも容易に理解できる。しかし日本語学習者にしてみれば大変、「結構」ってどんな意味なのか、目を白黒させてしまう。

 確かに、この「結構」はいろいろな状況で使えるので、便利といえば便利だが、さまざまな意味を持っているので、日本人でも結構誤解を招く恐れあり。

 さて、この「結構」の語源だが、家など建てるときの表現。「結」はひもで結ぶことであり、「構」は木などを構えること。すなわち、木と木をひもでしっかり結んで、念入りに構え、巧みに、家などを立派に作り上げる様子を表わす言葉とのこと。えー、びっくり。

 それゆえ、当初は「素晴らしい」や「お見事」の意味として、「結構なお住まいですね」や「お味、まことに結構でございます」などであり、最高の褒め言葉として使われてきた。

 そこで「日光見ずして結構と言うなかれ」。こんな諺が韻も踏んでおり・・・、江戸で大流行したようである。これは徳川家康公を奉る見事な東照宮がある「日光」を見ずに「結構」という言葉は使っちゃダメ。それほど当時から東照宮はとても素晴らしかったようで、中学生のころ見にいったことがあるが、確かに「まことに結構でした」。

 しかし、この「結構」、時代とともに意味が広がって、「十分です」や「満足です」のような意味も加わった。さらに、「もう十分満足」の意味から、「遠慮する」や「必要なし」などと、否定にも使われるようになり、日本人にとっても、ややこしい言葉になってしまった。

 例えば先輩から「ビール、もう一杯どう?」に対して「結構です」だけだと確かに分かりにくい。「結構ですねー」と「ね」を付けて、おどけた喜びを表すには効果的であり、「もう結構です」と丁寧に断るのにも便利である。言い方や顔の表情などでも判断できるが、生徒にとっては難しいので、「ね」や「もう」が大事、と教えている。

 また、この「結構」を「思ったよりも」「完全ではないがそれなりに」などの意味でも使うようになり、これまたややこしい。奥さんが一生懸命作った料理を食べた旦那が「結構おいしいね」と言ったら、夫婦喧嘩になる恐れも・・・。実に曖昧でややこしいが、面白みも。

 さらに、上記の「お金はいつでも結構ですよ」である。これはいわゆる「OK」や「大丈夫」などの遠回しの表現であり、相手に丁寧さを示したい場合などに用いられる。例えば、お客さんなどに「少しぐらい遅れても結構ですよ」などである。ごもっとも。

 このように、この「結構」は時代ともに、いろいろな意味を持つようになり、間違いなく曖昧な言葉となってしまった。さぞかし徳川家康大権現も驚いているのでは・・・。そして、もし「日光は結構です」を聞いたとしたら、「それなる、おぼめかしき(あいまいな)言い方は、まかりならぬ」との、お咎めが聞こえてきそうである。

 日本語教師としても、この「結構」を教えるのは結構大変だが、面白みも結構ある。「はい、結構を教えるのは結構です」。もう、どっちなのよ!

「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら

矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)    
メール:yano@yanoacademy.ca
ホームページ:https://yanoacademy.ca