バンクーバー生まれ、アメリカ育ちの日系二世サンタ・オノ(小野三太)氏がブリティッシュコロンビア大学(UBC)の学長に就任したのは2016年。2020年には全会一致で再任が決定、現在2期目を務めている。
就任1年目と2年目以来となるオノ学長へのインタビュー。今回はオンラインでUBCがコミュニティに果たす役割や新型コロナウイルス拡大の影響、日本とのかかわりなどを聞いた。
学生との距離が近い学長として
再任決定について「全会一致で支持されたことをとても光栄に思います」と語った。
UBCはカナダでも歴史のある名門大学。その学長を2期も務めることになった人というと近寄りがたい雰囲気と思われるが、学生らとのコミュニケーションを大切にしているというオノ学長は学生にもコミュニティにも気軽に声をかけ、その気さくさでよく知られている。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、学生やコミュニティの人々と会って話すことはできないが、「ズームやソーシャルメディアを通してコミュニケーションをとっています」と相変わらず積極的。ツイッターやインスタグラムへの投稿も多い。
新型コロナが拡大を初めた4月には、チェロで「さくら、さくら」を演奏した動画をインスタグラムにアップし、日系コミュニティと日本の人々へ贈った。
分刻みに多忙なスケジュールの中でも、積極的にコミュニケーションを取る姿勢は、学長に就任した当初から変わらない。
UBCはカナダの大学の中でもアジアからの学生が多く、日本人も多数学んでいる。時には学内で日本人学生と話すこともあるという。
「だいたい日本人の学生が日本語で私に話しかけて、それを私が聞いて自分の日本語の理解力を試す感じです」と笑う。話す方は「少ししかできない」と言うが、聞く方はほとんど理解できる。両親は日本人で、父・孝氏は数学教授としてUBCで教えていた。両親は2016年の学長就任式にも出席している。
日系コミュニティとかかわることにもバンクーバーに来た当初から積極的だった。現在は多忙のため辞任したが、一時期は日系文化センター・博物館の理事も務めていた。今でもコミュニティとのかかわりを大切にしている。
「バンクーバーの日系カナダ人コミュニティとの関係をすごく楽しんでいます。また、機会があるときはカナダ各地の日系カナダ人コミュニティとも対話をしています。(全国から)連絡をくれたりすると、とても温かい気持ちになります」
今でも日系コミュニティのイベントがあるときには、時間が許す限り参加したいと言う。「理事としては日系文化センター・博物館のイベントに参加できなくなりましたが、組織のことをとても誇りに思っています」とオノ学長。「すばらしいコミュニティだと思います。博物館も、(日系文化センターでの)アクティビティも充実していますし、シニアケアセンターも特別です。あそこの料理はとてもおいしいですよね」
パンデミックで変わるものと変わらないもの
新型コロナの影響で2020年、大学はバーチャル化を強いられた。国際交流を重視しているUBCでオンラインは海外の研究者や学生と交流する一助ではあるが、取って代わることはないと話す。
「おそらく新型コロナが収束しても引き続きオンラインで続けるものはあると思います。例えば、UBCはグローバル・バーチャル・クラスルームと呼ばれるものを開発しています。これは世界中の研究者や学生をリモートプラットフォームでバーチャルにつなぐものです」。UBCは今後もこうした技術を使って世界中の研究者や学生とつながっていくという。しかし「これが学生が大学に来るということに取って代わることはないでしょう」と断言する。「学生が外国の大学に行って、大学生として現地で感じる体験をオンラインですることは難しいと思います」と言う。
「おそらくパンデミックが終われば多くの学生がより熱心に海外へ学びに行こうとするでしょう。多くの留学生がUBCに来ると思うし、UBCからも海外へと飛び出していくでしょう」。
海外の大学との交流もこれまで以上に積極的に行っていくという。日本の大学とも1期目から交流を図り、良好な2校間関係を継続している。さらに「UBCは “the Association of Pacific Rim University (APR)” に加盟していて、私は理事を務めています。日本にもAPRに加盟している大学があり、研究や授業でどのようなコラボができるか考えているところです」
すでに多くの留学生が学ぶUBCで今後留学生の数を今以上に増やすという予定はないが、「海外からの学生がUBCでの経験が楽しく充実したものだったと留学が終えたときに思ってもらえるよう支援を充実していこうと思っています」と留学の質の向上を目指すと語った。
パンデミック中に起きたアジア系への差別について
3月に本格的に国内で拡大した新型コロナウイルスの影響で、これまでに経験したことがないようなアジア系コミュニティへの差別行為がバンクーバーで横行した。
これについてオノ学長は「残念だけど人間の本性の一部」と語った。それはカナダでそれほど遠くない昔に日系カナダ人強制移動という歴史でも知ることができると語る。
「第2次世界大戦勃発とともにバンクーバーやスティーブストンに暮らしていた日系カナダ人は強制移動させられました。そこには多くのUBCの学生も含まれていました。その多くはカナダ生まれのカナダ人で、カナダのことを誇りに思っていた人々です。彼らは国籍で差別されたわけではなく、民族で差別されました」と語った。UBCでは2012年に強制移動のために卒業できなかった日系人学生を名誉卒業生として卒業証書を授与し、2017年にオノ学長がそれらの卒業生に卒業アルバムを手渡している。
オノ学長は「このような厳しい状況に置かれたときに人がそうした差別行動に出ることは特に驚きません」と言う。それでも「こうしたときこそ、人の最もすばらしい部分も現れることも事実です。ビジネスコミュニティや政治家、ジャネット・オースティンBC州副総督などが、強い口調でアジア系への差別が正当な行為ではないと主張してくれたことをとてもうれしく思います」と述べ、1940年代当時はこういった声が出なかったことは日系人への不当な対応だったと語った。
3カ国大学対抗野球大会も継続
オノ学長は大の野球好きで知られている。2018年にはUBCの野球チーム・サンダーバーズが日本に遠征した。2019年には、日本から東京大学、慶應義塾大学(慶応大学)、アメリカからカリフォルニア州立大学サクラメント校野球部ホーネッツと、UBCサンダーバーズの4チームが参加してバンクーバーで大学野球大会が開催された。
優勝は慶応大学で、サンダーバードは残念ながら4位に沈んだ。次は日本でリベンジ戦を計画中だ。もともと毎年日本とバンクーバーで交互に大会を計画していた。本来なら2020年は日本での開催予定だったが、新型コロナの影響で実現しなかった。ただ「オリンピックとは勝負できない」とオリンピックイヤーの日本での開催は非現実的との見方を2019年から示していたため現実的には2021年に日本開催となるだろうと当初から語っていた。
しかし「おそらく次に大会が実現するのは2022年だと思います」とオノ学長。「前回は4チームでしたが、次はアメリカからも他にワシントン州から参加を希望する大学があるので、6チームでの大会を計画中です」。ただどういう形で開催かは未定だという。
研究や教育だけでなくスポーツでの国際交流も大切というオノ学長。これから次の始球式に向けて練習に励むのかもしれない。
大学という枠を超えたUBCの役割をスカイトレイン延長でさらに拡大
2010年2月の冬季オリンピック開催を機に、バンクーバーではスカイトレインの延長が急ピッチで進んでいる。その一つが、ミレニアムラインをVCCクラーク駅からアビュータス通りまで延長するブロードウェイ・サブウェイ・プロジェクト。そしてミレニアムラインは最終的にはUBCまで延長される。
オノ学長はこのスカイトレインの延長計画は、UBCの学生や関係者だけではなく、コミュニティ全体にとって利益になると説明する。
UBCへの延長には2つの目的があると言う。「ひとつは毎日大学に通う何百万という人の足としてです。現在の99Bラインは北米で一番混雑しているバス路線だと言われています。大学が成長していくにつれ問題となります。これが解消されます」
もう一つは、UBCが提供するサービスをコミュニティ全体で共有するために非常に大きな役割を果たすと説明する。「多くの学生や教授らは、ヘルスケアを提供したり、イノベーションやハイテク企業にかかわっていたりと、校内以外のバンクーバーで活動しています。そうした人々がスムーズに動けるというのはバンクーバーのコミュニティ全体に利益となります」
これから大学もバンクーバーも拡大していく中で、スカイトレインは大きな役割を果たすと日本の東京やその他の都市で鉄道が発達していることを例に挙げた。そうした将来を見据えて、「今の時点で市長会議や先住民族、バンクーバー市、BC州、連邦政府がかかわって、こうした巨大プロジェクトを議論することが重要です」
これからのUBCと日系コミュニティへのメッセージ
「UBCはすでにすばらしい大学です」と就任した当初と同じ思いを語った。「でも大学としてますます成長することができる、そしてより強力な研究機関となれると期待しています」。これから私たちが直面するますます複雑化する問題を明らかにし、「たとえば、パンデミックや気候変動、社会正義など、これから先の数年にはUBCが最も難しい問題を解決できる機関として知られるようになれることを目指しています」と語った。
日系コミュニティには、「1期目にも多くの人々がコミュニケーションや対話をしてくれたことにとても感謝しています。そして、引き続きみなさんが私に連絡してくれて、より強い関係を築いていきたいです」とメッセージを送った。
(取材 三島直美)
関連記事