全カナダ人日系人協会(NAJC)が新移住者特別委員会設立、JNICメンバーにインタビュー

新移住者特別委員会(Japanese New Immigrants Ad Hoc Committee:JNIC)の(左から)大木崇さん、ピアレスゆかりさん、高林美樹さん。写真提供:JNIC
新移住者特別委員会(Japanese New Immigrants Ad Hoc Committee:JNIC)の(左から)大木崇さん、ピアレスゆかりさん、高林美樹さん。写真提供:JNIC

日本語を話す人へのサービス提供

 全カナダ人日系人協会 (National Association of Japanese CanadiansNAJC)が、2022年5月に新移住者特別委員会(Japanese New Immigrants Ad Hoc Committee:JNIC)を設立した。これまで、主に英語を話す日系人を対象としてきたNAJCが、日本語を母国語とする人、特に新移住者へのサービス提供にも力を入れていこうという試み。
 2022年12月6日、同委員会メンバーの大木崇さん、ピアレスゆかりさん、高林美樹さんにオンラインで話を聞いた。(以下敬称略)

まず、みなさんの自己紹介をしていただけますか? 

大木:1964年にカナダに来て、バンクーバーに5年、アルバータ州レスブリッジ市に5年、エドモントン市に40年以上住んでいます。補習校に関わっていたことから、20年前からNAJCで翻訳などのボランティアと役員をするようになりました。現在、日系コミュニティの統計リサーチ、JNICでは書記・会計を担当しています。

ピアレス:長崎県佐世保市出身です。1998年にカナダに来て、留学エージェントをしています。ビクトリア在住で、ブログを発信しています。NAJCでは昨年9月から理事をしています。

高林:静岡県浜松市出身です。留学生としてカナダに来て卒業後後に世界を転々としたあと、12年前に子連れでバンクーバーに来て、教育コンサルティングの会社を立ち上げました。誰も取り残されない、インクルーシブなコミュニティ作りを目指して色々な移民支援団体で、ダイバーシティ・インクルージョン関連のイベントを企画するボランティアをしています。

日本語によるサービスのニーズ

新移住者特別委員会の発足経緯を聞かせてください。

大木:まず日系人とはカナダ国勢調査で人種的・文化的祖先に「日本人」と回答した人たちで、2021年にカナダには129,000人の日系人がいました。これはカナダの人口の0.36パーセントにあたります。
 1960年代以降カナダに来た新移住者の多くが、日本に住む親の遠距離介護、自分がどこの老人ホームに入るかなどの問題をかかえています。
 現在、新移住者の子どもは14歳以下が15,000人いると言われています。国際結婚も多く、その子らの日本語教育も大切な課題となっています。

ピアレス:横のつながりはどこにあるのだろうという点もあります。例えば、ユーコン準州での日本人新移住者の生活。社会福祉サービスを日本語で提供できる団体は大都市にはあっても小都市にはありません。そこで提供できるサービスは何なのか、文化交流なども考えていきたいと思います。

高林:個人的な意見ですが、日系コミュニティは他のコミュニティに比べ横のつながりが少し薄いように感じます。特にカナダ全国の繋がりは皆無。またいろんな世代が集まる会も少ないです。ですから弊委員会の活動としては新移住者と日系人コミュニティの相互利益になるようなネットワーク作りができたらと思っています。

新移住者と日系コミュニティのネットワーク

-新移住者委員会が目指すものの中には、現在ほかの団体で提供しているサービスもあると思います。なぜ今NAJCが日本語を話す人たちに力を入れるのでしょうか。

大木:バンクーバーでは隣組が日本語によるサービスを提供していますね。そういう団体にもNAJCに入ってもらい、全国的に情報シェアができるといいと思っています。
 NAJCは以前から新移住者へのサービスを大切にしてきました。亡くなった鹿毛達雄さんが、新移住者のための組織づくりに努めてきましたが、その後、NAJCでは新移住者との関係で、その方向が今まで見つからなかったという点もあったのではないでしょうか。

高林:全国規模で集う機会、共通点、触れ合う場があまりなかったのですね。ですから何か一緒にして活動することで歩み寄り、コミュティ繁栄に必要な、人と人の間の信頼感を得られると思います。

各コミュニティですでにさまざまなネットワークがあると思いますが、新移住者委員会ではどのような支援をしていますか?

ピアレス:座談会形式で、国際結婚や遠距離介護など、個人的な問題を相談できるようなネットワーク作りをしています。JNICでは、ジャムズネットカナダと協力して日本語でのメンタルヘルスや医療のリソースを提供していけたらと思っています。

高林:英語が達者な新移住者は、これまで日系コミュニティと多くの関わりを持たずに来たかもしれません。ですが、長年暮らしていると母語で参加できる場所を求める人もでてきます。JNICでは主に日本語でまたは英語でも安心して頼れる心の拠り所になっていけたらと思います。

日系カナダ人の歴史セミナー

新移住者に日系カナダ人の歴史を学ぶ機会を提供しているということですが。

高林:トロント在住で元日系ボイス編集長の田中裕介さんによる講演『カナダ日系145年歴史セミナー』を、不定期にオンライン発信しています。永野萬蔵とその末裔たち、戦後の日系社会の再興、朝日野球チームと都市伝説など10回シリーズです。

活動予定はオンライン主体ということでしょうか。

ピアレス:NAJCの加盟団体は100パーセント、オンラインでつながっています。カナダ在住日本人グループ、ジャパニーズカナディアンのフェイスブックグループがあり、そこで情報をシェアしています。
 (新型)コロナ(ウイルス)禍でオンラインでの座談会が始まり、それを元にしてこの委員会が発足しました。

高林:オンラインを使うことにより、カナダ全国の新移住者とつながることの利点がありますね。全国版ということで、就職活動にもつながることもあると思います。
 この委員会の委員長であるホワイトホース在住の鳥飼文彦さんは「ざっくばらんに話しましょう」と提案しています。いままで知り合うこともなかった遠方のいろんな方と話すことで、こんな違った考えや見方もあるのかと気づき、人生の選択肢も増え、豊かな気持ちになります。
 多くの新移住者がJNICの活動に参加することを奨励しています。親元になるNAJC年次総会では、新移住者が日系人と共同で行えるような活動についても積極的に話し合いたいと思っていますので、各地からの新移住者の活動参加を期待しています。

新移住者特別委員会(Japanese New Immigrants Ad Hoc Committee :JNIC)
連絡先jnic@najc.ca

「カナダ日系145年歴史セミナー」

スケジュール:

第4回:2023年2月23(木)1920〜1930年代 二世の成長と「白主日従」の時代へ
第5回:2023年4月13(木)こうして日系社会は第二次世界大戦に飲み込まれていった
第6回:2023年4月27(木)戦中疎開地での人間模様と分散定住
第7回:2023年5月31日(木)戦後の日系社会の再興
第8回:2023年6月29(木)リドレス運動の勃興と政府との合意
第9回:2023年7月27(木)1990年代:朝日野球チームと都市伝説
最終回:第10回:2023年8月31(木)リドレスから30年:戦後移住者から未来世代へ

(取材 ルイーズ阿久沢)

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