北海道日本ハム・ファイターズ入団、山口アタル選手インタビュー

 バンクーバー出身の山口アタル選手が、日本のプロ野球チーム北海道日本ハム・ファイターズに育成選手として入団した。2022年11月には北海道で入団会見に臨み、ファイターズの一員としてスタート。バンクーバー出身日系人として初の快挙となった。

 入団会見のため日本へ出発する前日の2022年11月20日、バンクーバー市ナナイモパークで話を聞いた。

父と二人三脚でつかんだ入団のチャンス

 野球を始めたのは8歳の時。友だちに誘われたのがきっかけだった。特に得意なスポーツはなかったという。

 そんな時、父親に、「野球だったら努力すればプロになれるみたいな感じに言われて、じゃあがんばろう」ということで野球を始めた。

 所属チームは年齢とともに移った。そんな時でもいつも一緒に練習してくれたのは父だったと振り返る。

 ただ、「お父さんは(日本では)全然野球をやってなくて。高校の時は卓球部だったんです」と言う。しかし「ぼくが野球を真剣にやるって言った時に、いっぱい野球のことを勉強して」。大学に行くまで「ずっと一緒に練習してた感じです」と笑顔を見せた。

 日本のプロ野球チームに挑戦する時も父親からの全面的なサポートがあった。球団に送る自身のプロモーションビデオの制作、12球団へのEメール送信、日本での入団テストの準備、どの場面でも父の強力なサポートがあったと振り返った。

 日本ハム入団が決まった時、「お父さんはぼくよりビックリしてた」と笑う。「お父さんはいっぱいぼくのために、サクリファイスした(犠牲を払った)ので。本当に自分の力だけではここまで来れなかった。お父さんのおかげでここまでこれた、本当にお父さんには感謝しています」と何度も父への感謝の言葉を口にした。

自らをアピールして日本ハム入団のきっかけをつかむ

 高校まではバンクーバーで、大学ではテキサス州で野球をやっていた山口選手が日本ハムに入団したきっかけはなんだったのか?それは意外とシンプルな方法だった。

 自身のプロモーションビデオを制作し、それを日本のプロ野球12球団すべてにEメールで送ったと話した。「遠投したりとか、夏の試合の動画とかを2分ぐらいのコンパクトな動画にまとめて。それを全球団に2回送りました」。1回目は普通にメールしたが反応がなく、2回目はタイトルに「スカウトへ」と入れて送った。

 すると3球団から入団テスト参加の知らせが届いた。そこで日本へ。大学までは投手として活躍していたが入団テストは外野手として受けた。そこに特に違和感はなかったという。入団テストではいきなりホームランを打ってスカウトの注目を集めた。「普段から体作りはしていたので」と強打者としての経験はなくても前向きに入団テストに臨んだ。

 結果は日本ハムに育成選手として入団。入団の知らせはドラフト会議(2022年10月20日:日本時間)のテレビ中継だったという。「おばあちゃんの家でライブを見てて、名前が出たって感じだった」とびっくりしたと笑った。

 入団までを振り返り、「自分に運が味方してくれたかなって感じ」と笑ったが、挑戦することが大事だと感じたとも。「Eメールで(球団にビデオを)送るとかってノーコストだし、誰にでもできることだと思う。その結果がどうなるかは分からないけど、やってみることが大切」と、ポジティブな姿勢が野球の女神を引き寄せた。

野球への自身の姿勢は新庄ファイターズと共通点も

 日本ハムの印象は「ハイペースで、盗塁とか、ホームランとか、アメリカみたいな感じの野球が新庄監督のスタイルなのかなと。そしてやっぱりファンを盛り上げるような野球をする印象がありますね」。自分もそんな選手を目指している。「楽しませられる野球ができる、ファンが盛り上がるようなプレーができる選手になりたいです」

 日本ハム・ファイターズの新庄剛志監督は、大リーグでも経験があり、カナダ、アメリカでプレーしてきた自分には「合っていると思います」と言う。

 それにファイターズとは意外な縁もある。2012年リトルリーグ・ワールドシリーズにカナダ代表で出場した時、日本代表には現在日本ハムで活躍する清宮幸太郎選手がいた。直接対決はなかったが、「バッティグとか、ピッチングとか、ものすごかった印象があります」。その清宮選手とチームメイトになる。

 また子どもの頃からの憧れの選手は、現在は大リーグで活躍する元ファイターズのダルビッシュ有投手。

 自身が目指す野球スタイルといい、元ライバルといい、憧れの選手といい、ファイターズには縁があったようだ。

 とはいえ、まだスタートラインにも立っていない。これから育成選手としてプロの厳しい練習が待っている。ポジションも投手から外野手へと変更し、北米とは違った練習スタイルに臨んでいく。

 それでも本人はいたってポジティブ。入団テストまで外野ノックをほとんど練習したことがなかったが、なんとかうまく切り抜けたと笑った。「守備は練習すれば上手くなると思っている。足の速さとか、パワーとか、肩の強さはあるので、あとは育成でいっぱい練習して守備を上手くなりたいと思います」

バンクーバー朝日の選手とは今でも友だち

 バンクーバー朝日に在籍した経験がある。創設当初の2015年。ほかに所属していた野球チームとのスケジュールが合わず、1年だけの在籍だったが、朝日は「練習もしっかりしてて。日本から来たチームと試合をやった印象がすごく残ってて、めちゃくちゃ楽しかった」と笑顔が弾ける。

 今でも朝日の選手とはつながっていると話す。野球で上を目指したいという思いは同じ。情報交換もしている。中には日本で野球をやりたいという選手もいると聞いているという。「いつか同じ舞台に立てればうれしい」と話した。

期待を超える選手に

 何事にもポジティブな山口選手。北米からの育成選手として日本のプロ野球界に飛び込むことにそれほどの不安は感じていないと話す。違いこそが自分の強みだと感じている。文化的な違いなどは気にしていないと笑い飛ばす。

 流暢な日本語でコミュニケーションにも全く問題なさそうだ。ただ本人は「日本語が下手で、漢字があまり読めないこととかが不安ですけど」と笑う。日本のテレビ番組では「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」が大好きだそうで、その影響で「無礼な言葉使いをするのではないかとちょっと気にしてる」といいながらも、「そこは外国人ということで」とやっぱりポジティブ。

 周りを明るくするキャラクターで、新庄剛志監督の下、どんな選手へと成長していくのか、バンクーバーでも楽しみに見守っている。

 日系コミュニティには、「ファンのために期待を超えたいと思います。気持ちに応えたいと思います」とメッセージを贈った。

大学時代のユニフォームを着てインタビューに臨んでくれた山口アタル選手。2022年11月20日、バンクーバー市ナナイモパーク。Photo by Saito Koichi/JC Today
大学時代のユニフォームを着てインタビューに臨んでくれた山口アタル選手。2022年11月20日、バンクーバー市ナナイモパーク。Photo by Saito Koichi/JC Today

山口アタル(やまぐち・あたる)

1999年5月28日生まれ、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー出身
アメリカ・テキサス州テキサス大学タイラー校在学中に日本プロ野球入団テストに挑戦
2022年11月育成ドラフト3位で北海道日本ハム・ファイターズに入団
ポジション・外野手、背番号・127

北海道日本ハム・ファイターズ

日本のプロ野球チーム、パシフィック・リーグ所属
本拠地・北海道北広島市、球場はES CON FIELD HOKKAIDO
2022年より新庄剛志監督が率いる
大リーグで活躍するダルビッシュ有投手や大谷翔平選手も在籍していた

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