第45回 人の痛みを知る大切さ

不安定の中の安定

 この原稿を書いている16日(月)から逆算すると、11月3日の大統領選はすでに二週間程前になる。だが、周知の通り新型コロナの影響で郵便投票をした人が多数だったため、最終結果が出る迄に10日も要し、13日(金)にやっと「全50州で勝者判明」とのニュースが流れた。選挙人獲得数はトランプ氏232人に対し、バイデン氏は306人で予想通り彼の当選が確定した。

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バイデン次期大統領のスピーチに集まる人々を映し出すニュース。©︎ Keiko Miyamatsu Saunders

 今日までトランプ氏は敗北宣言をしていないが、大変な激戦だったということは、それだけ彼を支持する人たちがいた証拠になる。だが振り返ってみれば、彼には政治家としての確固たるビジョンなどはなく、自分の本能に従って損得勘定で行動してきたことで、チグハグなことがてんこ盛りだった。それはまるで大統領になる以前のワンマン経営者そのものの態度で、「俺様のやり方に従うのなら仲間、反対するなら ”you are fired”」と言った単純明快さでホワイトハウスを仕切り、世界を混乱に陥れてきた。

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トランプ大統領がゴルフをす様子を映すテレビニュース。©︎ Keiko Miyamatsu Saunders

 次期大統領になるバイデン氏は、油と水のように交じり合うことなく分断した米国社会のヒーリング(癒し)を主張し、またコロナの撤退的駆除、その状況の中での経済の再生を推し進めて行くと言うが、国内外には一筋縄では行かない課題が山積みしている。一朝一夕では解決出来ないことは明白な事実で砂上楼閣のようではあるが、一応不安定の中の安定が築かれた。

 だがどうか狂信的なトランプ氏支持者が、まかり間違っても新大統領を暗殺するようなことがないよう切に願っている。

ブレンド・ファミリー 

 8月1日にバイデン/ハリスチームが二人三脚で選挙戦を動き出してからは、嫌が上にも目についたのは二人のバックグランドであった。双方とも複雑な家族構成を持ちながら、それを肯定的に捉えて進む姿に共感を持った人々は多かったに違いない。

 二人の家族構成はすでに知れ渡っているが、バイデン氏は先妻と当時一歳だった娘を交通事故で失い、また二人いる息子の長男を、脳腫瘍による闘病生活の末に亡くしている。再婚した妻(ジル)との間には娘がいるが、先妻の次男とも仲がいいと評判である。

 一方ハリス氏の母親はインドからの移民であり、父親はジャマイカ系の黒人。スタンフォード大学の経済学の教授であったが、彼女が7歳の時に両親は離婚した。その後母親がモントリオールのマギル大学で教鞭を執ったことで当地の高校に通い、大学は全米屈指の黒人大学ハワード大に進みカリフォルニアのロ-スクールでも学んでいる。卒業後はキラ星のような職歴を経て6年前にユダヤ系弁護士エムホフ氏と結婚した。自身の子はないものの夫の先妻の子どもたちとは問題もなく、彼女を「義母」でなく「ママ」と「カマラ」を掛けて「ママラ」と呼ぶそうで、先妻とも良好な関係と言う。

 多様な家族を丸ごと愛するバイデン/ハリスの両家族は、自分たちを「ブレンド・ファミリー」と呼ぶそうだ。まさに様々な人種や背景を持った人々が住むアメリカを、これから支えていくに相応しいと言えるのではないか。

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バイデン大統領候補とその家族。©︎ Keiko Miyamatsu Saunders

 トランプ氏も何度も結婚/離婚を繰り返したことで大家族ではあるが、白人優位の差別的な発言を繰り返し「お金さえあれば女性はどうにでもなる」等と豪語した事もあると聞く。人としての品位はカケラもないかに見える。

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バイデン大統領候補と速報を見るハリス副大統領候補たちを映すCNN。©︎ Keiko Miyamatsu Saunders

レインボーウェーブ

 現地のメディアによると、大統領選と同時に行われた連邦/州議会などの選挙では、今回LGBTQ当事者が歴史的な当選を果たし、「レインボーウェーブ」が起きたと伝えている。連邦議会では初めてオープリンゲイ(Openly Gay)の黒人2人が当選し、国政や地方選挙では少なくとも198人の当事者が政界入りしたと言う。(LGBTQビクトリーファンド: https://victoryfund.org/lgbtq-victory-fund-2020-election-results/

 その中の一人、カリフォルニア州の連邦議会選挙で下院議員のマーク・タカノ氏は日系三世。2012年にゲイであることを公表して当選し今回も再選された。

5-Congressman Mark Takano from Facebook of Congressman Mark Takano
Congressman Mark Takano from Facebook of Congressman Mark Takano

 確かにテレビのニュースで歓喜する人々の群れを見ると、あの6色のレインボーフラッグを掲げる人々の姿が多かった。

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CNNがレインボーフラッグを持って喜ぶ人々の姿を映す。©︎ Keiko Miyamatsu Saunders

 LGBTQの動きはアメリカより一足先を行っているカナダでは、すでに1979年にバンクーバーからNDPのSvend Robinson氏がゲイを公表して国会議員に当選しており、また2005年7月には国として同性婚を承認している。

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カナダのセクシュアル・マイノリティたちー人権を求め続けて(教育史料出版会)サンダース宮松敬子著 ©︎ Keiko Miyamatsu Saunders

 私はこの記念すべき年に表記の本を上梓した。

 社会の中で陽の当らない立場にいる人々が、「自分たちの人権を勝ち取る歩み」というものに私は非常に興味を持ってきた。その一つの動きとして、15年前に同性者たちの叫びが地鳴りのように沸き起こっていることに気付き、カナダ、日本、NY、オランダなどで取材を重ねてこの本を出版したのである。

 とは言え、カナダでもいまだに同性婚に反対する国会議員がいることも確かである。だが日本の杉田水脈自民党議員のように「『LGBT』支援の度が過ぎる」とか、自民党の白石正輝議員が足立区議会定例会で少子高齢化の対応について「レズビアンやゲイが広がってしまったら足立区は滅んでしまう」などと言うバカげた発言をする政治家がいないのは嬉しい。

 またトランプ大統領が先ごろ最高裁判事に選んだ保守派のエイミー・コーニー・バレット氏の「私は性嗜好で人を差別しない」の発言も、このような立場の人からの言葉とは思えないものだ。いまだに同性愛者の人々を「性嗜好」と考えていることに驚きを隠せない。

 バイデン/ハリス両氏には、是非とも社会の弱者に目を向け人の痛みを知る政治家になって欲しいと強く願っている。

サンダース宮松敬子 
フリーランス・ジャーナリスト。カナダに移住して40数年後の2014年春に、エスニック色が濃厚な文化の町トロント市から「文化は自然」のビクトリア市に国内移住。白人色の濃い当地の様相に「ここも同じカナダか!」と驚愕。だがそれこそがカナダの一面と理解し、引き続きニュースを追っている。
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