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「イェーデン・イジク=ドズルコ」 音楽の楽園〜もう一つのカナダ 第30回

はじめに

 日加関係を応援頂いている皆さま、音楽ファンの皆さま、こんにちは。

 12月に入り、オタワの冬が本格化してきました。雪が積もり見事な雪景色です。世界で最も寒い首都の1つであることを証明しているかのようです。地球温暖化の時代ですから、オタワの冬も数十年前と比べるとマイルドだと言われていますが、長崎出身の私にとって雪に囲まれた生活は憧れでもあり、圧巻です。

 実は、健康のために8月から毎朝ウォーキングをしており、雪の中でもスノーブーツを履いて毎朝5キロ程度歩いておりました。ところが先日フリージング・レインで道が完全に凍結し、スノーブーツにスティックで武装しておりましたが、不覚にも転倒し右上腕部を骨折してしまいました。

 従って、今回のコラムは音声入力と左手だけで書いております。右手が使えなくなり、日常生活のごく普通のことも難しくなってしまい、健康の大切さを実感しながら書いています。そして、難しい日常に、改めて、音楽のチカラを思い知りました。

 そこで、今回の音楽の楽園は、カナダが世界に誇る若手ピアニスト、イェーデン・イジク=ドズルコです。実際のところ、イェーデンは、未だ知名度と言う意味では高くありません。しかし、2024年の2つの国際的な音楽コンクールを制しました。5月のモントリオール国際コンクール、そして9月のリーズ国際ピアノコンクールです。将来が非常に楽しみなピアニストです。

2024年〜コンクール・キラーの面目躍如

 これまでの「音楽の楽園」で何人ものカナダ人音楽家を取り上げています。特に、ピアニストと言う意味では、クラシックのグレン・グールド、ジャズのオスカー・ピーターソンを筆頭にカナダは天才・鬼才・異才の宝庫です。第23回の本コラムでは新世代の若き巨匠ヤン・リシエツキを取り上げました。カルガリー出身のヤンは、若くして頭角を現し、「コンクールに出る必要のなかったピアニスト」と言われています。一方、今回取り上げるイェーデンは、その対極にあって、まさに「コンクール・キラー」のピアニストと呼ぶべきでしょう。

 イェーデンの名前を一気に高めた2024年の活躍ぶりを見てみましょう。

 第21回モントリオール国際コンクール・ピアノ部門は、5月5日〜16日、モントリオールで開催されました。イェーデンは、ファイナルでブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏し、優勝しました。実は、カナダで開催されるコンクールではあるものの、これまでカナダ人の優勝者はいませんでした。イェーデンこそカナダ人として初めての優勝でした。

Photo from Concours musical international de Montréal (CMIM) Facebook
Photo from Concours musical international de Montréal (CMIM) Facebook

 モントリオール国際コンクールは2002年に設立された比較的新しいコンクールですが、優勝賞金と副賞として与えられるリサイタル、さらには録音の機会等を換算すると優勝の総額は140,000加ドルです。また、イェーデンは、今回ベスト・カナダ人賞(5,000加ドル)、セミファイナルの段階でのベスト・ソナタ演奏賞(3,000加ドル)、カナダ人作曲家、新曲課題賞(2,500加ドル)も獲得しています。音楽が賞金で計れるわけではありませんが、モントリオール国際コンクールの賞金総額は、現在、数多ある国際コンクールの中でも最上位にあります。名門オーケストラとして知られるモントリオール交響楽団及びカナダ放送協会などが協賛しています。新しい国際コンクールとしての存在感を高めている所以でもあります。

 実は、イェーデンは、この段階でリーズ国際の第1ラウンド通過が確定していて、9月のリーズ国際ピアノコンクールの本戦への出場が決まっていました。クラシックのピアノコンクールは、陸上競技のマラソンと似た面があって、普通は大きな大会に連続して出場することはありません。何故ならば、一つのコンクールだけでも予選から決勝まで、長期間にわたって多数の課題曲について審査を受けなければなりません。強靭な精神力と集中力が求められます。世界最高峰の競争を制するためには、多数のレパートリーを仕上げ、コンディションを整えることが不可欠です。しかも、掛け持ちした片方で優勝したとして、もう一つで結果を出せなければ、評価やキャリアに悪影響を及ぼしかねません。ですから、モントリオールとリーズを掛け持ちするということは、イェーデンの自信の現れでもあります。自信の裏には、入念な準備があるということです。

 イェーデンは、モントリオールを制した後、英国は北イングランドの都市リーズへ赴きます。第21回リーズ国際ピアノコンクール本戦は、9月11日から第2ラウンドが始まりました。第2ラウンドを通過し、15日から17日までのセミファイナルに臨みます。そこを突破した5人のファイナリストが決勝に進みました。決勝は、9月20日(金)と21日(土)の2日間でした。イェーデンは、モントリオールのファイナルでも弾いたブラームスのピアノ協奏曲第2番で勝負。そして、優勝しました。モントリオールから連続で伝統のリーズでも優勝し、イェーデンの評価は一気に高まりました。

 リーズ国際ピアノコンクールは1961年の創設。63年からは3年ごとの開催です。5年に1度のショパンコンクールに匹敵するほどの権威のあるピアノコンクールと言って良いでしょう。毎回の出場者は極めて優秀にして厳しい競争です。著名なところでは、1969年はルプー、72年はペライアが優勝しています。75年は日本の誇る内田光子が2位、アンドラース・シフが3位と言う結果でした。リーズの優勝者の将来は極めて明るいのです。

サーモン・アームの神童

 イェーデン・イズク=ドズルコは、1999年にブリティッシュ・コロンビア州サーモン・アームに誕生しました。バンクーバーから北東にフレーザー渓谷を超えて約470km、オカナガン地域の入り口で森と湖に囲まれた人口約1万7000人の美しい街です。両親ともにピアノ弾きで、イェーデンが5歳の頃から父親が手解きします。13歳の頃には、BC州内の様々な音楽イベントに参加するようになります。たまたま少年イェーデンの演奏を聴いた聴衆は、彼の驚異的な技量に驚く訳です。そして、2014年、故郷サーモン・アームに近い地域の中核都市カムループスでの音楽コンクールに出場し、ピアノ部門で見事に優勝。カムループス交響楽団と共演して、15歳にしてオーケストラ・デビューを飾ります。人口2万人足らずの地方の神童が世に出る機会を得る上で、コンクールに勝つことは、将来に向けて極めて戦略的、かつ地に足の着いた現実的な手段です。逆に、コンクールの主催者からすれば、知られざる逸材の発掘こそが最重要な使命です。

 そして、イェーデン少年は、2017年、ニューヨークはジュリアード音楽院に進学。頭角を顕します。

コンクール・キラーの登場

 イェーデンの、ジュリアード入学後の主なコンクール記録だけ記します。

 知名度の高くない若手が国際的な活躍の場を求めて、己れの技量だけを頼りに果敢に挑戦する姿が目に浮かびます。

 2019年、ジュリアード・ジーナ・ベイチェイン・コンペティション優勝。
 2020年、ポーランドはワルシャワのコクラン国際ピアノコンクール優勝。

 2022年は次の3つのコンクールで優勝しています。
・スペインはカンタブリア州で開催されるサタンデール・パロマ・オシェア国際ピアノコンクール。
・スペインはバルセロナで開催される若手音楽家のためのマリア・カナルス・バルセロナ国際音楽家演奏コンクール。
・米国サウスカロライナ州ヒルトンヘッド島で開催されるヒルトンヘッド国際ピアノコンクール。

 これらの22年のコンクール3連勝は、イェーデンの覚悟と自信と野心、そして巨大な楽才を示して余りあります。凄いです。これが24年の快挙に繋がりますが、23年には初来日を果たしています。

2023年〜来日

 イェーデンは、2023年11月、横浜みなとみらいホールで開催された「第41回横浜市招待国際ピアノ演奏会」に出演しています。スクリャービンのピアノ・ソナタ第4番、ラヴェルの「鏡」、ショパン「スケルツォ」等のピアノ独奏曲を披露しました。

 そして、ピアノを学ぶ地元の小中学生との交流会にも参加しています。NHK横浜放送局がその模様を報じています(https://www.nhk.or.jp/shutoken/yokohama/article/016/98/)。この段階では、イェーデンはCDリリースも無くてほぼ無名です。将来の巨人の素顔が垣間見えて、大変に興味深いです。

 「ピアノは大好きだけど、コンクールの練習になると、あまり好きではなくなってしまいます。どうしたら好きになれますか?」という中学生ピアニストからのませた質問に対するイェーデンの次の回答が非常に誠実だと思います。

 「私も同じような経験があります。コンクールのことは忘れて、音楽そのものがどれだけ好きか、ということを考えるのが大事だと思います」

2024年11月20日〜オタワ国立芸術センター

 私は、イェーデンの公演を鑑賞する機会に恵まれました。

 実は、この時まで、イェーデン・イジク=ドズルコというピアニストの事は知りませんでした。Jaeden Izik-Dzurkoというパンフレットにある名前も何と発音するのか分かりませんでした。この夜の公演は、元々は、グラミー賞も受賞している米国人ヴァイオリン奏者ヒラリー・ハンがブラームスのヴァイオリン協奏曲を演奏する予定でした。

 ところが、1週間前になって怪我のために彼女は公演をキャンセルせざるを得なくなったのです。クラシック音楽と云えども、ショービジネスです。Show must go onです。この夜の公演の主催者である国立芸術センターは、急遽代役を探した訳です。著名なヒラリーに劣らぬ高水準の演奏家で、演目は変更したくありません。公演まで1週間、リハーサル、スケジュール調整は困難を極めたに違いありません。

 結果、イェーデンの公演が決まりました。演目は、ブラームスのピアニスト協奏曲第2番。元々の予定のブラームスのヴァイオリン協奏曲からの変更ですが、同じブラームスですし、彼にとっては、モントリオールとリーズを制した十八番です。しかも、彼にとって首都オタワ・デビューとなりました。

 この協奏曲は、第1楽章の冒頭、ホルンの導入でピアノが登場し、オーケストラと対話するドラマチックな展開です。ここから直ぐにイェーデンの強靭なピアノが楽曲を牽引します。圧倒的な求心力で、オーケストラ団員を率い、聴衆を魅了します。

 このピアノ協奏曲は、ブラームスが初めてイタリアを訪れた時の印象が音に刻まれています。構想から完成まで3年を要したブラームス48歳の成熟期の代表作です。交響曲のような4楽章の確固たる構成。自らピアノを弾いて初演した程の自信作だったのです。しかも、古今東西数多あるピアノ協奏曲の中でも最難曲・最高峰の曲です。急遽代役となった25歳の俊英にとって、この曲以上に己の実力を示す曲はありません。成熟したブラームスが紡いだピアノを正に勇躍羽ばたく若き才能が再生する。クラシック音楽の醍醐味です。

 第4楽章が大団円を迎えた瞬間の聴衆の興奮は凄まじかったです。スタンディング・オベーションで何度も呼び出されました。新星誕生の瞬間です。

 公演終了後、楽屋を訪ねる機会があり、短時間ですが言葉を交わしました。舞台上の冷利に引き締まった表情とは真逆の人懐っこい笑顔と大変に謙虚な姿勢が印象的な好青年でした。子供たちとの交流を含め日本公演が大変に良い経験になった旨を語ってくれました。最後に綺麗な日本語で、「ありがとうございました」と言ってくれました。

結語

 クラシック音楽を聴く時は、特にCD等の録音では、功成り名を遂げた巨匠を聴く機会が多いと思います。しかし、未来の巨匠の飛び立つ瞬間を味わえるのは貴重です。カナダはBC州の小さな街が生んだ俊英の将来が本当に楽しみです。

(了)

山野内勘二・在カナダ日本国大使館特命全権大使が届ける、カナダ音楽の連載コラム「音楽の楽園~もう一つのカナダ」は、第1回から以下よりご覧いただけます。

音楽の楽園~もう一つのカナダ

山野内勘二(やまのうち・かんじ)
2022年5月より第31代在カナダ日本国大使館特命全権大使
1984年外務省入省、総理大臣秘書官、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、外務省経済局長、在ニューヨーク日本国総領事館総領事・大使などを歴任。1958年4月8日生まれ、長崎県出身

「日本の留学生に『等身大のカナダ』を知ってほしい」通訳者・山之内悦子さんが語る

山之内悦子さん(撮影:田代陽子さん)
山之内悦子さん(撮影:田代陽子さん)

多文化共生の国が抱える差別と虐待の歴史

山之内悦子さん(撮影:田代陽子さん)
山之内悦子さん(撮影:田代陽子さん)

 カナダは、人口の約4分の1が移民であり、多文化主義・多民族国家として世界的に認知されている。しかし、「人種差別とは無縁」というイメージとは真逆の先住民族迫害の歴史を抱えている。カナダの先住民族は、何千年にもわたり豊かな文化や伝統を築いてきたが、ヨーロッパ人による植民地化は16世紀以降に始まり、特に1867年のカナダ建国以降は急速に進行した。この過程で、先住民族は土地や文化、言語、信仰を奪われ、カナダ政府は先住民族を白人化することを目的とした「同化政策」を1880年代から強化した。この政策の一環として、15万人以上の先住民族の子どもたちが親元から強制的に引き離され、レジデンシャル・スクール(寄宿学校)に送り込まれた。

 先住民族の子どもたちを対象にした寄宿学校は、17世紀のフランス植民地時代から始まっており、19世紀から20世紀にかけて、正式な制度としてカナダ全土に確立・拡大し、130以上の学校が存在した。寄宿学校制度は、カナダ政府とキリスト教会(主にカトリック教会)によって運営され、サスカチュワン州にあった最後の寄宿学校が1996年に閉鎖されるまで続いた。この制度の下、子どもたちは自分たちの文化や言語を話すことを禁じられ、さらに聖職者による日常的な虐待や性的暴行、栄養失調などに苦しみ、約6千人が亡くなったとされている(実際の数字はもっと多いともいわれる)。

 長年にわたり、カナダの先住民族問題に真摯に向き合い、「この問題は過去のものではなく、現代にも根深い影響を及ぼしている」と語るバンクーバー在住の通訳者・山之内悦子さんに話を聞いた。

—通訳者・山之内悦子さんが感じる今も続く先住民族の苦難

 「日本の人たちにもこの問題をもっと知ってほしい」と話す山之内さんは、カナダの先住民族とアイヌ民族との協働や日本からの取材の通訳も積極的に担い、人生をかけてこの問題と向き合っている。

 初回から通訳者として参加している山形国際ドキュメンタリー映画祭での経験を記した著書「あきらめない映画 山形国際ドキュメンタリー映画祭の日々」(大月書店)の中でも、カナダの先住民族問題を深く掘り下げている。特に、カナダの過酷な同化政策に耐えて成長した先住民族女性教育者の人生を追ったドキュメンタリー映画「学びの道」(ロレッタ・トッド監督)との出合いは大きかったと振り返る。先住民族としてカナダで生まれ育ったトッド監督と映画祭以降も交流を続けた山之内さんは、先住民族の問題は現代に続く問題だと語る。

 「寄宿学校が廃止されて久しい今でも、その爪痕が深く先住民族社会に残っています。家族から学んできた言葉や世界観をまるごと否定され、体罰や、ひどい場合には性的虐待まで受けた結果、自尊心を失ってしまう。そんな人生の痛みをいっとき忘れるために麻薬やアルコールに頼るようになり、仕事も子育ても放棄せざるを得なかった人たちの多い世代があります。バンクーバーのホームレス人口の多さは、日本から訪れる人々を驚かせます。先住民族は、カナダの総人口のわずか5%にしか過ぎないのに、ホームレスである比率が飛び抜けて高い。この現象のみを目にして、その根深い歴史的背景を理解しないままカナダを後にする留学生や観光客のなんと多いことでしょうか。寄宿学校に端を発した暴力や絶望の、世代を超えた連鎖を断ち切るには、並々ならぬ努力が必要だと感じます」

—日本の留学生に知ってほしい「人権大国」ではない「等身大」のカナダ

 通訳の仕事と並行して、バンクーバーの大学やカレッジで翻訳・通訳コースの教員を20年以上続けてきた山之内さんは、日本からの留学生に本当のカナダ史を知ってほしいという。「私が大学4年でカナダに初めて留学した時のカナダについての知識は『赤毛のアン』と、フランス語と英語が公用語だということぐらいでした。現在の留学生はそれほどの無知ではないにしても、『人権大国カナダ』というイメージ以上のことは知らない人が多いのではないか」と感じた山之内さんは、トッド監督の承諾を得て映画「学びの道」を通訳授業の教材として長年使用し、カナダの先住民族の迫害の歴史、現代にまで続く社会問題について生徒たちに熱心に語りかけてきた。

 「日本からの留学生たちに、先住民族がこの国でどんな受難を乗り越えてきたかを学んでもらうことには大きな意味があると思います。ここで学んだことは、帰国後、アイヌ民族や沖縄、被差別部落、在日韓国・朝鮮人の苦難の歴史など、日本社会の少数者へのまなざしにつながるのではないかと思うからです」

 また、カナダの先住民族の問題について学ぶことは、言語的少数者の一員である留学生たちが自身の置かれた立場と折り合いをつける助けにもなるのではないかという。「言葉の習得には、計り知れない時間がかかります。その間、ずっと慣れない環境で、完璧ではない外国語を使い、対等な扱いを受けにくいという暮らしをしていると、無意識のうちに劣等感が芽生えることがあります。そんな事態を避けるためにも、『等身大のカナダ』を知ってほしいのです」と話す。

—先住民族問題から見える「母語」のかけがえのなさ

 日本の留学生たちの多くは、英語を勉強しにカナダに来ている。しかし、山之内さんはこのカナダの先住民族問題を通して留学生たちに「母語」のかけがえのなさを伝え、生徒たちと一緒に考えることを続けてきた。「日本では、日本語が禁止されたり、失われたりする可能性について考える人は少ないと思いますが、カナダの先住民族は、突然母語を使うことを禁止され、自分たちの文化を否定され、アイデンティティを奪われそうになりました。しかし、こうした歴史はカナダだけの問題ではありません。アイヌ民族から文化や言語を奪おうとしたのみならず、沖縄においても、方言を禁止し、標準語を押し付けるために子どもたちは『方言札』(主に小学校において方言を話した児童に与えられた罰則札)をかけさせられたことがありました。英語に苦戦する留学生が、そうした彼らの思いに触れることで、母語である日本語と自分たちのアイデンティティについて考えることは重要なこと」だと語る。

—旧寄宿学校跡地から215人の子どもの遺骨 9月30日を「真実と和解の日」に

 2021年、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州カムループスにある旧寄宿学校跡地で、215人の先住民族の子どもの遺骨が発見され、カナダを震撼させた。その後も、サスカチュワン州にあった寄宿学校の跡地で墓標のない751基の墓が発見されるなど、各地で多数の遺骨や墓が相次いで見つかっている。

 こうした悲劇的な発見は、先住民族に対する虐待と人権侵害に対する国民的な議論を巻き起こした。抗議する人々により、7月1日のカナダデー(カナダ建国記念日)には、植民地時代を象徴するビクトリア女王の銅像が破壊され、カナダ各地でカトリック教会を狙った襲撃事件などが発生した。BC州の先住民族の村ギトワンガクでは、108年の歴史があるカトリック教会が全焼。また、バンクーバー市ガスタウンでは、植民地主義や12歳の若い先住民族女性との結婚などが非難されていたギャシー・ジャック(バンクーバー発祥の地とされるガスタウンの名称の由来)の像が、先住民族女性への暴力に抗議する参加者によって引き倒された。倒れた銅像は真っ赤に塗られ、長きにわたる先住民族への差別と虐待に対する怒りが噴出した。

 旧寄宿学校跡地での大量の遺骨発見を契機に、カナダ全国で先住民族コミュニティとの真の和解を求める動きが加速し、2021年、カナダ政府は、毎年9月30日を「真実と和解の日」(National Day for Truth and Reconciliation)という法定休日として制定し、先住民族迫害の歴史を忘れず、先住民族に対する理解を深める日としている。この日は、「オレンジシャツ・デー」(※)とも呼ばれ、シンボルのオレンジ色を身に着け、全国各地でイベントが開催されている。

 この日をより意義深いものにするために、山之内さんにはカナダにいる移住者たちに伝えたいことがある。「9月30日だけオレンジ色のシャツを着て終わりではなく、移住者も自分たちがどんな大地の上に立っているのかを常に考える必要があると思います。私たち移住者は、先住民族に対する迫害はヨーロッパからの入植者が行ったことであり、自分たちには関係ないと思っているかもしれません。しかし、私たちはその入植者が築いたカナダのシステムを好んで移住し、その恩恵を受けています。先住民族に起こったこと、そして彼ら一人一人が連鎖する暴力のサバイバーであるということを、カナダにいる全ての人たちが当事者意識を持って理解する日が来ることを願っています」と思いを語った。

※オレンジシャツは寄宿学校の経験者であるPhyllis Webstadさんが6歳のときに寄宿学校に連れて行かれた際、祖母から贈られた大切なオレンジ色のシャツを剥ぎ取られた経験に由来している。このオレンジシャツは、長い年月にわたって先住民族の子どもたちが経験した文化、自由、そして自尊心の剥奪を象徴している。

山之内悦子(やまのうち・えつこ)
慶應大学文学部在学中のカナダ留学が縁でバンクーバーに35年以上暮らすなかブリティッシュコロンビア大学で先住民問題などを中心に教育社会学を学ぶ。
修士課程修了。日本では山形国際ドキュメンタリー映画祭や東京国際映画祭で長年通訳を務めている。

(記事 佐々岡沙樹)

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東漸寺:年末年始行事のご案内

除夜の鐘

日時:12月31日(火)

法要:午後11時30分
終了後、鐘楼で除夜の鐘をつきます

初詣

日時:1月1日(水)~1月5日(日)

拝観時間:午前10時から午後5時

修正会(新年初法要)
日時:1月1日(水) 午前10時

本堂ではお守り($10)、おみくじ($3)、宝くじ(50/50 draw)をご用意しております。

また、別回向、家内安全、厄除けなどの個人祈祷も承っております。

お支払いは現金のみとなりますので、ご了承ください。

ご来堂の注意点

本堂内の人数には制限がございます。混雑時には外でお待ちいただく場合がございますので、皆様のご理解とご協力をお願いいたします。

お問い合わせ先
電話:(604) 939-7749
メール:tozenji.bc@gmail.com

東漸寺住所

209 Jackson Street, Coquitlam

スカイトレイン Braid Station から徒歩15分
駐車場は敷地内にございますが、スペースが限られております。

ぜひ新年のご挨拶にお参りください。心よりお待ちしております。

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Tozenji: Year-End and New Year Event Information

New Year’s Eve Bell Ringing (Joya no Kane)

Date: December 31 (Tue)

Service: 11:30 PM
Following the service, everyone can ring the bell at the bell tower.

New Year’s Visit (Hatsumode)

Dates: January 1 (Wed) – January 5 (Sun)

Visiting Hours: 10:00 AM – 5:00 PM

First Service of the New Year (Shusho-e)
Date and Time: January 1 (Wed) 10:00 AM

The Main Hall will have Omamori (Good luck charms $10), Omikuji (Fortune slips $3) and Takarakuji (50/50 raffle draw) for sale.

We also accept requests for individual prayers, including memorial services, household safety, and protection against misfortune.

We kindly ask that payments be made in cash.

Important Notes for Visitors

The number of visitors allowed in the Main Hall is limited. During busy times, you may be asked to wait outside. We appreciate your understanding and cooperation.

Contact Information

Phone: (604) 939-7749
Email: tozenji.bc@gmail.com

Tozenji Address

209 Jackson Street, Coquitlam

A 15-minute walk from Braid Skytrain Station
Limited parking is available on-site.

We warmly invite you to join us in welcoming the New Year. We look forward to your visit!

お正月イベント

2025年1月4日(土)

10:00-15:00

日系文化センター・博物館 6688 Southoaks Crescent, Burnaby(Edmonds Skytrainより徒歩あるいはバス)

入場無料

日本のお正月をお祝いしましょう! 書初めをはじめとする楽しいアクティビティを体験してください。 新年の抱負や願い事を書き初めしてみませんか。将棋、囲碁、かるた、花札などのゲームや、お茶やフラダンスのワークショップに参加できます。また、美味しい食べ物や飲み物も販売します。家族や友達と一緒に、楽しい新年の思い出を作りましょう。

ウェブサイト centre.nikkeiplace.org/events/oshogatsu2025/

お問い合わせ 604.777.7000 info@nikkeiplace.org 

「フランス料理を食す 2」~投稿千景~

エドサトウ

 最近、ヴァンクーバーにあるVCC(カレッジ)にフランス料理のコースがあり、その生徒さんが、そのフランス料理のコースで作る料理の試食会、とはいっても有料で本格的なフランス料理である。その作品を食する機会に恵まれた。生徒さんの作品なので、店で食べるよりは安く、フルコースでいただけるので、期待と楽しみで参加した。以前にも参加したことがあるので、料理の味については知っているのでついつい期待が高まる。

 当日は、晩秋の冷たい小雨が降る日であった。学校の正面玄関から4階までエレベーターで上がると一般用の食堂がある。夕方なので、一般の生徒はなくがらんとした食堂を通り過ぎたところに特別のダイニングルームと厨房があり、白いレストランのユニホームを着た生徒さんが出迎えてくれた。

 今回のゲストは僕たちを入れて10名ぐらいの参加者であった。

 最初の一皿はシーフードで、エビ、ハマチなどが盛り付けられあって、ソースは酢の味で、これが絶妙なテーストで、酢の味が好きな小生にとっては最高の味の感じがして、思わず、「すごい!」と言ってしまった。二番目は杏子などのフルーツの料理に、パンが一切れ、このパンの優しい甘味とフルーツの食べ合わせが、これまた最高!

 その次に、オイスター(かき)のポタージュ風の一皿。オイスターも僕の好きな一品なので、これが今回、僕の一番のお気に入りでした。その後にラムミートのメインディッシュが出てくるのであるが、このころになると僕たちのグループも皆、おなかが一杯になってきた感じであった。ワインもローカルのものがいくつも試飲用に出てきたが、僕はジャーマン風のあっさりとした白ワインが良かった。この後もデザートもあるのであるが最後のメインディッシュはラムミートに独特のソースが用意されていて美味しい最高の一品でした。

 今宵は、まるでミシュランの五つ星レストランでディナーを楽しんでいるかのようなひと時でしたが、外に出れば秋の嵐か、強い雨と風が吹いていた。もうすぐクリスマスである。

Vancouver Community College
250 West Pender, Vancouver
Chef’s Table VCC

投稿千景
視点を変えると見え方が変わる。エドサトウさん独特の視点で世界を切り取る連載コラム「投稿千景」。
これまでの当サイトでの「投稿千景」はこちらからご覧いただけます。
https://www.japancanadatoday.ca/category/column/post-ed-sato/

第19回 人生は「生き様」だけではない~Let’s 海外終活~

終活は新しい大人のマナー

叶多範子

12月のバンクーバーは、街中がクリスマスの雰囲気に包まれています。イルミネーションが美しく輝き、温かな空気が漂う中、多くの人々が贈り物を探しに街へと繰り出しています。私がこの原稿を書いている今、人気歌手のテイラー・スウィフトが3日連続でコンサートを開催しており、街はその熱気に満ちています。ラジオで彼女の音楽が流れる中、心躍る季節がやってきたことを実感しています。

「成功者たちの華やかな生き様」― 私たちはその言葉に憧れを抱きます。

起業して大成功を収めた人、世界中に邸宅を持つ人、子供たちを一流大学に送り出した人、若くしてFIRE(早期リタイアや経済的な独立)を達成した人たち。

SNSには華やかな日常が溢れ、講演会では「輝かしい成功体験」、時には「苦労話」や「失敗談」が語られます。しかし、その成功者たちの「死に様」はどうでしょうか?残念ながら、明るい話は少ないのが現実です。

* 資産を巡って家族間の確執が深まる
* 重要なデジタル資産のパスワードが不明で、遺族が途方に暮れる
* 生前整理が不十分で、残された家族が何年もかけて整理や処分に追われる

「うちにはたいした資産がないから、関係ないわ!」と笑い飛ばす人もいますが、日本では家庭裁判所に申し立てられた遺産分割調停の約75%が遺産総額5,000万円以下のケースです。

強調しますが、5,000万円以上ではなく5,000万円以下です。多くの方が予想される、何億もある莫大な遺産で争うというイメージとはかけ離れているため、驚かれる方もいるのではないでしょうか?

華やかな生前とは裏腹に、その最期は混乱と後悔に包まれていることが少なくありません。そして、それらの問題は身内の恥とされ、他人には言いたがらないため、多くの人は成功者とは思えない最期を迎えていることを知らないのです。

人生は「生き様」と「死に様」の両方で成り立っています。

経済的な成功や社会的地位も大切ですが、自分の死後に残される人々への思いやりも忘れてはいけません。あなたは今、デジタル遺品や財産目録をきちんと整理していますか?パスワードリストは誰かに共有していますか?大切な人にあなたの最期の希望や葬儀・供養について伝えていますか?介護が必要になった時のプランはありますか?

これらは決して「縁起でもない」ことではありません。むしろ、愛する家族への最後で最大の贈り物と言えるでしょう。受け取る側も、せっかくの愛情を「縁起の悪いことを言わないで!!」と拒否しないでください。

終活とは言うなれば、「究極の愛情表現」なのです。

華やかな生き様だけでなく、温かな余韻を残せる死に様まで考えられる人こそ、本当の意味で「素晴らしい人生」を全うできるのではないでしょうか。

あなたの人生の最終章は、今どれだけ周りの人を想い、配慮できるかにかかっているのです。

*このコラムは終活に関する一般的な知識や情報提供を目的とするものです。内容の正確さには努めておりますが、必要に応じてご自身で確認、または専門家へご相談ください。このコラムを元にして起きた不利益は免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。

叶多範子(かなだ・のりこ)

グローバルライフデザイナー
2015年、友人の孤独死と相続問題をきっかけに、カナダのバンクーバーで遺言・相続専門の弁護士アシスタントとしてキャリアをスタート。2020年には終活アドバイザー資格を取得し、終活の視点を取り入れた知識と実務経験を活かしたノート術とコンサルティングを提供しています。
「終活せずに困った!」という後悔の声を「やってて良かった」「ありがとう」と笑顔で未来を彩ることをライフワークとしており、これまで300名以上に国境を越えた安心感を届けています。国内外問わず、すべての人が大切な未来をデザインできるようサポートしています。 家族はカナダ人の夫、2人の息子、愛猫1匹。日々の活動や最新情報は、メルマガ、ブログ、SNSで発信中。

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著書「海外在住日本人のための50代からの終活」:​​https://a.co/d/ad4OeLw

「フランス料理を食す 1」~投稿千景~

エドサトウ

 まだ、学生時代であったころに、NHKのテレビで「愛知の広報」と言う番組に出たことがある。30分ぐらいの番組で、お昼の時間帯に放映された。タイトルは、たしか「農業を目指す若者たち」であったと思うが、撮影が終了してお昼になり、NHKの方から近くの名古屋テレビ塔の西側にある西洋レストランでグラタンというフランス料理をご馳走になった。いわば、昼食が出演料のようなものである。そのほかにNHKのマークの入ったパーカーペンを記念に頂いた。

 この時、テレビ塔近くのレストランで、出演した4名がグラタンをいただいたが、今思えば、最初のフランス料理であった。50年以上も前の昭和の時代で、まだ、洋食が珍しく、まして、フランス料理など食する機会はほとんどなかった時代であったから、グラタンの味など、まったく分からず、ただただ「味の薄い料理だなあ!」思ったぐらいである。

 もう、あれから半世紀の時が流れた過日のハロウィンの日に近くのホームセンターで買い求めたオレンジ色のカボチャをハロウィンのランタンにするべく目や鼻をくりぬいていると、このカボチャは最後まで展示用で残っていたもので、皮が厚くて硬い、「これは、ひょっとしたら、日本の冬至カボチャのようにホカホカのおいしカボチャかもしれない」と思い、ハロウィンが終わると硬いカボチャの皮の一部を細かく切って、薄い醤油とだしで煮てみたが、ほっくりともせず、水っぽく煮あがった。表面の皮も固く、夕食のおかずには無理だと分かった。「それならば、これをミキサーにかけてポタージュスープにしてみよう」と思い立ち、さっそく煮たカボチャにミルク混ぜてミキサーにかけてみる。味見をすればまずまずである。さらに小麦粉をフライパンで炒めて、それをカボチャのジュースになるものと一緒にコトコトと煮てみると凄く美味しカボチャのポタージュが出来上がり、我ながら大成功であった。「いや、フランス料理のポタージュスープもなかなか美味しものである」。

投稿千景
視点を変えると見え方が変わる。エドサトウさん独特の視点で世界を切り取る連載コラム「投稿千景」。
これまでの当サイトでの「投稿千景」はこちらからご覧いただけます。
https://www.japancanadatoday.ca/category/column/post-ed-sato/

日系餅つき

2024年12月29日(日)

11:00 – 15:00

日系文化センター・博物館 6688 Southoaks Crescent, Burnaby(Edmonds Skytrainより徒歩あるいはバス)

入場無料

年末恒例の餅つき大会に、ぜひご家族やお友達とご一緒にご参加ください。つきたてのお餅を味わえるほか、お持ち帰り用の冷凍餅も販売いたします。バンクーバー日系ガーデナーズ協会による、臼と杵を使った本格的な餅つきのデモンストレーション。大人から子供まで楽しめる餅つき体験。ステージでは、華やかな踊りや力強い太鼓のパフォーマンス。その他、美味しい食べ物を提供するベンダーも出店。

主催:バンクーバー日系ガーデナーズ協会、NNMCC活動補助グループ

ウェブサイト https://centre.nikkeiplace.org/events/mochitsuki-2024/

お問い合わせ 604.777.7000 info@nikkeiplace.org 

髙橋良明総領事インタビュー「日系コミュニティと一緒に盛り上げていきたい」

在バンクーバー日本国総領事館髙橋良明総領事。2024年11月21日、バンクーバー総領事館で。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
在バンクーバー日本国総領事館髙橋良明総領事。2024年11月21日、バンクーバー総領事館で。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 在バンクーバー日本国総領事館・総領事に髙橋良明氏が10月30日に着任した。着任早々に、日系コミュニティの団体を訪問したり、日系リメンバランスデーに参加したりと、活動している。

 着任してまだ3週間と日が浅い11月中旬に、話を聞いた。

バンクーバーの印象

 バンクーバーへの訪問歴については、「10年前にナナイモで会議があって、その際に立ち寄ったことがある」とのことだが、「実際に当地に来てみると、やはり自然と文化の力に圧倒される」とのこと。特に「バンクーバーは自然を『味わえる』場所であることがすばらしい」と語る。

 「当地の自然はあまりに広大で、人間にとっては、恵みであると同時に脅威でもあるように思えます。そういった自然を楽しんだり、味わったりすることは簡単なことではなく、例えば、山に行くにしても、途中までは車を使い、防寒具を着て、食料を持ち、身の安全を確保して初めて、自然の美しさを『味わう』とことができます。人間は自然を『味わう』ためには、自然との間にインターフェースを必要とし、そういったインターフェースを持ち合わせている点で、このバンクーバーはすばらしいと思います」。

 大自然に引かれるのも、以前の任地での経験が関係しているかもしれないという。「世界には、人類が自然を破壊し、戻らなかった国もあれば、そもそも大自然が身近にない国もあります」。

 また、普段の生活の中においても特に木のある暮らしが気に入っている。「この国は木材が豊富で、日本では見たことのないサイズの材木が家具などに使用されています。その重量感が与える安定感が居心地がよく、リラックスできます」。

日系カナダ人コミュニティについて

 「ここに着任して、最も新鮮だったのは日系コミュニティの存在です」。これまで赴任した中で、これだけ大きな日系社会があった国はなかったと振り返る。日系コミュニティの存在は総領事館にとって「とても心強い」。すでに日系の数団体を訪問したと話し、「皆さんカナダ人でありながら、日本文化に最も近いところにいる。カナダにおける最大の日本文化の理解者が身近にいることは大変貴重です」。

バンクーバーの日系コミュニティの存在が新鮮だったという髙橋総領事。2024年11月21日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
バンクーバーの日系コミュニティの存在が新鮮だったという髙橋総領事。2024年11月21日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 また「日系人の皆さんがとても自信に満ち溢れてることに驚きました。皆さんの内側から、自分たちがこの地でがんばってきたんだという気概が伝わってきます」と言う。「それこそが日系社会の原動力なんだと感じますね」。

 そういった日系カナダ人と是非一緒に日本との関係を盛り上げていきたいと語る。「日加両国はその間には太平洋しかないわけで日本とバンクーバー、ブリティッシュ・コロンビアとの関係は近いと思います。今後、多くの日系人と在留邦人の方と一緒にさまざまな分野での日本との関わりを深めていきたいと思っています」。

日本の文化を違う方面から紹介していきたい

 カナダからの訪日客も増えている中、初めての訪日旅行からもっとマニアックなものまで楽しめるように「日本のトレンド」を積極的にリアルタイムに発信していけたら、と抱負を語る。

 「日本のトレンドは目まぐるしく変化します。これらをリアルタイムに発信すると、日本好きのカナダの人たちにとっても新鮮味を感じられるのではないかと思います」。さらに「また日本を訪れたくなるようなインセンティブをSNSなどで発信することができたら」という。

 トレンドという観点では、日本食もまだまだ紹介しきれていないと感じている。「前任地のシンガポールでもあったのですが、日本の食のトレンドを把握して、例えば、バンクーバーの食材を使いながら日本酒や日本産ワインとのペアリングなども結構受けるかもしれません」。

 2025年はバンクーバー市と横浜市、バーナビー市と釧路市の姉妹都市提携60周年、2026年にはFIFAワールドカップがバンクーバーで開催されるなど、ビッグイベントが続く。「そういう交流の機会は貴重です。お互いの都市協力などにつながる将来性のある話ですから。そのような機会を利用して、食を含めた日本文化を紹介できればありがたいですね」。シンガポールでは、日本の地方の知事のトップセールスで地元の食材を持ってきてシンガポール人に振舞うなどのプロモーションもあったという。

 また、バンクーバーは日系航空会社の直行便が最も多く就航している都市としての強みもあると話す。「日本人にも、もっとバンクーバーも知ってもらって、日本・バンクーバーの往来を活発にしていくために、できる限りのことをしたいと思います」。

2025年にアルバータ州で開催されるG7について

 2025年6月にはアルバータ州カナナスキスでG7サミット(先進国首脳会議)が開催される。「昨年のG7広島サミットでは、気候変動やエネルギー、持続可能な発展、などの従来の議題に加え、『広島AIプロセス』なども開始され、AI にも力を入れていくことが合意されました。気候変動やエネルギーは当地にとっても、非常に重要なトピックスであると考えているので、お互いに共通の分野についてよりその関係を深めていくことは重要であると思います」。その後は、「来年のG7サミットでの結果も踏まえながら、新しい協力関係が構築できればと思っています」。

バンクーバーでの楽しみ発見

「歩くことが好き」という髙橋総領事。バンクーバーでの街歩きも楽しみと話す。2024年11月21日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
「歩くことが好き」という髙橋総領事。バンクーバーでの街歩きも楽しみと話す。2024年11月21日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 「歩くことが好きなので、いろいろなところを訪れてみたいと思っています。人生の中で、これだけ好条件が揃っている場所に何年間か住むことができるということは、とてもラッキーなことだと思うので、そのアドバンテージを活かしたいと考えています」。

 冬の悪天候もそれほど気にならないと笑ったが、夏になって夜も明るい時期が来れば、もっと楽しみたいと語った。

日系コミュニティへ、総領事館から

 これまでは海外での勤務は大使館勤務のみで、「総領事館で働くのは実は初めてです」という。「総領事館の役割としては、日系社会や在留邦人の皆さんにより使ってもらう組織だと思っています。より近いところで関係性を築けるという意味では我々も館を挙げて、文化面、経済面も含めて、できるだけ皆さんに近い場所にいたいと思っています。改善すべき点など皆さんの要望も聞いていきたいと思います。どうかよろしくお願い申し上げます」。

髙橋良明(たかはし・よしあき)
東京工業大学大学院修士(数理計算科学)、米スタンフォード大学院修士(国際開発政策)
1991年外務省入省、広報文化交流部文化交流課首席事務官、軍縮不拡散科学部国際科学協力室長、領事局外国人課長、大臣官房情報通信課長などを歴任
在オランダ日本国大使館参事官(2007-9)、在アフガニスタン日本国大使館次席公使(2019-21)、在シンガポール日本国大使館次席公使(2021-24)
バンクーバーには妻と2人暮らし、日本に既婚の娘1人

(取材 三島直美/写真 斉藤光一)

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秋深まるカナダで更年期障害を考える

 学生時代の私はテニスの練習に打ち込み、大きな怪我や病気もなく、割と健康体であることが取り柄でした。しかし、40歳を過ぎた頃から、男性更年期の症状が現れるようになりました。深夜の2時や3時に突然目が覚めたり、寝汗をかくことが増えたのです。これらの症状が軽くなったと思ったら、今度は徐々に体重が増え、しかも以前のように簡単には減らせなくなってきました。自分の姿を鏡でみると、まるでメタボ(メタボリックシンドローム、内臓脂肪症候群)を疑うほどお腹周りに脂肪がついているではありませんか。家内には「ただの食べ過ぎと運動不足よ!」と一喝されますが。これもホルモン量の減少に伴う立派な男性更年期の症状です。(信じてもらえないとは思いますが、笑)。そんな中年太りの話はさておき、同年代の女性の皆さんにも、更年期障害の治療薬を処方される方が増えてきたように見受けらます。そこで今回は、女性の更年期障害について、その症状や治療法に焦点を当ててみたいと思います。

 更年期障害とは、主に40代後半から50代前半にかけて、閉経に向かう時期に女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)が急激に減少することで起こるさまざまな身体的・精神的な症状を指します。特に多くの女性が経験するのが、ホットフラッシュと呼ばれる突然のほてりや大量の発汗です。これにより、夜中に寝汗をかき、睡眠が妨げられることもあります。

 不規則な月経、肌の乾燥や髪質の変化、膣の状態の変化が起こることもあります。具体的には、膣の粘膜が薄くなり、潤いが減少することで、かゆみ、灼熱感、性交時の痛みといった症状が現れることがあります。

 また更年期障害は、心理面にも影響を与えます。感情の起伏が激しくなり、不安感や気分の落ち込みを感じることがあります。集中力の低下や意欲の喪失など、日常生活の中で困難を感じる場面も増えるかもしれません。

 このように更年期障害は、心身の状態と生活全般に影響を与える複雑な疾患です。単なる年齢による変化として片付けるのではなく、適切なケアを求めることが大切です。

 更年期障害の治療法としてもっともよく使われるのがホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy; HRT)で、症状や好みに応じて異なる剤形の薬が用いられます。

経口薬(飲み薬)

 経口薬はHRTの中で最も一般的な形態で、錠剤として服用します。この治療では、女性ホルモンの一種であるエストロゲン(卵胞ホルモン)を補い、更年期のつらい症状を和らげます。エストロゲンの減少が更年期障害の主な原因なので、足りなくなったホルモンを補うことで体調を整えるのです。商品名にはエストラジオールを主成分とするPremarin(プレマリン)や Estrace(エストレース)、エストロゲンとプロゲスチンの配合剤であるActivelle(アクティヴェル)があります。

 子宮がある女性の場合、エストロゲンだけを使うと、子宮内膜がんのリスクが高まる可能性があります。そのため、エストロゲンと一緒にプロゲステロン(またはその合成版であるプロゲスチン)を使うことが大切です。このプロゲステロンが、エストロゲンによる子宮内膜への影響を抑え、内膜が過剰に増えるのを防いでくれる役割を果たします。プロゲステロンには、Prometrium(プロメトリウム)とProvera(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル; MPA)があります。

 エストロゲン製剤の主な副作用としては、吐き気や腹痛、乳房の張りや痛み、むくみや体重増加が挙げられます。また、血栓症のリスクが高まることがあり、足の腫れや痛みに注意が必要です。これらの症状が気になる場合は、必ず医師や薬剤師に相談することが大切です。

パッチ剤(貼り薬)

 パッチ剤は、皮膚からホルモンを吸収するタイプで、経口薬とは異なり肝臓を通過しないため、血栓症リスクが低いのが特徴です。また、服用忘れの心配が少なく、人気があります。Estradot(エストラドット)はエストラジオールを含むパッチで、週2回貼り替えます。ジェネリック薬もあります。Climara(クライマラ)もエストロゲン製剤で、週1回の貼り替えが必要です。エストロゲンのパッチ剤はこの半年間、供給不足が続いていましたが、この問題は最近になって徐々に解消されつつあります。

塗り薬

 Estrogel(エストロジェル)やDivigel(ディビゲル)といったエストロゲンを含むゲル剤は、肌に直接塗ることでエストロゲンが吸収されます。これらのゲルは、パッチ剤と同様に肝臓を通過せず、血栓症のリスクが低いのが特徴です。

局所クリーム・リング

 膣や尿路の健康を改善するために使用されます。膣の組織を健康に保ち、乾燥や性交痛を軽減するほか、尿路感染症(UTI)のリスクを低減します。Vagifem(バジフェム)はエストラジオールを含む膣内挿入用タブレットであるのに対し、Premarin Vaginal Cream(プレマリン膣用クリーム) やEstragyn(エストラギン)は膣内や膣外部に使用可能なクリーム剤です。 Estring(エストリング)は膣内に保持し、3か月ごとに交換するリング型製剤です。持続的に低用量のエストロゲンを放出します。

まとめ

 以上、ホルモン補充療法の異なる選択肢を紹介しましたが、更年期障害の薬物治療では、患者さんのライフスタイルや健康状態に合わせて最適な薬を選ぶことが大切です。また、治療を始める前に、保険の適用範囲を確認することも重要で、特にBCファーマケアでは、類似薬が複数ある場合、より安価な薬やジェネリック薬を保険でカバーすることが一般的です。ホルモン補充療法は数年単位での使用が必要なことが多いため、コストに不安がある場合は薬剤師に相談してください。保険適用状況や費用面での選択肢について詳しく説明し、最適な提案を行うことができます。

注意: 今回のコラムで紹介したホルモン補充療法の薬はいずれも処方せんが必要です。更年期障害の症状が疑われる場合には、まずは医師の診察を受けてください。

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

全ての「また お薬の時間ですよ」はこちらからご覧いただけます。前身の「お薬の時間ですよ」はこちらから。

「秋の里帰り*変わらぬ景色と新たな風景」

カナダde着物

第65話 
*秋の行事と着物*

 日本への里帰りは、単なる帰省以上の意味を持ちます。海外に住んでいると、物理的には遠く離れていても、心の中では故郷はいつも近くに感じられます。
 実際に帰国するとなると、時間が経つごとにその思いがより強くなるものです。

「Autumn Leaves」Manto Artworks
「Autumn Leaves」Manto Artworks

 帰るたびに新しい変化も見られます。商業施設が増えたり、町並みが整備されたりすることもありますが、逆に、昔ながらの町並みや風景が少しずつ消えていくこともあります。新旧の風景が交錯することで、懐かしさとともに、時の流れをしみじみと感じる瞬間もあります。

「里帰りの度に訪れる静岡県庁展望台」コナともこ
「里帰りの度に訪れる静岡県庁展望台」コナともこ

*今日の着物*Today’s Kimono

「秋の行事と着物」

 秋は、多くの伝統行事や祭りが開催される季節です。茶道では炉開きが行われ、紅葉狩り(*1)やお月見、秋祭り、七五三のお祝いなどをテーマにしたイベントに着物を着て参加することで、日本の文化や季節の移り変わりをより深く感じることができます。
 また、家族や友人と一緒に着物を着て写真を撮ることで、素敵な思い出を作ることができますね。

 秋の着物は、紅葉の赤や黄色、栗や柿の深い茶色、そして菊やすすきの淡い色が挙げられます。これらの色合いは、自然の美しさを感じさせ、秋の風景と調和します。
 また、季節の花や植物、そして秋祭りや収穫をテーマにした柄が施されることが多いです。
 例えば、菊やすすき、紅葉の柄は秋を象徴するものですので、比較的、着物と帯を選ぶ際にはコーディネートがしやすいのではないでしょうか。

「2024年11月 秋のきもの「東漸寺*炉開きのお席にて」 紋付き訪問着&綴れ織り名古屋帯、縮緬小紋着物&相良刺繍名古屋帯」コナともこ
「2024年11月 秋のきもの「東漸寺*炉開きのお席にて」 紋付き訪問着&綴れ織り名古屋帯、縮緬小紋着物&相良刺繍名古屋帯」コナともこ

「日本で買い物」
京都.弘法市、天神市、大阪.船場センタービルへ

 毎回、里帰りの際の楽しみの一つは、各地のマーケットやお店を巡り、カナダでは手に入らない着物や帯、小物などを見たり購入したりすることです。

 京都では、毎月21日に東寺で弘法市、25日は北野天満宮で天神市が開かれていています。
 買いたいものが見つからなくても、骨董品やビンテージの着物や帯を見て回れます。

 大阪の本町周辺は問屋街で、多くの小売店が並び、1日では見て回り切れません。せんば心斎橋筋商店街

「船場センタービル.大阪.本町にて」コナともこ
「船場センタービル.大阪.本町にて」コナともこ

*今日の和の学校*Today’s Gathering

「お寺で七五三のお祝い」

 今年もコキットラム市にあります東漸寺では、七五三祝いの合同法要を行いました。
 七五三は、日本の伝統的な行事で、子供たちの成長を祝う儀式です。
 3歳、5歳、7歳の子供たちと家族が健やかな成長を願ってお寺を訪れました。

 合同法要は、個々の故人に対する供養を行うと同時に、参加者が一堂に会して共同で祈りを捧げることで、心の支えや慰めを得ることができます。

 仏教には「無常(むじょう)」(*2)という考えがあり、すべてのものは変化することを受け入れる教えです。お寺での七五三では、この教えを通じて、子どもたちに「変化を恐れず、成長を大切にする心」を育てることができるそうです。

 静かな境内で、家族の絆を深め、素晴らしい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

「七五三のお祝い2024@東漸寺」コナともこ
「七五三のお祝い2024@東漸寺」コナともこ

*言葉*

紅葉狩り(*1)
 紅葉を鑑賞するのに「紅葉狩り」と言うのはなぜでしょうか。
 「狩る」とは獣を捕まえることですが、花や草木を探し求める意味もあるそうです。果物を採る場合にも使われます。「いちご狩り」や「ぶどう狩り」という表現がありますよね。
 紅葉を鑑賞するのに「紅葉狩り」というのは、狩猟を好まない貴族が自然を鑑賞することを狩りに例えたとされていますが、定かではありません。春の桜は「花見」と言い、桜狩りとは言いませんよね。
 やはり、狩猟のシーズンの秋だから「狩り」という言葉が使われたのでしょうか。また、元々は紅葉を集めて楽しんでいたのが、今では眺めることに変わったという説もあります。
 日本の行事・暦から http://koyomigyouji.com/index.html

「無常(むじょう)」(*2)

 仏教用語。梵語アニトヤ(anitya)の漢訳。生じたり滅したりして変化し、同じ状態にとどまっていないこと。移り変わりの世界。仏教ではあらゆる存在がそのようであるとして諸行無常という。また一瞬の間のみ現在に止まるのを念々無常、人の命が尽きるようなのを相続無常という。無常の理を説いた『無常経』(一巻。義浄訳)がある。
辞典・百科事典の検索サービス – Weblio辞書

*参照*
日本の行事・暦:http://koyomigyouji.com/index.html
きもの大辞典:http://www.kimonodaijiten.jp/

「着物語り」
コナともこさんが着物の魅力をバンクーバーから発信する連載コラム。毎月四季折々の着物やカナダで楽しむ着こなしなどを紹介します。
2020年8月から連載開始。第1回からのコラムはこちらから

「カナダde着物 日系センター夏祭り2023にて Kona Tomoko」コナともこ
「カナダde着物 日系センター夏祭り2023にて Kona Tomoko」コナともこ

コナともこ
アラフィフの自称着物愛好家。日本文化の伝道師に憧れ日々お稽古に励んでおります。
13年前からコキットラム市の東漸寺で「和の学校」を主宰。日本文化を親子で学び継承する活動をしております。

年間を通じて季節の行事に加え、お寺での初参り、七五三祝い、十歳祝い、元服祝い、二十歳祝い、結婚式、生前葬、お葬式などの設えと装いのお手伝いもさせていただいております。

*詳しくはコナともこ までお問い合わせ下さい。tands410@gmail.com
東漸寺は非営利団体で、和の学校の収益は東漸寺の活動やお寺の維持の為に使われています。

カナダ人の夫+社会人と大学生の3人娘がおり、バンクーバー近郊在住。

和の学校ホームページ https://wanogakkou.jimdofree.com/
インスタグラム https://www.instagram.com/wa_no_gakkou_tozenji/
フェイスブック https://www.facebook.com/profile.php?id=100069272582016

東漸寺Tozenji Temple https://tozenjibc.ca/

コナともこ
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「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks
「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks

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Royal Canadian Mounted Police: by Japan Canada Today

学生や在留邦人を狙う詐欺 総領事館とRCMPが注意喚起

学生や在留邦人を狙った詐欺について、気をつけたいことをバンクーバー総領事館とRCMPに聞いた。

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