日加ヘルスケア協会主催セミナー「大人の予防接種」:後編

 「大人の予防接種」をテーマに日加ヘルスケア協会主催オンラインセミナーが10月19日に開催された。

 2020年3月から世界中で感染が拡大した新型コロナウイルスだけでなく、今年はインフルエンザの予防接種も広く呼びかけられている。

 今回のセミナーでは、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州と日本で薬剤師の資格を持つ佐藤厚さんと千葉あゆみさんが講師を務めた。

 現在カナダで接種可能な4種類、新型コロナウイルス、インフルエンザ、肺炎球菌性肺炎、帯状疱疹の各ワクチンについて解説。内容を要約して紹介する。

 後編は、肺炎球菌性肺炎、帯状疱疹のワクチンについて。また、最後に薬剤師の職能が広がることについても説明した。

 日加ヘルスケア協会主催セミナー「大人の予防接種」:前編

肺炎球菌性肺炎(Pneumococcal Pneumonia)ワクチン

 肺炎球菌性肺炎ワクチンは、インフルエンザと同じくポピュラーなワクチン。

 肺炎球菌性肺炎の症状としては、熱・寒気、咳、胸痛、呼吸困難などがある。

 毎年インフルエンザで亡くなる人が多いが、インフルエンザにかかって肺炎を起こして亡くなる人も多い。その肺炎を予防するためのワクチン。

 ワクチンは2種類。Pneumovax23とPrevnar13。

 Pneumovax23は公費負担で65歳以上なら無料で受けられる。基礎疾患がある人なども無料。カバー範囲は23価。

 Prevnar13は有料で120ドル。対象年齢は65歳以上。カバー範囲は13価だが、抗体を作る能力は強い。Prevnarには最近Prevnar20が出た。カバー範囲は20価で、抗体を作る能力が高いとされている。佐藤さんによると、まだ出回っていないので今後に期待という感じという。入ってくれば対象年齢や価格などの詳細が分かってくる。

 肺炎球菌性肺炎のワクチンは2種類を、間隔を空けて接種することが推奨されている。接種の順序は、Pneumovax23を接種した人は1年後にPrevnar13を、Prevnar13を接種した人は2カ月後にPneumovax23を接種という順序がガイドラインで推奨されている。

帯状疱疹(Shingles)ワクチン

 帯状疱疹は上半身の片側に神経に沿って発症する。神経さえ通っていればどこでも発症するので、目の周りや首、頭などにも発症することがある。一番の特徴は「痛い」こと。さらに一度発症するとその後もずっと痛い。そのため、ワクチンで予防するのが最善策となる。

 ワクチンは、現在はShingrixが主流。不活化ワクチンで2回接種する。1回170ドル。対象は50歳以上。

 10年前にZostavaxがあったが生ワクチンだったため、免疫力が弱い人には不向きだった。Shingrixは不活化ワクチンのため、ほとんどの人が受けられる。

 ワクチンの予防効果は、50歳から69歳までの2回接種終了者で97%、70歳以上で91%との報告があり、非常に高い。そのため、「340ドルを支払っても接種する価値があるのかと問われればその価値はある」と説明した。

 またカナダのガイドラインでは2回接種すればブースターは必要ないとなっている。ただ、以前にZostavaxを接種している人はShingrixを接種することを医師は推奨している。

 ワクチン接種の副反応は、注射した部位の痛み、赤身、腫れ、その他には、筋肉痛、疲労、頭痛、悪寒、発熱、胃腸症状など。「2回目接種後の副反応のほうが強いという声が多い」と紹介。ただその場合でも症状は1日ほどで回復すると説明した。

Q&A

Q:以前に発症したことがあってもワクチンは接種した方がいいのか?
A:接種した方がいい。帯状疱疹は何度でも発症する。

Q:発症後、どれくらいの期間をあけて接種すればいいか?
A:2カ月後以降ならいつでも接種できる。

 全てのワクチン接種に共通することとして、・副反応はどのワクチン接種でも起こる可能性がある、・供給が伴わない場合はその時にあるワクチンを受ける方が供給されるまで待つよりも効果がある、・ワクチンは接種しても発症する人は発症するが接種していた方が軽症ですむというのがポイントと説明した。

薬剤師の職能が広がることについて

 今年10月6日にブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府が、薬剤師の職能についてその役割を拡大すると発表した。この変更点について、現時点で分かっていることを佐藤さんと千葉さんが解説。大きな変更点は3つで、その他にも今後ガイドラインができればより明確になると説明した。

変更点1:処方せん有効期間の延長

 これまで処方せんの有効期間は1年だったが2年に延長された。薬のリフィルも対象。この変更については、単に処方せん期間が延長されるということではなく、医師の診察がなくても同じ薬を2年間服用することになる可能性もあるという。「この場合、薬剤師がチェックして大丈夫なら2年間同じでもOkということになるだろう」と説明した。処方せん有効期間延長は10月6日以降から適用となっている。

変更点2:薬剤師による注射権の拡大

 これまではワクチン接種が主な役割だったが、今後はビタミンB12なども接種できる。つまりワクチン以外も打てるということになる。基準は、「筋肉注射なら接種可能」ということになっている。

変更点3:アダプテーションの幅が拡大

 薬剤師が状況に応じて薬の剤形や、薬そのものを変更することができる。また幅広い領域の薬で、最大2年間までリフィルの延長をできるようになった。ただ、一定の条件を満たす必要があるため、詳細は薬剤師に確認してほしい。

 カナダでは薬剤師が色々なことができるが、その幅がさらに広がったということで「やりがいが出てくる」と佐藤さん。二人とも、「薬局で気軽に相談できるのは患者にとって心強い味方になるし、便利な存在になれればいい」と話し、なんでも聞いてもらいたいと笑った。

プロフィール

佐藤厚(さとう・あつし)

2001年星薬科大学卒業、薬剤師免許取得、2008年カナダで薬局薬剤師(London Drugs)、2019年5月薬局マネージャー、国際渡航医学医療職認定(CTH)、認定糖尿病指導士(CDE)、薬局内トラベルクリニック(予防接種・渡航前健康相談)
バンクーバー新報オンラインコラム「お薬の時間ですよ」執筆

千葉あゆみ(ちば・あゆみ)

1997年東北薬科大学卒業、薬剤師免許取得、仙台の調剤薬局勤務、2014年カナダの薬剤師免許取得、現在Terra Nova Pharmachoice(リッチモンド市)勤務

日加ヘルスケア協会
https://www.nikkahealth.org/

合わせて読みたい関連記事