第99回 『ふっと死ぬ前に…』

グランマのひとりごと

~グランマのひとりごと~ 

 ある本を読んでいたら、「死期が近ずくと人はあれこれ、自分の過去の事を人に話したがる」と書いてあった。

 「そうなのかなぁ」
 あと数週間で81歳の誕生日を迎える老婆は、ふっとあることを思い出した。

   2001年、脳卒中と体内大出血で20分と言われた命は助ったが、後遺症で両手麻痺と体内出血、身体に残った血瘤が新生児大。当時、妊娠8ケ月の次女のお腹より私のお腹は大きく、不自由な身体で生きる難しさと戦う日々。そんな時、「アガスティアの葉」という本を読んだ。

 そこに3000年前にインドの「アガスティア」という聖者が自分の亡き後、将来ずっと自分を訪ねて来る人の運勢をヤシの葉に書いて置くと遺言した。其の葉は、独特の読み方があり誰でも読めるわけではないが、訪ねれば、解読者が解読してくれるという。

 不思議大好き人間、この老婆は、手が少し動かせるようになると、インドへ一人旅出った。 バンガロールの空港からタクシーに乗り2時間ほどでアシュラムへ到着。しかし時間が遅いので明日朝9時に来るように言われ、1泊し、翌日運勢解読師に聞きに行った。

 それから20年、私の人生はまるで彼が言ったとうりではないか!まだ、生きている。彼は私の命は印度カレンダーで82~3歳までという。印度カレンダーは太陽暦でなく???歴か分からない、けれど、さぁーもう私は81歳。そうだ今ここで話したい事を色々書いてみよう。

 まず、最初に自分を育ててくれた私にとって運命の会社の話だ。

 「スミコ、貴方 虎航空(ローフウと広東語で呼ぶルフトハンザ ドイツ航空のニックネームである)に就職申請しない?」と親友トビーが突然私に声をかけた。

 「嫌だぁ、ローフゥなんて厳しくて私が入れる会社じゃないよ」
 「長年働いていたアリスさんが退職する時、新聞で1人募集の広告出したら6000人の申請者で、会社はその申請書処理に困ったって話、聞いたわよ」
 「受からない事知りながら申請なんてしないわよ」
 「それに、今、ジャアディーン(*BOAC英国航空の契約会社)でさぁ。『スペシャル パッセンジャー ハンドリング』ってセクッションをミス ボーグラーが作って呉れて、給料も上がったばかりだものぅ」
 「でも、何で急に虎航空に申請しろ、なんて言うの?」

 するとトビーが話し始めた。「実はねぇ、私、来年、ニューヨークのルフトに転勤になるの。来年の初夏だけどね。だから、私の後のスタッフを会社が探しているのよ。若し、広告を出すとアリスの時みたいに大変な事になるから、一般募集はしないことになったから、私が推薦して、澄子が入社したらいいなぁと思ったわけ」

 トビーは聡明な女性で、よく働くだけでない、思いやりある心の温かい、それに全てサラーっと物事を成し遂げる素晴らしい女性なのだ。大勢のグランド レセプショ二ストのひとりとして、英国航空に働いていたがLHドイツ航空に引き抜かれて2年前に転社したのだ。入社して僅か2年、仕事のできる彼女は、そこからまたニューヨークに転勤となるのだ。

 LHドイツ航空は非常に厳しい仕事を要求する会社だから、関係する人は皆緊張と同時に恐れを感じる事もあり、「虎航空」とネックネームが付けられていた。

 ふっと私は「それでお給料は幾ら?」念のため聞いてみた。「650ドル(香港ドル)よ」と答えが返って来た。「わぁー、トビー、それじゃ駄目よ。私、今その倍近く貰っているから、無理だわ」と断った。(1960年代の話だ。)  

 その数日後、LH (Lufthansa)香港哲徳空港のアシスタント マネジャーが空港で「ハイ、スミコ!」と声をかけた。話始めるとなんとトビーと同じ話だった。でも私は彼が声を掛けてくれたことが何だかとても嬉しかった。

 そして、また数日後、今度はダウンタウン事務所に働くLHの日本人セールマンが声をかけて来た。同じ話だった。多分日本の自由渡航が決まって、日本人旅行者が増えることは確実だから、会社として日本語の分かるスタッフが良いという判断だろうと私は勝手に納得した。

 トビーが又やってきて『スミコ、私の話を良く聴きなさい。そして よく考えて決めなさいよ。」と念を押して、話し始めた。

  「澄子、言っておくけどね、まず、初任給は650ドルだけれど3ケ月の仮採用後、本採用になると「X%」の昇給がある」
 「そして、間もなくドイツでトレーニングに行く」
 「試験に合格するとxxxの資格を持って香港へ戻り、そこで又”X%”の昇給がある」
 「そしてね、1年経つと恒例の年昇給、それに社会事情を組んだアジャステイングの昇給が2回、毎年あるのよ」
 「スミコ、ルフトは半官半民の会社よ、貴方が1年ルフトで働くと、資格が取れ、給料も今の貴方の給料よりずっと高くなるのよ」
 「それだけじゃない、休暇がパブリック ホリデイ プラス、有給休暇、週休、毎年行くドイツでのトレーニングと合わせると働いているのは1年365日の内半分、つまり185日位よ。航空券もBA英国航空だと1年1回だけ、ルフトは何回でもスタッフ割引券は発券可能」
 「昇進もイギリス人で無いから、ジャアディーンでは貴方はまずないし」

 更に彼女の話は延々と続く。「見てごらん。文化大革命で今、香港の人達はオーストラリア、アメリカ、カナダ、イギリスと夢中で移民を考えているのよ」

  そうだ、頑張った彼女は2年で米国転勤になっているではないか!

(次回に続く) 

グランマ澄子

***

 好評の連載コラム『老婆のひとりごと』。コラム内容と「老婆」という言葉のイメージが違いすぎる、という声をいただいています。オンライン版バンクーバー新報で連載再開にあたり、「老婆」から「グランマのひとりごと」にタイトルを変更しました。これまでどおり、好奇心いっぱいの許澄子さんが日々の暮らしや不思議な体験を綴ります。

 今後ともコラム「グランマのひとりごと」をよろしくお願いします。