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BC州選挙活動、公式スタート

The Legislative Assembly of British Columbia, Victoria, Canada.
ブリティッシュ・コロンビア州の州都ビクトリアにある州議事堂。

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州で9月21日、州議会議員選挙の活動が公式に始まった。投開票は10月19日、選挙区は前回から増え93。

 BCNDP(BC新民主党)デイビッド・イービー党首は20日に保守党との激戦が予想されるサレー市を訪れた。選挙活動初日の21日にはリッチモンド市で事務所開設を兼ねてキャンペーンの公式スタートを切った。

 BC保守党ジョン・ラスタッド党首は、バンクーバー市ダウンタウン・イーストサイドで活動開始。バンクーバー市で唯一ホームレスキャンプが許可されているクラブパークで、ホームレスと薬物中毒問題への取り組みを訴えた。

 BCグリーン党ソニア・ファーステノー党首はビクトリア市で演説、「これ以上、環境問題に遅れを取ってはならない」と訴えた。

 イービー氏とラスタッド氏は、それぞれ党首として初めての選挙戦となる。BCユナイテッド(前BC自由党)は8月28日に票割れを防ぐために今回の選挙ではBC保守党を支援すると発表。同党から一切候補者を出さないことを表明し、事実上党として消滅した。

 今回の選挙で投票できるのは、カナダ国籍を有する18歳以上で、今年4月18日以前からBC州に住んでいる人。投票には登録が必要で、事前登録を呼び掛けているが、投票所でも登録できる。期日前投票は10月10日〜13日、15日〜16日。投票は郵送でも可能。

(記事 編集部)

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「コーダの人だけではなく普遍的な物語」北米プレミア バンクーバー国際映画祭「ぼくが生きてる、ふたつの世界」呉美保監督インタビュー

五十嵐大を演じる吉沢亮。Photo courtesy of VIFF
五十嵐大を演じる吉沢亮。Photo courtesy of VIFF

 第43回バンクーバー国際映画祭(VIFF)が北米プレミア上映となる「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」(日加トゥデイ・メディアパートナー作品)。原作は、作家・エッセイストの五十嵐大による自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」で、本作では、コーダ(Children of Deaf Adults/きこえない、またはきこえにくい親を持つ聴者の子どもという意味)の主人公・五十嵐大(吉沢亮)の「きこえる世界」と「きこえない世界」での葛藤と成長の姿を描く。

「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」の呉美保監督。Photo courtesy of VIFF
「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」の呉美保監督。Photo courtesy of VIFF

 現在、子育てと仕事の両立に多忙を極める呉美保(お・みぽ)監督は今回の映画祭への出席は見送ったが、バンクーバーでの上映に先立ち、東京から本作に込めた思いを語った。

—国内外で高い評価を得た「そこのみにて光輝く」以来、9年ぶりとなる長編監督作品となる本作。「映画にもう一度戻る勇気がなかった」という呉監督が、それでもこの作品を監督したいと思った理由は?

 映画は四六時中そこに時間を割かなきゃいけない本当に大変な作業なので、2015年に子どもを産んで以来、育児中心の生活となり、長編作品を監督することは難しいと感じていました。しかし、2人目の子どもが1歳になった頃にこの企画をいただき、本作が息子と母親の話であり、私たちの生活の延長線上にある話で、なにより社会的マイノリティを描いている点に興味を引かれました。

 原作を読むまでコーダのことは知りませんでしたが、そこに流れている感覚が自分の幼い頃の感覚に似ていたんです。私は在日韓国籍で、そのことでいじめられた経験はないですが、「あれ、私は他の人とはちょっと違うの?」、「『普通』って何だろう?」と思っていた当時の感覚を思い出し、この作品は、コーダの人だけではなくこの社会で生きるいろんな人たちに共感をしてもらえる物語、普遍的な物語にできるのではないかと思い、ぜひともこれを映画にしたいと思いました。

 また、この企画をいただく2年前に私のめいが元々あった聴力を高熱で失い、ろう学校で手話の勉強を始めたんです。会うたびに、手話を習得して吸収していく様子にびっくりして、本当にすばらしいな、こういう世界もあるのだと気付かされたことも、この作品に引かれた大きな理由です。

—制作が始動すると、9年前にはなかった母親としての不安との闘いだったという監督。そんな状況の中、作品でこだわったことは?

 今回、9年ぶりの長編監督作品としてのプレッシャーよりも、子育てと両立ができるのかという不安が大きかったです。「今日子どもが熱を出したらどうしよう」とか、「この打ち合せが子どもの迎えの前までに終わるのだろうか」ということを常に考えて、ずっと動悸がしている状態で1日中不安を抱えていました。

 限られた時間の中でも特に作品でこだわったのは、「違和感をなくす」こと。この作品の原作は実話なので、作られたような世界の描き方にはしたくないと思っていました。例えば、この作品では、ろう者役は、全てろう者俳優に演じてもらっています。ろう者の方々に聞くと、今まで多くのろう者役を聴者の俳優が演じてきたけど、「外国人が生粋の日本人を演じているような違和感があった」と皆さんおっしゃる。よくよく考えると当たり前なのですが、実は気付いていなかったことに今回たくさん気付かされました。

子どもの頃の五十嵐大(右)と母(左)、父(中央)。Photo courtesy of VIFF
子どもの頃の五十嵐大(右)と母(左)、父(中央)。Photo courtesy of VIFF

 また、この作品では観客がドキュメンタリーを見ているような感覚になるように、主人公・五十嵐大の0歳から28歳までを描くことが目標でした。映画「6歳のボクが大人になるまで」では何年もかけて実際に撮影されていますが、この作品の撮影期間はわずか3週間でしたので、幼少時代から吉沢亮さんまでの変遷を違和感なく見てもらえるように、とことんオーディションをやり、「ミニ吉沢亮」を探し続けました。

—撮影中、監督自身の感情が最も動いた瞬間は?

 吉沢さんが父親と線路沿いを歩く長いワンカットのシーンの撮影だったのですが、吉沢さんの初めての手話のシーンですし、電車のタイミングやワンカットでの撮影など、難しい要素が多く、1回ではOKは出せないだろうと思っていました。

「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」より。Photo courtesy of VIFF
「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」より。Photo courtesy of VIFF

 でも、びっくりしたのですが、ワンテイクで、吉沢さんの手話の間違いもなく、カメラワークもよく、電車もベストなタイミングで走り、うわーっと思いました。吉沢さん、持ってるなと。そのとき、「この映画は、きっとうまくいく!」と確信しました。今考えてもわくわくします。いまだに試写で見るたびに、もう完成しているのに、セリフの間違いないかなとドキドキして。そして毎回感動します(笑)

—本作では、ろう者と聴者間のコミュニケーションの問題が描かれています。手話を作品で扱う上で、苦労したことはありますか?

 今回最も苦労したのは、「手話」という「異文化・異言語」を理解することのハードルで、ロスト・イン・トランスレーションといいますか、本当に忍耐勝負でした。話し言葉もたくさんの言い方が人それぞれあるように、手話の場合も、年代、性別、方言、性格によって全然違い、言葉の選択も違うため、まず、各キャラクターにのっとった手話翻訳をし、そのあと実際の俳優も交えて一緒に精査をして、現場でさらにもう一度修正するということを何段階も行って、手話を作り上げていきました。

 現場にはおおよそ8人の手話チームが常駐し、ろう者俳優と話すときは、手話通訳に入ってもらい、手話演出メンバーともメールなどの活字での打合せが必要でしたので、やはりこうして話すよりも2倍、3倍の時間を要しました。そのときの疲労は想像以上で、英語が話せないのに海外に行ったときの疲れと同じ感覚でした。しかし、そこで少しでも気を抜くと自分の目指すところには行けないと思ったので、諦めずに最後までやり抜きました。

—バンクーバー国際映画祭で期待していることは?

 私にとっての初めての国際受賞は2014年のモントリオール世界映画祭で、そのとき、カナダの人たちがとてもおおらかに迎え入れてくださったことを今でも覚えています。今回私が描いたコーダの主人公は、確固たる夢があるわけでもなく、何をしたいのかも分からない。主人公が「第一歩を踏み出すか、踏み出さないか」のような日本独特の空気の映画をカナダという多文化の国の人たちが、どのように受け止めてくれるのかすごく気になります。日本の片隅の、何でもない男の子の人生を見守るように楽しんでもらえたらなと思います。

「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」上映日時・会場

9月26日(木)8:30 pm @The Cinematheque
9月30日(月)10:30 am @International Village 9
https://viff.org/whats-on/viff24-living-in-two-worlds

母親(忍足亜希子)と大(吉沢亮)。Photo courtesy of VIFF
母親(忍足亜希子)と大(吉沢亮)。Photo courtesy of VIFF

(取材 佐々岡沙樹)

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「お寺で七五三のお祝いしませんか?」 

七五三は、その名の通り、三歳・五歳・七歳に成長の節目として、無事に成長したことを感謝し、これから先の幸福と健康長寿を御祈りする儀式です。

そして、お寺でも参拝ができることをご存知ですか?

和の学校@東漸寺では、今年も七五三のお祝いをお手伝いさせていただきます。

完全予約制の個別式で着物レンタル、着付サービス、記念写真撮影を承ります。

合同での七五三祝いご祈祷及び厄除け法要につきましては、決まり次第にお知らせいたします。

着物レンタル及び着付サービスのお申し込みをされた方、先着10名様へ千歳飴をプレゼントいたします!

*サンデープラン*
毎週日曜日、午前10時と午後1時のお席を設けております。
その他の日も承りますので、詳しくはトモコまでお問い合わせ下さいませ。

日時:随時受付けております。
会場:東漸寺館内 209 Jackson St, Coquitlam 
お問い合わせ コナともこ tands410@gmail.com
和の学校ホームページ https://wanogakkou.jimdofree.com/

「インスパイアされる音楽家」石橋英子さんインタビュー

石橋英子さん。Photo courtesy of VIFF
石橋英子さん。Photo courtesy of VIFF

 独特の明るい雰囲気で日本から9月10日、日加トゥディのインタビューに応えてくれた音楽家の石橋英子さん。10月1日にバンクーバー国際映画祭(VIFF)の今年の目玉であるライブ演奏「GIFT」で来加が予定されている。石橋さんといえば2021年の濱口竜介監督「Drive My Car」を思い出す人が多いだろう。国内だけでなくカンヌ映画祭やアカデミー賞など世界で大絶賛を受けた監督のベスト作品。石橋さんが担当した良質なオリジナルサウンドトラックが背中を押したと言っても過言ではない。

映画と音楽について

 「映画は子どもの頃から好きで、音楽を聴く時間より映画を見る時間の方が長かった」と語る石橋さんだが、特に映画音楽にこだわった訳ではない。3、4週間で仕上げなければならない商業映画の音楽制作が多い中、新型コロナウイルスが発生。海外ロケを含む撮影が中断された時期で濱口監督とゆっくりと時間をかけられた。まず脚本や映像に目を通してイメージをわかせ、監督と話し合いをして作品への理解を深める。最初に信じて作ったものが完成するとイメージが違ったりする時もある。「時間をかけることが奥行きを生むのです」と石橋さんが微笑んだ。

 新しいシンセサイザーを購入したら、石橋さんは毎日使いこなせるまで練習して何かを録音する。監督とのやり取りの間、その過去の積み重ねともいえる毎日の録音も聞き直したそうだ。自分で映像に合うと感じた音楽をまとめて濱口監督に送り、監督も送られてきた大きなデータから自ら音楽を選び出す。大物監督の要望に応えるのはかなりのプレッシャーだが、共存できるものを見つけられた。「濱口監督に出会えてラッキーだった」と振り返る。

多才な活動

 映画音楽は映像より目立ってはいけないから、どこか地味な印象がある。だが石橋さんはリスボンの国際フィルム・アワーズで最優秀音楽賞を受賞したほどのミュージシャン。2018年のアルバム「The Dream My Bones Dream」は国外の音楽誌でベストアルバムとして選出された。ある日、地元で道に捨てられていた電化製品を見た石橋さん。寂れて取り残された物が海に流れていくようなインスピレーションを受け、「そのイメージを意識して(2014年のアルバム『Car and freezer』の)曲を作りました」と話した。その後2019年のアニメ「無限の住人-IMMORTAL -」でも音楽を担当した。

 肩書きを聞かれると自分でも首をかしげて難しいと感じるそうだ。映画や舞台、展覧会の音楽を担当する作曲家、ライブ演奏するシンガーソングライター、他のミュージシャンのプロデューサーであり、さらにピアノ、シンセサイザー、フルート、マリンバ、ドラムなど演奏者など幅が広い。

Photo courtesy of VIFF
Photo courtesy of VIFF

 そんな石橋さんがカナダで初めて披露する「GIFT」では、サイレント映画に合わせてライブ演奏を行う。これは濱口監督の2023年作品「Evil Does Not Exist」からスピンオフした新たなコラボ企画で、ニューヨークでは「言葉で表せない」、ロンドンでも「他には類がない」とすでに海外で注目を浴びている。カナダではバンクーバーで1日限りの貴重なライブとなる。

VIFF Live 石橋英子さん「GIFT」開催日時・会場
10月1日(火)7:00 pm Rio Theatre
https://viff.org/whats-on/gift-hamaguchi-ishibashi-live

(取材 Jenna Park)

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ヤニック・ネゼ=セガン 音楽の楽園〜もう一つのカナダ 第27回

はじめに

 日加関係を応援頂いている皆さま、音楽ファンの皆さま、こんにちは。

 9月の声を聞くと同時に、オタワに秋がやって来ました。街には緑が溢れているものの、既に紅葉が始まっています。世界中を沸かせたパリのオリンピック、そしてその後のパラリンピックも閉幕しました。いよいよ、芸術の秋の到来を実感します。

 そこで、今回は、カナダが誇る指揮者ヤニック・ゼネ=セガンについて綴ってみたいと思います。

 ヤニックは、世界の楽壇にあって、現在、最高峰の指揮者と言っていいと思います。カリスマ指揮者と崇められたゲルギエフが、ロシアのウクライナ侵略以降もプーチン大統領との親密な関係を保っていたことから、世界の楽壇から事実上追放されたこともあり、今やヤニックは世界中で引っ張りだこです。1975年3月生まれでモントリオール出身の49歳で、既に、膨大な録音を残しています。例えば、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーン、シューマンの交響曲全集、或いはモーツァルトの主要オペラを筆頭に実に多彩なディスコグラフィーを誇っています。

 しかも、ヤニックは、現在、フィラデルフィア管弦楽団とメトロポリタン歌劇場という世界最高峰の二つの楽団の芸術監督を同時に務めています。実は、同時に最高峰の二つの楽団の音楽監督を務めることは稀有なことです。全盛期のカラヤンがベルリン・フィルとウィーン国立歌劇場の芸術監督を務めた例があるぐらいです。

 それでは、ヤニック・ネゼ=セガンの素晴らしき世界に参りましょう。

初めてのヤニック@カーネギーホール

 私が初めてヤニックを生で観たのは、前職でニューヨークで勤務していた頃です。2019年10月15日のカーネギーホールで、フィラデルフィア管弦楽団を率いての公演でした。同月末からの日本ツアーを控えてのニューヨーク公演ということで、オーケストラ側から招待頂いたものでした。既に5年も前のことですが、ステージ正面のボックス席で、カーネギーホール館長のクライブ・ギリンソン夫妻らと一緒に鑑賞したことを昨日のように思い出します。と言いますのも、鮮やかな色彩感覚のフィラデルフィア・サウンドの美音の洪水を満喫したからです。

 公演は、まず、米国の若手作曲家ニコ・ミューリーがフィラデルフィア管弦楽団のために書いた現代音楽「Liar」の世界初演で幕を開けました。続いて、エルガーの「チェロ協奏曲」でした。このジャンルの最高傑作の一つ。チェロという楽器にして初めて可能な慈愛に満ちた音色で奏でられるメランコリックの旋律が胸に迫るのですが、チェロを懐深く優しく包み込むオーケストラがこの協奏曲の骨格を見事に支えていました。

 そして、休憩の後のメイン・ディッシュは、ベートーヴェンの交響曲第6番へ長調・作品68「田園」でした。聴力を喪失しつつある中、ベートーヴェン38歳の才能が爆発している作品です。御承知のとおり、本格的な表題音楽を交響曲というフォーマットで実現した歴史を画す傑作です。ヤニックは、フィラデルフィア管を見事に差配し、マンハッタンのど真ん中に1808年ウィーン近郊の田園風景を音で再現したのです。怒涛の拍手が湧き上がりました。

 伝統のオーケストラの持つ力を全開させる純白のシャツの若き指揮者。身体からエネルギーが迸り、その熱量がオケに憑依しているようでした。圧倒的な印象でした。

 実はこの段階で、私はヤニックについて何も知りませんでした。それでも、素晴らしい演奏にただただ圧倒されていました。公演終了後、楽屋を訪れる機会に恵まれ、ヤニックに紹介され、若干の会話をしました。私は、エルガーのチェロ協奏曲も「田園」も大好きでよくCDを聴いているけれど、今夜は、貴方の凄い指揮でこれらの名曲の真髄に触れることが出来て、本当に感動した旨を述べました。ヤニックは、日本公演を本当に楽しみにしていると笑顔で話してくれました。そして、驚いたことが一つあります。ステージ上では大きく見えたヤニックは、実際は小柄な人だったのです。音楽愛とエネルギーが横溢してゾーンに入っている時とオフの時の違いが、巨大な才能を浮き彫りにしていると感じたことを憶えています。

モントリオールの神童〜ジュリーニとの出会い

 ヤニックは、教育学の大学教授と大学講師の両親の下に生まれ、恵まれた環境で育ちます。5歳でピアノを本格的に習い始め、瞬く間に上達。10歳の時には、指揮者になると決意したと、各種インタビューで語っています。興味深いのは、何故、指揮者になりたいと思うに至ったかはよく憶えていないようです。両親が愛聴していたモーツァルトの交響曲第40番に合わせて指揮者の真似をするのが好きだったとも言っています。音楽大好き少年の無垢な思いだったのかもしれません。モントリオール音楽院で学ぶ傍ら、14歳で、モントリオール・ポリフォニー合唱団のリハーサル指揮者を務めます。思いを着々と実現していく訳です。

 何事によらず、勉強はすればするほど、学びたい事や教えを乞いたい師が増えていくものです。ヤニックの学びもそうで、モントリオールを超え、米国ニュージャージー州プリンストンのウェストミンスター・クワイヤー・カレッジでも合唱の指揮を勉強しています。

 運命的な転機は、モントリオール音楽院を卒業した1997年、ヤニックが22歳の時に訪れます。巨匠カルロ・マリア・ジュリーニに1年間にわたって師事する機会を得たのです。

 ジュリーニは、かつて39歳の若さでミラノ・スカラ座の音楽監督に就任し、世界のオーケストラを総なめにしたイタリアの名指揮者です。虚飾を排した歌心溢れる音つくりで、20世紀の指揮者列伝に名が刻まれています。ヤニックが師事した時は、既にジュリーニは83歳。フリーの指揮者として、特定の組織に属せず、世界の一流オーケストラに客演する日々でした。側近として、ジュリーニが如何に準備し、リハーサルに臨み、楽団員を掌握し、自らの音楽を奏でるかを間の当たりにしたことは、何物にも変え難い貴重な経験だったに違いありません。楽曲に対する深い理解と洞察に基づく、他の誰かの真似ではない自分だけの音楽的解釈で、オーケストラを率いる。ジュリーニの下で学んだ事は、指揮者の頂点を目指す若きセガンの原点であり、血となり肉となったのです。各種インタビューでは、最も影響を受けた指揮者としてジュリーニの名を常にあげています。

旅立ち

 2000年、25歳の若さでヤニックは、地元のグラン・モントリオール・メトロポリタン管弦楽団の首席指揮者兼芸術監督に就任します。快進撃の始まりです。

 2003年には、ヤニック色に染め上げたグラン・モントリ・メット管を率いてCDデビューします。演目が、ちょっと意表を突いてます。ニーノ・ロータです。名匠フェデリコ・フェリーニ監督とのコンビで数々の名画・名曲を生んだ現代イタリアが誇る作曲家です。選んだのが「組曲『道』」とハープ及びトロンボーンの2つの協奏です。歌の国、イタリアの面目躍如の旋律に溢れています。師ジュリーニの影響を感じさせます。

 実は、同年、ヤニックはピアニストとしてもCDデビューしているのです。「カンバセーション」と題するCDは、トロンボーンとの二重奏という個性的なフォーマット。冒頭に収録されたガブリエル・フォーレ作曲の「シチリアンヌ」が、チェロやフルートとは違った趣きで胸に迫ります。2つのデビュー盤は、クラシックの世界では、直球ど真ん中の勝負というよりは、変化球で腕試しという感じです。厳しい競争のクラシック市場に、知名度の低い青年が切り込むための、戦略的な動きにも見えます。が、功なり名を遂げた今から振り返れば、ヤニックが固定観念に囚われず優れた音楽を世に問う新しい発想の持ち主である証左とも言えるでしょう。

飛翔

 「指揮は人なり」です。舞台で唯一人観客に背を向け、百人に及ぶ楽団員に対峙して己の音楽をつくるのです。そこには、指揮者の全人格や個性が滲みます。エネルギー溢れる指揮ぶりは、ヤニックの音楽性と生産性を如実に物語っているのです。

 上述のとおり、2003年、28歳で発表した2枚のデビューCD以降、今日に至るまで毎年、複数枚のCDをリリースし続けています。膨大な量です。指揮者とピアニストの二刀流です。そのプログラムは非常に幅広い音楽的地平を網羅しています。マーラーやブルックナーらの交響曲を指揮する一方で、「モーツァルト歌曲集」では18世紀後半のフィルテピアノを演奏するのです。マギル大学で教鞭も取るカナダの代表的ソプラノ、シュジー・ルブランと吹き込んだ隠れた名盤です。天衣無縫のアマデウスが紡いだ珠玉の旋律が古式ゆかしくも全く黴臭くなく、生き生きと今に蘇ります。ヤニックの奔放で明朗なピアノフォルテは、きっとモーツァルトはこんな風に弾いたんだろうなと感じさせます。

 デビュー当初は、活動の舞台もカナダが中心でした。CDもカナダのクラシック音楽専門レーベルATMAからのリリースでした。が、徐々に欧州での公演も増えていきます。

 2005年には、今も音楽関係者の間で語り草になっている、ヤニックの恐るべき実力を示すステージがありました。シドニーのオペラ・ハウスでの公演です。当代の第一人者ロリン・マーゼルが病に伏せってしまい、急遽、その代役として、ヤニックに白羽の矢が立ったのです。演目はブルックナーの交響曲第8番です。その夜、ヤニックは、スコアを見ることなく全て暗譜して指揮したそうです。天才的な記憶力を見せつけました。そう言えば、トスカニーニも急遽代役で指揮。しかも暗譜していました。運命の扉はどこで開くか分からないのですね。

 2006年以降は、サン=サーンス、ドビュッシー、ラベル、ベルリオーズなどフランスの作曲家も積極的に取りあげていきます。2008年からは、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者を務めています。

 録音についても、ドイツ・グラムフォン・レーベルと長期契約を締結。多彩な取り組みで、ヤニックの音楽的冒険が進行中です。幾多の名指揮者が残しているベートーヴェンやブラームスの交響曲全集ですが、ヤニック盤の切れの良いリズムと鮮やかな色彩感は特筆に値します。また、ショパン・コンクール優勝のチョ・ソンジンのデビュー盤「モーツァルトピアノ協奏曲第20番ニ短調」では、チョのデリケートなピアニズムに、寄り添いつつ鼓舞し刺激し、哀愁のメロディーの向こうに希望の光を灯すようです。新人を抱擁する貫禄を感じさせます。

巨匠への道と新しき音楽的冒険

 ヤニックは、2012年、シャルル・デュトワの後任として、フィラデルフィア管弦楽団の第8代音楽監督に就任します。1900年に創設された名門で、ストコフスキー、オーマンディ、ムーティ、エッシェンバッハといった錚々たる先人に肩を並べています。

 2018年からは、謂く付きで退任したジェームス・リヴァインの後を継いで、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場の第3代音楽監督も務めています。6年契約を更新して、2030年までメットの顔となる訳です。

 今年49歳のヤニックは、クラシック楽壇ではまだまだ若い世代ですし、未だ巨匠というイメージではないかもしれません。しかし、これまでの実績と実力は、紛れもなく巨匠です。

 しかも、ヤニックは、新しき音楽冒険にも積極的です。その好例がフローレンス・プライス作品の録音です。プライスは、1887年アーカンソー州生まれで米国初の黒人女性作曲家と言われています。黒人霊歌を西洋の古典音楽に融合した交響曲は、20世紀の米国独自の音楽的進化を示しています。しかし、ヤニック以前には、非常に限られた音源しかありませんでした。2021年にヤニックが指揮してフィラデルフィア管が録音し、その進化を世界に示したのです。23年には、プライスの「交響曲4番」加えてウィリアム・リーヴァイ・ドーソン作曲の「ニグロ・シンフォニー」を問うています。忘れられていた優れた音楽に光を当てる。現代の音楽界を牽引しているのです。

カナダとヤニック

 才能が横溢し成功したカナダの音楽家には、世界の舞台が待っています。特に、米国で活躍します。ヤニックも例外ではありません。世界最高峰のフィラデルフィアとニューヨークを往復する日々です。しかし、ヤニックは母国カナダの聴衆にもちゃんと世界最高峰の音楽を届けています。ヤニックは、現在も故郷モントリオールのグラン・モントリオール・メトロポリタン管弦楽団の音楽監督も務めているのですから。

 24年夏には、モントリオールのマウント・ロイヤルの麓で、グラン・モントリ・メット管を率いての無料コンサートを行っています。ビゼー「アルルの女」に加えカナダ人作曲家クロード・シャンパーニュの作品も取り上げました。音楽家に出来る最大の地元コミュニティーへの貢献あるいは恩返しこそ、最高の音楽を届けるフリー・コンサートです。また、2024年4月には、フィラデルフィア管弦楽団のカナダ・ツアーを敢行しています。

 カナダが生んだ、現代の若き巨匠ヤニックが今後のどんな活躍を見せてくれるのか期待が高まります。実は、カナダは若い国ですが、優れた作曲家を輩出しています。しかし、残念ながら、世の中には余り知られていません。今後、ヤニックがカナダ人作曲家の真価を世界に問うて欲しいと思います。

(了)

山野内勘二・在カナダ日本国大使館特命全権大使が届ける、カナダ音楽の連載コラム「音楽の楽園~もう一つのカナダ」は、第1回から以下よりご覧いただけます。

音楽の楽園~もう一つのカナダ

山野内勘二(やまのうち・かんじ)
2022年5月より第31代在カナダ日本国大使館特命全権大使
1984年外務省入省、総理大臣秘書官、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、外務省経済局長、在ニューヨーク日本国総領事館総領事・大使などを歴任。1958年4月8日生まれ、長崎県出身

「多文化の地で広がる未来」バンクーバー日本語学校入学式

2024年度バンクーバー日本語学校入学式。2024年9月7日、バンクーバー市。写真提供:バンクーバー日本語学校
2024年度バンクーバー日本語学校入学式。2024年9月7日、バンクーバー市。写真提供:バンクーバー日本語学校

 バンクーバー日本語学校2024年度(2024年9月~25年6月)入学式が9月7日にバンクーバー日本語学校並びに日系人会館(VJLS-JH)で行われた。今年度は、キンダー(幼稚園)クラス、小学科1年生、基礎科Aクラスに新入生として合わせて83人が入学。小学科、基礎科、午後からの中学科、高等科、ユースクラス、アダルトコース合わせて380人が土曜日に通学する。平日クラス、オンラインクラス、プライベートクラスを入れると約500人の生徒となる。

 午前中に行われたキンダー(幼稚園)クラスから小学科の入学式では、新入生が会場の大きな拍手に迎えられて入場し、日本とカナダの国歌を斉唱した。

 小学科4年生のクラスに入学する生徒は学校で楽しみにしていることを聞かれ、「友達に会えることが楽しみです」と丁寧な言葉遣いで答えた。始めた漢字の学習は「楽になるから好き。ひらがなをいっぱい書かなくてよくなるから」と笑顔で話した。

日本語への関心 急上昇

 同校の多くの子どもたちは、家族の勧めで入学している。入学式に出席した保護者のプロッサー彩佳(あやか)さんは「海外生活が長いため、子どもたちに日本語を維持してほしい」という思いで3人の子どもを通わせていると話す。また、2人の子どもが同校に通うアルベロ妙(たえ)さんは、カナダに来る前にアメリカで10年以上生活していた経験から、「ずっと海外で生活している子どもにとっても、授業がしんどいと思わない、無理のない形で日本語の勉強を続けさせたい」との考えからこの学校を選んだという。

 大学生・社会人を対象としたアダルトコースは入学者数が昨年度の約1.5倍。通常、初級レベルは1クラスだけだが、今年度は3クラスに増設して対応する。同校ゼネラルマネジャーの杉山ヨシさんは、「日本文化やアニメをきっかけに、日本語自体への関心の高まりを感じます」と話す。

日本とカナダを繋ぐ架け橋になる人に

新入生に向けてあいさつをするバンクーバー総領事館・丸山総領事。2024年9月7日、バンクーバー市。撮影 佐々岡沙樹/日加トゥデイ
新入生に向けてあいさつをするバンクーバー総領事館・丸山総領事。2024年9月7日、バンクーバー市。撮影 佐々岡沙樹/日加トゥデイ

 あいさつで「今日はこれから日本語を勉強する皆さんを応援するためにやってきました」と新入生にエールを送った在バンクーバー日本国総領事館・丸山浩平総領事は、こうした日本語学校がバンクーバーにあることの意義は非常に大きいと話す。「日加関係の増進には、お互いの言語を理解し、交流を深め、信頼関係を築くことが重要です。その基礎となる大きな部分が『言語』にあると思います。言葉以外のコミュニケーションももちろん大事ですが、言語の役割は非常に大きく、無視できないものです。習得は大変ですけどね…。私も外国語の勉強にはずっと苦心していますが、小さい子どもたちが日本語の勉強を始める姿を見て、今日はすごく自分もフレッシュな気持ちになりました」と語った。

入学式で新入生を激励する本間真理校長。2024年9月7日、バンクーバー市。撮影 佐々岡沙樹/日加トゥデイ
入学式で新入生を激励する本間真理校長。2024年9月7日、バンクーバー市。撮影 佐々岡沙樹/日加トゥデイ

 1906年に設立された同校は、カナダで最も古い日本語学校であり、日系カナダ人コミュニティによって運営され、日本語教育と日本文化の継承・普及に努めている。ここで40年以上教師を続ける今年度校長に再任した本間真理校長は、同校の教育方針について「『今日これだけの漢字を覚えたよ』というようなすぐ見える結果ではなく、ずっと先まで、子どもたちが日本語学習や日本文化に興味を持ち続けることが一番大切」と述べ、「オーバーな話ですが、日本とカナダを繋ぐ架け橋になる人材育成をモットーにがんばっている」と熱意を語った。

 カナダは多文化主義の国で、人口のおよそ4分の1が移民であり、200以上の言語が母語として使用されている。本間校長は、こうした環境こそ言語を学ぶにはうってつけだという。「日本でいろんな言葉を習うのは難しいですが、ここでは隣の人は日本語ではない言語を話し、日本とは異なる文化を持っていることが当たり前。すでにもう子どもたちは国際人なんです。そういうすばらしい環境の中で育っている子どもたちのさまざまな可能性をもっと広げてあげられたらいいな」と思いを語った。

(記事 佐々岡沙樹)

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漁具に絡まったザトウクジラを4日間かけて救出

 カナダ漁業海洋省(DFO)が、4日間かけて漁具やロープ、ブイなどが絡まったザトウクジラを救出した。同省の海洋哺乳類コーディネーター、ポール・コトレル氏は「最も時間のかかった救出活動のひとつ」と話した。

 救出は、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州北部沿岸のプリンス・ルーパートとハイダ・グァイの間で行われた。クジラは、明らかに数カ月に渡って漁具が絡まった状態で、頭部にもロープが絡まり口を開けることができなかった。コトレル氏によると「どこから手を付けていいのかわからない状態だった」という。

 救出チームはロープなどを50カ所切断し、クジラの体から絡まったものを取り外した。クジラは長期間、何も食べていない状態で、呼吸のために浮上することも困難なほどひどい状態だったが、救出後は元気を取り戻した様子だった。しかし体に多くの傷を負っているため、DFOは様子を見ていくという。

  コトレル氏は、BC州沿岸で漁具がクジラの体に絡まるケースが増えているとし、この海域へのクジラの流入との関連性を考えているという。クジラの保護団体はDFOに対し、外部団体も救出活動を行えるよう、トレーニングや設備の提供を求めている。

(記事 編集部)

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「ザ・ゲスイドウズ」トロント国際映画祭で上映、宇賀那健一監督インタビュー「音楽以外は何をやってもダメ、そんなバンドのメンバー達が奏でる熱く楽しい物語」

今夜ミッドナイトマッドネスでプレミア上映を行った宇賀那健一監督(左端)とキャストの皆さん。レッドカーペットではカメラに向かってジャンプするなど終始楽しそうだった。Photo Michiru Miyai
今夜ミッドナイトマッドネスでプレミア上映を行った宇賀那健一監督(左端)とキャストの皆さん。レッドカーペットではカメラに向かってジャンプするなど終始楽しそうだった。Photo Michiru Miyai

 今年も278作品が上映され大いに盛り上がったトロント国際映画祭(TIFF)。中でも一段と熱かったのが午後11時59分に上映開始、真夜中にホラーやファンタジーなどの映画を観て楽しむ「ミッドナイト・マッドネス」部門。そこで新作「ザ・ゲスイドウズ」が上映された宇賀那健一監督が現地で取材に応じ作品への思いなどを語った。

ザ・ゲスイドウズ あらすじ

「ザ・ゲスイドウズ」より。Photo courtesy of TIFF
「ザ・ゲスイドウズ」より。Photo courtesy of TIFF

 売れないパンクバンドの「ザ・ゲスイドウズ」。CDがあまりに売れなかったため田舎に移住しそこで曲を作って来いと事務所から命じられる。音楽以外は何をやってもダメなメンバーたちが田舎で畑仕事を手伝い周囲の人たちと触れ合いながら曲作りに励むなか、自分たちの音楽と居場所を作りあげてゆく。主演は夏子。多国籍バンドALIの今村怜央、ゴールデンボンバーの喜屋武豊、アメリカで映画監督をするロッコ・ゼベンベルゲンらが出演。

レッドカーペットの宇賀那健一監督。Photo Michiru Miyai
レッドカーペットの宇賀那健一監督。Photo Michiru Miyai

―これまでホラー映画も撮ってきた宇賀那監督ですが「ザ・ゲスイドウズ」はホラーではなくロックコメディ。今回音楽をテーマにされたのはどういう思いからですか?

「この物語はホラー映画が大好きな主人公がパンクな音楽をやっていて、社会と馴染めずにいるなか、新しい環境に触れ自分と自分の音楽の居場所を見つけるという話しなんです。もともと『物を作り続ける』というのがテーマにあって、何か物をつくり続けていいんだ、という温かい目線を向ける物語を作りたかった。自分が作るホラー映画と同様にパンク音楽も社会で少し白い眼で見られがちだったりするので、パンク音楽のミュージシャンが周囲に受け入れられながら曲を作りあげてゆく話になりました」

―バンドのメンバーには今村怜央さんと喜屋武豊さんというミュージシャンが本業のお二人もいますね。

「音楽映画で当て振り(録音済みの音源を流しそれに合わせて演奏するふりをすること)だと冷めてしまうので、そこは本業の人でと考えていた。夏子さんは音楽はやっていなかったけどカリスマ性でお願いしました。夏子さんは作品中で唄うのは初めてだったし、喜屋武さんも普段はエアギターのところをベースを弾いてもらうなどチャレンジはあったんですが、撮影開始ぎりぎりまで皆で練習していたので大きなライブを前にしたバンドメンバーの様な強いつながりができてとても良かったです」

―出来上がった作品にはホラー映画を思わせるシーンもあります。

「自分は母親の影響で小さい頃からホラーを観て育ったためホラーは自分の原点と言えるので、そういうホラー味はやっぱり入りますね」

―今回はミッドナイト・マッドネスでの上映となりました。

「トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネスに出品するのが本当に目標のひとつだったのですごくうれしいとともにお客さんの反応が楽しみで怖くもあります。ここまで来たのだから他の作品もできる限り見ようと毎日すごく映画を見て楽しんでいます」

―映画をこれから観る方にメッセージをお願いします。

「もともと何か物を作り続けている人、夢を見続けている人に向けた応援映画にしようと思って作りました。結果として夢を追い続けている人だけでなく、夢をあきらめた経験のある人(監督も映画をあきらめて会社員をやっていた時期が3年ほどあった)や夢が見つからない人など、何かをがんばっている人全員に対しての応援映画になったと思います。パンク音楽やホラー要素があるととっつきにくいかも知れないですが、実際は怖い要素は無いし誰にでも楽しんでいただけるエンターテインメントになっているので幅広い人にご覧いただけたらと思います」

プレミア上映当日・・・

今夜ミッドナイトマッドネスでプレミア上映を行った宇賀那健一監督(左端)とキャストの皆さん。レッドカーペットではカメラに向かってジャンプするなど終始楽しそうだった。Photo Michiru Miyai
今夜ミッドナイトマッドネスでプレミア上映を行った宇賀那健一監督(左端)とキャストの皆さん。レッドカーペットではカメラに向かってジャンプするなど終始楽しそうだった。Photo Michiru Miyai

レッドカーペットには多忙なスケジュールをぬって駆け付けた出演者さんたちの姿が!

宇賀那監督「いよいよ憧れの場所で皆さんに見てもらえるので興奮しています。楽しんでいただきたいですね」

数時間のみの滞在(!!)という今村怜央さん「こんなすごい舞台に連れて来てもらい嬉しい。皆に届くといいなと思っています」

喜屋武豊さん「こんなに歴史のあるすばらしい劇場で上映されるというのは、なかなか味わえる経験ではないので最高の気分。このレッドカーペットで寝たいくらいです(笑)」

夏子さん「音楽を生業にしてらっしゃる方たちとバンドを組むという役だったので最初は自分に務まるかと思いました。群馬での撮影も含め毎日が本当に楽しく大変なこともあったけど皆でやり遂げたという感が大きい撮影でした」

上映終了時は午前2時前。にもかかわらず監督、出演者の登壇に会場は多いに盛り上がり活発なQ&Aも行われた。

上映は午後11:59開始、終了は午前2時前にも関わらず大盛況!上映後に登壇した宇賀那健一監督(左端の司会者の隣)とキャスト、スタッフの皆さん。上映は途中笑いや歓声が起こるほどだった。Photo Michiru Miyai
上映は午後11:59開始、終了は午前2時前にも関わらず大盛況!上映後に登壇した宇賀那健一監督(左端の司会者の隣)とキャスト、スタッフの皆さん。上映は途中笑いや歓声が起こるほどだった。Photo Michiru Miyai

記事 Michiru Miyai

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バンクーバー国際映画祭2024日本映画を紹介、「ぼくが生きてる、ふたつの世界」など今年も話題作を上映

「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」より。Photo courtesy of VIFF
「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」より。Photo courtesy of VIFF

 第43回バンクーバー国際映画祭(VIFF)が9月26日に開幕する。今年は4,800本の応募作品の中から選ばれたプレミア70本を含む長編作150本とショート作品81本が、バンクーバー市内の映画館で上映される。

 日本映画は、日加トゥデイ・メディアパートナー作品の「Living in Two Worlds」(「ぼくが生きてる、ふたつの世界」呉美保監督)をはじめ、シンガーソングライターの石橋英子さんが来加し、濱口竜介監督とのサイレント映画「GIFT」をVIFF Liveで披露する。

 今年もVIFFで上映される日本映画を紹介する。

「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」日加トゥデイ・メディアパートナー作品

「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」より。Photo courtesy of VIFF
「ぼくが生きてる、ふたつの世界(英題:Living in Two Worlds)」より。Photo courtesy of VIFF

 国内外から高く評価されてきた呉美保監督が9年ぶりに手がけた長編映画。耳が不自由な両親のもとで育った息子五十嵐大(吉沢亮)の成長に伴う葛藤や親子の絆を描いたストーリー。原作は作家・エッセイストの五十嵐大氏自身による「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」(幻冬舎)。

 母役は日本最初のろう者主演俳優として活躍する忍足亜希子、父役は数々の舞台作品に出演する今井彰人が演じる。そのほか、ろう者の登場人物には全てろう者の俳優を起用。共演は他にユースケ・サンタマリア、烏丸せつこらなど。

 バンクーバー国際映画祭パノラマ部門正式出品作品。https://viff.org/whats-on/viff24-living-in-two-worlds

「GIFT」

VIFf Liveに参加する石橋英子さん。(c)JimO'Rourke/Photo courtesy of VIFF
VIFf Liveに参加する石橋英子さん。(c)JimO’Rourke/Photo courtesy of VIFF

 ライブパフォーマンスが行われるVIFF Liveシリーズでは、音と映像の最先端で活躍するアーティストたちが集結。日本からはシンガーソングライターの石橋英子さんが来加し、2022年にアカデミー賞国際長編映画賞を獲得した「ドライブ・マイ・カー」でタッグを組んだ濱口竜介監督の「GIFT」で石橋ワールドを披露する。

 本作品は濱口のサイレント映像と石橋のライブサウンドトラックで作られている。8月28日にバンクーバー市で行われたプレスコンファレンスにでも「すばらしいコラボ」と紹介されるほど注目されている。

https://viff.org/whats-on/gift-hamaguchi-ishibashi-live

「Super Happy Forever」

「Super Happy Forever」より。Photo courtesy of VIFF
「Super Happy Forever」より。Photo courtesy of VIFF

 幼馴染の佐野と宮田は2人で伊豆を訪れる。そこは、佐野が5年前に亡くなった妻・凪と初めて出会い、恋に落ちた場所。二人は凪の影を追うように思い出の地を巡る。

 世界が注目する五十嵐耕平監督による長編最新作で、日本映画初となる第81回ベネチア国際映画祭ベニス・デイズ部門でオープニングを飾った作品。

 「泳ぎすぎた夜」で共同監督を務めたDamien Manivelもプロデューサーとして参加し、日仏合作映画として製作された。「青春期の終わり」を迎えた人々の奇跡のようなひとときを描いている。

 バンクーバー国際映画祭パノラマ部門正式出品作品。https://viff.org/whats-on/viff24-super-happy-forever

「 HAPPYEND(英題:Happyend)」

VIFF2024ではShowcaseカテゴリーで上映される空音央監督作品「Happyend」より。Photo courtesy of VIFF
VIFF2024ではShowcaseカテゴリーで上映される空音央監督作品「Happyend」より。Photo courtesy of VIFF

 ありえるかもしれない未来を舞台に、高校生の友情の揺れ動きや葛藤、そしてテクノ音楽が融合したクリエイティブかつ力強い作品。コンサートドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto | Opus」で世界の映画祭から注目された空音央監督による初のドラマ映画。

 2024年第81回ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門出品作品、トロント国際映画祭では北米プレミアとしても上映された。

https://viff.org/whats-on/viff24-happyend

「Viva Niki タロット・ガーデンへの道(英題:Viva Niki – The Spirit of Niki de Saint Phalle)」

「Viva Niki タロット・ガーデンへの道(英題:Viva Niki - The Spirit of Niki de Saint Phalle)」より。Photo courtesy of VIFF
「Viva Niki タロット・ガーデンへの道(英題:Viva Niki – The Spirit of Niki de Saint Phalle)」より。Photo courtesy of VIFF

 フランスを代表するフェミニスト・アーティスト「ニキ・ド・サンファル」の人生と作品を追ったドキュメンタリー。世界で活躍する女性アーティストを撮り続けてきた写真家松本路子が映画初監督を務める。ナレーションを担当したのは歌手で俳優の小泉今日子、エンディング曲でも上田ケンジとのユニット「黒猫同盟」として参加している。

 ニキの集大成としてイタリア・トスカーナに制作した彫刻庭園「タロット・ガーデン」。1981年からニキと10年以上にわたり交流してきた松本路子自身がその庭園を訪れ、ニキが歩んだ道を辿る。

https://viff.org/whats-on/viff24-viva-niki

「The Chef & the Daruma」

「The Chef & the Daruma」より。Photo courtesy of VIFF
「The Chef & the Daruma」より。Photo courtesy of VIFF

 36年にわたり数多くの著名人から愛されてきたバンクーバー市にあるレストラン「Tojo’s restaurant」のオーナー東條英員氏の活動を追いかけたドキュメンタリー。Mads K. Baekkevold監督初の長編作品。東條氏はカナダでの日本料理のパイオニアで、カリフォルニアロールの生みの親としても知られている。VIFFでの上映が世界初公開。

https://viff.org/whats-on/viff24-the-chef-the-daruma

「あめだま(英題:Magic Candies)」

「あめだま(英題:Magic Candies)」より。Photo courtesy of VIFF
「あめだま(英題:Magic Candies)」より。Photo courtesy of VIFF

 韓国の絵本作家ペク・ヒナの「魔法のキャンディー」を原作とした短編アニメーション。「ニューヨーク国際こども映画祭2024」の短編アニメーション審査委員最優秀賞作品。コミュニケーションをとるのが苦手な少年ドンドンが不思議な「あめだま」の力を通じて、他人の心を理解し、自身の気持ちを伝えることができるようになるまでを描いている。監督はドラゴンボールなどを手掛けてきた西尾大介。カナディアン・プレミア作品

https://viff.org/whats-on/viff24-magic-candies

Colors Under the Streetlights

「Colors Under the Streetlights」より。Photo courtesy of VIFF
「Colors Under the Streetlights」より。Photo courtesy of VIFF

 深夜にガールズバーのキャストを乗せ、夜の街を走るドライバーのユリカを主人公にした、東京の夜を生きる女性たちを描いたショートムービー。

 監督・脚本は「ドーナツもり」の定谷美海。

https://viff.org/whats-on/viff24-colors-under-streetlights

「My Dog is Dead / 私の犬が死んだ」

「私の犬が死んだ(英題:My Dog is Dead)」より。Photo courtesy of VIFF
「私の犬が死んだ(英題:My Dog is Dead)」より。Photo courtesy of VIFF

 家族の犬が亡くなったと知り、犬を飼っている人の気持ちが分からないボーイフレンド・ヨシキと一緒にリコが実家を訪ねる物語。家族や喪失、悲しみを静かに描き出す感動的なショートムービー。松永侑と千田丈博の共同監督作品。

https://viff.org/whats-on/viff24-my-dog-is-dead

Vancouver International Film Festival 2024

期間:2024年9月26日~10月6日
チケット:一般19ドル、シニア17ドル、学生14ドル。6枚、10枚のチケットパックもあり
上映時間やチケット情報はバンクーバー国際映画祭ウェブサイトを参照。https://viff.org/festival/viff-2024

(記事 田上 麻里亜)

バンクーバー国際映画祭チケットプレゼントのお知らせ

日加トゥデイがメディアパートナーの「Living in Two Worlds」(「ぼくが生きてる、ふたつの世界」呉美保監督)を10名に、好きな映画を選べる一般チケットを10名に、プレゼントします。

希望の方は、件名に「Living in Two Worlds」希望、一般チケット希望と、どちらかを明記して、promo@japancanadatoday.caまでご応募ください。締め切りは9月23日(月)正午となります。

抽選の上、当選者には直接メールで連絡いたします。

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偶然と恋愛「Super Happy Forever」五十嵐耕平監督インタビュー

「Super Happy Forever」より。Photo courtesy of VIFF
「Super Happy Forever」より。Photo courtesy of VIFF

 「特別な思い出はだいたい取るに足らないようなささやかな事柄の方が多い」。監督のそんなさりげない発想から生まれたような映画「Super Happy Forever」。この作品は今年のバンクーバー国際映画祭パノラマ部門から、見所としてメディアコンフェレンスで紹介された唯一の日本映画。9月7日、大学の授業のためバンクーバーに来られない五十嵐耕平監督は、東京から日加トゥディのインタビューに応えてくれた。

 まず冒頭から海の好きな人、そうでない人でもため息が出るくらい奇麗な景色に遭遇する。そしてブルーのさわやかな海を囲むように、ひと夏の物語りが始まる。

 海辺のリゾート地を5年ぶりに訪れた幼なじみの佐野(佐野弘樹)と宮田(宮田佳典)。でも佐野は最愛の妻・凪(なぎ、山本奈衣瑠)を亡くしたばかり。自身も悩みを抱えているが幸せを信じて明るい宮田。それに比べ佐野はただ怒りっぽい。彼の目的はただ一つ。凪と偶然に出会った場所で、二人の思い出の赤い帽子を見つけること。ひたすら帽子を探す彼の悲しみといらだちは隠せない。

「Super Happy Forever」より。Photo courtesy of VIFF
「Super Happy Forever」より。Photo courtesy of VIFF

 今年ベネチア国際映画祭でプレミアしたこの作品は、3部構成で現在、過去、現在へと時間を横断する。1部での佐野の変わった行動が、2部でその理由が解かれる。偶然が偶然を呼んでワクワクしたり、カップヌードルのシンプルな幸せを感じた後は、3部で人生を変えるための帽子を私たち観客も一緒に探す。そして…

最後まで魅せる作品

 静かで優しいから、どこかノスタルジックな恋や喪失感を期待すると、意外な所へたどり着くのでびっくり。「現在の日本だとどこか変わった映画だと思われるかもしれないですね」と語る五十嵐監督の言葉通り、独特な皮肉やユーモアが感じ取れた。ただこのふわっとした青春感は、どの年代の人にも通じるものがあり、席を立つと振り返ってまた見たくなる。

「Super Happy Forever」より。Photo courtesy of VIFF
「Super Happy Forever」より。Photo courtesy of VIFF

 最近カナダでも見られる宗教的な自己啓発セミナーについて「信じることで救われたり明るくなるのはよいが、金銭と結びつくと良くないことがある」。また最近の映画で見られない入浴やタバコのシーンについても「自分の好きな映画にそういうシーンが多いから」と前置きして、「まあタバコ吸う人多いし、全然いいでしょう」と明るく応えてくれた。この70年、80年代の監督みたいな発言も五十嵐監督の大きな魅力だ。

五十嵐耕平監督。Photo courtesy of VIFF
五十嵐耕平監督。Photo courtesy of VIFF

 年齢より若く見え、まだ新鋭イメージがある監督だが、大学在学中に手がけた「夜来風雨の声」が、2008年のシネマ・デジタル・ソウル映画祭でいきなり韓国批評家賞を受賞。続いて大学院時代に作った「息を殺して」がロカルノ国際映画祭に、さらに「泳ぎすぎた夜」がベネチア国際映画祭に連続招待されるという快挙を成し遂げている。また監督のミュージックビデオ(D.A.N.「Pool」「Native Dancer」)や過去のショート作品など長編作に至るまでの映像と色使いも注目してほしい。

 主人公を見ているといつの世代でも青春時代はあったと実感。五十嵐監督は「ぜひ見てくださいね」と元気よく締めくくった。終わらないひと夏の物語、劇場で見たい作品だ。

「Super Happy Forever」上映日時・会場

10月4日(金)6:00 pm @Fifth Avenue Cinema
10月6日(日)6:15 pm @SFU Woodwards
https://viff.org/whats-on/viff24-super-happy-forever/

(取材 Jenna Park)

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日本語認知症サポート協会「オンライン de Cafe・笑いヨガ」

「笑顔の力」を引き出そう〜「笑いヨガ」で、元気な心と体づくり〜

毎月、「笑いヨガ」を行っています。自宅にいながら参加できる、オンラインでのセッションです。興味のある方、初めての方も大歓迎。楽しく一緒に笑いましょう!

日時:2024年10月17日(木)午後8時〜午後9時
会場:Zoom
参加費:初回無料、2回目からドネーション(e-Transfer、PayPalまたは小切手にて)
申し込み締め切り:2024年10月15日(火)

申し込みリンク:https://forms.gle/k3vhNu5ux71eYu8p9
*お申し込みいただいた方には、追って参加方法をご案内いたします。

お問い合わせ先:orangecafevancouver@gmail.com

主催:日本語認知症サポート協会(Japanese Dementia Support Association) http://www.japanesedementiasupport.com

MagicJo山下の無料手品レッスン

MagicJo山下の無料手品レッスン http://www.magicjos.magix.net/public

場所:Vancouver中央図書館(W.Georgia@Homer)8階

所要時間:30分
Props/教材費:$5

三名集まり次第連絡ください。  webarts3000@yahoo.com

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