カナダで気をつけたい「留学生を狙う詐欺 日本人留学生3人の証言」後編

 知らない土地で住まいを探し、慣れない英語で契約など手続きに取り組む留学生にとって、巧妙な詐欺を見抜くことは容易ではない。その状況につけ込み、さまざまな詐欺被害が起きている。

 カナダに留学中、詐欺被害に遭った日本人学生3人に被害の経緯を聞いた。前編では賃貸契約でのトラブルを装った詐欺を紹介した。後編はSNSを利用して売買をした時に遭った詐欺について。

小切手を使った古典的手口 フェイスブックマーケットでの被害

 ビクトリア市の公立カレッジに通っていた惇貴さんは2024年初め、引っ越し準備のために不要品を整理しようとフェイスブックのマーケットプレイスでヘッドホンを250ドルで出品した。以前は買い手がつかなかったが、この時はすぐに「買いたい」というメッセージが届いた。

 相手は「今ビクトリアにいない。引っ越し業者に受け取りに行かせたい」と説明し、「小切手で1,250ドルを送る。そのうち250ドルがヘッドホン代金、950ドルを業者の口座へ送金してほしい」と提案した。差額の50ドルは手間賃だという。惇貴さんは違和感を抱きながらも、「カナダではこういう支払い方法もあるのかもしれない」と半信半疑のままやり取りを続けた。

 相手から届いた小切手を銀行のアプリで撮影すると、1,250ドルの入金がアプリ上に反映された。小切手を扱った経験がなかった惇貴さんは、本当に入金されたものと思い、指示された950ドルを銀行を通じて個人間で即時送金できる「イートランスファー」で送金しようとしたが、銀行側のシステムに止められた。勤務先で事情を相談すると、同僚からは「典型的な詐欺だよ。場合によってはマネーロンダリングに使われることもある」と警告された。

 翌日、銀行の支店で相談すると、最初に対応した行員は「変だね」と言いながらも「金額も低いし、マネーロンダリングではないと思う」と説明し、イートランスファーで送金できるよう設定を変更した。惇貴さんは不審に感じ、相手に「今後の受け渡しはキャッシュでしかしない。一度返金する」と伝え、1,250ドルをイートランスファーで返金した。

 その後、直接会う約束を取り付けたが、当日の1時間前に「引っ越し業者がトラブルで来られない」とメッセージが届き、そこで詐欺だと確信した。惇貴さんは相手との連絡を断った。

 しかし数日後、銀行から「口座がマイナスになっている」と通知が届いた。貯金が残っているはずだと思い確認すると、残高はマイナスになっていた。惇貴さんはすでに相手に1,250ドルを相手に返金していたが、その後、銀行が小切手を偽物と判定し、アプリ上で一時的に反映されていた1,250ドルの入金自体を取り消したためだった。結果として、返金分と入金取り消し分の双方が差し引かれ、残高がマイナスになった。

 小切手は入金が反映されても、銀行が真偽を判断するまでタイムラグがある仕組みだと、この時初めて知ったという。

 その後、勤務先のマネージャーが同行して銀行に再度相談したが、前回対応した行員について、支店側は「本人はそのような説明はしていないと言っている」と回答した。窓口対応は録音されておらず、事実確認の手段がないことを理由に補償はできないとされた。

 警察への相談については、長年カナダに住む同僚から「この金額ではまず動かない」と忠告された。惇貴さん自身、以前日本で詐欺被害に遭った際に十分な対応を得られなかった経験もあり、今回も行っても意味はないだろうと判断し、相談しなかった。

 当時住んでいたシェアハウスのカナダ人女性に話すと、「その手の小切手詐欺は昔からある。留学生は小切手を使ったことがないから狙われる」と説明された。ここでようやく、自分が典型的な手口に巻き込まれていたことを実感したという。

 振り返ってみると、送り主と振込先の名前が一致していなかった。「日本ならその時点で気づけてたと思う。でもカナダは英語名と本名が違う人もいるし、文化が分からないからそういうものなのかなって思ってしまった」と振り返る。当時は引っ越し費用や生活費がかかり、「早く売りたい」という焦りもあった。「お金がなかったし、資金を少しでも作りたかった。だから余計に冷静になれなかった」と話した。

 「仕組みが分からない留学生は本当に狙われやすい。相手の身元が確認できるまでは絶対に送金しないでほしい。一度送ったお金は本当に戻ってこない」。これからカナダに来る学生へ向け、強く注意を呼びかけた。

eスポーツチケットの転売詐欺 SNSでの匿名取引

 裕加さんは2024年末に留学目的で来加し、世界で人気のゲーム「リーグオブレジェンズ」のカナダで行われる大会チケットを探していた。大会は北米でも注目度が高く、公式販売は開始から数秒で完売したという。「せっかくカナダにいるなら絶対に見に行きたいと思っていた」と話す。

 公式サイトでの再販も逃し、次に頼ったのがSNS「Reddit」だった。同じゲームファンが多く集まり、リセール情報がやり取りされていると知ったためだ。譲渡希望の投稿にコメントすると、複数の利用者からDMが届いた。

 そのうちの1人は、ほぼ定価での販売を提示した。チケットアプリの画面を撮影した画像も送られ、「仕事で行けなくなっただけだから、早くチケットを手放したい」と説明したという。やり取りは深夜に続き、裕加さんは2時ごろ、提示された金額をイートランスファーで送金した。

 しかしチケットは届かず、翌朝には相手のアカウントが消えていた。「あ、やられたなって思いました」と振り返る。送金先の名前はプロフィール名と異なっていたが、「カナダではイングリッシュネームを使う人もいる」と疑わなかった。100ドル前後の被害で、その後銀行に詐欺として問い合わせメールを送ったが、返答はなかった。

 「こっちの文化や仕組みが分からないから、少しおかしな点があってもそういうものなのかなって思ってしまう。特にチケットみたいに争奪戦になるものは焦りやすくて、そこにつけ込まれるんだと思います」と話す。

 留学生である自分が狙われた理由についても、「匿名取引で、相手の身元がまったく分からないのに送金してしまったのが一番大きい。絶対に先にお金を渡さないでほしい」と警鐘を鳴らした。

***

 次回は、在バンクーバー日本国総領事館と連邦警察(RCMP)に聞いた詐欺の実態と対策についてを紹介する。

(取材 田上麻里亜)

合わせて読みたい関連記事