バンクーバー日本語学校の隣にシェルター移転~後編~

 アレキサンダー・ストリートにあるバンクーバー日本語学校並びに日系人会館(VJLS-JH。以下「日本語学校」)。1906年に設立された非営利団体で、校舎はカナダ政府が日系人強制移動当時に没収した資産の中で、戦後日系人に返還された唯一の建物という。カナダの日本語学校では最も古い歴史を誇る。

 その日本語学校の隣に生活困窮者のシェルターが一時的に移転してくるという。園児の安全を懸念する読者から、シェルター計画について調べてほしいと編集部にEメールで連絡があった。

 学校のウェブサイトの情報から歴史を振り返るともに、シェルターの運営団体ファーストユナイテッドチャーチのカメロン・ランズダウン博士とコミュニケーション担当アマンダ・バロウズさんにZoomインタビューして聞いた計画について紹介する。

 シェルター移転について、2回に分けて、前編ではアレキサンダー日本語学校、そして後編では移転計画についてリポートする。

活動歴約135年のファーストユナイテッドチャーチが運営

 日本語学校の隣の建物でシェルターを運営する予定のファーストユナイテッドチャーチコミュニティミニストリー協会(ファーストユナイテッドチャーチ、英語名:First United Church Community Ministry Society)は、バンクーバーのダウンタウン・イーストサイドで135年以上にわたり活動を続けているという。

 ファーストユナイテッドチャーチは過去10年ホームレスの男女のためのシェルターを「320 East Hastings Street 」で運営している。施設の老朽化から新たに11階建てのビルに建て替えるなど再開発を計画している。

 「(現在の施設では)シェルター以外に、ドロップインセンターを運営し、地域の人たちに朝食や昼食を提供しています」とランズダウン博士は説明する。ドロップインでは下着や靴下といった衣類、女性用衛生用品やそのほかのトイレタリーの提供、電話、Eメールおよびファクスの送受信などを利用できる。

 さらにダウンタウン・イーストサイドで暮らす400人以上が、身分証明書、GSTの払戻し、所得補助、年金を利用するため、申請用の住所として教会所在地を使用している。

シェルター移転は新しいビルができるまで

 工事は2021年の夏から始まる予定で、完成までの2〜3年の間、利用者が行き場を失わないためにプログラムを行う場所を数カ所見つける必要があった。「そのうちのひとつが、アレキサンダー日本語学校に隣接する467 Alexander Streetです」と述べた。

 当初は「ドロップインや食事サービスのプログラムを男性専用シェルターと平行して行うことを考えていました」とのことだが、学校側と話し合いを続けた結果、学校の隣接地には「新しい建物が完成するまでの一時的なシェルターのみを置くことに計画を変更しました」と明かす。

 炊き出しのような食事のサービスを行うと不特定多数が訪れる。「お子様方の身体的・精神的な安全を憂慮しているという話を伺い、毎日、何百人もの人々が当施設を訪れるのは賢明ではないという結論に達しました」

 学校との話し合いの結果、隣接の建物に一時的に移ってくるのは合計48床、男女比50%のシェルターで、各ベッドは利用者一人ひとりに割り当てられる。24時間オープンしているため、建物の外で列になって待っているということもないと説明する。

規定より多いスタッフを配置

 スタッフも4人配置する。「BC Housingではこのような施設では20人あたり1人(20:1)の割合でスタッフを置くことを定めています。48人で4人なので、スタッフとの割合は12:1で、BC Housingの規定より多いことになります」

 当社に寄せられた保護者の懸念の一つは「ファーストユナイテッドチャーチのシェルターでは以前、4カ月で6件の性的暴行事件が発生したという報道があったこと、その中で教会は人手不足という指摘があった」ことだった。この報道について聞いた。

 「事件は2011年のことです。当時のシェルターは120床で、人数制限をせずに希望者を受け入れていたため、多いときには300人が利用していました。事件があり、マネージメントは辞任しました」と、ランズダウン博士は新体制をアピールした。

 「現シェルターは男性40人、女性20人の定員計60人です。ただ、今はコロナなので密になるという印象のシェルターを避ける人もいて、30人しか利用していません」と強調する。

 そして「意外に思うかもしれませんが、彼らは自分のスペースをとても大切にします。新型コロナウイルスのパンデミックが始まってからは、シェルターで暮らす人は消毒などにとても気を付けています。現在のシェルターでこれまでに感染していた利用者は1人だけでした」と状況について語った。

細心の注意での対応予定

 保護者宛ての資料によると、小さな子どもを持つ保護者が不安をできるだけ感じることがないようにシェルターオープンの際には、

・シェルターのメインの入口は、学校のあるAlexander Street側ではなく、AlexanderとRailwayの間にある路地にする。Alexander Street側のドアは非常口として、警報機を取り付け、スタッフが監視する。

・可能な限り安全そして快適に子どもの送迎ができるよう、毎日、スタッフと居住者が細心の注意を払って学校周辺の安全を確保し、廃棄される注射針をはじめ、ゴミを片付け、学校の入口や駐車場周辺を徘徊する人がいないようにする。

と細心の注意を払うとして、移転についてのコミュニティの理解を求めた。

 「シェルターオープンにあたって、保護者の方にはファーストユナイテッドチャーチの担当者の連絡先をお渡しすることを考えています。問題が起こらないよう努めますが、何かあった場合も、保護者や学校がすぐに連絡することができるようにして迅速に対応します」と決意を述べた。

 プリスクールの隣にシェルターが移転することについて、ゾーニングやライセンスの問題はなかったのか聞いてみた。「このシェルターはテンポラリー・一時的なものなので、認可関係の問題はありません」との答えが返ってきた。

 バンクーバーのホームレス問題。その緩和のために手頃な料金で利用できる住宅の計画がいくつか進んでいる。ファーストユナイテッドチャーチが新たに建設する建物の中にも、完成時にはアメニティを備えた105室の住宅もできる予定だ。

 「ドラッグに手を出してしまう人の中には、住む場所がなくなり、ホームレスになったことがきっかけだったという人も数多くいます。住む場所がないという恐怖がトラウマになってしまっているのです」とランズダウン博士はいう。

 バンクーバーイーストサイドの問題は、さまざまな要素や背景が絡み合い複雑とされている。新しい建物の建設は、その問題の緩和や解決に極めて重要な役割を担う。教会は学校としっかりとコミュニケーションをとることで、着地点を模索している。

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