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BC州、EV充電網を3倍超に拡充へ EV車普及加速も炭素税廃止との整合性に課題

ブリティッシュ・コロンビア(BC)州に設置されているBCハイドロの急速充電ポート。ノースバンクーバー市。
ブリティッシュ・コロンビア(BC)州に設置されているBCハイドロの急速充電ポート。ノースバンクーバー市。
ブリティッシュ・コロンビア(BC)州に設置されているBCハイドロの急速充電ポート。ノースバンクーバー市。
ブリティッシュ・コロンビア(BC)州に設置されているBCハイドロの急速充電ポート。ノースバンクーバー市。

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府は7月21日、BCハイドロと連携し、州内の電気自動車(EV)向け公共充電ネットワークを大幅に拡充する計画を発表した。2035年までに3,500基の公共充電ポートを整備し、カナダ最大級の充電インフラ構築を目指す。総投資額は約7億ドル。

 現在、BCハイドロの急速充電ネットワークは州内190カ所に917基の充電ポートを展開しているが、EV利用者の増加を受けて増設を加速させる。新たな充電設備は主要高速道路沿線に約150キロごとに設置するほか、州政府は、CleanBC Go Electric Public Charger Programを通じて約1,800万ドルを投入し、先住民族コミュニティーや地方自治体、企業、非営利団体などによる充電設備整備も支援する。プログラムへの申請はすでに始まっている。

 BC州はカナダ国内で最もEV普及が進んでいる地域の一つ。カナダ統計局によるとBC州で2026年第1四半期に登録された新車の19.1%がEVまたはプラグインハイブリッド車だった。全国平均の10.8%を大きく上回っている。

 BC州でEV普及が進んだ背景には政府による長年の支援策がある。州は「The CleanBC Go Electric Passenger Vehicle Rebate」プログラム(2025年5月で中止)を通じて、EV導入や充電設備整備を支援してきたほか、新車販売の一定割合以上をゼロエミッション車販売とするという目標を設定している。2026年は26%。州政府によると、関連プログラムへの2011年からの累積投資額は6億6,000万ドルを超えているという。

 連邦政府は今年2月、EV購入補助制度「Electric Vehicle Affordability Program(EVAP)」を開始した。制度ではEV購入に最大5,000ドル、プラグインハイブリッド車購入に最大2,500ドルを支援する。政府は5年間で22億7,500万ドルを投じ、EV普及を後押しする方針だ。

 こうした購入補助と充電インフラ拡充の組み合わせにより、EV市場のさらなる成長が期待されている。車両価格の負担軽減と充電環境の改善を同時に進めることで、消費者のEV購入を後押しする狙いがある。

 一方で、温室効果ガス排出削減政策全体では後退している。背景には長引くインフレと中東情勢によるガソリン価格の高騰などがある。連邦政府は2025年4月1日に一般消費者向け連邦炭素税(consumer carbon price)を廃止し、その後EV購入補助制度を再開した。またBC州政府も連邦措置に合わせて州の消費者向け炭素税を終了した。

 炭素税は温室効果ガス排出にコストを課すことで行動変容を促す政策であり、EV補助金と並ぶ気候変動対策の柱とみなされている。そのため、政府がEV支援を強化する一方で炭素税を撤廃している現状が温室効果ガス削減が加速するかは疑問が残る。BC州政府は今回の充電網拡充について「温室効果ガスを削減し、運転するたびに家計の節約になる車を選びやすくなる」と説明している。

(記事 北野大地)

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米加を結ぶ新架橋ゴーディ・ハウ橋開通も契約内容に政府批判強まる

改修工事中のカナダ国会議事堂。オンタリオ州オタワ市。2025年4月3日。撮影 日加トゥデイ
改修工事中のカナダ国会議事堂。オンタリオ州オタワ市。2025年4月3日。撮影 日加トゥデイ

 カナダとアメリカを結ぶ新たな国際物流の大動脈となる「ゴーディ・ハウ・インターナショナル・ブリッジ」が7月27日に開通した。北米最大級のインフラ事業として長年建設が進められてきたが、開通直前にはトランプ大統領の介入により両国間の政治問題へと発展した。

 デトロイト川に架かる全長約2.5キロの同橋は、オンタリオ州ウィンザー市とアメリカ・ミシガン州デトロイト市を結ぶ。建設・関連インフラ整備には約64億加ドルが投じられ、その費用はカナダが全額負担した。

 保守党政権下だった2012年当初協定では、橋の運営開始後に徴収される通行料金はカナダ側が受け取り、建設費の回収後にミシガン州と収益を分配する仕組みとなっていた。費用回収には数十年を要するとみられていた。

 しかし今年2月、トランプ大統領は「アメリカがカナダに与えてきたものに対して十分な補償が行われるまで、この橋の開通を阻止する」と主張。背景には、新橋の開通によって収益減少が予想される既存のアンバサダー・ブリッジ運営側によるワシントンへのロビー活動があったと報じられている。所有者は共和党系政治団体への献金者としても知られている。

 その後、開通はアメリカ側の要請により当初予定から延期され、米加両政府の間で再交渉が行われた。

 両国がまとめた新たな合意では、橋の運営から生じる純収益の半分をアメリカ側が設立・運営する地域経済開発基金へ15年間拠出する仕組みが導入された。さらに橋の通行料金改定についてもアメリカ側との協議を行う枠組みが設けられた。

 この収益分配についてはカナダ国内で批判が上がっている。橋はカナダの税金によって建設されたにもかかわらず、カナダ側の負担分を回収する前に収益の一部をアメリカ側に譲ることになったためだ。野党は「アメリカの圧力に屈した譲歩だ」として詳細な説明を求めている。

 マーク・カーニー首相は7月12日にカルガリー市で「カナダが負債を返済した後の純利益を折半する」と説明していたが、公開された文書には負債返済後という条件が明記されていなかった。その後の会見でミシガン州との契約のことだったが説明不足だったと釈明したが、その釈明にすら疑問が残ったままだ。

 カナダ政府は、今回の合意によって長年にわたり遅れていた橋の開通が実現し、北米サプライチェーンの強化や国境物流の円滑化につながると説明している。

(記事 北野大地)

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トランプ関税強化に反発 カナダ国民の7割が「対抗措置を支持」アンガス・リード調査

オンタリオ州オタワ市にあるアメリカ大使館の星条旗。2025年4月2日。撮影 日加トゥデイ
オンタリオ州オタワ市にあるアメリカ大使館の星条旗。2025年4月2日。撮影 日加トゥデイ

 カナダの世論調査会社アンガス・リード研究所(Angus Reid Institute)が7月27日に発表した最新調査によると、アメリカによる新たな50%の関税措置に対し、カナダ国民の多数が報復措置を支持していることが明らかになった。

 調査ではアメリカとの貿易摩擦への対応について、34%が「アメリカと同規模の対抗関税を課すべき」と回答、28%が「より限定的な対抗関税を実施すべき」と答えた。合わせて62%が何らかの対抗関税を支持しており、強硬姿勢を求める世論の強さが浮き彫りとなった。

 一方、「対抗関税は実施せず交渉を続けるべき」は19%にとどまり、「関税回避のためアメリカの要求に譲歩すべき」と答えたのはわずか7%だった。アンガス・リード研究所はカナダ国民の大多数が対米譲歩に否定的な姿勢を示していると分析している。

 政府への信頼感も揺らぎ始めている。マーク・カーニー首相と交渉チームがアメリカとの間でカナダに有利な合意をまとめられると答えたのは43%で、4月の51%から下落した。これに対し、カーニー首相がアメリカとの交渉で良い結果を導けるとは考えていないと回答したのは50%。うちカーニー政権ではトランプ大統領に対抗するのは難しいが26%、トランプ政権そのものが予測不能で交渉困難が24%だった。

 アメリカへの不信感も顕著となった。調査では75%が「トランプ大統領は合意を守らない」と回答、信頼するはわずか13%だった。

 こうした対米感情は消費者行動にも影響を及ぼしている。今回の調査では、関税問題を受けてカナダ国内で広がる「バイ・カナディアン(国産品優先)」の動きや、アメリカ製品の購入を控える意識も引き続き強いことが示された。

 特に今回の関税50%の理由として挙げられた、自動車、酒類、乳製品については、交渉がまとまり市場アクセスが拡大したとしても「アメリカ産は購入しない、おそらく購入しない」が自動車52%、酒類59%、乳製品70%。アンガス・リード研究所は、多くのカナダ国民が通商合意の成立の有無にかかわらず、アメリカ製品のボイコットを継続する意向を示していると報告している。

 ただ、政治的対応には地域差も見られる。オンタリオ州は同規模の関税「ドル・フォー・ドル」での対抗措置を支持し、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州は「重要鉱物へのアクセス制限」を示唆するなど、対抗姿勢を示している。一方でサスカチュワン州やアルバータ州はより柔軟な対応を支持している。

 国民の対米意識が強硬である一方、政治的判断は一枚岩ではない。酒類販売については、全国ほとんどの州でアメリカ産を棚から撤去しているが、アルバータ州とサスカチュワン州では販売している。オンタリオ州ダグ・フォード州首相やBC州デイビッド・イービー州首相は現状のままではアメリカ産酒類を販売再開する予定はないと断言している。

 今回の調査結果は、米加関係の緊張が続く中、国民が抱く対米警戒感が引き続き強いことを示した。関税50%の発動が予定される8月19日を前に、政府の対応は国民の信頼回復に向けた重要な局面を迎えている。

 調査は7月23日から25日にかけて、カナダ全国の成人1,790人を対象にオンラインで実施された。

(記事 北野大地)

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BC州で山火事広がり追加避難命令、ハイウェイ1も一部通行止め続く

ブリティッシュ・コロンビア州ピアレイク近くで発生した山火事。2026年7月27日。Photo from BC Wildfire Service
ブリティッシュ・コロンビア州ピアレイク近くで発生した山火事。2026年7月27日。Photo from BC Wildfire Service
ブリティッシュ・コロンビア州ピアレイク近くで発生した山火事。2026年7月27日。Photo from BC Wildfire Service
ブリティッシュ・コロンビア州ピアレイク近くで発生した山火事。2026年7月27日。Photo from BC Wildfire Service

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州の山火事が猛威を振るっている。7月17日に州中南部トンプソン‐ニコラ地域クリントン村近くで発生した山火事が拡大。BCワイルドファイヤーサービスによると、ピアレイク山火事とフィフティナイン・クリーク山火事が7月25日に一つになり、山火事面積は27日現在で63,368ヘクタール(633平方キロメートル)となっている。

 27日には新たにクリントン村を含む4件の避難命令が出され、25日の1件と合わせてこの地域では5件となった。今後も山火事は広がる可能性があり、避難命令が出ている地域はもとより避難警報となっている地域でもすぐに避難できる体制を取るよう注意を呼びかけている。

 7月2日に発生したボストンバー近くのブランスウィック・クリーク山火事は7,397.2ヘクタール(74平方キロメートル)となり、引き続き、避難命令13件、警報2件が出されている。

 またトランスカナダハイウェイ1はホープとリトンの間のボストンバーを通るSpuzzum Creek RdとJackass Summit間45.2キロが現在も通行止めとなっている。ドライブBCはハイウェイ3かハイウェイ5を利用するよう呼びかけている。

 BC州の山火事は7月27日現在136件、避難命令は31件、避難警報は29件。

 カナダ環境・気候変動省によると、28日には山火事が発生している州中南部は雨の予報で、クリントン村周辺では8月1日にも雨が降る予報となっている。ボストンバーでも28日は午後から雨の予報だが、29日以降は再び晴れて暑い日が続く予報となっている。

633平方キロメートルに広がったピアレイク山火事。BC Wildfire Service ウェブサイトより
633平方キロメートルに広がったピアレイク山火事。BC Wildfire Service ウェブサイトより

(記事 北野大地)

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第50回パウエル祭、今年もイベント満載 プログラムの詳細発表

パウエル祭のキャラクター・ダルマが会場を歩き、ボードを手に来場者との記念撮影に応じて会場を盛り上げた。2025年8月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
パウエル祭のキャラクター・ダルマが会場を歩き、ボードを手に来場者との記念撮影に応じて会場を盛り上げた。2025年8月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
パウエル祭で最も盛り上がるイベントの一つ、相撲トーナメント。2025年8月3日、バンクーバー市。撮影 日加トゥデイ
パウエル祭で最も盛り上がるイベントの一つ、相撲トーナメント。2025年8月3日、バンクーバー市。撮影 日加トゥデイ

 日系カナダ人コミュニティ最大のお祭り「パウエル祭」が2026年は8月1日、2日にバンクーバー市オッペンハイマー公園周辺で開催される。今年は第50回という記念開催となる。

 パウエル祭協会は今年のプログラムの詳細を発表。今年も例年通りに盛りだくさんだ。会場は、オッペンハイマー公園、バンクーバー仏教会、バンクーバー日本語学校、アレキサンダーとジャクソン通りに設定されたストリートステージ、それに、ファイアーホール。

 当日のオッペンハイマー公園周辺はジャクソン通りとアレキサンダー通りが通行止めになり、屋台やショップが今年も立ち並ぶ。

今年も天気に恵まれ、屋台が並ぶストリートは多くの来場者でにぎわい、飲食やクラフトの買い物を楽しむ姿が見られた。2025年8月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
今年も天気に恵まれ、屋台が並ぶストリートは多くの来場者でにぎわい、飲食やクラフトの買い物を楽しむ姿が見られた。2025年8月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 毎年人気の楽一神輿や相撲大会はもちろん、空手、合気道、居合道、剣術などの武道や、茶道、華道などの日本の伝統文化を楽しめる催しや、ステージでは、和太鼓、バンドなど演奏からよさこいやソーラン節のダンスまで、日本の楽しいお祭りが体験できる。

神輿の周りを多くの人が囲み、威勢のよい掛け声とともに練り歩いた。最後には観客から大きな拍手が送られ、会場は一層の熱気に包まれた。2025年8月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
神輿の周りを多くの人が囲み、威勢のよい掛け声とともに練り歩いた。最後には観客から大きな拍手が送られ、会場は一層の熱気に包まれた。2025年8月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 また今年はバンクーバー日本語学校の各階でさまざまな展示やワークショップが2日間途切れることなく行われ、楽しさと教養とを併せた催しが目白押しとなっている。

 詳細はパウエル祭協会ホームページの専用サイトに掲載されている。https://powellstreetfestival.com/psf-50/

第50回パウエル祭のマップ。Powell Street Festival Society ホームページより
第50回パウエル祭のマップ。Powell Street Festival Society ホームページより

(記事 北野大地)

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ウエストジェット、ストライキに備えて無料変更の対応を発表

WestJet (file photo)
WestJet (file photo)

 カナダ第2の航空会社ウエストジェット社は7月23日、1回に限り無料で予約の変更・取り消しに応じると発表した。対象となるは、2026年7月30日から8月4日までの予約便。

 同社は予約客に「今後の旅行計画に柔軟性と安心」を持てるようにするためと声明で発表している。

 Q400で運航されるウエストジェットEncore便と提携航空会社が運航するコードシェア便については「万が一の運航影響が発生した場合でも影響を受けない」としている。

 同社の客室乗務員約4,400人が加盟する労働組合CUPE Local 8125は7月15日に99.4%がストライキに賛成したと発表。早ければ8月2日にスト実施可能となる。同社は「引き続き交渉に積極的に取り組んでいる」と声明で発表している。

 カナダではバンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州をはじめ多くの州で8月1日から3連休で、ストライキが決行されれば多くの乗客に影響が出る。

 昨年8月にはエアカナダの客室乗務員がストライキを実施。3日間にわたり国内・国際線の全便が欠航した。

(記事 北野大地)

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猛暑に備える、BC州での注意ポイント

暑さ対策に設置されたMisting Station。消火栓から水を引いたシャワーが辺りを涼やかに。2022年7月26日リッチモンド市。Photo by Japan Canada Today
暑さ対策に設置されたMisting Station。消火栓から水を引いたシャワーが辺りを涼やかに。2022年7月26日リッチモンド市。Photo by Japan Canada Today
暑さ対策に設置されたMisting Station。消火栓から水を引いたシャワーが辺りを涼やかに。2022年7月26日リッチモンド市。Photo by The Vancouver Shinpo
暑さ対策に設置されたMisting Station。消火栓から水を引いたシャワーが辺りを涼やかに。2022年7月26日リッチモンド市。Photo by The Vancouver Shinpo

 メトロバンクーバーをはじめとするブリティッシュ・コロンビア(BC)州にも、真夏の暑さがやってきた。メトロバンクーバー、特にバンクーバー市などの海岸地域はこれまで真夏でも最高気温25度というのが普通だったが、最近では毎年予想外の高温に見舞われるようになっている。

 猛暑が続いたとき、高温警報が発令された場合に、どのような行動をとればいいか、どのような点に気を付ければいいのか、BC州政府の資料を基にまとめた。

猛暑について

 BC州での猛暑とは、日中や夜間の気温が高くなり、例年の標準を大幅に超えた状態。

 猛暑になると、熱中症などの体調不良や死亡の原因となるため、自分自身や家族、身近な人を守るための対策が必要となる。特に2021年のヒートドームを経験して以降、暑さへの対策は重要視されている。

 BC検視局の発表によると2021年は、6月25日から7月1日にかけてBC州を襲ったヒートドーム(極暑)が原因で595人が命を落とした。それらの死因のほとんどは、個人宅の室内温度が高すぎたことに起因している。

 日中や夜間の気温が通常より高く、猛暑が続き、熱中症や熱性疲労を起こす危険性が高くなったときに高温警報が発令される。

 警報は現在3段階。色分けで、最も軽い警報がイエロー、次がオレンジ、最も危険な状況を示すのがレッドとなっている。

 イエローは「危険な気象により、損害・混乱・健康への影響が生じる可能性があり、影響は中程度で、局所的または短期的」と定義され、警報としては「最も一般的」となっている。

 オレンジは「激しい気象により、重大な損害・混乱・健康への影響が生じる可能性が高い。影響は大きく、広範囲に及び、数日続く場合がある」。レッドは「非常に危険で、命に関わる可能性のある気象が極端な損害や混乱を引き起こす。影響は広範囲かつ甚大で、長期間に及ぶ」。オレンジもレッドも発令は「まれである」となっている。

 高温、強風、大気質などの自然災害に関する警報はこの3段階で示される。これまでは、高温注意報なら、BC州政府が「高温警報(Heat Warning)」「極暑緊急事態(Extreme Heat Emergency)」と定義していたが、今回の高温警報のように現在は「イエロー警報」として発令される。その上で、注意すべき項目を州政府が公表している。

 注意すべきことはこれまでと同じ。高温警報が出ているときは、涼しく過ごすための行動が必要。以下の点に注意して行動することを心がけたい。

 警報の3段階については全国統一で、イエロー、オレンジ、レッドとなっているが、高温警報については、各地域で高温の基準が違うため、各州・市の注意事項を確認する。

高温警報が出されたり、いつもより暑いと感じたら?

1.「涼」を確保する

  • 冷たい水で濡らしたタオルなどで体を拭く
  • 水分補給する、水を飲む(甘い飲料やアルコール飲料は脱水を引き起こすので注意)
  • エアコンがある場合はエアコンをつける
  • 涼しい場所に移動する。家の中の一番涼しい部屋や、エアコンがある家族・友人宅、もしくは、地域のクーリングセンターなどを利用する

2. クーリングセンターについて

 地域にある冷房設備を完備している公共施設がクーリングセンターに指定されている。

  • 図書館
  • コミュニティセンター
  • ショッピングモール
  • 映画館宗教施設

 詳しい住所は各地域の市役所ホームページに掲載されているので確認する。

3. 屋外で気を付けること

  • 屋外での活動をなるべく減らす
  • 買い物などの用事がある場合は、早い時間帯か遅い時間帯の涼しい時間を利用する
  • 涼しく風の通る日陰に入ったり、つばの広い帽子や肌を守る服を着たりして、直射日光をなるべく避ける
  • ミストステーションでクールダウンする

暑さの影響を受けやすい人、熱中症になるリスクが高い人

 自宅や住居施設にエアコンなどの冷房設備がない場合、猛暑の影響を受けやすい人は特に注意が必要。

  • 65歳以上のシニア
  • ひとり暮らしの人
  • 妊婦、乳幼児や子ども
  • 糖尿病、心臓病、呼吸器疾患などの慢性疾患がある人
  • 統合失調症、うつ病、不安神経症などの精神疾患がある人
  • 薬物使用における障がいがある人
  • 運動障がいや認知障がいなど、身体的または精神的な障がいを持つ人
  • 激しい運動をする人、暑い環境で仕事をしている人

 また、熱中症を引き起こすリスクが高くなる行為として、暑い天候の中で十分な水分補給をしない、アルコールや薬物の過剰摂取などがある。

熱中症の症状と対策は?

 暑さが原因の症状には、熱中症(Heat Exhaustion)と熱性疲労/重度の熱中症(Heat Stroke)がある。

熱中症(Heat Exhaustion)の症状

  • 皮膚の発疹
  • 多量の発汗
  • 吐き気や嘔吐
  • 呼吸と心拍が速くなる
  • 頭痛
  • 集中力の欠如
  • 筋肉のけいれん
  • 極端な喉の渇き
  • 濃い尿と排尿の減少
  • めまいや失神
  • むくみ(特に手足)
  • 倦怠感や脱力感

対処法

  • 涼しい場所へ移動する
  • 冷たいシャワーを浴びたり、冷たい水で体の一部を冷やす
  • 水で濡らしたシャツやタオルを身に着ける
  • 十分は水分補給をする(アルコール飲料は避ける)
  • 休息する

 専門家と話したいときは、8-1-1に電話すると看護師など専門家と話ができる。またシニアは、2-1-1も利用できる。どちらも日本語の通訳サービスがあり。

熱性疲労/重度の熱中症(Heat Stroke)

  • 発熱
  • めまいや失神
  • 皮膚が非常に熱く、赤くなる
  • 意識が混とんとする
  • 精神敏しょう性の低下
  • 意識不明

対処法

 一緒にいる人、近くの人が、すぐに9-1-1に電話し、救急救命士が到着するまで、顔や首を冷やすなどの手助けが必要。

 また、8-1-1に電話して看護師などと話すこともできる(日本語の通訳サービスあり)。

普段から心がけておくこと

 猛暑の時だけでなく、大雪や洪水など、天候による災害が起きたときに慌てないように普段から何かあったときのために、次のようなことを心がける。

  • あらかじめ何かあったときに連絡を取り合う仲間の連絡先を確保する
  • コミュニティセンターなどの場所を確認しておく
  • ひとり暮らしでいざという時に手助けが必要な場合は、様子を見に来てくれる人にお願いしておく
  • なにかあったときに必要な電話番号を控えておく

知っておくと役立つ連絡先

  • 9-1-1:救急
  • 8-1-1:症状などを看護師などの専門家に相談できる。日本語通訳サービスあり。英語で対応した相手にJapanese Pleaseと言ってリクエストできる。
  • 2-1-1:シニア向け相談窓口(日本語通訳サービスあり)
  • 3-1-1:バンクーバー市緊急リクエスト(通訳サービスあり)

BC州、バンクーバー市などが推奨する部屋の中を涼しくする工夫

 BC州政府や各市・機関が暑さ対策のために、室内をなるべく涼しく保つための方法を紹介している。「暑い時は、住まいを少し工夫するだけで、大きな違いが生まれます。あなたのニーズに合わせて、1つでも2つでも実行すると役立ちます」とのこと。

  • 窓用フィルムなどをつけて日差しを遮る。窓の外側に厚紙を貼るなどしても効果あり(カバーのない窓は家の内部の熱を2〜3度上昇させる)
  • カーテンやブラインドを閉める
  • 外気温が室内温度より低いときは窓やドアを開け、午前10時から午後8時までは窓を閉める。午後8時には開けて涼しくし、扇風機(台所や浴室の換気扇を含む)を使って家の中の涼しい空気を動かす
  • 扇風機で熱気を外に出し、一晩中涼しい空気を家の中に入れる
  • 室内の温度を正確に測るために温度計を用意する(暑さの影響を受けやすい人にとって31度以上は危険。26度以上になったら涼しい場所に移動する)

 暑さが続き、体調不良を感じたら無理せず、医療機関を受診するか、誰かに助けを求めることが大切。

BC州猛暑に関するサイトは以下を参照。

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カナダ政府、アメリカへの渡航勧告を緊急更新

オンタリオ州オタワ市にあるアメリカ大使館の星条旗。2025年4月2日。撮影 日加トゥデイ
オンタリオ州オタワ市にあるアメリカ大使館の星条旗。2025年4月2日。撮影 日加トゥデイ

 カナダ政府はアメリカへの渡航勧告を7月20日に緊急更新した。理由は現在アメリカで発生しているサイクロスポラ症による感染症の集団発生で、渡航は可能だが注意喚起している。

 感染症の原因はレタスとみられ、現在アメリカでは複数の集団感染が発生しているという。連邦・州レベルでの調査が進行中だが、汚染されたレタスはレストランや小売店に流通しているため、注意が必要としている。

 アメリカの疾病予防管理センター(CDC)によると今年5月1日から7月20日までに4,173件が確認され、さらに未確定の7,400件以上の症例を把握していると報告している。最も感染が確認されているのはミシガン州とオハイオ州で、カナダの国境からも近い。

 渡航勧告では、感染症を予防する手段として、野菜や果物を食べる場合には清潔で冷たい流水でよく洗うこと、洗浄済みとなっている製品でも食べる前には洗うこと、感染症が発生している州に旅行する場合は対象製品を加熱して食すことなどを挙げている。

 カナダ公衆衛生庁(PHAC)によるとサイクロスポラ症感染による症状は以下の通り。激しい下痢、吐き気、食欲不振、体重減少、けいれん、疲労などで、症状が出たらすぐ医療機関を受診するよう促している。

 PHACは現時点ではカナダ国内で同様の感染症は発生していないと発表している。

(記事 北野大地)

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トランプ大統領カナダに関税50%実施へ、アルコール販売禁止と乳業保護に反発

BCリカーの棚から消えた人気のアメリカ産種類。2025年2月2日。写真 読者提供
BCリカーの棚から消えた人気のアメリカ産種類。2025年2月2日。写真 読者提供

 アメリカのドナルド・トランプ大統領が7月20日、カナダからの輸入品に50%の関税を課すと発表した。アメリカ産自動車や酒類、乳製品の輸入をカナダが抑制していることへの対抗措置だという。猶予期間は30日で、発効は8月19日から。

 対象品目は500以上で、カナダ産酒類、乳製品から電気製品、アイスホッケーのスティック、クリスマスオーナメントまで多岐にわたる。ただし、カナダ・アメリカ・メキシコ協定(CUSMA)に基づく取引品目は対象外。さらに、石油、ガス、カリウム塩、魚類、重要鉱物には適用されない。

 カナダは現在アルバータ州とサスカチュワン州を除く多くの州で、アメリカからの酒類を酒店から撤去する対応を取っている。昨年アメリカがカナダに対して行った関税への対抗措置で、各州政府が独自に実施している。しかし、アメリカのワインやスピリッツなどを製造するメーカーへの打撃は大きく、アメリカからカナダへの輸出は州政府の対抗措置以降81%減少しているという。

 乳製品については、トランプ大統領はカナダのサプライマネージメント制度を問題視。アメリカからの輸入に制限がかけられていると主張している。

 アメリカが発表した主な関税対象品目は、酒類と乳製品のほか、はちみつ、枕用羽毛、生花、ビデオゲーム機やカメラなどの電子機器、合板、家具、香水、オフィス用品や学用品、アイスホッケーのスティック、セメントなど、多種多様な品目が対象となっている。

 これにより、カナダ国内の企業に大きな影響が出るとみられている。23日に記者会見したマーク・カーニー首相は、今すぐ対抗措置を発表することはないとしながらも「全てが選択肢として可能」と強調、「(カナダの)家族、労働者、企業を守り支えるために必要なことは何でも行う」と語った。

 カーニー首相は昨年首相に就任して以降、トランプ大統領との関税交渉のために何度も譲歩している。課税が決定していたデジタルサービス税の撤回、報復関税の引き下げ、大統領が要求する軍事費要求と国境警備強化への対応。しかし、これらの譲歩にも関わらず、ほとんど成果は得られていない。

 今回のトランプ大統領の関税は、アメリカでこれまで一度も使われたことがない大恐慌時代の関税法第338条を発動している。

(記事 北野大地)

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BC州で山火事が活発化、避難命令は16件に

ブランスウィッククリークの山火事。2026年7月16日。Photo from BC Wildfire Service Website
ブランスウィッククリークの山火事。2026年7月16日。Photo from BC Wildfire Service Website
ブランスウィッククリークの山火事。2026年7月16日。Photo from BC Wildfire Service Website
ブランスウィッククリークの山火事。2026年7月16日。Photo from BC Wildfire Service Website

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州で山火事の発生が続いている。7月2日に州中央南部ボストンバー地区付近で発生したブランスウィッククリークの山火事は現在も制御不能状態が続き、近隣コミュニティに9件の避難命令が出されている。山火事の規模はすでに5,490ヘクタール(54.9平方キロメートル)に達している。

 7月18日には雷による発火で州南東部アルバータ州との州境近くのマシュークリークとタワークリーク2で山火事が発生。今後さらに拡大する可能性があるとして、近くのキンバリー市に避難勧告が出されている。

 現在BC州では83件の山火事が発生し、うち36%は制御不能となっている。83件のうち78%は落雷によるもので、14%が人為的要因と分析している。

 BC州では7月16日からカテゴリー1のキャンプファイヤーを含むカテゴリー3まで、州南西部ビクトリアを含むバンクーバー島からメトロバンクーバー、ハイダグワイまで、一部地域を除いて野外火の使用禁止となっている。同措置は命令が解除されない限り10月31日まで続く。

BC州Wildfire Serviceウェブサイト:https://www2.gov.bc.ca/gov/content/safety/wildfire-status

(記事 北野大地)

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BC州南部を中心に高温と大気質注意報が発令中

ブリティッシュ・コロンビア州2026年7月21日に発令された高温注意報。カナダ環境・気候変動省ウェブサイトより。
ブリティッシュ・コロンビア州2026年7月21日に発令された高温注意報。カナダ環境・気候変動省ウェブサイトより。
ブリティッシュ・コロンビア州2026年7月21日に発令された高温注意報。カナダ環境・気候変動省ウェブサイトより。
ブリティッシュ・コロンビア州2026年7月21日に発令された高温注意報。カナダ環境・気候変動省ウェブサイトより。

 カナダ環境省はブリティッシュ・コロンビア(BC)州南部を中心に高温注意報を発令している。対象となっているのは、ウィリアムスレイクを中心とする州中央東部、キティマットなどの西部沿岸地区、オカナガン地方、クートニーなどの州南東部、リルエットやリトンの州中央南部、ビクトリアを含むバンクーバー島南部と東部、ウィスラーやサンシャインコーストなどの州南西部海岸地域と、チルワック・ホープ・アボツフォードを含むフレーザーバレー地域となっている。バンクーバー市を中心とするメトロバンクーバーには7月21日時点では発令されていない。

 高温注意報は最も軽いイエローで、「危険な気象により健康などへの影響が生じる可能性があるが、影響は中程度で局所的」となっている。ただ、州中南部以東では今後も30度を超える日が続く予報となっている。

 高温による症状には、皮膚の発疹、多汗、吐き気や嘔吐、頭痛、筋肉のけいれんなどの軽い症状から、発熱、めまい、意識低下まで、注意をするよう促している。

 BC州ではクーリングセンターとして公共施設を指定している。今後に備えて改めて確認するよう州政府も注意喚起している。

 また、山火事の影響でメトロバンクーバーを含むBC州の広い範囲で大気質注意報も発令されている。最も軽いイエローだが、屋外での活動をなるべく控えるよう呼びかけている。

 昨年までのBC州の猛暑に備えるサイトはこちら。「猛暑に備える、BC州での注意ポイント

BC州猛暑に関するサイトは以下を参照

(記事 北野大地)

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カナダで山火事広がる、オンタリオ州・BC州で避難命令発令

ペンバートン付近の山火事Singal Hill Wildfire。2026年7月15日。Photo from BC Wildfire Service ウェブサイト
ペンバートン付近の山火事Singal Hill Wildfire。2026年7月15日。Photo from BC Wildfire Service ウェブサイト
全国で広がる山火事を示す分布。2026年7月17日。画像はカナダ天然資源省山火事に関するページより。https://cwfis.cfs.nrcan.gc.ca/en/
全国で広がる山火事を示す分布。2026年7月17日。画像はカナダ天然資源省山火事に関するページより。https://cwfis.cfs.nrcan.gc.ca/en/

 カナダ各地で山火事の影響が広がっている。カナダ天然資源省のサイトによると、7月17日現在で山火事は全国で907件。特にオンタリオ州では約190件発生し、消火活動にも関わらずその勢いは収まる気配を見せていないという。アームストロングやラックラ・クロワ・ファーストネーション、ホワイトサンド・ファーストネーションを含む複数のコミュニティに避難命令が出されている。

 直接の被害はないトロント市やその近郊では、山火事の煙の影響で空が白く、大気質健康指数が最悪の10以上を示している。関係当局は、高齢者や子ども・妊婦などに注意を呼びかけるほか、なるべく外出しないよう注意を促している。

 一方ブリティッシュ・コロンビア(BC)州では7月2日に州中南部のボストンバー付近で山火事が発生し、一気に広がった。付近のコミュニティには、16日の3件を含め、現在11件の避難命令が出されている。ボストンバーや近隣のノースベンド/シャウモックスとキャニオンアルパイン地域などが対象。現在、ハイウェイ1のボストンバーとリトン間は通行止めとなっている。

 15日には州南西部ウィスラー近くペンバートン付近で山火事が発生。同日にはペンバートン村に避難命令が出された。

 BC州では現在42件の山火事が発生している。昨夜は雨が降ったが、今後は州南部でまとまった雨量を期待できる予報はなく、BC州政府はBCワイルドファイヤー・サービスやドライブBCなどの情報に注意するよう呼びかけている。

参考サイト

オンタリオ州
https://www.ontario.ca/page/forest-wildland-and-outdoor-fires

ブリティッシュ・コロンビア州
https://www2.gov.bc.ca/gov/content/safety/wildfire-status
https://www.drivebc.ca
https://www.emergencyinfobc.gov.bc.ca/

(記事 北野大地)

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ポール・ヴォイダクさん、在カナダ日本国大使館開催プレゼンテーションにて。2026年2月、オンタリオ州オタワ市(本人提供)

シベリアから日本に来た「ポーランド孤児」(後編)「君が代」からたどる父の過去

 ブリティッシュ・コロンビア州タイー・レイクに住むポール・ヴォイダクさんは、父パヴェル・ヴォイダクの生涯に関し調査し、「シベリアからの脱出、記憶からの脱出」(2024年)を出版した。その中で、こう書いている。 --ある日、家に来た日本人の修理工が仕事を終えて帰ろうとしていると、父は直立不動の姿勢になり、日本の国歌「君が代」を歌い始めた。完璧に歌えた。日本語で1から10まで数えることもできた。父は誇らしげだった。 シベリアから日本に来た「ポーランド孤児」(前編)記録が語る父の過去 ■日本で健康を取り戻した孤児たち  1919年、ロシアで「ポーランド救済委員会」を組織したアンナ・ビエルキェヴィッチらは、シベリアで悲惨な状況にあったポーランド孤児たちの同国帰還を計画。日本政府・陸軍・海軍、日本赤十字社がこれを支援した。  1920年7月から21年7月まで、ウラジオストクから5回の航海で375人が福井県敦賀港に到着。東京の福田会(ふくでんかい)育児院が無償で提供する宿舎に向かった。1922年には、さらに390人の孤児が同港に着く。大阪市がやはり無償で提供した大阪市立公民病院の付属看護婦寄宿舎に収容された。  孤児たちは栄養失調でやせ細り、中にはチフス、コレラ、皮膚病を患っている子もいた。しかし、東京や大阪で受けた献身的な看護と栄養ある食事のおかげで健康を取り戻す。着物を着て、日本の子どもたちと遊び、遠足に行った。日本語を学びながら日本の文化に親しみ、ポーランドと日本の国歌も練習した。  「孤児たちは日本滞在が平均わずか3カ月だったにもかかわらず、生涯にわたり日本での思い出を記憶していた。優しい看護、親切、安心感が、彼らの心に深い印象を残したからでしょう」とヴォイダクさんは話す。そして、ある出来事を振り返る。  父パヴェルが45歳ごろのこと、家にきた日本人の修理工としばらく一緒にいた父は、その修理工の帰り際、突然「君が代」を歌い始めた。「驚きました。どんな言葉であろうと、父が歌うなんてそれまでなかったこと。父の心の奥深くで眠っていた日本での温かい思い出が、その日本人と接したことで目覚めたのでしょう」 ■日本での思い出  ヴォイダクさんは「シベリアからの脱出、記憶からの脱出」の中で、ポーランド孤児たちの日本での思い出の数々を紹介している。  「とても低いテーブルで、木製の箸を使って食べた。どう使うのか最初は分からなかったが、すぐに上手に使えるようになった。日本の文化が好きになった」  「初歩の日本語を習った。日本滞在は、まさに日本語の詩にあった『希望の夜明け』だった」  「(病気から回復すると)着物を着せてもらい、草履をはいた。着物は、職業学校の女性たちが縫ってくれた。着物の袖にはお菓子やボール、なんでも入る。そのうち袖が重くなる」  「靴職人が私たちの足のサイズを測った。翌日、全員に靴が配られた」  「日本の国歌や亀についての歌を教えてもらった。今でも思い出す。もしもしかめよ、かめさんよ...」 ■ポーランド大使、孤児ゆかりの場所を発見  ポーランド孤児を受け入れた東京の福田会(ふくでんかい)は、仏教の高僧による発議で1876(明治9)年に創立され、日本初の児童養護施設を運営した。  2010年、渋谷区広尾を歩いていた当時の駐日ポーランド大使ヤドヴィガ・ロドヴィチ=チェホフスカさんは、福田会の看板に目が留まった。日本語には精通している。ポーランド孤児の話については知っていた。「あの福田会のことだろうか」。確認しようと事務所に入り職員と話しているうちに、孤児たちについて書かれた古い新聞記事が発見された。  福田会の園庭には、孤児たちを撮影した斜面が今も残っている。その写真のコピーが入った額を手にロドヴィチ=チェホフスカ元大使は、「今から100年以上も前、この斜面でポーランドの子どもたちが写ったことに感動する。孤児たちが日本で受けた親切はいつまでも人の心に響く」と語る。 ■パヴェルとヴワディスワフ  日本で体力を回復した孤児たちは、順次ポーランドに向かった。東京に滞在した375人は8グループに分かれ横浜からアメリカ経由で。大阪に滞在した390人は神戸からスエズ運河経由、イギリス・ロンドンに至り、1922年11月初旬、ポーランドに着いた。  アメリカに向け出発する最初のグループ56人は、「ポーランド救済委員会」のユゼフ・ヤクブキェヴィッチに引率され、1920年9月28日、横浜から日本郵船・伏見丸に乗船。同年10月12日シアトル到着。  伏見丸の乗船客名簿にヴォイダクさんが父パヴェルだと確信するヴワディスワフ・ヴォイダクの名前がある。  ヤクブキェヴィッチは孤児たちから「お父さん」と呼ばれていた。ヴォイダクさんは父パヴェルから「子どものころ父親に連れられアメリカに行った」と聞いていたが、父親とはヤクブキェヴィッチのことだったのだろう。  さらに、アメリカ到着後に作成されたヴワディスワフに関する記録では、雑誌「極東の叫び」のリストにある情報に加え(前編参照)、「この少年は話そうとしない」、出身地はロシアのノボミコワイェフスク、少年の父親はヴワディスワフ・ヴォイダクとある。これらの記述に関しヴォイダクさんは、この少年はハルビンで発見された時、持ち物に父親の名前が記されたものを持っていたのではないか。しかし、話そうとしないので本人の名前が判明せず、父親の名前がこの少年の名前として使われたのではないかと考える。そうだとすると、いつ、なぜヴワディスワフからパヴェルという名前になったのか。 ■ドイツ軍にいた父  ヴワディスワフはアメリカ到着後、シカゴとミルウォーキーの孤児院で1年3カ月ほど過ごし、その後、ポーランドに送られた。ドイツ国境近くの孤児院に着くと、そこからさらにドイツ系ポーランド人夫婦がもつ農園に移される。労働者として扱われ、納屋で寝た。冬だけ靴をはくことを許された。農園主に連れられ、収穫した作物を国境を越えドイツ側に売りにいくこともあった。  このようにドイツ色の濃い環境で生きる間に、名前がポーランド名ヴワディスワフからドイツ名ポールと変わり、その後ポールのポーランド語での呼び方パヴェルになったのではないか。父がドイツ語を話せた理由も納得がいくとヴォイダクさんは言う。  ドイツのポーランド侵攻で始まった第2次世界大戦の間、父はドイツで働いていた。そう母リッキーから聞いた。しかし、ドイツ軍がポーランド人を招集することは、ドイツ敗北が濃厚になるまではなかった。ドイツで働いていたというのは強制労働だったと考えられる。  ヴォイダクさんは父のドイツ軍歴を調べようと、ドイツ連邦公文書館に問い合わせ、2020年、次のような内容を含む記録を受け取った。  ポール・ヴォイダク、1912年7月27日(ドイツ語表記で)ノボミコワイェフスク生まれ、1944年1月召集、同年3月イタリアに配置。  想像通りドイツ軍での父の名前は「ポール」。1944年であれば、ドイツ敗北は見えてきていた。  先にイギリス国防省から入手していたポーランド軍歴には「パヴェル」とあった(前編参照)。1944年9月、ドイツ軍を離脱してポーランド軍に加わった時点でポーランド風にパヴェルとなったことが分かる。  ドイツ軍への入隊は44年1月。戦争勃発の39年9月以降44年までドイツ国内で強制労働下にあったのであれば、41年リビアの「トブルクの戦い」に父はいなかったことになる。44年1月から5月までのイタリア「モンテ・カッシーノの戦い」にもいたかどうかは分からない。いたならばドイツ側だ。  戦争初期からポーランド軍にいたと言っていたことや、名だたる戦いでの体験談は作り話だったのか。ヴォイダクさんは、「ショックを受け、打ちのめされた」と自著に書いている。 ■記憶からの脱出  「父は孤児院を転々とする理由を十分に理解していなかったに違いない。故郷や文化から引き離された孤児は、言語や文化的アイデンティティを失うことがある。自分がだれなのかという感覚が乏しく、自尊心も低くなる」とヴォイダクさんは説明する。  子どものトラウマ(心的外傷)と記憶喪失に関する勉強をした。そして父パヴェルは、トラウマ後のストレス障害(PTSD)の状態にあったという分析に至る。  シベリアで子ども時代に目撃したと思える両親の死。暴力や苦しみ。厳しい寒さや病気。パヴェルは精神的シックを受け、感情は混乱した。その結果、話すことができなくなった。心の中で、つらい過去の記憶を分離しようとする働きが起こり、自分の名前も両親についても語ることができなくなった。  反対に、体験してもいない軍隊での話は、認識票にあったコンスタンティ・ムロテックの体験をあたかも自分のものとして記憶し語ったと思われる。ムロテックは、パヴェルが入隊した部隊に先にいて戦死した実在人物であったことをヴォイダクさんは後日知った。パヴェル自身は、ポーランド軍に属して以降、部隊の仲間からムロテックについて聞き、彼の軍歴を自分自身の体験として記憶した可能性がある。  パヴェルは除隊となったイギリスで、オランダ出身の女性リッキーと出会い結婚。1948年、ヴォイダクさんが生まれる。一家は52年、カナダに移住。オンタリオ州で堅実な生活を営んだ。パヴェル、1984年11月逝去。  ヴォイダクさんは、「日本での温かい思い出は、孤児たちがよい大人になるのに役立った」と、父の人生と重ね合わせる。パヴェルは花を育てるのが好きだった。特に菊が好きだった。「日本では菊が特別な意味を持っていることを習っただろうか」とヴォイダクさんは言い、自著「シベリアからの脱出、記憶からの脱出」の表紙にあるパヴェルの写真と菊の花の絵を見る。そして、「この本が、日本とポーランド、そしてカナダを結ぶ架け橋になってくれればうれしい」と結んだ。 (取材 髙橋文) <関連サイト> 資料館「人道の港 敦賀ムゼウム」敦賀ムゼウム社会福祉法人 福田会 福田会について | 社会福祉法人 福田会 | 社会福祉法人 福田会日本赤十字社 感染症と赤十字|特別企画|赤十字WEBミュージアム在カナダ日本国大使館開催「日本が救済したシベリアのポーランド孤児に関するプレゼンテーション」日本が救済したシベリアのポーランド孤児に関するプレゼンテーション | 在カナダ日本国大使館 高橋 文(たかはしあや) カナダ在住ジャーナリスト。カナダの文化・歴史に関する記事をカナダと日本の新聞に執筆。 第2次世界大戦中、リトアニアで外交官・杉原千畝から日本通過ビザを受給しカナダ・アメリカ・オーストラリアをはじめとする国々へ渡ったユダヤ難民と子孫らに関する調査・取材記事を多数執筆。カナダと日本での「杉原ビザ」関連の常設・企画展示に参画。関連シンポジウムやセミナー等で講演を行っている。 著書:「太平洋を渡った杉原ビザ:カウナスからバンクーバーまで」(岐阜新聞社、2020年)「命のビザで旅した子どもたち:暗やみから光さすほうへ」(同、2021年) 合わせて読みたい関連記事 シベリアから日本に来た「ポーランド孤児」(前編)記録が語る父の過去 『太平洋を渡った杉原ビザ』

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