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高丘選手らと共に「MLSへの扉を開いていかないといけない」吉田麻也選手

LAギャラクシー吉田選手(左)とバンクーバー・ホワイトキャップス高丘選手。試合後に。2025年3月2日、BCプレース。撮影 日加トゥデイ
LAギャラクシー吉田選手(左)とバンクーバー・ホワイトキャップス高丘選手。試合後に。2025年3月2日、BCプレース。撮影 日加トゥデイ

 吉田麻也選手と山根視来選手が所属するLAギャラクシーと高丘陽平選手が活躍するバンクーバー・ホワイトキャップスとの一戦が3月2日、バンクーバーのBCプレースで今季も実現した。

 山根選手はけがのためいなかったが、吉田選手、高丘選手の日本人対決に、会場には日の丸もはためいた。

 MLSで活躍する日本人選手としてはFCシンシナティに久保裕也選手が所属する。

 吉田選手は日本にいるMLSでプレーしたいと思っている選手のために自分たちが扉を開いていきたいと話す。

MLSでは「自分たちの評価イコール日本人の評価」

 MLSに入団して3シーズン目となる吉田選手。昨季はギャラクシーのキャプテンとしてチームをMLS優勝に導いた。ホワイトキャップスのホーム開幕戦となった一戦では、ピリピリする展開で熱くなるチームメートを何度も落ち着かせる場面があった。今季も日本、ヨーロッパで活躍した元日本代表のベテランがギャラクシーを導いていく。

 そこには日本人選手として次の世代にMLSへの扉を開きたいとの思いがある。「僕やその前の世代の選手たちが初めてヨーロッパに行った時に扉を開いたのと同じように、僕とか高丘、視来、久保も、僕らがMLSへの扉を開いていかなければいけないと思う」と話す。

 日本ではまだまだ関心が低いMLS。それでもMLSを目指す次の世代の日本人選手はいるという。そんな後輩のために自分たちがいまMLSで結果を出すことが重要だと認識している。「自分たちの評価イコール日本人の評価、アジアのマーケットの評価につながるので、そこはピッチ内外で意識はしてます」

 高丘選手も「ゴールキーパーとして僕は日本人で(MLS)初めての選手なので、僕への評価が日本人ゴールキーパーの評価になると思うので、そういった意味で責任感を持って良いプレーをして、次の選手、次の世代の人たちが来やすいような道を作ってあげたいなと思います」と同じ思いを語る。

 吉田選手は自分より先にMLSでプレーしている高丘選手について「初めての海外移籍だと思いますけどがんばっていると思います。試合もコンスタントに出ているし、環境が変わってもしっかりポジションを確保していて。あとはチャンスがあれば、(MLSから)代表に絡んでいってくれたらおもしろいなと思います」とエールを送った。

「カナダもアメリカも政治が自分たちの生活に直結するっていう意識が強い」

 ホワイトキャップスのホーム開幕戦はアメリカのLAギャラクシーとの対戦となった。今年1月にトランプ大統領が就任して以降、カナダとアメリカは政治的に緊張関係にある。それが最も顕著になるのがスポーツの試合での国会斉唱。この日も御多分にもれず、アメリカ国歌斉唱時にファンからブーイングが起きた。決して選手たちに向けられたものではないが、カナダ国民の感情が爆発した。

 吉田選手はこの現象についてリーグ内にアメリカとカナダのチームが混在するという状況では「政治的な問題も絡んでくるだろうし、ウクライナの旗とかも見ましたけど、そうなるよな」と理解を示した。トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談が物別れに終わったのは試合の前日だった。

 自分ももう 36歳 のいい大人なのでと笑って、サッカー以外のこともしっかり理解するように一般常識のニュースはフォローしているという。それにアメリカで生活する中でトランプ政権下でのアメリカがどうなっていくのかは直接自分にも関係すると話す。「カナダもアメリカも政治が自分たちの生活に直結するっていう意識が強いなって。それもここにいないと経験できないことなので、なるほどなって興味深く思いました」と語った。

国歌斉唱時にファン席ではためくメープルリーフとウクライナ国旗。2025年3月2日、BCプレース。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
国歌斉唱時にファン席ではためくメープルリーフとウクライナ国旗。2025年3月2日、BCプレース。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

(取材 三島直美)

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「カナダ“乗り鉄”の旅」第22回 トルドー首相表明の高速鉄道計画「アルト」、実現の鍵を握るのは傲岸不遜な隣国大統領!?

東海道・山陽新幹線の「のぞみ」などに使われているN700S(東京都大田区で大塚圭一郎撮影)
東海道・山陽新幹線の「のぞみ」などに使われているN700S(東京都大田区で大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダのジャスティン・トルドー首相が2025年2月19日、約千キロ離れた国内最大都市のオンタリオ州トロントと東部ケベック州ケベックシティーを最高時速300キロで結ぶ高速鉄道計画「アルト」を発表した。投資額が最大1200億カナダドル(1カナダドル=105円で12兆6千億円)になるとの試算もある「カナダ史上最大のインフラプロジェクト」が成就するのかどうかは視界不良だ。しかし、実現するかどうかの鍵を握る影の主役は「カナダがアメリカの51番目の州になるのを見たい」と放言し、カナダからの輸入品に25%の関税を掛けて揺さぶる傲岸不遜な隣国の大統領かもしれない。

【アルト】カナダ東部のトロントとケベックシティーの間に電化した専用軌道を設け、時速300キロの高速列車を走らせる計画。ローマ字表記は「ALTO」。途中駅としてオンタリオ州ピーターボロー、首都オタワ、ケベック州モントリオール、ラバル、トワ・リビエールを設ける。国営企業アルトが担当し、コンソーシアム(共同企業体)「ケイデンス」が設計や建設、運用、保守など経験やノウハウを提供する。ケイデンスには6社が参加しており、カナダの航空最大手エア・カナダ、公共事業受注企業CPDQインフラ、エンジニアリング企業のアトキンスレアリス、フランスの公共交通機関運行受託企業ケオリスのカナダ法人、エンジニアリング企業シストラのカナダ法人、フランス国鉄(SNCF)の高速列車「TGVイヌイ」を運行するSNCF子会社のSNCFボヤジャーで構成する。

2011年、ドイツ・フランクフルト中央駅に停車中のフランス国鉄(SNCF)の高速列車TGV(大塚圭一郎撮影)
2011年、ドイツ・フランクフルト中央駅に停車中のフランス国鉄(SNCF)の高速列車TGV(大塚圭一郎撮影)

「経済を変革」と首相

 トルドー首相は2月19日の記者会見で、アルトについて「所要時間を劇的に短縮し、経済成長を加速させ、二酸化炭素(CO2)排出量を削減するなどわが国の経済を変革する」と意気込んだ。

 同席したアニータ・アナンド運輸相兼国内貿易相も「わが国の人口のほぼ半数がここ(アルトの沿線地域)に住んでいるものの、既存の交通システムは追いついていない」と問題視し、アルトが実現すれば「カナダ史上最大のインフラプロジェクトになる」と期待感を示した。

 アルトが建設予定のオンタリオ、ケベック両州の沿線地域には約1800万人が住み、カナダの国内総生産(GDP)の約4割を稼ぎ出す屋台骨だ。トルドー首相はアルトがカナダの「ゲームチェンジャー(変革者)になる」と訴え、GDPの押し上げ効果が最大で年間350億カナダドル(1カナダドル=105円で3兆6750億円)になるとの試算を紹介した。

左からアルトが計画している区間、VIA鉄道カナダの現在の所要時間、アルトの計画所要時間、時間差を示す表(アルトの公式ウェブサイトから)
左からアルトが計画している区間、VIA鉄道カナダの現在の所要時間、アルトの計画所要時間、時間差を示す表(アルトの公式ウェブサイトから)

 ただ、まだ具体的なルートや各駅の建設場所も決まっておらず、建設には環境影響評価(アセスメント)が必要になるなど課題が山積している。アルトの公式ウェブサイトも付け焼き刃でこさえた様子で、発表時に掲載していた画像に写っている車両は高速列車ではなくなぜかドイツ鉄道(DB)の通勤電車442型だったり、イメージ動画には全米鉄道旅客公社(アムトラック)の客車内の様子が映し出されていたりする。

アルトの公式ウェブサイトのイメージ動画には、全米鉄道旅客公社(アムトラック)の客車内で撮影された場面も
アルトの公式ウェブサイトのイメージ動画には、全米鉄道旅客公社(アムトラック)の客車内で撮影された場面も

主要区間は東京―大阪に相当、でも距離は…

 アルトの主要区間はカナダの2大都市のトロント―モントリオール間となり、日本で言えば東京と大阪に相当する。しかし、トロント―モントリオール間は約540キロあり、これは東京と神戸市の距離に相当する。

 東海道・山陽新幹線の東京―新神戸間を「のぞみ」で移動すると2時間40分前後だ。これに対し、国営の旅客鉄道運行会社VIA鉄道カナダはほぼ同じ距離のトロント―モントリオール間を走るのに5時間半前後と約2倍かかる。

VIA鉄道カナダの列車(カナダ西部サスカチワン州で大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの列車(カナダ西部サスカチワン州で大塚圭一郎撮影)

 大きな要因は東海道新幹線の最高時速が285キロ、山陽新幹線の新大阪―新神戸間は275キロなのに対し、VIA鉄道の列車の最高時速は120キロにとどまるからだ。加えてVIA鉄道が使う線路は貨物鉄道が所有しているため「貨物列車を優先して走らせる権利を持ち、旅客列車は後回しにされている」(VIA鉄道の乗務員)のも打撃になる。

カナディアン・ナショナル(CN)の貨物列車(カナダ西部サスカチワン州で大塚圭一郎撮影)
カナディアン・ナショナル(CN)の貨物列車(カナダ西部サスカチワン州で大塚圭一郎撮影)

 しかし、アルトは東海道・山陽新幹線と同じく電化した専用軌道を走り、最高時速300キロでトロント―モントリオール間を3時間7分で結ぶ計画だ。旅客機で両都市の中心部を移動する場合、空港への移動や手荷物検査などの時間を含めると最短でも約3時間半を要する。アルトが開業すれば旅客機に対抗できる競争力を持つ上、CO2排出量を低減できるため脱炭素化にも貢献する。

保守党は「レームダック声明」と批判

 トルドー首相はアルトの建設に向けて6年間で計39億カナダドル(1カナダドル=105円で4095億円)を投じる計画を表明したが、カナダ国民からは「絵に描いた餅になるのではないか」「過去にも高速鉄道計画が浮上しては消えてきた」などと懐疑的な反応が多い。

 何よりも説得力を欠くのは、アルトの計画を宣言したトルドー氏が事実上レームダック(死に体)化しているからだ。2025年1月に与党自由党党首と首相を辞任すると表明したトルドー氏は、3月9日の自由党党首選の結果が出た後に退き、次期総選挙にも出馬せずに政界を引退すると公言している。

 このため、保守党のフィリップ・ローレンス下院議員は放送局CTVにアルトの発表について「レームダック政権によるレームダック声明だ」と揶揄し、「自由党は高速鉄道計画に9年をかけたが、残したのは高額なコンサルタントへの支出だけだった」と舌鋒鋭く批判した。

 実際、カナダ国民からも「トルドー氏が高速鉄道の建設を目指して善処したというポーズを示すためのアリバイ作りではないか」との冷めた見方が出ている。

「あの大統領」が期せずして推進役に?

 ところが、期せずしてアルトの推進役となる可能性を秘めているのがトランプ氏だ。カナダへの侮辱的な暴言を連発して「名前も聞きたくない」(知人のカナダ人)というほど嫌悪感を持たれているのに、なぜアルトの計画をけん引する影の主役になり得るのか。その根拠を三段論法で説いていきたい。

 トランプ氏が3月4日にカナダからの輸入品に25%の関税を発動すると表明したのに報復し、カナダのトルドー首相は1550億カナダドル(1カナダドル=105円で16兆2750億円)相当のアメリカ製品に25%の関税適用を表明。カナダからの自動車といった工業製品、原油や天然ガスなどの輸出が打撃を受け、カナダ経済に悪影響を及ぼすことは避けられない。

 カナダ統計局によると1月の失業率は6・7%と、日本の1月の完全失業率の2・4%に比べて高く、アメリカとの貿易戦争は雇用の悪化に拍車をかける恐れがある。そこで、カナダの次期首相は雇用創出するための大規模な経済対策を打ち出すとみられ、建設によって5万1千人を超える雇用創出が見込まれるアルトも柱の1つとして打ち出す可能性がある。

 自由党の党首選で最有力候補のマーク・カーニー氏は、カナダ銀行と英国イングランド銀行(BOE)という先進7カ国(G7)の2つの中央銀行で総裁を務めた「銀行界のスーパースター」(金融関係者)だ。アメリカのジョー・バイデン前大統領が新型コロナウイルス禍で悪化した労働市場を立て直すためにインフラ投資法に沿った大規模プロジェクトを進めて雇用が急増したように、経済の専門家であるカーニー氏も同様の政策を打ち出すことが予想される。

“反トランプ”旋風で攻守逆転

 そして、トランプ氏が「(カナダ首相になれば)とても良いことになる。私たちの意見は間違いなくより一致するだろう」と秋波を送ったことで足元を救われ、支持率が失墜しているピエール・ポワリエーブル氏が党首を務める野党保守党が2025年10月までに実施される連邦議会下院の総選挙で敗れればアルトの計画が軌道に乗る好機となり得る。

 ポワリエーブル氏はトルドー氏のことを「いかれた奴」と呼んで議場から退場させられたように“反トルドー”路線で攻勢を掛けて人気を集めていた。

 ところが、トルドー氏の退陣表明に加え、ポワリエーブル氏のことを「トランプ氏を崇拝している」(カーニー氏)などとレッテルを貼った自由党のキャンペーンが奏功。今やカナダ国民の間で吹き荒れる“反トランプ”旋風がポワリエーブル氏に飛び火し、トランプ氏から支援表明を受けたことがすっかり裏目に出て守勢に立たされている。

 調査会社イプソスが2月26日に発表した世論調査で、自由党の支持率が38%となり、保守党の36%を上回って逆転した。6週間前には保守党が自由党を26ポイントも上回っていただけに、保守党の人気急落のすさまじさを物語る。エコスが2月25日に発表した世論調査も自由党の支持率が38%と、保守党の37%を上回った。

 これらの私の見立てが当たった場合には、カーニー氏が率いることになると予想される次期政権が総選挙で勝利し、高速鉄道らしく一足飛びに建設へと邁進することは無理でもアルトの計画が着々と進むことになる。

 一方、好事魔多しとばかりに自由党が総選挙前に足をすくわれる事態が到来しないとも限らない。そうなれば保守党が再び勢いづいて勝利し、ポワリエーブル氏が首相の座に就き、上記の見立てが瓦解することになる。ポワリエーブル氏は“天敵”トルドー氏が策定したアルトの計画について、見せしめだと言わんばかりに白紙撤回するシナリオが想定されるからだ。

 アルトは低い音域の女性の声域を指す。名は体を表すとは言うものの、カナダの2大都市間を結ぶのにふさわしい高速鉄道計画に声を落とす結末が待ち受けているとは信じたくない。

【筆者より】いつもご愛読いただきましてありがとうございます。本稿で示した視点や見解は筆者個人のものであり、所属する組織や日加トゥデイを代表するものではありません。

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。

「自分らしく生きるとは?」小説家・西加奈子さんインタビュー(前編)

西加奈子さん。バンクーバー市内で。2024年8月。撮影 斉藤光一
西加奈子さん。バンクーバー市内で。2024年8月。撮影 斉藤光一

 小説家として活躍する西加奈子さん。2004年「あおい」でデビューし、以降次々と作品を発表している。2019年12月からはカナダ・バンクーバーに滞在。その時に乳がんが見つかり、バンクーバーで治療を受ける。その闘病記を自身初のノンフィクションとして発表した「くもをさがす」も話題を呼んだ。

 2024年8月、バンクーバーに滞在していた西さんに話を聞いた。

バンクーバーに語学留学

 西さんは2019年12月から、夫と子どもとバンクーバーに滞在。翌年には新型コロナウイルスが発生したため、新型コロナ禍で3年間の滞在となった。

***

-バンクーバーの滞在は語学留学が目的ということですが、なぜ語学留学をしようと思ったのですか?

 「夫と2人でよく旅行に行っていて、いつか海外に住んでみたいねって話をしていました。夫が会社を2年間休めることになったので、当時は子どもも小さかったのですが、せっかくだからどっかに行こうかとなって。最初はアメリカも考えましたが、一度1週間くらい旅行に来たバンクーバーが本当にすばらしい街だったので、ここにしようって決めました。ただ私たちが滞在できるのは語学留学しかなかったので、それぞれで違う学校に行くビザを取って2年の予定で来ました」

-バンクーバーに長期滞在して何か驚いたことはありましたか?

 「まず旅行に来た時に子どもがまだ1歳でヨチヨチ歩きだったんですけど、もう本当にみんなが子どもに優しくて。ベビーカーでバスに乗ってもみんなすぐ席を譲ってくれますし。こっち(バンクーバー)に来てからも子どもが2歳になって結構やんちゃな盛りで。でも、例えば公園で泣こうがいたずらしようが、私がSorryって言ったら、みんながDon’t be sorryって。子どもなんだからって言ってくれて。それは本当に感動しました」

-海外に移住という選択は自身の執筆活動に影響があると思っての決断だったのですか?

 「最初はそんなに考えてなくて。ただただ家族で海外に住めることにワクワクしていました。英語を学びたいというのもすごくあったので、それがメインでした」

-3年間住んでみて、執筆活動にいい影響はありましたか?

 「日本を離れて見られたのは大きかったです。それから、『くもをさがす』がそうですけど、(新型)コロナもあったし、乳がんにもなって、それを海外で経験するっていうのはスペシャルな経験だったなぁってすごい思います」

-バンクーバーに来る前と来た後で、見方が変わったことなどありますか?

 「私が母親っていうこともあって、子どもがどんな風に育つかっていうのが全然違いました。あとは(私は)40歳過ぎで来たのですが、中年女性が元気だということですね。年齢に関係なく好きな服を着てるし、好きなことをしているし。一方で日本は、良いところはいっぱいあるのですが、私たちの年齢だと年齢に見合った服を着なければいけない圧力があったり、何事も始めるのに適正な年齢があったり、そういうことをすごく感じました」

-バンクーバーで3年暮らした後に東京に帰って、どう感じましたか?

 「そうですね、やっぱり(バンクーバーは)とにかく女性が元気ですね。いわゆるマイノリティと言われている方たちが当たり前のように尊重されているし、安心して暮らせる街だなって改めて思います。日本がそうでないとは言いたくないですし、もちろん自分が全く気にせずにいれば自由に暮らせるはずなんですけど、でも町自体の寛容さとか、町自体が何を許容しているかっていうのが、日本とバンクーバーでは違う気がします」

-日本に帰って窮屈だなぁっていう思いはしますか?

 「窮屈というか、特に東京は物理的に人が多いんですよね。子どもがバンクーバーにいた時は自由に木に登ったり走ったりできてたんですけど、それが一切できない、物理的にできないんです。人の目がどうっていう以前に、危ないし、車も多いし、だから子どもが子どもらしくいれるかなっていうのはすごく考えました。あとは人が多い分、パーソナルスペースも狭いから、あまりカナダにいた時みたいに自由には振る舞えないんじゃないかなとは思います」

語学留学でバンクーバーに滞在していた頃を楽しそうに話す西さん。2024年8月。撮影 斉藤光一
語学留学でバンクーバーに滞在していた頃を楽しそうに話す西さん。2024年8月。撮影 斉藤光一

-バンクーバーでの生活は解放感がありましたか?

 「そうですね、すごくありました。ほんとボロボロの下着みたいな服で外を歩いていましたし(笑)。あとはなんか走りたいなと思ったら毛玉の付いたヒートテック上下でバーッてランニングしたりとか。日本でもやればいいんでしょうし、これは私個人の問題なのですが、やっぱりそれができるような雰囲気ではないかなと感じてしまって。(バンクーバー市)キツラノに住んでいたのでビーチの近くだったんですけど、ビーチで私よりうんと年上の女性がワンピースでフラッと来て服を脱いで上半身裸でバーッと泳いで、バーッて(服を)かぶって帰っちゃったりとか。それをだれも何も言わないとか、それはほんとになんというか、いてて心地よかったです」

-バンクーバーで生活するにあたりカナダの制度面で思ったことはありますか?

 「自分は日本にいて日本人だったのでその土地にいたいと思うことに障害を感じたことはなかったんです。例えば、引っ越しをしたかったらお金の問題はあるけれども引っ越しできるし。

 でも(バンクーバーでは)自分がいたいという場所にいれないっていうことがあるんだなと。(カナダ滞在用の)ビザの問題もそうですし、ビザを取るためにこれだけのことをしなければいけないんだとか、言語の問題もありましたし。あとは自分の母国以外で暮らさざるを得なくなった人たちのこと、難民の方とか、そういうことをすごく考えるようになりました。

 制度でいうと医療制度は、私も無料でがんを治してもらったので、ほんとに感謝しています。でも、同時に無料だからこそエマージェンシー(救急)で9時間待たされるとか、すぐに専門医にいけないとか。あとはすごくクリティカルなことなのに子どもが熱を出しても正確に伝えられないとか、そういうもどかしさはすごく感じました。もちろん自分の語学の問題もあるんですけど、異国で暮らすというのはこういうことなんだなとすごく思い知った感じです。

 だからほんとにむちゃくちゃ良い所もあれば、やっぱりこれは日本が絶対にいいなと思うこともあるし、それは本当に一長一短っていう感じでした」

-外国にいるから日本のことが見えることもあって、外国に住んでみての日本を見る目というのは変わりましたか?

 「そうですね、とにかく日本はお一人おひとりの努力がすごいと思います。ほんとに国の制度が破綻していたとしても、個人個人の努力で自分の時間外労働をしたりしてなんとかやっています。例えば、看護師さんたちもそうですよね、ほんとに給料をもっともらうべきだと思います。さっきパーソナルスペースが狭いと言いましたけど、日本は狭い国で譲り合わないといけないから、譲り合う時の優しさは深いし、そういうところで良い部分があります。

 カナダの方はすごく優しいですけど、どんなにこっちが苦しんでても5時になったらパチッと帰るし。だからすごくほかで優しくいられるんだろうなって思うけど、日本だったらそうではないし、ほんとにそれぞれだなって。どっちも良い所があって」

-日本の良いところでカナダの人に伝えたいことってありますか?

 「有言実行ですね。カナダの方はほんとに素敵なことをたくさん言ってくれるけど、それに伴った行動をしない場合もあるというか(笑)。日本人は例えばシャイだったりして愛情を口に出して言わないけど、でもすごい実はやってくれますね。助けるよって言ったら本当に助けてくれるし、そういう有言実行なところとか。あとは約束を守るところですね。例えば自分が遅れたことによって相手がどれだけ困るかっていう想像力を日本人は強く持っているように思うので、そういうのはいいかなぁと思います。

 こっちはたぶん約束に遅れても平気な社会だから成り立っているんでしょうね。工事の人が来るって言って全然来ないとか、そういうことがあるんやぁっていうのはビックリしました(笑)」

***

後編に続く。

西加奈子(にし・かなこ)

小説家。イラン・テヘラン生まれ。小学生の時にはエジプト・カイロで過ごしたが、帰国後は大阪に。2004年「あおい」でデビュー。2007年「通天閣」で織田作之助賞、2013年「ふくわらい」で第一回河合隼雄物語賞、2015年「サラバ!」で第152回直木三十五賞を受賞した。映像化された作品には2013年に映画化された「きいろいゾウ」(2006年)、劇場アニメ映画化され、バンクーバー国際映画祭でも上映された「漁港の肉子ちゃん」(2011年)がある。「くもをさがす」は第75回読売文学賞 随筆・紀行賞を受賞した。

(取材 三島直美/写真 斉藤光一)

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月曜日の早朝にバンクーバーで揺れ、ビクトリア沖でM4.1の地震発生

震源はブリティッシュ・コロンビア(BC)州との国境に近いアメリカ・ワシントン州のサンホワン島付近。Earthquake Canadaウェブサイトより。
震源はブリティッシュ・コロンビア(BC)州との国境に近いアメリカ・ワシントン州のサンホワン島付近。Earthquake Canadaウェブサイトより。

 カナダ天然資源省によると、3月3日午前5時2分(太平洋標準時)に地震が発生した。震源地はブリティッシュ・コロンビア(BC)州との国境に近いアメリカ・ワシントン州のサンホワン島付近で、震源の深さは17キロメートル、地震の規模はマグニチュード(M)4.1。この地震による津波の心配はないという。

 震源地はBC州の州都ビクトリア市から北東に約50キロの場所で、ビクトリアだけでなくバンクーバーでも揺れを感じたと報告されている。建物などの倒壊は報告されていない。

 BC州南西部では直近2週間で地震が3度発生している。2月21日にはサンシャインコーストでM4.7の地震があり、バンクーバーを含むBC州沿岸の広い地域で揺れを感じた。2月24日にはBC州で揺れを感じることはなかったが、バンクーバー島北西部ポートアリスから約182キロメートル西の太平洋でM5.0の地震が起きている。

 バンクーバー近郊ではいつ巨大地震が発生しても不思議ではない周期に入っていると専門家は警鐘を鳴らす。カナダ天然資源省によると、BC州沿岸では定期的に巨大地震が発生しており、最大は1700年にBC州からアメリカ・カリフォルニア州にかけて起きたM9.0と記録されている。1872年にはBC州との国境に近いアメリカ・ワシントン州でM7.4の地震が起き、ビクトリアやニューウエストミンスターでも大きな揺れを感じたと記録されている。

 最近では、1946年1月23日にバンクーバー島中央部でM7.3、1949年8月22日にハイダグワイ沖でM8.1、1970年6月24日にハイダグワイ南部でM7.4、2012年10月28日にハイダグワイ南部沖でM7.7の地震が起きている。

 BC州政府は地震や津波に備えるためのガイドラインを発行している。

(記事 編集部)

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ホーム開幕戦でホワイトキャップスがギャラクシーに辛勝、高丘と吉田の日本人対決が早くも実現

ホワイトキャップスに2点目が入って喜ぶ高丘。2025年3月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
ホワイトキャップスに2点目が入って喜ぶ高丘。2025年3月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
GK高丘、LAギャラクシーの攻撃を阻止するも...。2025年3月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
GK高丘、LAギャラクシーの攻撃を阻止するも…。2025年3月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 昨季のMLSカップ王者LAギャラクシーをホームに迎えホワイトキャップスが競り勝った。GK高丘陽平は最少失点に抑え、ホーム開幕戦白星に貢献した。

ホワイトキャップス 2-1 LAギャラクシー(BCプレース:21,124)

 先制点はホワイトキャップス。試合開始早々の3分にAdekugbe(DF)が決め1-0。前半は緊張感のある攻防が続いたが、39分にギャラクシーが同点に追いついた。ギャラクシー吉田(DF)からボールが得点につながた。後半も激しい展開となったが87分、White(FW)がヘッドで決め2-1とリード。9分間のアディショナルタイムも守り切り、勝利した。

開幕から2連勝、ホームで勝ち点3を取れたのは大きい

 試合は序盤からピリピリした雰囲気だった。前半にはWhiteが珍しく感情をあらわにして相手選手と押し合いする一触即発の場面もあった。ホワイトキャップスは先取したものの、先制弾を放ったAdekugbeが負傷交代。前半終了間際にはGK高丘が弾いたボールをギャラクシー選手に押し込まれ同点に。後半も緊迫する展開の中、決勝点を決めたのはWhiteだった。前半で合わせられなかったヘッドが見事に決まり、喜びを爆発させた。

 GK高丘は「前回のポートランドのアウェイに引き続き、しっかり勝ち点3を取れたっていうのは大きい」と振り返った。MLS開幕戦となった2月23日のポートランド・ティンバーズ戦では土砂降りの雨の中、4-1と大勝した。

ホワイトキャップスに2点目が入って喜ぶ高丘。2025年3月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
ホワイトキャップスに2点目が入って喜ぶ高丘。2025年3月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 この日はホームだが相手は昨季のMLS王者。簡単ではないが、「去年はこういう拮抗した試合で勝ちきれないことが多かった中で、今年はそこを改善してる最中で今日しっかり勝ち切れたのは良かった」と拮抗した試合で競り勝ったことを喜んだ。

 今季から指揮を執るソレンソン監督の下「大事に自分たちのマイボールの時間を増やそうっていうのを取り組んでいる」と言う。「立ち位置のことだったり、キーパーがどうやってゲームに関わっていくのかっていうのは監督からもミーティングやグランド内でよく言われている」と昨季との違いを説明する。

 そうやってもぎ取った王者からの1勝。昨季はギャラクシー相手に2戦2敗だった。今季のキャップスについてギャラクシーの吉田麻也は「監督が変わったので、やり方はかなり変わって、断然良くなったなっていうのは1つありました」と分析した。この日のギャラクシーの戦いは前々日まで練習に参加していた山根視来(DF)をけがで欠いたことで「実質この形の準備をする時間がなかったのはチームにとってはかなり痛かった」と振り返った。

バンクーバーで早くも日本人対決が実現

 昨季は4月だった吉田・山根との日本人対決が今季は早くもホーム開幕戦で実現した。山根はけがのため出場しなかったが、高丘も吉田もフル出場。この日は日本人ファンも多く見られた。

 試合後に日の丸を掲げるファンに近寄って握手などに応じた吉田は「バンクーバーは日本人が多いって聞いてるんで。ロサンゼルスも多くて、よく見に来てくれるんですけど、バンクーバーも高丘がいて、さらに僕らとの試合だったら行ってみるかっていう感じで、それをきっかけにサッカーを見に来てくれたらうれしい」と話す。「僕自身も、例えば野球選手やバスケットボール選手で日本人の方が(海外で)がんばっているのを見てエネルギーをもらうし、僕らもそういう一端を担えれば、少しでもそういう形で何かエネルギーを与えられたらうれしいです」。

 高丘は、吉田についてクオリティの高いプレーをするすばらしい選手だと対戦して改めて思うと語り、「そういった選手とこうやって真剣勝負の場で対戦できるっていうのは僕自身もうれしいですし、バンクーバーにいる日本人の方にとっても大きな試合なのかなと思います」と語った。

試合後に日の丸を振っていたファンに駆け寄ったあと、サウサンプトンFCのファンと握手するLAギャラクシーの吉田。2025年3月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
試合後に日の丸を振っていたファンに駆け寄ったあと、サウサンプトンFCのファンと握手するLAギャラクシーの吉田。2025年3月2日、バンクーバー市。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

3月のホームゲームhttps://www.whitecapsfc.com/

3月8日(土)6:30pm CFモントリオール戦
3月22日(土)7:30pm シカゴ・ファイヤーFC戦

(取材 三島直美/写真 斉藤光一)

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和の学校@東漸寺3月のお知らせ

こんばんは。

和の学校@東漸寺は、日本文化を学び継承する活動をしています。

親子で、お友達と、または新しいことを始めるためにおひとりでも、ご一緒に楽しませんか。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

「フィルム向/殺陣教室」
3月2日、16日、23日、30日 (日曜日)
午前10時~午後11時半 「殺陣*レギュラークラス」
午後12時~午後1時半 「殺陣*基礎クラス」

<参加費> 
❍レギュラークラス、基礎クラス
$20/回

「着付教室、着物ワークショップ/着物クラブ」

ご自分で着物を着て、お出かけしてみませんか。

初心者向けの着付け教室です。

着物及び帯や小物のレンタルもしております。(有料)

毎週日曜日 地下道場又は本堂にて

*日時について変更もございますので、その都度ご連絡をいただけましたら幸いです。

<参加費>
❍通常教室$20/回(グループクラス;最少人数3名)
*セミプライベートやプライベートクラスもございます。
❍レンタル着物&名古屋帯$30/回 レンタル浴衣&半幅帯$20/回 

「お寺de日本舞踊ワークショップ」

日時;3月16日(日曜日)

日本舞踊は、日本の伝統芸能の一つで、優雅な踊りやしぐさが魅力です。

日本舞踊の基本や挨拶の仕方、扇子の開き方、歩き方などを体験してみませんか?

ご希望の方には、浴衣レンタルもございます。

<参加費>
❍ワークショップ(子供&大人)
$10/小人(対象年齢:3歳~12歳) 無料/保護者(付き添い)
$20大人(13歳~大人)

❍浴衣レンタル
$10/小人 (対象年齢:3歳~12歳)$20/大人(13歳~大人)

*  担当講師は、『東漸寺』と『和の学校@東漸寺』への奉納舞として、講師料金をお寺に寄付してくださっています。

心より感謝申し上げます。

「茶話タイム」

午後12時~1時

(茶話タイム内では、各種お教室に参加された方同士の社交の場として、お愉しみください。着物クラブを同時開催することもございます。)

❍茶話タイム $5~ドネーション/教室への参加者は無料です。

<和の学校@東漸寺イベント及び各種教室のお申し込み*お問い合わせ>

和の学校@東漸寺TOZENJI コナともこ tands410@gmail.com

住所 209 Jackson street Coquitlam, B.C.

和の学校@東漸寺ホームページ https://wanogakkou.jimdofree.com/

インビクタスゲームでのボランティア

 みなさん、こんにちは。前回はじまった日本人薬剤師紹介シリーズをいきなり中断しますが、つい先日までバンクーバーに大きな賑わいをもたらした「Invictus Games(インビクタスゲーム)」でのボランティアの経験についてお話ししたいと思います。

 インビクタスとは、不屈の精神という意味で、負傷や病気、退役を経験した軍人を対象とした国際的なスポーツ大会です。自身も軍隊の経験のある英国プリンスハリーが、戦地で身体的、精神的な傷を負った人に、希望を与える機会として2014年に創設されました。第7回となったバンクーバー大会では、世界23か国から約550人のアスリートが参加しました。

 そして、なぜ私がそこでボランティアすることになったかというと、私が勤務するロンドンドラッグスが今回のインビクタスゲームのオフィシャルスポンサーを務め、ボランティアを探していたのがきっかけです。私は、日頃から渡航者の健康管理に携わっていますから、今も戦争の続くウクライナをはじめとし、世界各地から人が集まるイベントは、またとない勉強の機会ではないかと思い応募しました。

 大会期間中は、バンクーバー市内の競技会場としてバンクーバーカンンファレンスセンター(VCC)に、またスキー競技などが行われたウイスラーにロンドンドラッグスのブースが設置され、ボランティア薬剤師が配置されました。また、大会としても医師、看護師、フィジオセラピストといった多くのメディカルスタッフがスタンバイしました。

「大会期間中のウイスラーは連日晴天に恵まれた」
「大会期間中のウイスラーは連日晴天に恵まれた」

 会場内薬局としての機能を果たすVCC内のブースでは、あらかじめブレインストームをして、最低限必須と思われる市販薬を用意しましたが、スポーツイベントの内部で活動するのは初めてですから色々な部分が手探りです。

 大会前は、参加選手が薬を必要とする状況を中心に考えていましたが、これは非常に浅はかな考えで、このような大規模なイベントでは、海外からの選手の同伴家族やサポートスタッフ、そして現地ボランティアなど、非常に幅広く、どのような理由でも薬が必要となることが分かりました。商品の問い合わせが来るたびに商品のラインナップがアップデートされていきました。

 多くの人が集まる場所ですから、ウイルス性と思われる咳が流行れば咳止めが、同じレストランで食事をしてお腹を壊した団体にはImodiumのような下痢止めが、晴天が続いたことによる口唇ヘルペス用の塗り薬、異国での異なる食事のパターンと生活で胸焼けや便秘、痔の症状があればこれらの症状を取り除く薬を提案するといった具合です。お薬ではありませんが、生理用品が至急必要なんですがという問い合わせもありました。

 大会初日と最終日を比較すると、VCCのブースでテーブルの上に並んでいる品目数がまるで違いました。ボランティアに参加したスタッフがショートビデオを作って、VCCの様子を紹介しましたので、ぜひご覧ください。https://www.facebook.com/share/r/1EKw43RcKr/?mibextid=D5vuiz

 競技会場の医師が処方せんを発行した場合には、その情報を最寄りのロンドンドラッグスに送り、調剤して、会場に届けるというシステムを作りました。ウイスラー会場の場合は配達が難しいので、処方せんがバンクーバーの店舗に送られ、その日の夜までに薬が用意されるという形になりました。これは、基本的にウイスラーでは毎日違う競技が行われていたため、選手団がバンクーバーのホテルから日帰りしていたためです。

 すぐに薬が必要な場合には、ウイスラービレッジ内にショッパーズドラッグマートなど他の薬局もありましたから、そちらを利用して頂きました。

 私は午後から夜にかけてウイスラーのブースを担当しましたが、数件の相談を受けたのみ。皆さんが怪我や病気をすることなく、非常に安心しました。

 余談ですが、インビクタスゲームの開会式にはプリンスハリーも登場し、感動的な挨拶をして大会の始まりを告げました。また、この式典の挨拶の合間には選手を紹介するビデオが流され、大会に参加することになった経緯が紹介されましたが、参加した選手の中には、戦場での経験からPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱える人や、退役後にアルコール問題に直面し、それをインビクタスゲームに向けたトレーニングで克服した人がいました。そのような選手たちのストーリーがビデオで紹介される度に、心の傷の深さと、それに対するケアの難しさを強く感じました。

 また、ネリー・ファータド、ケイティ・ペリー、そしてコールドプレイのクリス・マーティンといった豪華な歌手たちが登場し、会場を盛り上げてくれました。音楽とエンターテイメントの融合で、開会式は非常に楽しく、感動的なひとときとなり、参加者全員にとって忘れられない瞬間となりました。

 今から5年前のコロナ禍で、薬剤師はエッセンシャルワーカーと呼ばれましたが、今回のインビクタスゲームでもその言葉を思い出しました。人は薬が必要で、そこに薬剤師が必須で、まだまだ自分に出来ることがあると再確認できました。これからもこのようなイベントには積極的に参加していきたいと思います。

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

全ての「また お薬の時間ですよ」はこちらからご覧いただけます。前身の「お薬の時間ですよ」はこちらから。

『Anora(邦題:アノーラ)』(ショーン・ベイカー監督)

「Anora (邦題:アノーラ)」より。写真提供:TIFF
「Anora (邦題:アノーラ)」より。写真提供:TIFF

 アカデミー賞の授賞式が3月2日に迫ってきました!今年はアリアナ・グランデが出ているミュージカル『Wicked(邦題:ウィキッド)』(ジョン・M・チュウ監督)やセレナ・ゴメスがスペイン語で頑張った『Emilia Pérez(邦題:エミリア・ペレス)』(ジャック・オーディアール監督)、ティモシー・シャラメがボブ・ディランを演じた『Complete Unknown(邦題:名もなき者)』(ジェームズ・マンゴールド監督)などもノミネートされており、レッドカーペットは例年にも増してかなり華やかなものになりそうですね。

「The Substance」より。提供TIFF
「The Substance」より。提供TIFF

 俳優賞では男優陣よりも女優陣が混戦模様。なかでも賞レースのトップを走っているのが、デミ―・ムーア。62歳にして『The Substance(邦題:サブスタンス)』(コラリー・ファルジャ監督)で初ノミネート。体当たりな演技でハリウッドの若さと美への執着を鋭く風刺しています。そして『I’m Still Here(邦題:アイム・スティル・ヒア)』(ウォルター・サレス監督)のフェルナンダ・トーレス。夫がブラジルの軍警察に逮捕され行方不明となったユニス・パイヴァを演じ、その圧巻の演技力が高く評価されています。

「I’m Still Here(邦題:アイム・スティル・ヒア)」より。写真提供:TIFF
「I’m Still Here(邦題:アイム・スティル・ヒア)より」。写真提供:TIFF

 そしてもう一人主演女優賞の有力候補が、今日ご紹介する『Anora (邦題:アノーラ)』(ショーン・ベイカー監督)で主演のマイキー・マディソン。同作はカンヌ映画祭で最高賞を取って以来ずっと話題で、今回も作品賞、監督賞など6部門にノミネート。私としては作品賞や監督賞は他にあげたいけれど(苦笑)、全身全霊を捧げた演技で魅了してくれたマイキーは主演女優賞を取れるかも、などと思っています。

 あらすじ:ストリップクラブでダンサーとして働くアニーことアノーラ(マイキー・マディソン)。ある夜、若くリッチなロシア人の客イヴァン(マーク・アイデルシュタイン)が来店。すっかりアニーを気に入り1万5千ドルで1週間ずっと一緒に過ごす契約を結ぶことに。パーティー三昧の中、プライベートジェットで行ったラスベガスで盛り上がった二人は、なんと衝動的に結婚。怒ったイヴァンの両親が婚姻無効を求めて手下たちを送り込み…というストーリー。

「Anora (邦題:アノーラ)」より。写真提供:TIFF
「Anora (邦題:アノーラ)」より。写真提供:TIFF

 現代版シンデレラ?プリティ・ウーマン?と思って観たら、ロマンティックとは程遠いかなりコメディ要素の多い作品でした。ストリップクラブのシーンから始まり、ただパーティー!な前半とハラハラ、ドタバタしながら進む後半。性産業に従事する女性を描いているけれど暗くはならずにあっけらかんとした感じで進み、とにかく最後まで明るくパワー全開で話が進みます。

 これまでの作品では、社会の片隅で生きる人々を繊細な眼差しで描いていたのが印象的だったベイカー監督。でも今回の『アノーラ』ではコメディのためか、アニーもイヴァンの両親に雇われている男たちも、人物像に深みが無く私としてはそこがすごく残念でした。アニーのバックグラウンドとか人となりがもう少し描かれていればキャラクターや環境が深く理解できたのに、と物足りなさも。アニーが元気なのとイゴールが良い奴、大富豪が冷たいのはわかったけど、それだけというか。なので監督の今までの作品とは少し違って、かなりエンタメ性の高さに振り切った作品だなという印象です。

 ただ役者さんたちの演技は皆すごく良くて、ストリップクラブにも通い役作りをしたマイキーが深く物事を考えないけどチャーミングなアニーを熱演しているし、ダメダメ御曹司のイヴァン君もロシア男三人組も皆すごく良い味を出していて最後まで楽しませてくれます。ちなみに、無口で良い奴キャラのイゴールを演じたユーリー・ボリソフも今回助演男優賞にノミネートされています。

 …最後に、今年のアカデミー賞にノミネートされている作品のなかで作品賞と脚色賞にノミネートされている『Nickel Boys(ニッケル・ボーイズ)』(ラメル・ロス監督)という私のイチオシ作品があります。地味ながらすごく考えさせられる衝撃的な映画なので機会があればご覧になってみてください!

Lalaのシネマワールド
映画に魅せられて

バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライターLalaさんによる映画に関するコラム。
旬の映画や話題のドラマだけでなく、さまざまな作品を紹介します。第1回からはこちら

Lala(らら)
バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライター
大好きな映画を観るためには広いカナダの西から東まで出かけます
良いストーリーには世界を豊にるす力があると信じてます
みなさん一緒に映画観ませんか!?

「蕾紅梅*じっくり育ち春を待つ」

カナダde着物

第68話
着物を10倍愉しむ*お稽古編

 バンクーバー近郊でも、梅の花を目にすることがあります。
 今年の年初は、お天気が良かったり雪が降ったりと、自然の植物たちは対応に大慌てしているかもしれません。

 それでも、蕾を膨らませる花々は、自然の変化や時間の流れ、そして「待つことの大切さ」を感じさせてくれます。

 春の温かな日差しを待ちながら、少しずつ成長していく様子は、子育てにも似ていますね。

 「早く大きくな~れ」、でも、一歩ずつ踏みしめて。

「capped chickadee and Plum Flower」Manto Artworks
「capped chickadee and Plum Flower」Manto Artworks

*今日の着物*Today’s Kimono

着物を10倍愉しむ*お稽古編

 好きな趣味や趣向品で特別なものを見つけたとき、それまでの楽しさが10倍に感じることがあります。これは、知らなかった頃と比べて、という意味です。私たちが知らないことは無限にあります。そして、好奇心が旺盛で多種多様な趣味を持つ人でも、限られた人生の中でどれだけ新しい楽しみを見つけられるかは分かりません。

 ところで、日本には「お稽古文化」があります。これは、何かを目的とした「勝負のための練習」や「体を鍛えるトレーニング」とは異なり、その一瞬一瞬を「本番」として捉える作業です。たとえば、茶道では、お茶会のための練習ではなく、毎回のお稽古で相手にお茶を差し上げ、その一服を大切にします。

 私はこれまでの茶道のお稽古で洋服を着て出かけた日は数えるほどです。ほとんどのお稽古には、雨の日も雪の日も猛暑の日も、着物で出かけます。それは、今日のお稽古を「本番」と考えると、お茶会の日のように、着物を選ぶことが自然の流れとなるからです。

 時々思うことがあります。それは、着物でお稽古に出かける日は、もしかしたら自分の中で10倍の価値を感じる愉しみになっているのかもしれない、ということです。

 話は変わりますが、以前、飛行機で隣に座った初老の男性が、「世界中にある世界遺産を、この命ある限り見て回りたい」と話していました。定年前まで高校の社会科の教師をしていて、この夢を実現させるために長年働いてきたそうです。

 おそらく、何度も生徒たちに教えてきた世界遺産を実際に目にしたときの感動は、私が感じるそれの10倍以上かもしれません。そこには、ワクワクや達成感も含まれ、深い愉しみがあるのでしょう。

 着物に関しても、織物や染め物、文様やその歴史には、日本固有の深い意味やストーリーが込められています。それを知ることで、物を通じて私たちの心に潤いを与えてくれると思います。

 皆さまは、10倍愉しめるものはありますか?

茶道のお稽古にて「紋付色無地の着物、塩瀬蔓草名古屋帯」コナともこ
茶道のお稽古にて「紋付色無地の着物、塩瀬蔓草名古屋帯」コナともこ
日本舞踊ワークショップにて「紬の小紋、菊文様名古屋帯」コナともこ
日本舞踊ワークショップにて「紬の小紋、菊文様名古屋帯」コナともこ

*今日の和の学校*Today’s Gathering

練切菓子ワークショップ*新春編

 今年の初雪が降った週末、お寺で練切菓子(ねりきりがし)のワークショップが開かれました。
 このワークショップは、京都で修行し、菓子職人として働いていた講師による少人数の初心者向け教室です。

 材料はとてもシンプルですが、人前に出せるお菓子を作るには、技術と経験が必要だとすぐに感じました。

 生徒たちは、ほんのりとしたピンク色の花びらを作りながら、それぞれの個性が光る梅の花を仕上げていきました。

お寺で開催された「練切菓子ワークショップ」にて。コナともこ
お寺で開催された「練切菓子ワークショップ」にて。コナともこ
初雪が美しい東漸寺にてにて。 コナともこ
初雪が美しい東漸寺にてにて。 コナともこ

*参照*

暦生活
https://www.543life.com/

「着物語り」
コナともこさんが着物の魅力をバンクーバーから発信する連載コラム。毎月四季折々の着物やカナダで楽しむ着こなしなどを紹介します。
2020年8月から連載開始。第1回からのコラムはこちらから

コナともこ
アラフィフの自称着物愛好家。日本文化の伝道師に憧れ日々お稽古に励んでおります。
14年前からコキットラム市の東漸寺で「和の学校」を主宰。日本文化を親子で学び継承する活動をしております。

年間を通じて季節の行事に加え、お寺での初参り、七五三祝い、十歳祝い、元服祝い、二十歳祝い、結婚式、生前葬、お葬式などの設えと装いのお手伝いもさせていただいております。

*詳しくはコナともこ までお問い合わせ下さい。tands410@gmail.com
東漸寺は非営利団体で、和の学校の収益は東漸寺の活動やお寺の維持の為に使われています。

カナダ人の夫+社会人と大学生の3人娘がおり、バンクーバー近郊在住。

和の学校ホームページ https://wanogakkou.jimdofree.com/
インスタグラム https://www.instagram.com/wa_no_gakkou_tozenji/
フェイスブック https://www.facebook.com/profile.php?id=100069272582016

東漸寺Tozenji Temple https://tozenjibc.ca/

コナともこ
Facebook https://www.facebook.com/tomoko.kona.98
Instagram https://www.instagram.com/konatomoko/?hl

「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks
「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks

25 ☆「足」と「脚」の奥深さを楽しむ 

日本語教師  矢野修三

 いきなりですが、「雨あしが強くなる」の「雨あし」を漢字で書くと、「雨足」か「雨脚」か・・・。いろいろな人に聞いたところ、ほとんど「雨足」。理由は、「脚」は書くのが難しいから。確かに、常用漢字になったのも比較的新しく、「足」に比べて馴染みの薄い漢字である。

 でも語源を調べてみると、中国から「雨脚」として、ナント平安時代ごろに入ってきたとのこと。でも、当時は「雨の脚」と書いたようで、源氏物語にも出てくる。なるほど。

 そして、江戸から明治・昭和にかけて、いろいろ変化し、表記も「雨の脚」から「雨脚」、読みは「あめあし」。さらに、「雨足」も登場し、読み方も「あまあし」に・・・。近代の文学作品などには「雨脚」のほうが多い感じだが、「雨足」もちゃんと使われている。

 このように歴史のある言葉であり、どちらが正しいか、など決める必要はなく、個人の勝手で問題なし。でも、最近は何となく「雨脚」のほうが詩的で、文学的センスありと思われるかも。

 実は、40歳過ぎに日本語教師になった昭和62年(1987年)ごろはこの「脚」はほとんど教えておらず、移住して、バンクーバーで「足を組む」を教えたとき、すごく困った思い出がある。

 この「足」と「脚」の違いだが一応辞書には、「足」は足首から先の部分で、「脚」は太ももの付け根から下の部分とされている。でも、訓読みはどちらも「あし」であり、違いなどもかなり曖昧で、日本語では、一般的に、人体には「脚」は使わず、ほとんど「足」を使っている。

 しかし、英語ではちゃんと「foot」と「leg」をはっきり区別。そこで英語では「足を組む」は「cross my legs」であり、「feet」などは全く考えられず、生徒から「脚を組む」のほうが分かりやすいですと、日本語の曖昧さを指摘されたようで、戸惑ってしまった。うーん、その通り。

 確かに、日本語は「足が大きい」や「足が太い」「足が長い」などで、足のどこの部分なのか、何となく分かってしまう。実用的だが、生徒にとっては誠にややこしい。特に、海外で教える日本語教師は要注意である。

 先日、ワイングラスの数え方「1脚・2脚」から、こんな質問を受けて、びっくり。なぜ、「美脚」と「脚本」と同じ「脚」の漢字を使いますか・・・。こんなこと日本人は考えたこともなく、困ったが、美脚に惑わされず、じっくり考えて・・・、「脚」は人間の体を支える大事な役目をしており、「脚本」も映画や舞台などの土台となるもので、どちらも物事を支える大事な役割を表わす漢字だから、と何とか説明づけた。 

 ところで、この「美脚」だが、最近はSNSなどでよく目につくようになり、生徒も質問したくなったとのこと。でも、なぜ「美足」じゃなくて「美脚」なのか・・・。理由は分らないが、確かに、音読みの場合は、「美足」(びそく)では発音も、見た目にもあまりピンと来ず、「美脚」(びきゃく)のほうが、何となく上品で、おしゃれな感じが。「感じ」も「漢字」も時代とともに、変わりゆくものなり。

 ミニスカートが流行し始めた昭和42年(1967年)、ツイッギーちゃんの「足」がきれいだった。でも、近ごろでは「輝く美脚」などのほうがいい感じかも。

 今年2025年は昭和100年。「昭和」はますます遠くなりにけりだが、まだまだ「足腰」を鍛えて頑張らねば。でも、最近の漢字は「脚腰」のほうが感じいいかも。

「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら

矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)    
メール:yano@yanoacademy.ca
ホームページ:https://yanoacademy.ca

7人制ラグビー・カナダセブンズ女子日本代表ベスト4に食い込む「小さい体でも勝てるラグビーを目指す」

逆転勝ちを喜ぶ日本代表。アメリカ戦。2025年2月22日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
逆転勝ちを喜ぶ日本代表。アメリカ戦。2025年2月22日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
執念の逆転勝ちに喜ぶ日本代表とぼう然とするアメリカ代表。アメリカ戦。2025年2月22日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
執念の逆転勝ちに喜ぶ日本代表とぼう然とするアメリカ代表。アメリカ戦。2025年2月22日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 バンクーバーで開催された7人制ラグビー世界大会カナダセブンズ。2月21日から23日までBCプレースで行われた白熱の戦いは、女子はオーストラリア、男子はアルゼンチンの優勝で幕を閉じた。

 女子日本代表は準々決勝でアメリカを破り準決勝に進出。今シーズンはドバイ大会での7位から、ケープタウンで6位、パースで5位と順調に順位を上げ、バンクーバーで初のベスト4入り。シリーズ総合順位も6位からカナダを抜いて5位に浮上した。

初日から強敵を倒し2連勝、準決勝ではアメリカに逆転勝ちでベスト4をつかみ取る

 初戦のフィジーに逆転勝ちすると、2戦目のイギリス戦では逃げ切って勝利した。2連勝で臨んだ2日目のプール最終戦ではプール最下位に沈んでいたフランスが本来の強さを見せ日本を圧倒。日本は2勝1敗としてプールC組2位で準々決勝に進んだ。

 相手はシーズンここまで4位の強敵アメリカ。前半を終えて7-5とリードしていたが後半立て続けにトライを奪われ逆転を許す。しかし13分、14分と連続トライで同点に追いつき、延長戦へ。17分に谷山がトライを決めて再逆転でアメリカを下し、準決勝への切符をつかんだ。

延長戦でアメリカに勝利する谷山のトライ。アメリカ戦。2025年2月22日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
延長戦でアメリカに勝利する谷山のトライ。アメリカ戦。2025年2月22日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 大会3日目、準決勝は初戦で勝っているフィジーとの対戦だったが、前半から圧倒され、最後まで追いつくことができず大敗。3位決定戦へと回った。相手はシリーズ総合2位のオーストラリア。幸先よく先にトライを奪ったものの前半で逆転を許し、後半に日本もトライを決めたが及ばず、メダルには手が届かなった。

 試合後、兼松由香ヘッドコーチは前大会より順位を上げることを今大会の目標にしていたと語り、「ベスト4に行きましたが、そこで満足せずメダルを取りに行きました」とオーストリア戦に臨んだという。スピードとパワーを持つ相手に対してのディフェンスに課題が残ったとは言え、これまでオーストラリアと対戦した時は全く自分たちのラグビーができなかったが「今回の試合の中では自分たちのスタイルでトライを取りきれたと思います」と収穫を語った。

このままトライを決めた梶木キャプテン。アメリカ戦。2025年2月22日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
このままトライを決めた梶木キャプテン。アメリカ戦。2025年2月22日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 ベスト4は女子日本代表にとって初の快挙。梶木真凜キャプテンは「後半にしっかりと自分たちのアタックを継続して執念を持ってトライまで取り切れた」と今大会を振り返った。

「小さいから強い」小さいことを強みにするラグビーを構築する

 バンクーバーで男女同時開催になったのは2023年。女子日本代表は出場するも2023年は9位、2024年は10位と、ベスト8を目指しながらも一歩届かないシーズンが続いた。

 しかし今シーズンはここまで全て7位以上。兼松HCは日本人選手の体が小さいことは変えられないが「逆に『小さいけど』ではなくて『小さいから』強いんだ、自分たちが小さいことを強みにするラグビーというもの今構築しようとしています」と話す。

オーストラリアとの3位決定戦。2025年2月23日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
オーストラリアとの3位決定戦。2025年2月23日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

 スピードとパワーが勝因の大きな要素を占める7人制ラグビーで「小さいから強い」を実現するために、「一大会、一大会でチャレンジをして、通用するところ、まだまだ改善しなくてはいけないところ」を積み重ねているという。そして「新たに自分たちの強みも大会ごとに見つかって、順位も一つずつ上がっています」。

 最終的な目標は2028年ロサンゼルス五輪でのメダル獲得としながらも、今シーズンは「ベスト8に入って(ロサンゼルスでの)グランドファイナルに進出することが当初の目標でしたが、こうして順当に順位を上げられているので次回の大会ではメダルを目指していけると思います」と香港、シンガポール大会を見据える。

 梶木キャプテンも「ベスト3、欲を言えば1位を狙えるよう戦っていきたい」と自信をのぞかせた。

2025年カナダセブンズ女子日本代表結果

プールC
日本 19-14 フィジー
日本 19-14 イギリス
日本 12-31 フランス

準々決勝
日本 22-17 アメリカ

準決勝
日本 7-28 フィジー

3位決定戦
日本 12-26 オーストラリア

準々決勝のフィジー戦。2025年2月23日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today
準々決勝のフィジー戦。2025年2月23日、BCプレース。Photo by Koichi Saito/Japan Canada Today

(取材 三島直美/写真 斉藤光一)

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ACT Vol. 7「複数形の身体」トーキョーアーツアンドスペース本郷で開催、モントリオール出身アーティストも参加

マリオン・パケット《Corps commun (Common Body)》2025
撮影:髙橋健治 画像提供:トーキョーアーツアンドスペース
マリオン・パケット《Corps commun (Common Body)》2025 撮影:髙橋健治 画像提供:トーキョーアーツアンドスペース

 「身体の複数性をテーマに、身体を起点とした表現を追求する」アーティスト3人の作品を紹介する「ACT(Artists Contemporary TOKAS)Vol. 7『複数形の身体』」がトーキョーアーツアンドスペース本郷で2月22日から開催されている。

 「他者との関係性をとおして変容していく身体や、ヴァーチャル空間における身体の複数化、社会というひとつの集合的身体など、さまざまな観点から現代における身体のあり様やその可能性を考察」するという展覧会に参加しているのは、マリオン・パケットさん、敷地理さん、庄司朝美さん。

 パケットさんは、1992年ケベック州モントリオール市生まれ、2015年ケベック大学モントリオール校ヴィジュアル&メディアアート学部卒業。2023年度二国間交流事業プログラム「ケベック」参加。2023年にTOKASのレジデンス・プログラムに参加した際には、「日本の公共空間で見られる『居眠り』という現象をリサーチし、どこでも簡単に個室の休憩空間を実現させる持ち運び可能な作品《inemuri -居眠り- dormir présent·e》を考案、公共空間に仮設的に出現させたプライベート空間によって、社会的な身体が突如、私的な身体へと変化する状況を作り出した」と紹介されている。

 モントリオールを拠点に活動し、「テキスタイルや紙など可塑性のある素材を用いた柔らかな彫刻作品を特徴とする」という。今展覧会では「生物の生態系を支える菌類のネットワーク『菌糸体』から着想された、大型のインスタレーション作品を展開」。3月23日にはクロージング・イベントでのパフォーマンスも予定されている。助成:ケベック・アーツ・カウンシル

ACT(Artists Contemporary TOKAS)Vol. 7「複数形の身体」

期間:2025年2月22日(土)~3月23日(日)
開館時間:11:00-19:00(入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日
会場:トーキョーアーツアンドスペース本郷(東京都文京区本郷2-4-16)
入場無料
マリオン・パケットさんのパフォーマンス:2025 年3月23日(日)3:00pm、予約不要
ウェブサイトhttps://www.tokyoartsandspace.jp/archive/exhibition/2025/20250222-7387.html

(記事 編集部)

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