
バンクーバーでの撮影
小雨のバンクーバー・ダウンタウンで2月13日、大きなカメラを持って撮影する一人の日本人映画監督がいた。昨年バンクーバー国際映画祭(VIFF)でチケットが完売し、VIFF関係者から大きく絶賛されたあのドキュメンタリー映画「粒子のダンス」の岡博大監督だ。
大学生時代、岡監督はふと建築家の「隈研吾先生」の授業を受講し感銘を受けた。卒業後は東京新聞の記者になり、世界的に有名になった隈氏を紹介する記事の担当になった。書きながら再び隈氏の功績に感動し、次は彼の記録を映像で残したいと考えた。だが映画を自主制作で学びながら完成させるのは大変な作業、15年という月日がたった。その甲斐あって上映時間が2時間以上と長いドキュメンタリーにも関わらず、「おもしろくて飽きないからまた来た」と観客のリピーター効果に繋がった。

監督はまずデンマークのコペンハーゲン建築ビエンナーレから招待され、バンクーバー国際映画祭に参加し、そして再びカナダのビクトリア映画祭に向かった。そこでも政府関係者や一般観客から万雷の拍手を受けた後、新しい友人や知人の待っているバンクーバーへ戻った。

だがゆっくりと観光する暇もなく、バンクーバーのダウンタウンにあるアルバーニ・ストリートに直行した。そこには「粒子のダンス」の撮影当時は未完成だった隈研吾氏による超高層レジデンス「Alberni by Kengo Kuma」(1550 Alberni)があった。入り口付近の竹やぶなど一目で日本の伝統技術を感じられる43階建てで、ペントハウスからコールハーバーの景色を一望できる美しい建物。丸2日間、天気の様子をうかがいながら撮影していた岡監督によると、建物は太陽の向きによって表情が全く変わるという。そのため時間を変えて、同じ場所に何度も戻りながら色々な角度から撮影した。

撮影中は常に真剣で表情も硬い岡監督だが、時折満足したような笑顔で建物の説明をしてくれる。ちなみにアルバーニの建物は超高級セレブ御用達のイメージがあるが、決して威圧的ではないという。
「先に建てられた先輩ビル(隣)の景色を邪魔しないように、調和を考えて作られています」と監督が指す方向を見ると、確かに曲面デザインのカーブの合間から隣ビルの景色が保たれている。それは「周りの環境に気をつかい、人間に優しい隈研吾」を代表するバンクーバー作品だった。
日本での活躍
カナダからの帰国後、すぐハンガリーのブダベスト建築映画祭に向かった。現地でさらに大きなスタンディングオベーションを受けた後、日本に戻って3月26日から「粒子のダンス」日本プレミアと全国上映が開始された。
プレミア上映は、世界のアート作品を上映することで有名な東京都渋谷にあるシアター・イメージフォーラムで4週間連続上映。その後都内や地方の映画館へと移行する予定だ。ちなみに岡監督は観客の反応を自分の目で確かめたいと、ほぼ毎日上映されている映画館へ出向いて舞台あいさつもしている。

そんな多忙中の4月8日、日本からインタビューに応じてくれた監督は、クロアチアの国際サウンド&映画音楽祭(International Sound & Film Music Festival)からの招待を検討しているところだった。この映画音楽祭は、世界三大映画音楽祭の一つで、今回の映画の音楽担当の藤本一馬さんが奏でるジャズ音楽も高い評価を受けた。ドキュメンタリー映画なのに、癒し効果の雰囲気を作りだしている音楽が同時に評価されるのは珍しいほど快挙だ。
監督が追う隈研吾氏も最近はロンドンのナショナル・ギャラリー新館建設のオファーを受けたばかり。次の作品にも期待がかかるが、監督自身の会社「湘南遊映坐」は非営利の一市民団体。費用工面などの苦労を抱えつつ、絶えず観客の喜ぶ作品を作りたいとチャレンジしている。隈氏のプロジェクト以外にも、現在希少になってきている東北の気仙大工の存在を知ってもらいたいと撮影している。地味な職人とされる彼らにもスポットライトを当てようとする岡監督の姿は、監督が語る隈研吾氏の「温厚で謙虚さ」に通じるものがある。
今後の監督のスケジュールや映画の上映予定は、www.particledance.jpでフォローできる。バンクーバーでの今後の上映にも期待したい。


(取材 Jenna Park)
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