「権利、正義、行動。すべての女性と少女のために」。3月7日の国際女性デー2026年はこのテーマで、女性の権利やジェンダー平等について各地でさまざまな活動が行われた。
カナダで130年以上の歴史を持つ「National Council of Women of Canada(NCWC)」は、女性の権利をめぐる課題に長く向き合ってきた団体の一つだ。創設期から教育や医療へのアクセス、法的権利の向上にも取り組み、現在も政策提言を通じて社会課題の改善を目指している。
今回は同団体会長ペニー・ランキン氏に、団体の歩みと活動、そしてカナダ社会が直面する現在の課題について聞いた。
女性の権利を守る130年以上の取り組み 市民の声を政策へ
ー NCWCはどのような歴史を持つ団体ですか
「NCWCには133年の歴史があります。1880年代にアメリカで開かれた一連の会合をきっかけに設立されました。当時の女性たちが、国際的にどのように連携し活動していくかを話し合うために、遠方から会議に参加していたと考えると、本当に驚くべきことです。
創設者であるレディ・アバディーンの関心は、女性参政権運動だけにあったわけではありません。女性が投票権を持つことを支持していたのは確かですが、彼女が特に重視していたのは、女性が教育を受ける機会や仕事を得る機会、そして医療や法的権利へのアクセスの改善でした。

その例として、ブリティッシュ・コロンビア州に関わるエピソードがあります。1890年代、バンクーバーの女性たちが(ノバスコシア州)ハリファックスで開かれた総会に参加し、州の農村地域で女性が医療にアクセスしにくいという問題を提起しました。
この会議をきっかけに、女性たちに看護教育を行う全国的なネットワークを作る構想が生まれ、『Victoria Order of Nurses』が設立されました。看護学校のネットワークを通じて医療サービスを広げ、カナダ全体に看護ケアを届けようという取り組みでした。この活動は現在も続いています。
しかし、それから130年以上がたった今でも、カナダでは遠隔地に住む女性が医療にアクセスしにくいという問題が残っています。
この活動に関わる中で強く感じるのは、女性や少女、そして人種的・社会的に周縁化された(主流から外されることで不利益を受ける)コミュニティを取り巻く課題が、今も数多く残っているということです。私たちは権利を守り続けるために、声を上げ続けなければなりません。そうしなければ、その権利は失われ、無視されてしまうからです」
女性参政権から80年 前進と今も残る課題
ー女性の権利を前進させた転換点はいつでしたか
「歴史的に見れば、カナダではいくつもの重要な前進がありました。代表的なものの一つが1929年の『パーソンズ・ケース(Persons Case)』です。この判決によって、一部の女性はカナダ上院議員に任命される権利を獲得しました。もう一つは1982年の『権利と自由の憲章(The Canadian Charter of Rights and Freedoms)』です。さらにカナダは『子どもの権利条約(Convention on the Rights of the Child)』など多くの国連条約を批准してきました。こうした一つ一つの取り組みが女性の権利や社会の平等を前進させてきました。
ただ、今私が個人的に懸念しているのは、社会の中で非常に保守的な価値観が強まる可能性です。ここで言う保守的というのは特定の政党のことではなく、価値観のことです。
特に現在アメリカで起きている社会の変化が、カナダ社会の一部にも影響するのではないかと心配しています。
私たちは組織としては非政党性を保っています。しかし女性の権利やLGBTQ、そして人種的に周縁化された人々やその他のマイノリティの権利が尊重されることについては、非常に進歩的な立場を取っています。社会の一部を軽んじれば、その影響は社会全体に及ぶからです。誰もが価値と尊厳を持っているという考え方が、私たちの理念の核にあります」
ー女性の社会進出は、社会にどのような変化をもたらしましたか
「カナダでは全国の全ての女性に投票権が完全に認められたのは1940年代になってからです。そこから、これまで女性の首相は1人しかいません。キム・キャンベルです。ただ、この30年ほどの間に政府の中でのジェンダー平等にはかなり近づいてきました。
女性が多くのポジションに就き、政府や企業のリーダーシップの場に女性が増えていくことは、とても良いことだと思います。
進歩の例として挙げられるものの一つが、カナダの中絶をめぐる法制度です。これは多くの女性が影響力のある立場に就いたこと、あるいは女性たちが連携して声を上げてきたことによって実現したものだと考えています。
銃規制の問題でも、これまで政策を後押ししてきた団体の多くは女性たちのグループです。飲酒運転の問題でも、(飲酒運転事故で娘を失った母親が設立した団体)『Mothers Against Drunk Driving(MADD)』のように、女性が集まり社会を動かしてきました。
ただ、特に公の場にいる女性たちが今なお直面している困難は、ハラスメントです。上院議員や下院議員の女性たちも、権力のある立場にいる女性は本当に多くのハラスメントにさらされています。だからこそ、この問題はまだ終わっていません。女性の数が増えれば解決するという単純な問題ではないのです。
自己主張が強く意見をはっきり言い、率直な女性は、『彼女は偉そうだ』『彼女はきつい』などと言われる。一方で同じ行動をする男性は、同じようには言われないことが多いのです。本当の意味で平等になるには、まだ時間がかかります」
暴力・オンライン被害・人身売買 女性を取り巻く現在の課題
ー現在、女性や少女を取り巻く最も深刻な課題は何ですか
「最も深刻な問題は、やはり暴力です。しかも暴力は増加しています。これは決して単純な問題ではありません。私たちは女性や少女、そして全ての人を守るための立法を求めています。
カナダの法律には、(女性が性別を理由に殺害される犯罪を指す)「フェミサイド(Femicide)」という言葉が、いまだに法的用語として入っていません。新しい司法大臣は、その言葉を導入することについて前向きな姿勢を見せているようですが、その言葉を法律の中に取り入れることはとても重要だと思います。
女性に対する暴力の問題は、銃規制や支援、ケアへのアクセス、住宅の問題など、さまざまな社会制度とも関わっています。
また、多くの女性が直面している問題の一つが、(DV(家庭内暴力)から逃れた女性や子どもが一時的に避難する)『シェルター』の利用の難しさです。子どもを受け入れる施設もありますが、多くは幼い子どもを想定しており、10代の子どもがいる家庭には対応できない場合もあります」
ー近年増えている被害はありますか
近年、特に大きな問題になっているのが、インターネット上で起きている被害です。これは現在私たちが取り組んでいる大きなテーマの一つです。(個人情報をさらす行為)ドクシング(Doxing)や(性的な画像や動画を送信する)セクスティング(Sexting)と呼ばれるインターネット上の問題は、特に少女たちに大きな影響を与えています。
Statista Research Departmentの調査によると、カナダでは11歳以下の子ども約270万人がインターネットを利用していると推計されています。また、Children First Canadaの調査によると、子どもを狙ったオンライン上の性的誘導は過去5年間(2023年ベース)で815%増加しています。若者の51%が抑うつを感じた経験があり、39%が不安を経験しているという報告もあります。
私たちが求めているのは、カナダ政府が子どもの権利条約に基づく義務を果たすこと。残念ながらカナダの子どもたちは、オンラインでもオフラインでもまだ十分に安全な環境を保障されていません。
私は以前、モントリオールの貧困地域で生活支援を行う団体で活動していました。その後、シリアの戦争をきっかけに世界中の難民キャンプについて調べ始め、多くの少女たちが人身売買の被害にあっていることを知りました。そこから調べていく中で、カナダでも非常に多くの人身売買が起きていることを知りました。カナダでは少女が最初に人身売買の対象になったり、そこに引き込まれたりする平均年齢は13歳です。私にとって大きな衝撃でした。
以前はショッピングモールのような場所で、加害者が少女に接触することが典型でした。しかし今では、インターネット上で接触が始まるケースが増えています。
インターネットの問題は、人身売買への誘導だけではありません。少女たちが『こう見えなければならない』『こう振る舞わなければならない』と感じてしまうことがあります。それは自己肯定感を育てるものではありません。嫌がらせや(差別的な発言をする)ヘイトスピーチ、インターネット上で(極端な思想に影響され)過激化することもあります。こうしたこと全てが社会に大きな影響を与えています。
もちろんインターネットは本当にすばらしいツールです。私はインターネットそのものを否定したいわけではありません。ただ同時に危険もあります。オフラインの世界では子どもにタバコを売らず、ギャンブルをさせず、お酒も買わせません。インターネットの負の側面についても同じように向き合う必要があります」
「平等は女性だけの問題ではない」社会全体で取り組む課題
ー今、社会に伝えたいことは何ですか
「平等という最終目標は女性だけの問題ではありません。みんなの問題で、社会全体の問題です。みんなが参加しなければいけません。
多くの組織で起こりがちな問題の一つは、人々がそれぞれの小さな枠の中だけで活動してしまうことです。私たちがやろうとしているのは、異なるコミュニティ同士の対話を絶やさないことです。そこには男性と女性だけではなく、あらゆる年代の人が含まれます。高齢者には豊かな経験があり、若い人にも若い人ならではの経験があります。
また、カナダでは子どもたちの声が十分に社会に反映されていないと感じています。全国評議会が25年以上取り組み続けていることの一つが、カナダに(子どもの権利が守られているかを行政から独立した立場で監視・調査・勧告する権限を持つ)『子どもコミッショナー』を設置することです。子どもたちの生活や現実を全国的に見続ける独立した存在が必要だと考えています。
そして、今年の国際女性デーのテーマ『権利、正義、行動。すべての女性と少女のために』は、前進を呼びかける力強いメッセージだと思います。ただし、言葉だけで終わらせてはいけません。
私たちが本当に求めているもの、必要としているものは、尊重、誠実さ、平和です。それが私たちの目標であり、人間として国際的な共通の目標です。そして、私たち人間の平和だけではなく、地球や環境との平和も必要です。人間が尊重されていると感じること、そして、自分自身や周りの人との関係の中で平和を感じられることが、私たちが本当に必要としていることなのです」
National Council of Women of Canada

女性や家族、社会全体の生活の質の向上を目指して活動する団体。1893年、レディ・イシュベル・アバディーンが設立、130年以上にわたり女性の権利や社会課題に関する提言活動を続けている。
全国、州、自治体の3つのレベルの評議会で構成され、個人会員のほか、州・自治体の評議会やNGO、各種団体などのネットワークによって支えられており、活動はすべてボランティアによって運営されている。
政府に対する政策提言を主な活動とし、提言書の提出や議会委員会での発言などを通じて政策形成に働きかけている。ジェンダーに基づく暴力や経済格差の問題のほか、核廃棄物の輸送や核エネルギーのリスク、飲料水の全国基準の導入など環境分野の課題にも取り組んでいる。https://www.ncwcanada.ca
(取材 田上麻里亜)
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