第22回 何もできない私とセレンディピティ(3)

 歌声喫茶の会場入り口に真っ白髭の「いのこしさん」と言う優しいお爺さんがにこやかに皆を迎え、プログラム歌詞を書いた紙をくれる。2冊の歌の本を借りる。買うこともできる。会費は毎回支払い、23年は15ドル、24年からは10ドルだ。座席は自由席。毎回私は同じ席に座った。初日、私は誰も知らないはずだったが、何処かで以前出会っていた人もいて、声をかけて下さる。嬉しかった。何だかとても暖かーい雰囲気で、「これなら恐れることは無い!」と言うのが第一印象だった。私の席の右隣席は「寅さん」と言う人がいた。当時、彼はマスクをしているので、顔は見えないが目は見える。優しい笑顔の目だった。難聴、ビッコ、音痴、悪声、その場に不慣れな私に、「寅さん」は全く何気なく、手を、又耳を、貸して下さる。彼は歌も上手だった。入り口で借りた歌唱本が黄色と青の表紙で、プログラムに「黄色―p15」とか「青―p10」とか書いてある。それがその時、歌う歌のその本の色とページだと彼が教えてくれた。なれない私は年中ページを間違える。しかし、その度に教えてくれる。有難かった。

 休憩時間が過ぎると今度はギタリストの「ケンさん」がリードしてくれたり、ユーモラスに短歌の披露が有ったり、くつろぐひと時だ。1時半から4時迄思い切り皆で楽しむのだ。

 そして、あれから丁度1年、もう2024年だ。なんだかとても楽しい1年だった。そして、心癒される時をこの歌声喫茶で過ごさせてもらったと思う。もし、我が家が日系会館から近く、歌の知識、数多くの歌曲を知っていて、声も出るなら、更に楽しさは倍になるだろう。毎回、発声練習に始まり、ラジオ体操をやり、オー カナダを歌い、その日の歌声喫茶がはじまり、最後の「今日の日はさようなら」を歌う。その歌詞が私はたまらなく好きで歌いながら毎回涙が出そうになる。

いつまでも 絶えることなく 友達でいよう
明日の日を夢みて希望の道を
空を飛ぶ 鳥のように
自由に生きる
今日の日はさようなら
またあう日まで
信じあう よろこびを
大切にしよう
今日の日はさようなら
またあう日まで
またあう日まで

 今年で200回目を迎えたと言う。皆の「愛情の塊」みたいな「歌声喫茶」だ、こうして300回にもつなげていって欲しい。
 楽しかった「歌声喫茶」1年間本当にありがとう。幸せ私のセレンディピティ

セレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。

許 澄子
2016年からバンクーバー新報紙でコラム「老婆のひとりごと」を執筆。2020年7月から2022年12月まで、当サイトで「グランマのひとりごと」として、コラムを継続。2023年1月より「『セレンディピティ』幸運をつかむ」を執筆中。
「『セレンディピティ』幸運をつかむ」はこちらから全てご覧いただけます。