「動物のための聖域」ファームサンクチュアリーとは?

The Happy Herd Farm Sanctuaryを訪れた

ピッグヨガの様子。草を食べ寝ころぶブタを横目にヨガを行う不思議な空間だった。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by ©Koichi Saito
ピッグヨガの様子。草を食べ寝ころぶブタを横目にヨガを行う不思議な空間だった。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by ©Koichi Saito

 いま、動物たちの生きる権利、アニマルライツを考える動きが活発になってきている。日本でもペットショップや畜産業界での動物に対する扱いが問題視されるなど少しずつ動物との関わり方が変わりつつある。

 そんな中、動物保護活動の一つとしてファームサンクチュアリーという動物のための聖域が、アメリカをはじめ世界で数を増やしているらしい。一体どんな活動をしていて、その背景にはどのような思いがあるのだろうか。

 調べてみると、ここブリティッシュ・コロンビア(BC)州にもいくつかのファームサンクチュアリーが運営されていた。そこでその一つであるラングレー市の「The Happy Herd Farm Sanctuary(ハッピーハード・ファームサンクチュアリー)」を訪れ、運営者のダイアンさんに話を聞いた。

-このファームサンクチュアリーについて教えてください

 ハッピー・ハード・ファームサンクチュアリーでは、虐待されたり捨てられたり危険にさらされている牛や豚、鶏などの畜産動物を保護しています。BC SPCAや地元警察から、あるいは個人から引き受けています。私たちは慈善団体として登録されていて、基本的には寄付とボランティアによって運営されています。週に70人ほどのボランティアが交代制で動物たちの世話をし、食事と水を与え、良い生活環境を提供しています。

-いつから運営されているんですか?

 2012年からです。その前は馬を救出したり競馬場から馬を買ったりして、乗馬体験ができる乗馬センターを建てて経営していました。しかし事故にあって脚を負傷してしまい、私が引退できるように、その場所を売ってこの土地を買ったことから始まりました。

-どのような目的で運営されているのですか?

 動物を救い、人々に回復と活力を与える場所を提供することです。ここには障害のある人や病気の人たちも来て、リラックスしています。多くの人はストレスを感じているのに、やって来て、ボランティアとして私たちを助け、ストレスを軽減させて帰っていくのです。中にはお酒をやめようとしていたアルコール依存症の人もいて、二日酔いでは来られないのでお酒を飲まなくなりました。動物たちと触れ合う時間があれば、動物たちは人間のためにたくさんのことをしてくれるんです。

手作りの小屋で雨風をしのいで安全に暮らしているヤギたち。窓際を気に入っているヤギはいつも同じ場所で外を眺めているという。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by ©Koichi Saito
手作りの小屋で雨風をしのいで安全に暮らしているヤギたち。窓際を気に入っているヤギはいつも同じ場所で外を眺めているという。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by ©Koichi Saito

-なぜこの施設の運営を始めようと思ったのですか?

 動物たちがどれほどの残虐行為を受けてきたのかを知り始めたことで、それをより多くの人に伝えたいと思ったからです。また、訪れる人々はしばらくファームに滞在すると、動物に心をつかまれてビーガンになる人が多いんです。

-ダイアンさんご夫妻もビーガンとのことですが、なにかきっかけがあったのでしょうか?

 日本の太地という町で、映画「ザ・コーブ」でイルカを全て連れてきて殺すシーンがありました。それをスティーブ(共同運営者でダイアンさんのパートナー)が実際に日本を訪れて見に行ったのです。それから家に帰ってきて、彼はシー・シェパードという組織に参加しました。それが彼と私をビーガンにさせたきっかけです。

-日本の動物保護への関心はまだまだ少ないように感じています。カナダの動物保護の現状を多くの日本人に知ってもらいたく今回取材させていただきました。

 日本の動物保護は良くなってきていると思います。

 私たちはBC州で最初のファームサンクチュアリーでしたがどんどん増えてきていて、現在は5カ所で運営しています。しかしどの施設もとても小さいものです。より多くの動物を飼育するためにはもっと土地が必要ですが、私は年を取っていてもうそれほど多くの仕事ができません。年中無休で今朝はピッグヨガ(この日行われたイベント。記事「『ブタと一緒にヨガを楽しむ』The Happy Herd Farm Sanctuary」で紹介)の準備で掃除のために6時30分から外出していたので、昼過ぎのこの時間には2時間ほど休憩して食事を取ることができています。

毎日約12時間、動物たちの世話をしているという共同運営者のスティーブさん。保護されている牛たちを紹介してくれた。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by 池田茜音
毎日約12時間、動物たちの世話をしているという共同運営者のスティーブさん。保護されている牛たちを紹介してくれた。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by 池田茜音

-ファームサンクチュアリーの運営で何か問題点はありますか?

 私たちは常にお金が必要です。政府からの支援はなく全て寄付によって行われているので、全ての経費は寄付による資金から支払われています。

-どのように費用を捻出しているのですか?

 企業と協力してボランティアデーというものを行っているので、企業が助けに来てくれたり、寄付をしてくれることもあります。しかしほとんどの場合はインターネットで私たちを知って記事を読み、サイトの寄付ページから毎月5ドルから100ドルまでの範囲で寄付をしてくれる個人から成り立っています。それで毎月いくらあるのかが大体分かるので、とても助かっています。また、No Frillsやフレスコのような大型スーパーから店頭で売れなくなった食べ物の寄付も受けています。

「何かを学んだとき、人生は変わります。そして心が言うことに従うんです」

ダイアンさん(右)とスティーブさん。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by ©Koichi Saito
ダイアンさん(右)とスティーブさん。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by ©Koichi Saito

 馬を助ける乗馬センターを建てる前まではストックブローカーをしていて、その頃は現在の生活を想像もしていなかったというダイアンさん。夫のスティーブさんがビーガンになり、動物に関するさまざまな残虐の事実を知ったことをきっかけに自身も動物性の食品を口にしなくなった。それからずっと動物保護に関わり続けている。

 現在70代のダイアンさん夫妻は、動物たちが人の監視下から離れてよりストレスなく自由に生きられるような広い土地を購入するための大規模な募金活動を検討中だそう。資金不足や高齢であることなどの問題もありながら、動物たちを救うためにさらなる目標に挑んでいる。事実と向き合い、人生の新たな道を選択した夫妻からは動物への感謝の気持ちと無償の愛を感じた。

 ダイアンさんは「全ての動物に個性がある」のだと繰り返す。広々としたファームを回りながらそこで暮らすさまざまな動物たちの名前をあげ、性格やここに来た経緯を説明してくれた。人と同じように動物にもそれぞれに生まれ育った境遇、歴史があり、個性があるということを教えてくれた。

 ファームサンクチュアリーで保護された全ての動物たちは、食べられたり毛皮を使われたりするための畜産動物としてではなく、意思のある個の動物として生涯傷つけられることなく過ごす。BC州でもこのような施設が増えてきている一方で、約60頭の動物たちにかかる食費や維持費は寄付とボランティアのみで運営されている厳しい状況だった。

 バンクーバー初のサンクチュアリー「ハッピーハード・ファームサンクチュアリー」はウェブサイトやSNSから、自然の中でのびのびと暮らす動物たちの生活やボランティア活動の様子などを日々共有している。

The Happy Herd Farm Sanctuaryウェブサイト: https://www.happyherd.org/

「ブタと一緒にヨガを楽しむ」The Happy Herd Farm Sanctuary

筆者もヤギに触れさせてもらった。動物たちは落ち着いていて、健康的な毛並みをしていた。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by ©Koichi Saito
筆者もヤギに触れさせてもらった。動物たちは落ち着いていて、健康的な毛並みをしていた。2023年7月8日、BC州ラングレー市、The Happy Herd Farm Sanctuary。Photo by ©Koichi Saito

(取材 池田茜/写真・ビデオ 斉藤光一)

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