245 ☆ 「億劫」は とても億劫 !

外から見る日本語

日本語教師  矢野修三

 コロナ騒動もかなり沈静化の光が見えてきた感じ。ここバンクーバーもウィズ・コロナが進んで、社会活動なども制限なし。いろいろなイベントも通常通り行われて、ホッとしている。でも相当長い間、閉じこもり生活に慣れてしまい、いろいろ外出の準備が億劫になり、外出そのものも億劫になってしまった。

 この「億劫」、世代や個人差によってもかなり異なると思うが、仲間同士の会話では今でもかなり使われている。例えば、「夜の外出がおっくうになったね」や「毎日のひげ剃りがおっくうだよ」など、シニアの集まりなどでよく耳にする会話である。

 しかし、書き言葉として、エッセイなどの文章に、「億劫」と漢字で書いてあると、文字として見慣れていないので、かなりの人が違和感を持つようである。特に若者世代は読めない人も多い。

 小生もこの「外から見る日本語」を長く書いているが、何回か「億劫」を使おうと思った場面があった。でも、やはり漢字では何となく気が進まず、まして、ひらがな書きの「とてもおっくうになった」は読みにくい。そこで「面倒」など同じような言葉を使って文章を書き直した思い出がある。

 さて、この「億劫」の語源、かなり複雑で億劫だが、なかなか興味深い。まず「劫」、この漢字は常用漢字ではないので、日常ほとんど目にすることはない。辞書を引くと、読み方も「コウ」や「ゴウ」などあり、意味は最初に「おびやかす」が載っている。えー、びっくり。でも本場中国では、脅迫などの意味でよく使うとのこと。この「劫」は「去」と「力」であり、去るのを力で脅かすことが語源かも。まさか。

 次に「無限に近い極めて長い時間」とある。これは古代インド仏教の「時間の単位」とのこと。うーん、同じ漢字になぜこんなに違った意味があるのか、摩訶不思議。この「劫」にはこんな伝説が。100年に一度、天女が地上の大きな岩に舞い降り、その岩を羽衣でなでる。その摩擦でその岩が無くなるまでの時間。えー、計り知れない、ありえない長さである。さらに「億」はご存知、数の単位であり、この「億劫」は「劫」の千倍どころか億倍。まさに人の世では想像を絶する、「未来永劫」の長さである。

 そこで、日本ではこの「億劫」をものすごく時間がかかり、とても面倒で気がのらないような意味として使うようになった。なるほど。昔は「おくこう」と発音していたようだが、だんだん変化して、現在では「おっくう」になった。正に歴史を感じる言葉である。

 こんな由緒ある言葉なので、短い時間のひげ剃りなどに「億劫」を使ったら天女さまに怒られるかも。でも加齢とともに、雨の日の外出などは億劫になってしまう。しかし食べることが億劫になったら、一大事。そうならないよう、頑張ってエッセイを書き続けますので、億劫がらずに、読んでいただければ幸いです。

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