第61回 広島の被爆者活動家サーロー節子さんの悲痛な願い

~「原発だけには何があっても爆撃しないで!」~

 時事問題のニュースを私なりに追っている物書きとしては、どうしてもこの時期にウクライナに関する原稿を一本書きたいと思っていた。だが事態は刻々と変化しており、この原稿を書いている14日(月)の状況と、読者の目にふれる17日(木)までに戦況がどの様に変化しているか見当はつかない。

 国際法無視の限りを尽くしているプーチン大統領。「気が狂ったか?!」と迄言われる強硬姿勢は2月24日の開戦以来今日で18日目を迎えた。世界中が日々の動きを注目しているものの、ロシア軍はキエフ陥落を目指しているようで撤退などする様子は全くない。

 ここに至るまでのロシアの政治的/歴史的な成り行きを始め、G7などを中心にしたロシアに対する経済的締め付け、戦場で取材するジャーナリストたちからの破壊されたウクライナの街々の状況は、間断なく茶の間に届けられる。だがSNSの拡散などで、信憑性に疑問を感じるものも少なくないため注意を要する。

 この状況はコロナが蔓延し始めた二年余り前、病原菌に世界中が脅かされ右往左往した時を彷彿とさせる。あの時も各方面からの情報が錯綜し、正誤の判断の難しさを感じたものだ。

難民の受け入れ 

だが今回は武器を使っての戦争である。それまでは平穏に暮らしていたウクライナの人々が、取るものも取り敢えず雪のチラつく中をスーツケース一つで逃げ惑う姿は、凝視するのが困難である。

 青天の霹靂で難民になった人々の多くは、女性、子供、老人でその数は現在までに260万人と言われる。しかし近隣国に親戚、友人、知人が居る人ばかりではなかろう。身寄りがなく、独り身の人々もいるであろう。地下鉄の構内で産気づき子を産んだ人、爆弾で子供を失くしたりけがを負った人、祖国のために戦う夫、息子、兄弟を残して国を後にした家族…。乳飲み子のオムツは? 若い女性の生理用品は? 老人の常備薬は? 考えただけでも胸がキリキリと痛む。

 こうして多くの欧州諸国が、数えきれない難民を急遽受け入れているのに反して、日本では「まずは親族や知人が日本に居る方々を受け入れる」とし、その後は「適切に認定する」と言うにとどまっている。手始めとして、訪日希望者に対して在外公館は90日間の短期ビザを発給していると言うことだが、彼らのステータスは『難民(refugee)』ではなく『避難民(evacuees)』であり、11日までに8人が日本に到着したと言う。

 日本の難民受け入れのハードルが高いことは良く知られているが、ちなみに2020年に難民申請した3936人の中で認定したのはわずか47人で1.19%、カナダは56%であった。

原発への爆撃

欧州最大級のジャポロジェ原発のニュース。Photo courtesy of Keiko Miyamatsu Saunders

 今までの戦況経過の中で誰もが一番恐れたのは、ロシア軍が制圧したチェリノブル原発(1986年に爆発事故を起こし現在は閉鎖されている)と、欧州最大級のジャポロジェ原発のニュースではなかったろうか!

 ウクライナ原子力規制当局によると、同国の4カ所にある15基の原子炉の内現在は8基が稼働中という。現時点では放射線レベルは正常とのことだが、今後ロシア軍が他の原発を標的にしないとは限らない。一たびロシアがそうした愚行を行ったら、生きとし生ける者たちの苦しみは如何ばかりか。放射能汚染やその被害の恐ろしさを世界で一番よく知っているのは日本である。

ドキュメンタリーフィルム、『The Vow from HIROSHIMA(ヒロシマへの誓い)』と題する
ドキュメンタリーフィルム、『The Vow from HIROSHIMA(ヒロシマへの誓い)』。Photo courtesy of The Vow from HIROSHIMA

 折も折3月6日には、National Association Japanese Canadian(NAJC)の肝いりで、『The Vow from HIROSHIMA(ヒロシマへの誓い)』と題するドキュメンタリーフィルムがzoomによって上映された。

 主人公は、13才だった1945年8月6日に原爆投下された広島に住んでいたことで被爆し、以来心身ともの苦しみを背負いながら、長い年月核兵器廃絶の活動を続けるサーロー節子氏。70数年に渡りその恐怖と愚かさを語り継ぎ、90才のご高齢の今も不屈の精神を持って精力的に活動をしている。

 2017年にノーベル平和賞を受賞したグループ「I CAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)」の発足当時から代表を務め、国連を始め世界各地での国際会議で演説し、ノーベル賞授賞式では一段と力強いスピーチを行い、世界へ向けて核廃絶の重要性を説き満場の拍手を浴びた。

*4年を掛けて制作されたドキュメンタリー映画のプレス資料/予告編:https://www.hiroshimaenochikai.com/trailer.html

*個人で観賞する場合にはNetflexと同様に以下を通して申し込むことが出来る:

https://www.ovid.tv/videos/the-vow-from-hiroshima

https://www.ovid.tv/checkout/subscribe/purchase

 サーロー氏はロシア軍に対して「何があっても原発だけは爆撃しないで!」と悲痛な思いで祈願している。

追記:
3月16日(水)の日本経済新聞によると、「日本は難民受け入れに慎重な姿勢を改める異例の対応をとる。岸田文雄首相は15日、古川禎久法相らと協議しウクライナからの避難民の受け入れ体制づくりを指示した」とあるが、あくまでも「避難民」と言う言い方に固執している。

サンダース宮松敬子 
フリーランス・ジャーナリスト。カナダに移住して40数年後の2014年春に、エスニック色が濃厚な文化の町トロント市から「文化は自然」のビクトリア市に国内移住。白人色の濃い当地の様相に「ここも同じカナダか!」と驚愕。だがそれこそがカナダの一面と理解し、引き続きニュースを追っている。
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