第87回「年間1億円の粗利を生んだ活動とは」

 先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、B2Bビジネスを営む方からご報告をいただいた。タイトルは「B2Bビジネスでワクワク系に取り組んだ4年半の振り返り」。文字通り、この4年半の取り組みと成果を振り返ったものだ。

 念のため説明しておくが、「B2Bビジネス」とは、Business to Businessの略で、法人から法人への企業間取引を主としているビジネスのこと。同社はある地方の町で、法人客への事務機器の販売・保守や、測量・設計機器の販売・保守などを行っている、年商20億ほどの会社だ。当会には、実はB2Bビジネスの方は少なくない。こうしてコラムで例に出すにはサービス業の現場事例が分かりやすく、それが目立ってしまうが、B2Bビジネスの会員企業は特に近年増加傾向にある。

 そんな同社の4年半の取り組みの主力は、「顧客のストック活動」。取引先との強固な関係を築き、固定的で安定的な顧客になってもらうための活動だ。ワクワク系を始める前は、社長いわく、「定期的に買ってくれているお客様が何社なのか、今期と先期比較で取引顧客数が増えたのか減ったのか、休眠客が何社なのか…そういう全体の分析も、特定もしていない会社でした」。そのような活動は何も行われていない状況だった。

 そんな彼がまず始めたのは、顧客にお礼状を送ることだった。とはいえ、「絆作りの重要性などなどを教わり、でもそれって実店舗を持った主に個人相手の商売だから当てはまる話だしなあ」と思っていた当時だったのだが、業績が低下する中、「法人客といってもウチのお客様は中小企業が大部分。決裁権者は社長や社長の奥様。これってお店に買い物にくる個人客と何ら変わらないんじゃ…と思い込むことにしました」。そうして地道にお礼状を続けながら、次いでワクワク系のセオリーに則ったニューズレターも発行。現在では約3000部を顧客らに郵送しているとのこと。

 もちろんそのコストは小さくない。「結構なカネが掛かっていますが、これは費用ではなくて、将来の売上・粗利を生み出す為の投資だと考えるようにしています」と彼も言うが、この言葉は単にそう努力しているという意味ではなく、この活動が4年半で、新たに粗利額にして年間約1億円を生むようになったデータ上の事実と確かな手ごたえから出たものだ。

 昨今、時代はますます不透明さを増している。このような時代には、顧客のストックは重要にして急務。そして始めるのが早ければ早いほど、早く果実を手にできる。さあ、今すぐ、あなたも。

 
小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール 

 山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
 
 人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。

 2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。 

 「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は最新刊『「顧客消滅」時代のマーケティング』をはじめ、新書・⽂庫化・海外出版含め40冊。

 九州⼤学非常勤講師、⽇本感性⼯学会理事。