ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市にある日系文化センター・博物館が2020年9月22日に開館20周年を迎えた。
日系文化センタ―・博物館について、設立の経緯を含め、日系カナダ人や日本人、さらに地域の人たちの交流の場、日系カナダ人の歴史を伝える場としての歩みを振り返る。
日系文化センタ―・博物館の開館当時の名称はナショナル日系博物館・日系ヘリテージセンターだった。
リドレス(補償)基金で土地を購入
日系カナダ人は第二次世界大戦中、財産没収のうえバンクーバーから強制移動となった。カナダ政府が第二次世界大戦中と戦後、日系カナダ人に不正を行ったことを認め、補償(リドレス)に関する合意をしたのは1988年のことだ。
その後、1992年に日系カナダ人リドレス基金のうち300万ドルが日系ヘリテージセンター協会に提供された。1993年に同協会がバーナビー市に3エーカー(約12平方キロメートル)の土地を購入。「新さくら荘」、「日系ホーム」とともに、「ナショナル日系ヘリテージセンター(当時の名称)」が建設されることとなった。
日系文化センター・博物館が生まれた背景には、財産を奪われた上に強制収容となった日系人への補償金や、歴史が失われることがあってはいけないと考えて、プロジェクトを支援してきたボランティアたちの献身的な働きがあった。
待望のセンター開館
土地を購入してから約7年後、2000年9月22日、日系カナダ人や日本人念願のナショナル日系ヘリテージセンターがオープンした。
開館式は秋晴れの空の下、内田勝久駐カナダ日本国大使、連邦政府アジア太平洋地域担当国務大臣レイモンド・チャン氏、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府からは多文化主義・移民大臣のスー・ハメル氏、バーナビー市ダグラス・ドラモンド市長、 リドレス財団議長を10年間務めたヘンリー・シミズ氏、ナショナル日系ヘリテージセンター協会会長ゴードン門田氏(いずれも当時の肩書)などが出席して行われた。
また、ナショナル日系ヘリテージセンターの開館を記念して、「日系カナダ人補償運動回顧展」が開かれた。
カナダと関係の深い高円宮妃久子さまもご訪問
(2000年から2009年)
開館から2年を経た2002年12月、ナショナル日系ヘリテージセンターと博物館が合併。「ナショナル日系博物館・ヘリテージセンター」と一つの組織となった。
2004年6月、高円宮妃久子さまが日系ヘリテージセンターをご訪問。
高円宮家は故・高円宮憲仁親王がカナダのクイーンズ大学に留学されていたこともあり、憲仁親王が亡くなった今もカナダとの関係が深い。高円宮妃久子さまは何度かカナダを訪れ、日系ヘリテージセンターにも足を運んでいる。
2005年10月、博物館でバンクーバー朝日軍に関する展示『朝日軍遺産展覧会』開催。
映画『バンクーバーの朝日』で日本でも知られるようになった、バンクーバー朝日軍(Vancouver Asahi)は、1914年から1941年まで、バンクーバーで活動していた日系移民の野球チームで、2003年にカナダ野球の殿堂入りした。
展覧会には、元朝日軍メンバーのケイ上西さんもカナダ野球殿堂から受け取ったジャケットを着て出席した。このユニフォームは日系博物館に寄付されている。
日加修好80周年には天皇・皇后両陛下をお迎え
2009年7月に平成の天皇・皇后両陛下(現、上皇ご夫妻)がカナダを公式訪問した際、ナショナル日系博物館・ヘリテージセンターでもお迎えした。
両陛下は戦前、戦中に厳しい状況に耐えながら、移住先の国の発展に尽くし、日本との友好親善の基礎作りにも多大の貢献をされてきた日系人に深い思いを持ち、カナダの日系人のことも気にかけてこられた(宮内庁資料より*)という。
ナショナル日系博物館・ヘリテージセンターでは日系人代表を含む招待客120人が両陛下と謁見した。歓迎した人の中には、隣接する日系ホームや新さくら荘の入居者、日系プレースに入っているグラッドストーン日本語学園の生徒たちもいた。
より成熟した組織へ(2010年~)
2010年以後も、ナショナル日系博物館・ヘリテージセンターでは、さまざまな日系コミュニティのイベントが開催され、重要なイベントの場所としての地位を確立してきた。
2010年2月のバンクーバー五輪開催に伴い、バンクーバーに滞在した日本人アスリートらがナショナル日系博物館・ヘリテージセンターを訪れた。また、五輪に参加する全てのアスリートを折り鶴で応援しようという「5千羽鶴プロジェクト」を日系団体が企画した。できあがった5千羽鶴の除幕式は日系博物館・ヘリテージセンターで行われた。
2011年9月、日系カナダ人コミュニティに貢献した個人や団体に感謝の意を表するための日系プレース・コミュニティアワード授賞式と、日系センターの活動への寄付金を募るディナーが初めて開催される。
2012年6月、日系カナダ人強制収容70周年イベント、バスツアー。
2012 年9月、名称を日系文化センタ―・博物館(Nikkei National Museum & Cultural Centre)に変更。2階に常設の写真展示、“Taiken: Japanese Canadians since 1877” ができる。
2013年8月、第一回日系祭り。
今ではすっかり夏の終わりの恒例イベントとなった日系祭りが初めて開催された。
大ホールには屋台が並び、日本のお祭りの雰囲気たっぷり。また館内ロビーには子ども向けゲームコーナーが用意されて、大人から子どもまで楽しんだ。ステージではカナダ人落語家、桂三輝(サンシャイン)さんによる特別落語、太鼓、日本舞踊、獅子舞、神輿パレードなどさまざまなパフォーマンスが披露された。
2013年9月、リドレス運動25周年を記念して、巡回展 “A Call for Justice: Fighting for Japanese Canadian Redress” が始まる。
2015年7月、バーナビー市と釧路市の姉妹都市50周年レセプション。
日系文化センターのあるバーナビー市と、釧路市が姉妹都市関係を結んで50年になるのを記念して、2015年にはさまざまな記念行事が行われた。7月7日から11日までは釧路市からの訪問団がバーナビー市に滞在。7月9日に日系文化センター・博物館でバーナビー市が主催する記念レセプションが開催され、両市の市議会議員や日系コミュニティ関係者などが出席した。
記念レセプションであいさつする、在バンクーバー日本国総領事・岡田誠司氏(当時)©The Vancouver Shinpo バーナビー市、デレク・コリガン市長 (当時)©The Vancouver Shinpo
2016年1月、イベントホール横に武道場新設。
合気道、柔道、空手、居合道など、日本の武道団体も日系文化センターを利用している。武道場はこれらの団体にとっての長年の夢でもあったという。それまでは倉庫として使われていたエリアを56畳のたたみ敷きにリフォームした。また壁もガラスになったことで、外から見学できるようになった。
2016年4月、着物ファッションショー開催。
2019年4月、カナダポストが朝日軍の記念切手を発売。
2019年7月、日系博物館が「カラサワ・ミュージアム」、「チャールズ・カドタ・リソースセンター」となってリニューアルオープン。
カラサワ・ミュージアムは強制収容時代だけではなく、それ以前の時代、戦後の新世代の移民、リドレス運動など、過去から未来へとつながる展示している。チャールズ・カドタ・リソースセンターでは、学生や研究者のためにギャラリースペース、アーカイブ・エリアの拡張、資料のオンライン化なども行った。
2019年8月、高円宮妃久子さま、日系祭りご臨席。
日加修好90周年記念行事など臨席のためカナダをご訪問中の高円宮妃久子さまが、日系祭りに臨席される。第7回となったこのイベントには2日間で約14,000人が訪れた。
パンデミックの中で迎えた20周年
日系文化センター・博物館にとっても、パンデミックの2020年は困難の年となった。新型コロナ感染拡大により3月には閉館となり、再オープンしたのは6月。再開後は、来館人数を制限するなど公衆衛生命令を守り、イベントについては、日系祭りはサマーアット日系ガーデンとし規模を縮小して開催した。
当初は盛大なものを考えていた20周年記念式典も、関係者のみで、かつ人数を制限して祝った。
博物館では日系人の歴史に関する実物資料の収集や管理も行っている。『バンクーバー新報』の41年分の新聞も寄贈された。
日系文化センター・博物館では「この困難な状況によって、逆境に負けない強さを発揮する機会も得た」として、「これまでとは違う形でプログラムの提供を続けて、世界規模のコミュニティにオンラインでつながりを広げていきたい」と意欲も示している。
年明けに際して、パンデミックが収束して、これまでのように日系文化センター・博物館で多くの人が集まることができるようになる日が早く来ることを期待したい。
Nikkei National Museum & Cultural Centre
6688 Southoaks Crescent, Burnaby, BC, V5E 4M7
Tel: 604-777-7000
Fax: 604-777-7001
*https://www.kunaicho.go.jp/activity/gonittei/01/gaikoku/h21northamerica/eev-h21-northamerica.html
(取材 西川桂子)
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