JWBA秋の講演会(前編)「コロナはチャンスだった、地上に降りた機内食」

ジャパンスカイダイニング代表・國光愛さん。講演中には笑いも起こるほど、明るい雰囲気に包まれた。2022年10月13日、バンクーバー市リステルホテルで。Photo by ©Koichi Saito
ジャパンスカイダイニング代表・國光愛さん。講演中には笑いも起こるほど、明るい雰囲気に包まれた。2022年10月13日、バンクーバー市リステルホテルで。Photo by ©Koichi Saito

 今年25周年を迎えた日系女性企業家協会(JWBA)が10月13日、バンクーバー市リステルホテルで秋の講演会を開催した。

 講演者は、國光愛さんとハイディ浜野さん。講演内容を2回に分けて紹介する。前編は、國光愛さん「コロナはチャンスだった、地上に降りた機内食」、後編はハイディ浜野さんの「あなたも家が買える、クレジットスコアのからくり」。

ジャパンスカイダイニング代表・國光愛さん「コロナはチャンスだった、地上に降りた機内食」

 機内食を調製し、バンクーバーから日本への直行便を運航する路線で、主に和食を提供するジャパンスカイダイニングの代表・國光愛さん。新型コロナウイルス禍の逆境をチャンスに変え、乗り越えた経験を語った。

一つひとつ手作りの機内食製造現場をプロジェクターで示しながら説明する國光さん。2022年10月13日、バンクーバー市リステルホテルで。Photo by ©Koichi Saito
一つひとつ手作りの機内食製造現場をプロジェクターで示しながら説明する國光さん。2022年10月13日、バンクーバー市リステルホテルで。Photo by ©Koichi Saito

 2004年に家族で来加。バンクーバーで人生初の専業主婦を体験した後、事業を引き継いだ。

 「私は悩むことよりも先にやってみようと思うのが先行します」と事業を引き継ぐ決心をした当時を振り返った。「行動に移すことに力を注ぐべき」がモットーだ。

 機内食の製造は機械作業ではなく、一つひとつ手作業。それは、ビジネスクラスも、エコノミークラスも同じ。難しいのは、温度管理が重要で、おいしさだけを追求するわけにはいかないところだという。

 そうした難しさを克服して、日本航空が実施している機内食に携わった企業のクオリティアワード制度(Meal and Operation Quality Award)の中距離カテゴリー(Middle Haul Category)で2017年・18年に世界1位に輝いた。

 そして、3年連続を目指していた矢先に新型コロナウイルスの感染が拡大した。

 日本便は全便運休、機内食の注文はゼロに。30人以上いたスタッフも激減、少ない注文をこなす日々が続いた。

 街では新型コロナ禍でロックダウンが続き、状況は悪化する一方。「このままでは心が折れてしまう」と、スタッフとミーティングを重ね、「食事だけでも楽しめたら」と何ができるかを考えた。

 ここから「モットー」が爆発する。

 これまでの経験を生かして「食」に携わるべきだとの結論に至り、身の丈にあった「食」のビジネスをするのがいいと考えた。今ある食材と知識を生かして自分の好きなことと結びつける弁当ビジネスを思い付く。

 しかし、一つひとつ注文を取って作るノウハウはなく、また、ウーバーイーツが始まった頃でレストランのデリバリーには勝てないと思った。

 そこで、「ジャパンスカイダイニングが提供できる特化した商品は何か?」を考え、閃いたのがプラッターだった。数種類の酒のつまみやご飯のおかずを提供してはどうか、毎週メニューが変れば毎週楽しみにしてもらえるのではないか、と考えた。

 1週間に一度プラッターのメニューを変えることは、想像以上に過酷なスケジュールだったが、悩んでいる暇はなかった。すぐに取り組み、第1弾を試食してもらい、第2弾もすぐに作った。「行動力の速さは今までの経験とスタッフの団結力だったと思います」と振り返った。

 また、中身を伝えるための「おしながき」を必ず毎週付けると決めた。そこから日々勉強とアイデアの勝負だった。こどもの日、母の日、節分、七夕など、子どもと大切にしていた日本の行事が生きた。思い付くものはなんでも商品にした。「鬼滅の刃」が大ヒットしていると聞いて、恵方巻を鬼滅の刃仕様にした。カナダ政府が入国者全員に2週間隔離を実施した時には、友人の助言を基に「2週間隔離メニュー」を作って注文を受けるとホテルに届けた。

 新型コロナが収束しない中で新年を迎えるにあたり「明るい新年を迎えるためにお節をやろう」と考え、日本ほど盛大でないカナダの正月には「食べきりサイズ」と決めた。決めたら即実行。ハロウィンが終わるタイミングで、どこよりも早くに告知。そして、無事12月31日と1月1日に届けた。

 その後、機内食の仕事が徐々に戻ってきたが、新しいことにもチャレンジした。

 1人ではプラッターほど大きなものはいらないけど「お弁当があったら頼みたい」という「近所に勤務する車屋さんのお兄さんの一言」をきっかけに、「注文から30分でできるお弁当」を思い付いた。思い立ったらすぐ行動。その日のうちにお弁当を作ってその人に届けた。それから毎日注文してもらえるように日替わりメニューを考えた。

 「今振り返ってみると、この3年間は、内容の濃い年月だったと思います。どうやって乗り超えたんだろうと考えると、間違いなく即行動したことだと思います」

 すぐに行動を起こして乗っていかないとあっという間に置いていかれる。「波に乗るためにも、チャンスがきたときにチャレンジでき、捕まえる準備をしておくことが重要だと思います」

 今できることをしっかりしていれば必ず結果は付いてくると信じて、毎日の仕事に専念。その結果、日々の仕事を評価してもらい、新しい仕事が入ってくるようになる。

 現在は、日本便以外の国際線での機内食も手掛けるようになった。「日々のコツコツした努力がチャンスをしっかりつかむ準備になったんだと思います」。

 それでも降りかかった災難をチャンスに変えられるかは自分次第だ。

 「ちょっとしたきっかけで行動を起こす勇気がある人こそ、どんどん人生を好転させていくんだと思います」。新しいことに挑戦する時、最も大事にしていたのは「自分が客なら」という視点。弁当やプラッタービジネスでは、直接反応をもらえるという「機内食をしているだけでは味わえない幸せ」に感動したと語った。

 「チャンスは思い立ったらすぐ行動する行動力が大切だと思います。根拠なき自信は間違いなく日々の努力の賜物です。笑う門には福来る、また困難なことが来ることもあるかもしれませんが、笑って乗り切ろうと思います」と締めくくって講演を終えた。

國光愛(くにみつ・あい)

兵庫県宝塚市出身
2004年来加、2006年機内食事業を始める、2010年Japan Sky Dining Ltd.設立
現在は、日本航空の和食、エアカナダの日本行きほか、韓国やアジアへの運航便の機内食、新型コロナ禍に始めた一般顧客用プラッタービジネスも継続している。
Japan Sky Diningウェブサイト:https://japan-sky-dining-ltd.jimdosite.com/

日系女性企業家協会(JWBA)黒住由紀会長。「ビジネス的に成功した優秀な会員が多いのが自慢です」と会員の努力を称賛した。2022年10月13日、バンクーバー市リステルホテルで。Photo by ©Koichi Saito
日系女性企業家協会(JWBA)黒住由紀会長。「ビジネス的に成功した優秀な会員が多いのが自慢です」と会員の努力を称賛した。2022年10月13日、バンクーバー市リステルホテルで。Photo by ©Koichi Saito

日系女性企業家協会(Japanese Women’s Business Association)

1997年設立、会員数・現在22人
バンクーバーでビジネスを展開する女性が集い、協力する「企業家」団体として活動している。
ウェブサイト:http://jwba.ca

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