兄の多次郎さんは1925年にカナダに渡ったが、第二次世界大戦中に強制収容され、ブリティッシュ・コロンビア州のサンドンやポポフなどを転々とした。一方の倭夫さんはアメリカ・ロサンゼルスの大学に進んだが、開戦前に軍隊入りするために帰国した。日本では軍の通訳を務めたという。そんな兄弟の間の「距離」を「13’2” Between Us」は描き出す。
ラジオ、ダンス、アニメーション、兄弟の生きた世界が蘇る
「13’2” Between Us」について、シンディさんは「ラジオ音声、コンテンポラリー・ダンス、アニメーション、4Dサウンドを組み合わせた、40分間のマルチメディア・エクスペリエンス」と説明してくれた。第二次世界大戦、そして広大な太平洋に隔てられた兄弟の関係が、手紙、詩などさまざまな形で、実在とフィクションを交えて紡がれる。
「13’2” Between Us」には、望月兄弟とは別の日系人も登場する。1人は坂西志保で、アメリカ議会図書館の翻訳者、司書を務め、評論家でもあった。もう1人は、東京ローズことアイバ・戸栗・ダキノ。東京ローズとは、日本政府の英語によるプロパガンダ・ラジオ放送の女性アナウンサーにつけられたニックネームで、アイバはその1人だった。2人はともに「敵国人」「スパイ」として非難されたという。
シンディさんの作品は綿密な歴史研究に基づいている。「インタビュー、アーカイブ写真、記事などを利用しますが、対象となる人々が存命していない場合は難しい」とシンディさん。「13’2” Between Us」で使われた倭夫さんが跳躍する映像の入手も困難を極めた。知り合いに頼んだものの、新型コロナウイルス禍で連絡が途切れてしまったり、偶然ネットで販売されているのを見つけたのに購入期限に間に合わなかったりと、紆余曲折を経て手元に届いたという。
また、「13’2” Between Us」の制作には多くのアーティストが関わっている。「なかには何年もの間、一緒にやってきた人々もいます。その情熱と献身には、心から感謝しています」